内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

And the Life goes on ― たまゆらの記(九)

2014-12-31 12:00:00 | 随想

 「幽明界を異にする」という表現がある。「幽」があの世を、「明」がこの世を指し、それぞれ異なった世界に別れること、つまり死別を意味する。一般的には、「幽界」は、「冥界」「冥土」の類義語、死んだ人たちが行く世界を意味し、この世を意味する「顕界」の対義語である。
 その人は、教会に新たに据え付けるステンドグラスのデザインの基本的なコンセプトとしてデザイナーの方に「光」と伝え、牧師さんが「風」とそれに和し、デザイナーの方はその両コンセプトに基づいて見事なステンドグラスを実現してくださった。その人の病床にデザイナーの方ご自身が届けてくださったステンドグラスの写真を見て、その人は出来栄えにとても満足していた。
 残念ながら、その人には、そのステンドグラスそのものを肉眼で見る時間も体力も残されていなかったが、葬儀は、そのステンドグラスを背景として、その人自身が死の直前に選んだ、この五月に九十七歳で亡くなられた隣家の義姉の作品である陶板絵二枚が棺の左右に配され、その周りが白と紫の花々に飾られただけの、簡素だが品格ある祭壇で行われた。式中、晴れ渡った空からの光がステンドグラスを通して会堂内に射し込んでいた。
 その人は、肉体の消滅とともに幽界に去ったのではなく、これまでとは違った仕方で、その人を想うこの世に生きる者たちの間に生き続けている。