Mark Murphy / September Ballads ( 米 Milestone M-9154 )
秋の気配を感じるようになると聴きたくなるアルバム。尤も、だんだん秋という季節が短くなりつつある現状では、このアルバムを取り出す
時期も後ろにずれていくような気がして、いろいろと心配になるけれど。
1987年9月から11月にかけて録音された本作は、ジャズというよりはAORに寄せた雰囲気になっている。そして、それは悪い話ではなく、
逆にうまく成功した形になっている。これはプロデュースの勝利だったと思う。
アルバムの最初から最後までを通して、夕暮れの涼しい秋風に吹かれているような心地よい爽やかさに満ちていて、これが素晴らしい。
しっとりと落ち着いた雰囲気で、アルバム・タイトルやジャケットの写真からもわかるように、「秋」という季節への憧れと親愛が
全体を通したコンセプトになっている。
1曲1曲が哀愁溢れる美しいメロディーで、何と素晴らしいバラード集となっていることか。マーク・マーフィーの歌は円熟の極みを
見せて、元々の歌の上手さにさらなる磨きがかかっている。"Crystal Silence" のような音程の取り辛いメロディーをこんなにうまく
歌えるのは、この人をおいて他にはいないだろう。
マーク・マーフィーのアルバムはどれも素晴らしいが、後期の作品群においてはこれがダントツの出来だと思う。
風の中に感じる秋の匂いを愉しみながら、日々、しみじみと聴いている。