John Coltrane / In Europe Volume 1 ( Beppo Records BEP 500 )
コルトレーンくらいになるとブートレグも無数にあって、そのブートの音源が買い取られて大手レーベルから逆輸入でリリースされたりもして、
何が何だかよくわからない。だからまあ、安くて音質に問題がなければ出自に関係なく聴いてみたりすることもある。
1961年から63年にかけて、コルトレーン・カルテットは欧州へ何度も演奏旅行をしていて、その時の演奏は非公式に録音されている。
これは62年11月19日ストックホルムの Kocerthuset でのライヴの中からピックアップされたレコードだ。この日は2セット16曲が演奏され、
そのすべてが録音されていて、その気になれば全曲聴くことができる。この演奏旅行は17日のパリ公演に始まり、20日はヘルシンキ、
22日はコペンハーゲン、28日はグラーツ、12月2日はミラノという行程だった。
この時期のコルトレーンが演奏する曲目は大体決まっており、全部を聴く意味はあまりないかもしれない。でも、これはコルトレーンに限った
話ではなく、ロックを含めた他のすべてのミュージシャンもそうだから、批判するにはあたらない。ツアー中に毎回曲目を変えるなんてことは
そもそも無理なのだ。
62年11月13日に "Ballads" の録音を終えて、すぐに欧州へと出発している。そういう時期なので、曲目はスタンダードが中心に構成され、
演奏スタイルもオーソドックスなものになっている。コルトレーンがライヴで普通のジャズを演奏していた最後の時期になるのかもしれない。
このレコードには "Bye Bye Blackbird"、"Mr.P.C."、"The Inch Worm" が収録されているが、どれも聴き易くて、且つ演奏も充実しているから
たいへん楽しめる。インパルスのバラード3部作はマウスピースの調子が悪かったからだと言われているが、このライヴを聴く限りでは
そんな様子は見られない。第一、大事な商売道具の不調をそのままにしておくなんてことをするのは信じられない話だ。
ブートの課題は言うまでもなくその音質だが、少なくともこのレコードは特に問題はない。コンサートホールの真ん中辺りでホールトーンを
丸ごと録ったようなノスタルジックな良い雰囲気で、雑音もなく、気持ちよく聴ける。
60年代のコルトレーンは急進的でどれも苦手というなら、こういう非公式録音を聴いてみるといい。この時期のオーソドックなジャズを
演奏するコルトレーンを聴くことができる。演奏は素晴らしく、インパルス盤とは違う側面を知ることができて、コルトレーンという人を
より身近に感じることができると思う。