廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

雪を溶かすような熱気に満ちた試行錯誤の記録

2019年02月10日 | Jazz LP

George Wallington Quintet / At The Bohemia (Featuring The Peck)  ( 米 Progressive PLP 1001 )


朝起きて雪が積もっているのはいくつになってもうれしい。 東京地区では今年初めての積雪で、実際は家々の屋根にうっすらと積もっていてる程度
だけど、雪国に住んだことがない私には雪というのはやはり特別なものだ。 雪が降っているのを見て思い出すいろんな光景の1つに、このレコードを
初めて買って帰った遠い日の想い出がある。 だから、雪の日はこのレコードを聴きたくなる。

その日は記憶がないほどの大雪で、初めてこのレコードを見つけて買って帰る途中、電気系統のトラブルで路線上の電車が全て止まってしまい、
電車の中に2時間閉じ込められてしまった。 何とか一番近い駅まで電車は動いて停まったけど、そこで息が絶えたように動かなくなってしまった。
まだ携帯電話がなかった時代で、帰宅途中でごった返す車両内の人々の半分くらいはその駅で下車して行った。 でも外は見たこともないくらい大量の
雪が積もっていてバスやタクシーが走っているとは思えなかったし、裏がツルツルのローファーを履いていた私は雪道を歩いて帰れないので、
電車が動くのを待つしかなかった。 車両のドアは半分だけ解放されていたので、何度も駅のホームに出て煙草を吸った。 つり革につかまりながら
疲れてウトウトしているとようやく車両が動き出し、何とか最寄り駅まで辿り着いたけど、普段は10分かからない家までの距離を靴が滑ってまともに
歩くことができず40分かかった。 手に持っていたこのレコードが邪魔で仕方なく、途中で本気で捨てて帰ろうかと何度も思ったけど、なんとか家に
着き、身体を温めながらこのレコードを聴いた。 だから今でもこのレコードを聴くと、外の凍えるような寒気と暖房で暖まった部屋の暖気の入り
交ざった記憶が蘇ってくる。 私にとってこのレコードは真冬に聴くレコードなのだ。

ジョージ・ウォーリントンという人のピアノは、私には未だによくわからない。 こんなにスイングしないピアノは他に知らないし、フレーズも何を
弾こうとしているのかさっぱりわからない。 これでよくジャズピアニストとしてやってたなと逆に感心してしまうけれど、ドナルド・バードと
マクリーンやウッズとやったクインテットはこじんまりとしてはいるけれど、どれもそれなりにいい出来だと思う。 それはウォーリントンが
というよりは、管楽器奏者たちの手堅い演奏のお陰である。 特にこのアルバムはライヴということもあり、2管の良さが前面に出ていて楽しく
聴ける。 ライヴ録音が上手くなかったRVGの録音も珍しく良好だと思う。

ウォーリントンはこの頃 "The Peck" という演奏手法を提唱していて、このアルバムではその手法を採用しているのだということがライナーノートに
短く解説されている。 それは1930年代に流行したタップダンスからヒントを得た、ホーン奏者とリズム・セクションの間でこま切れのフレーズを
挟み合うように演奏することを言うらしく、そう言われてみればこのアルバムに限らずウォーリントンのクインテットの演奏はどれもフレーズが
短く突っかかるようなギクシャクしたものが多く、全体的に不思議な雰囲気の作風になっているし、それは遡ってみると彼のトリオの演奏なんかにも
見られる特徴だ。 彼のピアノにスイング感が見られないのはどうやらこの独自の理論の影響のようだ。 バードもウッズもマクリーンも律儀に
この手法をこなしているのには感心するけど、それが音楽的にどういう意味や効果があるのかは私にはさっぱりわからない。 でも、みんなこうして
試行錯誤しながらもまじめに音楽をやっていたのだから、そういうところをもっとしっかり聴いてあげたい。 これは一般的には普及することなく
終わった、ある一つの大いなる試行錯誤の記録なのだ。


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