Mark Murphy / Midnight Mood ( 独 SABA SB 15 151 )
誰が考え付いたのかはわからないけれど、すごい組み合わせだ。60年代に入ってマーク・マーフィーはロンドンへ移住し、欧州レーベルに
録音をいくつか残していて、その流れのセッションだったのだろう。アメリカでジャズの仕事が無くなったこの時期、多くのミュージシャンが
欧州へ流出したが、その彼らが現地で合流し、このような優れたアルバムを残したのはなんとも皮肉なことだ。
クラーク・ボーラン楽団はアメリカのジャズと欧州ジャズのハイブリッドを目指して成功した珍しい事例だったが、その音楽性を変えずに
そのまま歌ってしまうマーク・マーフィーの力の凄さが炸裂している。楽曲の半分が楽団メンバーのオリジナルで、それらに歌詞を付けて
歌ったものがどれも最高の出来。特に、ベースのジミー・ウッドが作った "Sconsolato" が素晴らしい。
デビュー時、デッカやキャピトルからシナトラ・スタイルのアルバムを出したがこれが見事に失敗。彼の持ち味をまったく生かせず、
駄作を量産してしまったが、オリン・キープニューズが軌道修正させてようやく生き返ることができた。これ以降は駄作がなく、
どれも素晴らしい。時代の空気に逆らわず、その時期に最適なオリジナルな音楽を作り続けた。
クラーク・ボーランのような本格派と互角に組めるヴォーカリストはほとんどいない中で、その伴奏が霞んでしまうようなアルバムを
作ってしまうのだから、まあすごいとしか言いようがない。独SABAの最高品質な音場の中で聴くマーフィーの歌声は圧巻。
誰よりも正確な音程を取りながら自由にアドリブし、それが常に最適なフレーズであることにただただ感嘆しながら聴くしかないのだ。
晩年になってようやく時代が彼に追い付いて再評価された、というのはあまりに遅すぎた。反省が必要である。