廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

小編成によるバラード集

2016年09月24日 | Jazz LP (Vocal)

Frank Sinatra / Close To You  ( 米 Capitol W 789 )


最近、シナトラのレコードをあまり見かけなくなったような気がする。 昔はどこのレコード屋に行ってもそこそこの値段が付けられて、コロンビア、
キャピトル、リプリーズの各代表作が在庫として並んでいたものだ。 まあ、売れていたのかどうかはよくわからないけど、そういうこととは関係なく、
まるで彼のレコードを在庫として揃えておくのはレコード屋としての矜持である、という暗黙の了解のようなものがあったかのようだった。 何というか、
そういう光景こそが正統派の中古ジャズ廃盤屋としての風格だったような気がする。 在庫界の重鎮として常に睨みを利かせ、店内の秩序を保っていた。
それによって、他の在庫品たちは安心して棚の中で客がやってくるのを待つことができた。

そんなシナトラの作品の中でもこのレコードは稀少扱いされていて、他のレコードよりも大体高い値段が付けられていた。 だから、当時は手が出せなかったが、
今は10分の1以下の値段になっていて、私に見つけられるのを棚の中で静かに待っていた。 

キャピトル専属のレコーディングオーケストラの中から生まれたハリウッド弦楽四重奏団を中核に数本の管楽器を加えただけの小編成でバックを固めて
バラードばかりを集めた、とても落ち着いた内容のレコードだ。 キャピトル時代のシナトラと言えば、ネルソン・リドルやビリー・メイのフルバンドを
バックにスインギーに声量豊かに歌っているイメージがあるけれど、だからこそこういう静かなバラード集は人目につかなかったのかもしれない。

シナトラの歌はどこまでも真っすぐで、聴いていくうちに自分の中の知らず知らずのうちに歪んでしまったところが矯正されていくような感覚を覚える。
他の歌手の歌にはそういうところがなく、そういう意味でもこの人のレコードは「正しいレコード」だなあ、という感慨を覚えるのだ。



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