Sonny Rollins / And The Big Brass ( 米 MetroJazz E 1002 )
やっぱり、レコードというのは聴くべき人のところへちゃんとやって来るんだなあと思う。 ミュージック・インでのライヴに開眼した途端、メトロジャズの
もう1枚が目の前に現れる。
1958年のN.Yでの2種類のスタジオ録音が収録されている。 1つはアーニー・ウィルキンス率いる多管編成のラージグループをバックにしたもの、もう1つは
ピアノレス・トリオによるもの。 どちらも私の好きなスタイルで、こんなに美味しいレコードはない。
ビッグブラス・サイドではナット・アダレイのコルネットとルネ・トーマのギターがソロをとる箇所があり、各々が存在感をみせる。 ロリンズはバックの
厚みのあるサウンドの中でも埋没することなく、7人の管楽器群よりも大きな音で彼らを軽く凌駕していく。 こうやって他の管楽器奏者と直接対比することで
ロリンズの音色が如何に傑出したものであるかがよくわかる。 このスタイルでソリストの個性が逆に際立って音楽的に成功したのはパーカーとロリンズだけだ。
ピアノレス・サイドは当時のロリンズのメインコンセプトだったスタイルで、もうこれ以上ないくらい自由に何にも制約されることなく歌う姿が録られている。
フレーズは弾力に富み、次から次へと溢れてきて止まらない。 音階も一か所に固まることなく、低域から高域まで自在に操る。 最後の "Body And Soul"は
無伴奏ソロ。 ピアノレスの考え方をさらに推し進めた究極の姿で、サックス1本なのにたくさんの楽器による伴奏が付いているかのような豊かな音楽に
なっているのが驚異的だ。 実際には鳴っていない音まで聴こえてくるこの感覚は一体なんだろう。
このディスクも録音・再生が非常に良く、モノラルなのにステレオのような音場感で楽器の音が鮮度高く分離よく鳴る。 ヴァン・ゲルダーやデュナンだけが
優れたエンジニアだったというわけではないし、ブルーノートやコンテンポラリーばかりが名演だったわけでもない。 ブランド志向に囚われず音楽を
愉しめるようになれれば、ジャズはもっと親密な音楽になるだろう。