心拍の変化が時間の感じ方に影響

私はタバコを吸うのが好きですが、あまり増えないように1時間ぐらいは間隔を空けるようにしています。時々吸いたくなって時計を見ると、あと10分ぐらいというときはこの時間が非常に長く感じます。

このように時間知覚はヒトの感情や行動によって変わる気がしますが、最近コーネル大学の研究グループが、心拍の長さが人間の時間知覚に与える影響がこれまで考えられていたよりも大きいことを示す研究結果が発表されました。

これまで行われてきた時間知覚に関する研究は、人間の行動と感情がどのように時間経過を「速く」あるいは「遅く」感じさせるかに焦点を当てたものがほとんどでした。

たとえば2022年に発表されたレビュー論文は、様々な論文のデータを使って、感情や動機付けが時間の認識に与える影響を分析しています。何らかの結果（目標、報酬、罰など）が近付いている時、その結果の良しあしに関わらず、ヒトは時間が早く感じることが分かりました。

一方脅しや罰といった否定的な感情をもたらすものを避けようとするとき、時間は遅く進むように感じます。たとえば旅行の予定が近付いてくると、出発日が迫るにつれて興奮していきたい気持ちが募り、時間が早く進むように感じるものです。

これはイベントや活動の開始直前で緊張してしまうことも説明できます。こうした研究は、既に終わった時間をどう覚えているかの説明はできても、今という時を体験することの意味の理解にはつながりません。

また時間知覚が心理学と生理学の複雑な相互作用であることも説明できません。コーネル大学の研究者が行った今回の研究では、心拍の変化と時間知覚に注目しました。人間の心拍の長さは、毎回変化します。

1回の心拍は、その次の心拍と比べてわずかに長かったり短かったりします。これは人間の直感的時間の感覚にとって、何かを意味しているのでしょうか。

研究チームは18〜21歳の被験者45人を対象に、心電図に基づく実験を実施しました。心拍の長さを正確に測定するとともに、その間隔も計測しました。装置はコンピュータに接続されており、被験者の心臓が鼓動するたびに短いビープ音が鳴る仕組みになっていました。

チームは被験者にそれぞれのビープ音がどんな長さに感じたかを聞き、その答えと心拍の長さを分析しました。その結果自分の心拍が短かった時、被験者は実際よりもビープ音が長いと感じていた一方、心拍が長かった時ビープ音は実際より短く感じていることが分かりました。

一連の発見は、人間の時間知覚が常に変動していること、そして時間知覚が心臓の機能と結びついていることを明らかにしました。

この研究結果は、時間知覚を変えることが知られているうつ病や注意欠如・多動症などの精神疾患について管理方法を考えるうえで役立つとしています。