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有機化学は何をやっているのか

2017-06-05 10:42:57 | 化学
先日分子の制御の話(内容はなかったのですが)を書いたとき、私の専門の話に少し触れました。

私は昔から人に自分の仕事を伝えるとき、有機化学ですと言っていたのですが、具体的に説明するのは本当に難しいことでした。「有機化学」という言葉は、高校の化学でも少し出てきますし、それなりに知っている言葉と思いますが、では何をやっているのかというと化学系の研究者以外はほとんど何のイメージもわかないことのようです。

大学で講義していたころも、学生から有機化学は暗記することが多くて嫌いだということをよく聞きましたが、このあたりも基本的にわからない原因かもしれません。

有機化学というのは勉強して学ぶ学問ではなく、実際に実験をして知識を蓄える学問といえます。有機化学の教科書や参考書を完ぺきにマスターしても、たぶん何の実験もできないというある意味面白い分野です。有機化学者というのは、いかに多くの反応を自分でやったかという経験が最も重要になってきます。

具体的な反応というのは、A(主原料)とB(試薬類)を反応させてC(主成分、目的物)とD(副成分、不要物)を作るというものです。つまり適当な溶媒の中にAとBを溶かし、加熱したり冷やしたりしながら撹拌して反応させ、終わったらDを除きCを取り出すということが、有機化学のすべてです。

しかしこの中にいろいろ難しい問題が存在します。まず第1が有機化学反応というのは、理論的に可逆反応となっています。つまりAとBが反応してCとDができてきて、CとDの量が増えてくると逆にCとDからAとBができるという反応が起こってしまうのです。

この逆反応を防ぐ工夫が必要となるわけです。最も簡単な方法が例えばDの沸点が低い物質の場合は、温めて蒸発させて除いてしまうといったこともあります。またCかDが溶けにくい物質の場合は、沈殿として系外から除去することもあります。しかしこれは稀なケースで、通常はもっと複雑な工夫をするわけです。

従って反応は100%進むことは稀で、終わった段階では4種の混合物(もちろんAとBは少ないですが)となってしまうのです。ですから有機化学というのはいかにして目的物を簡単に取り出すかという、精製の化学でもある訳です。

例えばCとB、Dは分離しやすいが、Aとの分離が難しい(このケースが最も多くなります)場合は、Aをなるべく減らす反応条件を選択することになります。簡単な方法がBを増やすことです。反応としてAとBは1:1となりますが、Bを1.2とか1.5、場合によっては何倍も使うことでAをほとんどなくすことができるわけです。

長くなりましたが、もう少し「有機化学とは」を続けるつもりです。

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