内的自己対話-川の畔のささめごと

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人間経験把握の三つの契機 ― ジャン=ルイ・クレティアン『内的空間』を読む(六)

2014-12-18 23:33:52 | 哲学

 ジャン=ルイ・クレティアンによれば、「心の部屋」という空間表象が西洋精神史において決定的な重要性をもつのは、単にその表象が福音書の一節の解釈に始まっているからではない。それだけのことなら、歴史的関心の領域を超えるものではない。
 そこで決定的な重要性をもっているのは、「心の部屋」がその場所を与える「経済活動」「エネルギー変換」「劇的なるもの」、つまり、その空間表象が人間経験の総体に関する把握を定式化し、組織化し、構築することを可能にするその仕方である。
 この文脈では、「経済」学とは、外部と内部との間のやりとり、この「部屋」に出入りする事物を考察することであり、「エネルギー」学とは、このやりとりを司るか乱すかする心的な諸力の本性についての科学であり、「劇的なるもの」の学とは、この「部屋」の中で起こる出来事や行為の性質をその対象とする学である。
 かくして、「心の部屋」という内的空間概念は、人間のある自己理解の仕方から生まれた一つの結果にとどまるものではなくして、むしろ人間の自己理解の仕方を決定的に方向づける基礎的概念の一つとして西洋精神史の中で機能し続ける。