その余熱がまだ僕の中に燻っていて、
心の丈を文脈など考えずに気ままに綴ってみたい。
浅学菲才で恥ずかしいのだけど、
氏についてはお名前を聞きかじっていただけで、
その功績や才能について知るところが薄かった。
裏を返せば、無垢の状態で氏に触れられた分、
先入観抜きでその音楽を鑑賞できた。
まるで中世の才人のような人である。
中世には多才な人が多かった。
欧州の代表格はレオナルド・ダ・ヴィンチで、
我が邦には千利休などがいる。
氏は盲目である。
それも全盲だという。
にもかかわらず鍵盤楽器の優れたプレイヤーであり、
作曲家で、指揮者で、一流のバッハ研究家でもある。
さらに卓越した楽器製作の工匠でもある。
まさに音楽界のゼネラリストである。
中世に衰退し、近世以降は根絶していたジルバーマン・ピアノを
氏は手探りでよみがえらせた。
盲目の氏が文献を精査し、素材を吟味し、
信じがたいことに自ら槌をふるった。
まさに刻苦勉励の日々だったと想像されるが、
氏のお人柄から推察すると、
おそらく楽しくて仕方なかったにちがいない。
今回、幼なじみからのお誘いで、
思いがけず武久源造氏のコンサートを体験できた。
ホール全体に氏の演奏と情調が満ち溢れていて、
そこにいる人たちを自然と笑顔にしていた。
その上質なエンタテイメント空間に
僕は陶然として家路についた。
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