Edmond Hall / Edmond Hall Quartette with Teddy Wilson ( 米 Commodore FL 20.004 )
スイング・ジャズはノスタルジーな雰囲気一点張り、というわけではない。1930~40年代当時は最先端の音楽として大衆を楽しませながらも、
その舞台裏では演奏者独自の個性を核にしたオリジナルな音楽が披露されている。
この時代のジャズはクラリネットがリード楽器として幅をきかせていたので多くの名手が活躍していたが、このエドモンド・ホールは
かなり尖った演奏をする人だったようだ。当時クラリネットが好まれたのは、そのマイルドな音色が音楽を洗練された雰囲気にするから
だったのだろうと想像するけれど、エドモンド・ホールのクラリネットはそういう状況の中ではどちらかと言うと、異端だったように思う。
力強く息を吹きこんで音が濁るのも厭わない演奏は、どこかコルトレーンのソプラノの演奏を彷彿とさせる。もちろん、あそこまで
激しい演奏ということではないけれど、リード奏者としての姿勢や取り組み方に似たものを感じる。美しい音色で音楽をまとめようと
するのではなく、あくまでリード楽器として音楽を創り上げて引っ張って行こうとする意志の強さがこの後に来るモダン・ジャズの
感覚を先取りしているようところがある。
そういう個性はこのレコードを聴くとよくわかる。古い歌物のスタンダードをテディー・ウィルソンのピアノ・トリオをバックに吹いて
いるけれど、クラリネットが音楽をグイグイと引っ張って行き、モダンな感触にかなり近い。そのおかげで、退屈な娯楽音楽に堕する
ことなく、生き生きとした高い水準のジャズとして聴くことができる。
後にヴィック・ディッケンソンらとのセッションと合わせて12インチ化されるが、この10インチはテディー・ウィルソンとワンホーンで
吹き込んだものだけでまとめられており、アルバムとしての統一感が優れている。1945~47年頃のSP録音だが、LP化されたものは
音質も問題なく、楽しそうに演奏されているのが手に取るようにわかる。