熊本熊的日常

日常生活についての雑記

「アンナと過ごした4日間」(原題:Cztery noce z Anna)

2009年12月07日 | Weblog
愛だの恋だのというのはある種の宗教だ。信じている限りにおいて幸福だが、醒めてしまえば他人事でしかない。苦痛に苛まれているときの鎮痛剤のようなものとも言える。

主人公のレオンは病院の焼却炉で廃棄物の処理を担当している。同じ病院に働く看護師のアンナのことが気になってしょうがない。彼女は病院の寮に住んでいるが、その部屋がレオンの家から遠くに見える。レオンの仕事は多忙というわけではないようだ。白昼、近所の川へ釣に出かける余裕がある。ある日、彼は釣をしていて雨に降られた。雨宿りに飛び込んだ納屋でアンナが見知らぬ男に陵辱されていた。すぐに助ければ彼の株が上がったのだろうが、彼は恐怖のあまり立ちすくんでしまい、警察を呼びに近くの公衆電話に走るのがやっとだった。生憎、アンナも恐怖のあまり相手の顔を記憶していない。現場にはレオンの釣道具が散乱し、しかも彼が唯一の目撃者でもある。結局、彼が犯人ということになり、裁判で一貫して罪状を否認するのだが、有罪になってしまう。

それでアンナへの熱が冷めればよかったのだが、相変わらず熱い。彼は相変わらず毎夜、彼女の部屋の窓をじっと見つめている。そして、彼女のある習慣を発見する。夜、病院勤務から帰宅すると、お茶を淹れるのである。そのお茶に入れる砂糖の瓶が窓辺に置いてある。彼女は猫を飼っていて、窓には猫が出入りできるように小さな区画が開くようになっている。彼はそこから腕を突っ込んで内側の鍵を開け、窓辺にある砂糖の瓶に睡眠薬を混ぜて戻しておく。帰宅後、彼女はお茶を飲んで、ほどなく就寝するのだが、睡眠薬の所為で多少の物音では目覚めない。彼女が寝入った頃、彼が窓から彼女の部屋に侵入するのである。

といって、何をするというわけではない。彼女の服のボタンが取れそうになっているのを見つければ、それを繕うし、部屋に友人を呼んで飲んで酔ってそのまま眠っていれば、そこに毛布をかけてやったりする。それは彼にとっては至福の時間だったのだが、4日目に彼女の鳩時計を一旦自宅に持ち帰り、修理して彼女の部屋へ戻しに行くところをパトロール中の警察官に見つかり逮捕されてしまう。

映画は、彼が逮捕されるまでの物語と、逮捕されてから裁判、懲役を経て釈放されるまでを、交互に見せる。それは、彼女への熱い想いというファンタジーの世界と、警察での取調べや裁判、刑務所での日々という現実の世界とを対比させているかのようだ。逮捕前と逮捕後を結婚前と結婚後というふうに読み替えることもできると思うのだが、このような見方はいささか個人的な経験に走りすぎだろうか。