Nat King Cole / Where Did Everyone Go ? ( 米 Capitol W-1859 )
ボーカルのアルバムの出来を左右するのは、歌手の歌唱よりもバックの伴奏だ。 それはただの添え物ではない。 その歌手が好きでそのアルバムを手に
取るのだから、歌手への評価はその時点でクリアしている。 その歌唱を生かすのも殺すのも、それはバックの演奏の出来いかんによる。
そういう意味では、キャピトル・レーベルのレコードの場合、バックがゴードン・ジェンキンズのオーケストラであればまず間違いない。
恋を失った男の孤独を歌った曲を集めて、インディゴ・ブルーのジャケットでパッケージしたこのアルバムは、ナット・キング・コールの数多いアルバムの中では
あまりに地味過ぎて埋もれてしまっている。 ネルソン・リドルのような派手で目立つ伴奏ではないことも影響しているかもしれない。 でも、晩秋を想わせる
デリケートでスマートなこのオーケストラの伴奏じゃなければ、ここに集められた哀しい歌は歌えないだろう。
ナット・キング・コールの声質は基本的には明るいトーンで、本来的にはメジャーキーの曲に向いている。 彼が歌えばどの曲もマイルドなテイストになる。
そしてマイナーキーの曲を歌えば、深刻に成り過ぎることなく、ほんのりと優しい色調へと落ち着く。 このアルバムもシナトラが歌っていればかなり沈鬱な
内容になっていただろうと思うけど、ナット・コールの優しい表情のおかげで音楽が沈み込むことなく、しみじみと聴かせるバラードアルバムになっている。