廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

圧倒的に上手いヴォーカル

2020年04月13日 | Jazz LP (Vocal)

Mel Torme / Sunday In New York  ( 米 Atlantic 8091 )


歌手の魅力はルックスも大事だろうが、やはり声の魅力だ。歌唱に多少の難があっても、聴き惚れるような美声があれば七難を隠す。選ばれし者だけ
に許された職業なのかもしれない。だから、メル・トーメが男性ヴォーカルの第一人者と言われるのはなかなか凄いことなのかもしれない。

彼の場合、お世辞にも美声とは言い難い。ハスキー気味だし、声量もない。声域が高くて、男性らしい低音の魅力もない。おまけにあのルックスだ。
まあ、親しみやすいキャラで、同性から嫉妬を買うことはないかもしれないけれいど、女子たちが歌声を聴いて、キャアー!と叫ぶタイプではない。

およそ歌手に向いているとは言いにくい感じなのに頂点の1人となったのは、ひとえに歌の上手さに拠る。驚異的なヴォイス・コントロールの技に
圧倒されるからだ。しかも、その技がわざとらしくなく、あまりに自然なので別の意味で聴き惚れることになる。

マニアにはベツレヘム盤がお馴染みだが、この頃はまだ若く、技巧的には少し未熟。歌手として才気が爆発するのは、その後の時代になる。
Verve時代のものは比較的聴かれているだろうが、それよりもアトランティックやコロンビア時代のほうが更にその歌は冴えている。
その中でも、この "Sunday In New York" は非常に出来がいい。

間の取り方が絶妙だし、複雑で微妙な音程の正確さは完璧。歌唱の表情が明るく朗らかで、聴いているこちらも自然に笑みが浮かんでくる。
これは貴重な美質で、他の歌手にはない特徴だと思う。選ばれた楽曲もいい内容で、ニュー・ヨークという主題が要となって大きなイメージを
うまく形成できている。伴奏との相性もよく、オケの音量に負けていない立派な歌が見事だ。

ただ、わざわざこういう聴き方をする必要はなく、単純に聴いていて「これはいい」と思う素晴らしいアルバム。ヴォーカル作品にとって一番
大事なのはそういうところだと思う。


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