台風が近づく。としたって、何か特別なことが出来るわけもないのに。。。と思いながらラジオ深夜便を朝5時まで聞いてしまった。そうして、島の夜が明けて、鳥が鳴き出した。イイ声選手権を競う鳥。
実際、雨が降り出したのは午後だった。
朝に寝て昼に起きる、普段ならありえない流れ。
そうか、今日は月曜だったんだ、と付けっぱなしのラジオは曜日の錯覚を抱かせる。
今日13日は台風が迫るから室内に居るべし、と勝手に”おきて”を自らに課していた。それも行き詰っていくので、傘を差して外に出る。
雨は次第に強くなる、と思えば、止む時があったりといい加減。
気晴らしに島を一周する。イヤホンからはラジオ「たまむすび」。
雨の日には雨の日の光景とおもむき。
ふだんはヒトが居る場所にヒトが居ない。
雨のせいで温度が低くなっていた。厚手のフリースを着て正解。
歩きながら、ずーっとどの喫茶店に行こうか?迷っていた。
こんな日は、系列店じゃダメで、その場に根付いた昔ながらの喫茶店。
雨をしのぎ、温かいコーヒーを飲みたかった。
邪魔なBGMもない喫茶店を探していた。
近くて遠い場所まで歩いたけど、回遊して戻ってくる途中のお店に入った。
前から入りたいと思いながら、入っていなかったお店。
私の風体にけげんな顔を示した白髪のマスターと奥さん老夫婦。
黄色いランプが満たすお店は広すぎず狭すぎず、室内は好みの調度品に囲まれている。
少しして、奥さんが木のとびらをカラカラと音をさせて開ける。
雨の外からキジトラのネコが入ってくる。そこにしゃがんで近付く。
「この子は、こちらで飼われているんですか?」という投げかけから、今このネコがここに至るお話が始まる。そうして老夫婦の固い顔がゆるむ。
いっつもこうだ。それは私が会得した数少ないコミュニケーション方法。
ネコを媒介として、一気にお互いが距離を縮める。
潤滑油となるキジトラさんは、大股を開いて毛づくろいをしている。
後から入ってきた夏木マリさん風の方が、年季が入ったタバコの持ち方で、ふうっと煙を吹かす。
たのんだトーストに付いたゆでたまごを、テーブルにコツコツと叩く。
キジトラさんは、そこを凝視して耳を右に左に動かす。
次第に雨はボトボトという音で強くなるのが、室内に伝わってくる。
皆それぞれの距離感を置きながら、時間がゆっくり流れる空間を自由気ままに動くのは、ネコだけ。
日が暮れだして、室内の黄色いランプがその明るさの強度を増す。
■エルビス・コステロ 「I Wanna Be Loved」■
アルバム『グッバイ・クルエル・ワールド』1984より