Thelonious Monk / Misterioso (Recorded on Tour) ( 米 Columbia CL 2416 )
ここには6種類のコンサートからセレクトされた8曲が収録されている。 それがどういう基準やコンセプトで選曲されたのかはよくわからないが、モンクの
オリジナル曲が5曲、スタンダードが3曲という配分になっていることから、一応はモンクが好きな人にもそうでない人にも聴いてもらえるように配慮された
設計になっている。 こういう人為的な切り貼りを不快に思う向きもあるかもしれないけど、テオ・マセロが何か良からぬことを考えて編集した訳がないだろうし、
わざわざ出来の悪い演奏にお金を払って我慢しながら聴く必要もないんだから、ライヴのベスト・テイク集だと考えて聴けばいい。
現にこのアルバムに収録された演奏は、そのどれもが非常によく出来たものばかりであることは一聴すればすぐにわかる。 冒頭の "Well You Needn't" から
リズム良く跳ねるような演奏が始まる。 チャーリー・ラウズのテナーの音がとてもいい。 ベン・ライリーのドラムがうまく曲をドライヴする。
"Light Blue" の奇妙なテーマが、何かのための行進曲のように左右に身体を大きく揺すりながらゆったりと進んで行く。 "All The Things You Are" を
演っているのがすごく珍しい。 モンクがこの曲を弾いているのは他に聴いたことがない。
そうやって聴き進めていくにつれて、まるでセロニアス・モンク・カルテットのありふれた日常のスナップショットを見ているような気分になる。 何の野心もなく、
いつものようにいつものレパートリーを演奏していく。 どれもしっかりと手慣れた演奏になっていて、彼らはライヴ・バンドだったんだなあと思う。
コロンビアはなぜか時々こういう素朴なアルバムを差し込んでくる。 マイルスにもブルーベックにもファーマーにも、こういうアルバムがある。
これらのライヴは63~65年に行われたものだが、当時はフリー・ジャズが大型ハリケーンのように全米のあらゆるものをなぎ倒していた時代で、そんな中で
これらの演奏はきっと牧歌的に響いたことだろう。 聴衆の暖かく大きな拍手が、彼らがどういう立ち位置で迎えられていたを物語っている。 そういう期待の中で
モンクたちは裏切らない演奏を生真面目に披露しているのだ。 これはしみじみと聴かせる、いいアルバムだと思う。