Jean des Cars, Malesherbes. Gentilhomme des Lumières, Éditions Perrin, 2012(初版はマルゼルブの没後二百年にあたる一九九四年に Éditions de Fallois から出版されている)は、伝記作家として著名な著者が、自身マルゼルブの血筋を引く一族の生まれだったがゆえに参照することができた様々な非公開の一族内の手書き文書に基づいて、長い時間をかけて書いた、他の追随を許さないマルゼルブ伝であり、一九九五年度アカデミー・フランセーズ史伝大賞受賞作でもある。前書き、十一の章、補足ノート、附録からなる五百頁を超える大著である。
「寛容の弁護者(L’avocat de la tolérance)」と題された第十章の冒頭を意訳すれば以下のようになる。
マルゼルブの生涯を通じて、寛容の追究は、恒常的な懸案であった。さらに言えば、寛容は一つの理想であった。フランスのアンシアン・レジーム下において、王によるプロテスタンティズムの承認とその組織化への決断は、模範的な施策の一つであり、サン・ルイ王に始まるフランス歴代王の王国においてばかりでなく、全ヨーロッパを見渡しても、とても先進的なものであった。宗教的自由の原理は、決定的には、フランス革命のおかげで確立されたものではなく、ルイ十六世によってもたらされたものなのである。人はそのことを本当に知っているだろうか。残念ながら、それははなはだ怪しい。私たちの日常生活における宗教的自由の実践的組織化は、マルゼルブその人とその頑固なまでの正義の思想によるものなのだ。あれこれの理論で世間を騒がせるだけの哲学者たちに対して、マルゼルブは己の思想を実践的適用する(四一一頁)。
マルゼルブにおいて、「寛容」は、〈異なるもの〉の許容という消極的な態度に終わるものではなく、宗教的自由を認め、それを可能にする具体的施策を施行するという積極的な政治的行動を意味しているのである。