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毒ガスを作った男の数奇な人生

2021-01-21 10:25:01 | 化学
第一次世界大戦は「化学の戦争」と呼ばれるように、多くの化学兵器が使用されたようです。

この時毒ガスを作った男とされるドイツのノーベル化学賞受賞のハーバーという化学者の人生についての記事が毎日新聞に掲載されていました。

当時毒ガスとして知られていた塩素ガスを実際に使えるような兵器として開発したようです。第一次大戦での毒ガスによる死者は10万人に上り、市民も含む100万人以上が負傷したといわれています。

ハーバーは毒ガスの研究について「使用によって戦争を早く終結させ、多くの人の命を救える」と説明していたといわれています。この論理は第二次世界大戦で広島と長崎に原爆投下を正当化した米国側の主張とほぼ同じです。

ハーバーは「化学兵器の父」と呼ばれドイツの英雄になったのですが、彼はユダヤ人でした。その後ナチスが台頭し、彼は追われる立場になってしまいました。フランスやイギリスなどを転々とした後、スイスで病死したと伝えられています。

この話はそれほど面白いものではないのですが、同じ化学者としての自分を考えたとき、化学兵器の研究を拒否できるかという問題です。もちろん現代はそんな要請もありませんし、あったとしても断固として断ります。

しかし戦時中という時代で、ほとんどの国民が戦争に勝つことを共通の目標としている時代に、拒絶できたかというと断言できないような気がします。「科学は平和な時代は人類のため、戦争中は祖国のため」という言葉もあるようです。

話は変わりますが、有機化学者は毒物学が必須の科目となっています。もちろん毒物を作るための研究をするわけではなく、生理活性物質という人に作用する化合物を新たに作り出しています。

その時偶然非常に強い毒物を作ってしまわないように、化学兵器も含めた毒物について知っておく必要があるのです。私は強い毒性を持った化合物を作ってしまったことはありませんが、私の部下がやってしまったことがあります。

その構造を見ると化学兵器として知られるイペリットの部分構造があり、全体としても類似な形をしていました。既に一時評価に回っていましたが、それを止めて先に毒性試験をしてもらいました。その結果青酸カリの100倍程度の毒物であることが分かりました。

ちなみにこれはそれほど強い毒性ではなく、天然物にも1万倍程度の毒性を示すものはかなり存在しています。

こういったベースがあるのでこの記事に興味が出たのですが、戦時中のような特殊な状況での科学者の立ち位置といのは、本当に難しい問題のような気がします。


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