内的自己対話-川の畔のささめごと

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大河ドラマ『光る君へ』に採用してほしい『紫式部日記』のなかの一場面 ― 弁の宰相の昼寝姿

2024-06-25 17:45:02 | 雑感

 大河ドラマ『光る君へ』には『源氏物語』から取られたエピソードや描写などが紫式部の生きている現実の世界の中に織り込まれていて、それをフィクションが歴史的現実のなかに混入しているとおかたく批判もできようが、これはドラマであってドキュメンタリーではないのだから、これはこれでなかなか心憎い演出だと私は思うし、そう思いながらご覧になっている方も少なくないようだ。
 私が特に興味と期待を持っているのは、『紫式部日記』のなかに語られた出来事や式部の内省や女房たちへの批評がどのような形でドラマに取り入れられるかである。
 式部の生涯を語るにあたってはさして重要ではないが、私が是非とも見たいと思っているのは、彰子後宮の局でうたた寝をしている弁の宰相の君に式部がいきなり声を掛けて起こしてしまう場面である。
 式部が彰子の御前から自身の局に下がる途中、宰相の君の局の戸口を覗くと、彼女はちょうど昼寝をしている。日記には、その可愛らしい姿が彩り鮮やかにかつ微細に描写されている。その姿が絵に描いたお姫様のようなので、式部は思わず彼女が被っていた衣を除けて、「物語の女の心地もし給へるかな」と声をかけてしまう。それに対して宰相の君は「もの狂ほしの御さまや。寝たる人を心地なく驚かすものか」と抗議する。その姿がまたなんとも優美だと式部は感嘆する(この段については、2014年11月30日の記事で一度話題にしている)。
 弁の宰相の君を誰が演ずるかという興味も含めて、このシーンが『光る君へ』に採用されることを放映が開始される前の昨年末から私はずっと願っている。