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共産法の体系(連載第1回)

2019-12-21 | 〆共産法の体系[新訂版]

新訂版まえがき

 当連載は2017年から18年にかけて第二版となる改訂版を公表したが、その後の再考の結果、より明快な形で法体系の構想を整理する必要が生じたため、ここに第三版となる新訂版を改めて連載することにした。
 改訂版と比べて全体構成に大きな変化はないが、「第6章 犯罪法の体系」の部分は「犯則法の体系」に、「第7章 司法法」は「争訟法の体系」に章題を改め、その内容もより整理される。この改訂に伴って、他の章の一部の記述が変更される。その他、用語や表現の一部がいくつか変更される。なお、以下の「序言」は初版以来、内容に大きな変化はないが、如上の改訂に伴い、記述の一部に変更が加わっている。


序言

 筆者は先行連載『共産論』の中で、共産主義的な法のあり方についても必要な限り言及してきたが、あり得べき共産主義社会の全体像を示すことを目的とする同連載では、具体的な形で共産法の体系を示すことはしていない。 
 その点、マルクスをはじめ、過去の共産主義者たちも、契約法と商法を中核とするブルジョワ資本主義法体系を批判することには熱心であったが、肝心の共産主義法体系について具体的な詳細を論じてはいないため、実際のところ、このテーマに関して参照に値する先行文献はほとんどないのが実情である。
 古典的な共産主義にとっては、あたかも共産社会では適切な慣習法が自生的に形成され、制定法による社会統制は不要であるかのごとしであった。その理由として、伝統的な共産主義はアナーキズムと鋭く対立しながらも、「国家の消滅」テーゼなど部分的にはアナーキズムの影響を受けており、その面から、法的な社会統制には消極的だったとも考えられる。
 一方、共産主義社会の建設を目指すと公称した旧ソ連においては、ロシア革命以降、独自の法体系の整備が進み、その最盛期には社会主義法体系の一つの範例を形成していた。しかし、それは旧ソ連体制の性格を反映して、一党支配体制を支える権威主義的な社会統制の道具という要素が強かった。
 本来目指されるべき共産社会は、民主的かつ合理的な制定法により社会秩序が維持されるべきものであるが、そうした共産法の具体的な法体系を構想することが本連載の目的となる。
 ここであらかじめ概観的に共産法の全体像を示すと━
 まず全法体系の頂点に立ち、最高規範としての位置づけを持つ法として、民衆会議憲章がある。次いで地球環境の持続可能性を確保するための環境規制を包括する環境法、さらに生産活動の組織と労働のあり方を規定する経済法、日常の市民生活に関わる法律関係を処理する市民法、法に違反する犯則行為に対して課せられる法的効果に関わる犯則法、最後に法的紛争処理に係る司法の諸手続きを定める争訟法である。
 以上の憲章、環境法、経済法、市民法、犯則法、争訟法が共産主義的基本六法を構成するのであるが、この時点で、憲法、民法、商法、刑法に、民事・刑事の両訴訟法を基本的なラインナップとするブルジョワ六法とはすでに相当異なることになる。
 なお、以後の連載においては、はじめに共産主義における法の意義や機能一般を総論的に概観したうえで、上記基本六法の各分野の検討を順次進める構成が採られる。

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