Melba Liston / And Her 'Bones ( 米 Metro Jazz E1013 )
メルバ・リストンという名前はジャズ愛好家なら誰もがよく知るところだけれど、さて、その演奏は? というと思い浮かべることができないのが普通ではないか。
彼女のリーダー作はこれ1枚しかないし、スモールコンボに参加して演奏したレコードもほぼ残っていない。 だから、彼女が実際にどんな演奏をしたのかを
知る人はほとんどいないのが実態だと思う。
このアルバムも4トロンボーンで彼女のアレンジしたスコアを演奏するという内容で、どれが彼女の演奏かは定かではない。 おそらくは最初のソロ、若しくは
最も目立つソロが彼女なんだろう、と想像するのが関の山だ。 トロンボーンだけの重奏によるレコードは過去にもいくつかあって、これだけが珍しいということは
ないけれど、こんなに柔らかくしなやかな重奏はちょっと珍しい。 自身がトロンボーン奏者だからこそ、この楽器の特徴を熟知したアレンジが書けるのだ。
A面ラストの "Wonder Why" はビル・エヴァンスが愛した切ないバラードだが、このソロは全編がおそらく彼女の演奏だ。 真っ直ぐに伸びるロングトーンで
この曲の美しい旋律を歌っている。 残る3人のボーンズたちは柔らかい重奏で彼女のソロを静かに支えている。 とても美しい演奏だ。
そして、このアルバムのもう1つのハイライトはレイ・ブライアントのピアノ。 こんなに生き生きと弾むピアノは彼のリーダー作の中でも聴いたことがない。
歯切れのいいリズムの楽曲での彼のピアノは本当に素晴らしい。
取り回しの難しい楽器群による演奏なのに、全体の流れが実にスムーズでつっかえたり停滞する箇所なく音楽が流れて行くのは驚異的だ。 この楽器特有の
美しい重奏と傑出したリズム感で、音楽が輝いているように思える。 このアルバムは間違いなく傑作である。