秦の始皇帝がいなかったら、
今の中国はヨーロッパのように何ヵ国かに分裂していた。
始皇帝は、中国統一以前に秦の国内で実施していた郡県制を全土に適用し、
中央政府による直接統治を実現した。
また度量衡や文字・貨幣を統一し、
さらに交通網を整備して行政の能率化をはかるなど、
統一国家を維持するためにさまざまな改革をほどこした。
国家の統一は、思想・言論の統制にまでひろげられ、
焚書坑儒によって儒家を弾圧した。
そもそも「始皇帝」なんて呼び名が、めちゃめちゃ力んでいる。
それまではただ単に「王」といっていたのを
天から選ばれた「皇帝」という名称を新しく創り、
しかも自分がその「始まり」だとしているのである。
さらには、自分だけの一人称「朕」という言葉さえ創作した。
始皇帝の統一政策のなかで、もっとも重要かつ有効だったのが文字の統一だと思う。
この時代の中国は、中原の漢人と揚子江以南(呉越)の人びととは、
言葉も通じず、主食などの食習慣もまったくちがっていた。
ヨーロッパとちがい、漢字という表意文字だったという幸運?もあり、
その後、歴史的中国には、統一王朝が歴世にわたり存在しつづけた。
いうまでもなく、ヨーロッパに始皇帝はいなかったし、表意文字もない。
だが、今は「EU」(欧州連合)がある。
最近は「EU基本権憲章」の各国での批准がすすまないなどわずかな停滞もみられるが、
通貨の統一などによる国境のフリーパスは、僕ら日本人が県境を越えるような気軽さで、
EU各国を行き来できるようにした。
さて、紀行である。
今回の旅は、フランクフルト@ドイツからウィーン@オーストリアまで、
すべてバスでの移動である。
ドライバーはザルツブルグ@オーストリアからきていた。
名前は“チボーさん”といい、
日本人とっては、某有名お好み焼きチェーンとおなじ名前で親しみやすい。
風貌はロックバンドのベテラン・ベーシストのようで、
赤いイタリアンシャツにブラックジーンズといういでたちがサマになっていた。
いつもニコニコしているチボーさんだが、ユーゴスラビア人だという。
「ユーゴスラビア」という国は現在、地球上に存在しない。
冷戦終結後、民族紛争による内戦を繰り返し、
「セルビア・モンテネグロ」「スロベニア」「クロアチア」「マケドニア」「ボスニア・ヘルツェゴビナ」
の5ヵ国に分離独立している。
チボーさんが旧ユーゴのどの共和国に属していたかはわからないが、
年齢(40歳半ば?)から推察すると、内戦のために、
想像を絶する辛酸と苦労を経験しているにちがいない。
そのチボーさんがモーツァルトの生誕地ザルツブルグに移り住み、
観光バスのドライバーをしているのはEUのよさであり、
この政治的な連合が、住んでいる人びとにたいして、
幸福のほうをより多くもたらすことを願うばかりである。
チボーさんのトリッキーな運転で、最初の宿泊地「バインハイム」のホテルに着いた。
夜の9時くらいだが、時差ボケのため、オニのように眠い。
あすは、ここから15分ほどのまち「ハイデルベルグ」での観光。
ハイデルベルグなどという洋菓子屋さんみたいな地名は聞いたことがない。
ともかくも、チボーさんとの旅がはじまった。
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イズミ
おっさん
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