Ethel Ennis / Sings Lullbys For Losers ( 米 Jubilee LP-1021 )
エセル・エニスはサラ・ヴォーンの正統な後継者として1955年の23歳の時にジュビリーからデビューしている。 この作品は評判が良かったようで、
マイナー・レーベルのジャズ・ヴォーカルにしては珍しく版を重ねてプレスされているし、シングル・カットも1枚出ている。 そして、その後すぐに
大手レーベルに引き抜かれてコンスタントに作品を出す機会に恵まれ、2000年代以降もジャズ・シンガーとして仕事を続けている。
貧しい家庭に生まれ育ったので、15歳の時からクラブでピアノの弾き語りをして家計を助けていたという。 この作品が23歳のデビュー作だというのが
信じられないくらいのあまりの落ち着き払った様子に最初は驚かされるけれど、ここに来るまでは随分苦労してきたんだろう。
ハンク・ジョーンズ、ケニー・クラークのピアノトリオにリズムギターを加えたカルテットが伴奏をつけるが、これが終始控えめな歌伴に徹していて、非常に
静かで落ち着いた雰囲気が素晴らしい。 そこに彼女のクセのない伸びやかな歌声が入ってくると部屋の中の空気が一変するのがわかる。 そのくらい、
この人の歌声には何か特別な力がある。
若い黒人女性らしい声質がみずみずしく捉えられている録音も見事だし、バート・ゴールドブラットの写真もこのアルバムの真夜中のムードをうまく表現しており、
どの角度から見ても優れた作品になっている。 優れた歌声にはどんな楽器もかなわないなあ、と思わせられる数少ないヴォーカルアルバムだと思う。