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Stan Getz / Captain Marvel ( 米 Columbia KC 32706 )
リズムが溢れ出て止まらない洪水の中を力強く泳ぐテナーサックス。 熱っぽい南米の空気への強い憧憬。 この音楽を聴くと、日本なんか飛び出して
南の国へと旅したくなる。 人はなぜ南国に憧れるのだろう。 くちばしの大きく曲がった鳥たち、色とりどりの果物、身体にまとわりつく熱風、そういう
楽園のありふれたイメージが頭から離れない。
基本的には "Sweet Rain" の延長線上にある内容だけど、"Sweet Rain" は少し抽象度合いの高い内容だったのに対して、こちらはもっとわかりやすい
音楽になっている。 集められた楽曲のコンセプトが明確だからだろうと思う。 ジャケットからもわかるように、郷愁にも似たある種の憧憬がテーマに
なっている。
ただ、だからと言って、ヤワな内容とは程遠い。 トニー・ウィリアムスのドラムが爆発しているからだ。 そこにアイアートのパーカッションが被さる
のだから、祝祭のムードは冒頭の "La Fiesta" から一気に高まる。 マルケスやリョサの描いた世界の中で鳴っているような音楽だ。 煽るトニーの
シンバルの風圧に対しても一歩も引かないゲッツのテナーが逞しく、全体的に巨大な音楽になっているという印象が残る。
にもかかわらず、どれだけ強く激しく吹いても、スタン・ゲッツのテナーはどこまでも涼し気なトーンだ。 下品になることもなく、嫌味なところもなく、
その天賦の清らかさぶりには唖然としてしまう。 こういうところが、コルトレーンなんかとは違うところだ。
先日発掘されたキーストーンコーナーのライヴを聴いてもわかるように、日常的なライヴ活動では普通のオーソドックスなジャズをやっていても、
いざレコードを作るとなるときちんと考えられた新しい音楽を志向していて、こういうところが芸術家だったんだなあと思う。 ドラッグで汚れている
イメージがある一方で、彼が創った作品にはそういう日常を想像させる気配すらないところが、いつも驚異的だと思うのだ。