熊本熊的日常

日常生活についての雑記

目の毒

2012年04月30日 | Weblog

印刷博物館で電子書籍の展示を観て来た。電子書籍とされるものの歴史を語るコーナーはApple IIから始まっている。パソコンは文字通り個人的なアイテムとなったところから新たなメディアとして機能するようになったということなのだろう。PCの黎明期から既に電子書籍の端末が登場しており、その歴史が思いの外古いことに気付かされる。実機も交えての展示なので、こんなのもあったなぁ、と懐かしい思いがする一方で、どれひとつとして現在定着していないことに恐竜の歴史を重ねたくなる。PCのほうはすっかり生活のなかに定着したが、それは用途の多様性汎用性に負うところが大きいだろう。用途を特化した電子機器というのは、おそらく融通の利かなさ故に技術や生活の変化に対応できなくなってしまうのだ。

展示会場では同じコンテンツを紙媒体とiPhoneやiPad上で閲覧できるようになっている。比べてみればやはり紙媒体のほうが好きだ。図鑑や辞書のように検索をするものは電子媒体のほうが便利だが、少なくとも文芸作品なら紙でなければなるまい。薄っぺらな内容のものなら電子媒体でもよいだろうが、語られている世界観が装丁や印字に反映されてこその文芸作品ではないだろうか。コンテンツが重要なのは言うまでもないのだが、それを表現するのは文字だけではなく、文字が並ぶ紙の質感であったり、フォントの雰囲気であったり、表紙の絵や装丁だったり、挿絵であったりするものだ。本という存在がまるごと作品なのだ、と私は思う。

それで、というわけでもないのだが、この博物館の売店には面白そうな本がたくさん並んでいて、ちょっと覗くだけのつもりが1時間近くも立ち読みでねばってしまった。さんざん迷った挙げ句、広重の「名所江戸百景」を復刻した際の技巧について記録した本を買った。

浮世絵「名所江戸百景」復刻物語
クリエーター情報なし
芸艸堂