The Pete Jolly Trio / Little Bird ( 米 Ava Records A-22 )
ピート・ジョリーをナメていたことを後悔することになる、才気が爆発したアルバム。 最初の1曲目あたりでは趣味のいいラテンの隠し味が効いた雰囲気が
夏の暑い日々によく似合うな、という嬉しい誤算に歓びながら聴いていくのだが、途中からこのアルバムのただ事ではない様相に気付かされる。
ピアノの際立ったタッチからくる音の粒立ちの良さが凄い。 技術力を超えた天性のものを感じる。 アップテンポの曲がスローに聴こえるくらい、ピアノの
一音一音がくっきりとしている。 本当に上手いピアノだと思う。 アート・テイタムが褒められて、この人が褒められないのはなぜなんだろう。
ベースとドラムもやたらと上手くて、このトリオは一糸乱れることがない。
ピート・ジョリーの音楽には南国の空気感がほのかに混ざっていて、普通のアメリカのジャズにはない解放感がある。 それがリゾート地で聴くラウンジ音楽を
イメージさせるのかもしれないが、これはそんなヤワな音楽ではない。 高度な演奏力でしか産み出せない稀有な音楽で、そこに何かプラスαされることで
凡庸なジャズ以上のものになっている。 これには驚かされた。 ミシェル・サルダビーを「発見」した時と似たような軽い興奮があるように思う。
これを聴くとアメリカのジャズの裾野の広さというか、層の厚さを痛感する。 名盤と言われて人々から褒められる作品群の圏外に、こういう驚かされるような
傑作がゴロゴロ転がっているのだ。 そして、それらはいつも身近な処にあるにも関わらず、名盤を探し求める人々の眼には映らない。 このレコードも
その存在に気が付くことができたごく少数の人たちにだけ、これからも密かに愛聴されていくんだろうなと思う。