報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「海底に沈む遺産」 8

2014-03-22 19:27:13 | 日記
[同日12:30.財団本部の入居するビルの中にある飲食店 敷島孝夫、平賀太一、アリス・フォレスト]

「やっとメシだ……」
「しかし、敷島さんも色々な事件・事故に巻き込まれますね」
 平賀が憐れむような感じで言った。
「高田馬場駅の人身事故のことですか?かつては旧ソ連の秘密兵器ロボットとして製造されたエミリーも、今や人命救助ロボットですからね」
「シンディにはできなかったことかな?」
「うるさいよ!」
 平賀の皮肉にアリスは睨みつけて言った。
「しかし、ミクの突然の歌にはびっくりしましたな」
「ええ」
 ミクが歌ったのはローテンポな歌。

『この海の底には、あなたと私だけ。誰かが見つけてくれるまで、歌を歌い続けましょう。あなたの為だけに歌うわけじゃない。あなたの大切な人にも歌うの。外には聴こえないかもしれないけれど。この海の底で、ずっと私は待ち続ける。眠り姫のように』

「タイトル、作曲者、作詞者ともに不明か……」
 敷島はミクが歌った歌の歌詞をメモしていた。
「多分これが、ウィリーの隠し遺産の在り処を示したものなんでしょうね」
「アリス。この歌の歌詞に心当たりは?」
「無いよ、そんなの」
「しかし、そうなってくると、エミリーがシンディの形見として持っていた黄色い鍵も、リンやレンに見せれば、歌い出すということですかね?」
 平賀が言った。
 しかし、敷島は懐疑的だった。
「もう1度やってみる必要はありますが、だったら偶然でもそういう現象があってもいいと思うんです」
「と、言いますと?」
「リンはボカロの最年少で、いたずら好きでも知られています。で、よくエミリーにお仕置きされてるじゃないですか」
「南里研究所での約束事の1つでしたね」
「財団仙台支部でも、です。で、実はエミリーが形見として持っていた鍵を見たことがあるんですよ」
「えっ!?」
 エミリーが黄色い鍵を持ち帰った時、リンとレンが興味深そうにその鍵を眺めていたという。
 しかし、この2人が反応して歌を歌い出すということはなかった。
緑の鍵だけですかね?ボカロに歌わせる作用があるのは……」
「うーん……」
 敷島は腕組みをして考え込んだ。
 イメージカラーが緑の初音ミクが、緑の鍵を見て歌い出したのは驚いた。
 されば、黄色い鍵を見た鏡音リン・レンがそれを見て歌い出さなければおかしい。
 そして、ということは、更に探せばMEIKOに対応した赤い鍵やKAITOに対応した青い鍵もあるということだ。
 で、最大の謎。何で初音ミクは緑の鍵を見て、歌い出したかだ。音楽コードがその鍵の中にあって、それを読み取ったのは分かった。
 しかし、鍵が製造された時、つまりバージョン・プロトタイプがマンションの基礎土台に埋め込まれた時より少し前だろう。
 つまり、1990年代だな。その頃はボーカロイドなんて言葉すら無かった。
 なのに、どうしてウィリーはそれから10年、15年も経って製造されたボーカロイドに対応した音楽コード入りの鍵を作った(作れた)のだろう。
「タイムマシンでも作ってましたかね?」
「あのね……」
 敷島の突拍子も無い発言に、平賀とアリスは呆れた顔をした。

(※但し、前作オリジナル版においては、本当にタイムマシンがウィリーによって発明されていた)

[同日13:30.財団の入居するビル1Fエレベーターホール 敷島、平賀、アリス]

「リンとレンは都内にいないんですね」
「全国ツアーで今、大阪辺りにいるんじゃないですかね?」
 ビルの共用掲示板にも、ボカロに関するポスターがでかでかと貼られていた。
 但し、南里研究所が手掛けた形式だけでなく、ボカロ全般のものが貼られている。
「! これは!?」
 その時、アリスは別の研究所が手掛けているボーカロイドが目についた。
 そのボーカロイドも鏡音リン・レンのように金髪で、いかにもイメージカラーはイエローといった感じだった。
 敷島は眼鏡を掛け直して答えた。
「確か、Lily(リリー)だね。今は、えーと……どこかのレコード会社に所属して、そこでアーティストとして活躍してるんじゃなかったかな。ミュージカル“悪ノ娘と召使”には……出てこなかったか」
「それ、都内のレコード会社ですよね?」
 と、平賀。
「確か……」
 敷島は首を傾げた。どうしても南里研究所繋がりなので、それとは繋がりの無いボカロまで詳しく知っているわけではない。
「都内のことだったら、むしろ本部のここの方が詳しいでしょう」
「なるほど」

 敷島達はボーカロイドを管理している事務所に行ってみた。
 本部ということもあって、地方支部の敷島の所と違い、まったり感は無い。
「お待たせしました。えー、Lilyは今夕、秋葉原のボーカロイド劇場でライブがあります」
 敷島より固そうな職員が回答した。
「ミクと同じ!……だった!」
「敷島さん、気づきましょうよ」
「初音ミクと違って、キャピタル・レコードさんと連絡を取らなくてはなりませんよ?」
 財団が絡むとはいえ、個人的に会うのだから、所属レコード会社を通さなくてはならないということか。
 ミクと違うというのは、ミクの所属する芸能事務所とは、財団関係者の面会が自由にできることになっているからだ。
 敷島も実はその違いについてよく分かっていないが、そもそも他の研究所で製造されたボーカロイドは、そもそもミク達とルーツが違うのかもしれない。
 一応、所属のレコード会社に連絡を取ると、ライブが終わった後、少しの間だけなら良いということだった。

[同日14:29.JR新宿駅13番線ホーム 敷島、アリス、エミリー、初音ミク]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の13番線の電車は、14時29分発、各駅停車、千葉行きです。次は、代々木に止まります〕

「そういえば、こいつも黄色だな」
 敷島はホームの上にある看板を見て言った。
 中央・総武線各駅停車のラインカラーは黄色(正確にはカナリア色という)である。
 隣接する山手線は黄緑(ウグイス色)で、ミクのイメージカラーに近いというのも何かの因縁か。

〔まもなく13番線に、各駅停車、千葉行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。次は、代々木に止まります。電車とホームの間は、広く空いております。足元に、ご注意ください〕

 平賀もLilyの実験に立ち会いたいらしいが、本部での打ち合わせのため、後から向かうそうだ。
「取りあえず今日はアキバに一泊だから、先にホテルに荷物を置いてからにしよう」
 電車がホームに滑り込んでくる。
「たかおさんも大変ですね」
「ミク達に比べれば、ヒマな方だよ」
 敷島はニヤッと笑った。

〔しんじゅく〜、新宿〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、代々木に止まります〕

「わたしのライブに来てくれるんですね?」
「ああ。チケット、駆け込みセーフだった」
 4人は電車に乗り込んだ。
(今回の劇場でライブをやるボカロで、黄色いのはLilyだけか……)
 敷島は今日のライブ出演者の一覧を確認していた。
 どことなく巡音ルカを黄色くしたような感じにも見えるが、躍動性についてはルカの上を行くとされている。

〔13番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕
〔「13番線、発車です。ドアが閉まります」〕

「ミクは本当に、あの鍵のことについては知らない?」
 電車が走り出してから敷島はミクに聞いた。
「はい。ただわたしはコードのデータを読み取って、その通りに歌っただけです」
 ボカロの特長の1つ。楽曲データをそのまま打ち込めば、ボイス・トレーニングなど必要無く、そのまま本番で歌える強みだ。
 それがため、どこの事務所でもボカロに対して、トレーニングのスケジュールは取っていない。
 但し、機械であるため、整備・点検の日や時間を設けなくてはならないが。
「あっ、そうだ。エミリー」
「イエス、敷島さん」
「レコード会社からの依頼で、今日のライブの時はお前も参加してもらうから」
「? 私は・歌えませんが?」
「ピアノの生演奏があるんだって。本当はそれも自動演奏にするところ、エミリーが来るってことで、お前がやってみないかってさ」
「Lilyへの実験に対する取り引きか……」
 アリスはそう見抜いた。
「イエス。そういうこと・でしたら・ご協力・致します」
「悪いな」
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“アンドロイドマスター” 「海底に沈む遺産」 7

2014-03-22 15:20:22 | 日記
[同日10:32 東京メトロ東西線・高田馬場駅 敷島孝夫、アリス・フォレスト、エミリー]

〔足元に、ご注意ください。電車とホームの間が、広く空いている所があります。出口は、左側です〕

 敷島達を乗せた電車がホームに滑り込んだ。
「西武に乗り換えた方がいいのか?」
 敷島はエミリーに聞いた。
「ノー。JRの方が・いいです」
「そうか」

〔足元に、ご注意ください。高田馬場、高田馬場。中野行きです〕

 ここで降りる乗客は多く、敷島達もその人の流れに乗ることになった。
「高田馬場って、発音しにくいだろう?」
 敷島がアリスに言うと、
「ゆっくり喋れば大丈夫」
 とのこと。
「南部訛りが大きいと、日本の地名は発音しにくいかもね」
「ブッシュ大統領のことを言ってるのかい?愛媛が発音できなかったのは意外だったな……」
 因みにアリスには南部訛りは無い。
 どちらかというとアメリカ人というより、イギリス人が発音する英語に近いらしく、本当の生まれはそこではないかとも思っている。
 何でそんな話になったかというと、東京メトロの車内放送で、英語の部分。
 駅名以外は外国人声優が喋り、駅名の所だけ日本人声優が喋っていることにアリスが気づいたから。
 JRなどでは駅名部分も外国人が喋っているが、山手線だけ何故か何度も収録し直されたことは鉄ヲタの中でも大きな謎とされており、高田馬場が発音できなかったからではないかとも言われている

[同日10:37.JR高田馬場駅前 敷島、アリス、エミリー、初音ミク]

「敷島・さん。初音ミクが・います」
 エミリーは敷島の肩をトントンと叩いて言った。
「そうなのか。ライブは午後からだったもんな」
 敷島はエミリーに言われるまで気が付かなかった。
 というのは、特徴的なツインテールをポニーテールに変え、帽子と眼鏡を掛けていたからである。
 今やここまで変装しないと、顔バレしてしまうくらいに売れているということだ。
「あっ、たかおさん。アリス博士、エミリー。おはようございます」
「おう、お疲れさん」
「Hi.」
「これから財団本部に行くところなんだが……」
「はい。わたしもちょうど打ち合わせが終わって、本部に行くところです」
「そうか。じゃあ、一緒に行こうか」
「はい!」

[同日10:40.JR高田馬場駅ホーム 敷島、アリス、エミリー、ミク]

「あっ、行ったばっかか!」
 敷島がホームに上がると、ちょうど電車のテールランプが去って行くところだった。

〔当駅では、終日禁煙となっております。皆様のご協力を、お願い致します〕

「まあいいや。すぐ来るだろう」
 反対側の電車が発車するところだった。
「そーらを越えてー♪ラララ♪……」
「あーっ、こらこら!」
 ミクが発車メロディに合わせて歌い出したので、敷島がそれを止めた。
「ここではマズい!」
「あっ、すいません。迷惑ですよね」
「いや、ジャスラックがうるさい!」
「はい?」
「“鉄腕アトム”の歌?」
 アリスは知っているらしい。さすが手塚作品は外国でも知られている。
「“鉄腕アトム”じゃ、この町に科学省という架空の省庁があるという設定だから、それを記念して発車メロディをテーマソングにしたって話だ」
 敷島が説明した。
「そうなの」
「財団もこの町に本部設置すりゃ、いい雰囲気だったろうにな」
「まあ、女だけどアトムに匹敵するロボットがここにいるからねぇ……」
 アリスはエミリーを見て言った。
「10万馬力も無いだろ?いくらなんでも」
「ジェット・エンジンで飛ぶ所は一緒でしょう?」
「南里所長の話じゃ、あくまで緊急離脱用だって話で、アトムのように自由に長時間飛べるわけじゃないそうだぞ?」

 それから数分経過。
〔まもなく2番線に、新宿、渋谷方面行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕

「おっ、来た来た」
「日本の鉄道は時間通りに来るね」
「ああ」
 その時、近くでどよめきが起きた。
「うわっ、大変だ!人が落ちたぞ!」
「電車来てるって!あっちィ!」
「な、何だって!?おい、非常ボタン!非常ボタン!」
 敷島がホームの柱に目をやるのと、エミリーが入線してくる電車に向かって走り出すのは同時だった。
「ばかっ、エミリー!戻れーっ!」
「対象物・JRE231-517・11両・総重量測定……・速度61.15㎞……」
 エミリーはヘッドライトをハイビームに、けたたましい警笛を鳴らす山手線電車のフロント部分を両手で押さえた。
「ま……マジかよ?!」
 電車は転落した乗客の30㎝手前で停車した。
 歓声か湧き起こるが、敷島は逆に背筋が寒くなった。
(あんなもんが暴れ出したら、町1つ無くなるぞ……!)
 そんな敷島の不安を読み取ったのか、ミクがこそっと言った。
「大丈夫ですよ。南里博士も、ちゃんと考えてますから」
「…………」

[同日12:00.東京都新宿区内の財団本部 敷島、アリス、エミリー、初音ミク、平賀太一]

「……というわけで、遅くなりました」
「ええ。テレビで見てましたよ。大活躍でしたね」
 平賀はにこやかな顔をしていた。
「で、被害は?」
「電車のフロント部分が、エミリーの両手でベッコリ行ったくらいです。後でJRから請求くるかなぁ……?」
「人助けして請求来たんじゃ、世話ないですね」
 来るわけ無いだろという顔を平賀はした。
 そのエミリーは、アリスや他の財団職員と共に研究室へ。故障したわけではなく、どの程度のダメージがあったか、それを吸収したかの検査である。
「自走はできるんですがね。昔の103系みたいにもっと頑丈に作らないとダメだな」
「軽量のステンレス合金から、鋼製へ劣化ですか?重くて余計に電気を使うだけだと思いますが……」
「鍵の色に合わせて新宿が怪しいと思ったんですが、どうも緑というのは……あれ!?」
 その時、敷島はハッと気づいた。
 ミクが財団本部内では完全に顔バレしている(変装していても意味が無い)ことから、いつもの姿になって戻って来た。
「? どうしました?たかおさん?」
 服装はいつもの衣装ではなく(あれはステージ衣装という設定)、といっても公式イラストに合わせたデザインではあるが私服だった。
「あの鍵の色って、鉄道のラインカラーじゃなくて、ボーカロイドのイメージカラーだったりして」
「まさか。時期的に合わないですよ。鍵が製造された時は、まだボーカロイドなんて言葉すら無かったんですから」
 平賀は口元を歪めた笑みを浮かべた。
「いや、でも……」
 そこへ、
「Sorry.ちょっとそこに代わりのエアブラシ無い?研究室のヤツ、調子悪くて」
 アリスが入ってきた。
「ちょうど良かった。アリス、あの『緑の鍵』を出してくれないか?」
「どうしたの?いきなり」
「いいから」
 敷島はアリスから、浦安で見つけた緑の鍵を受け取った。
「ミク。これを見て、何か感じないか?」
「はい?」
 ミクは自分の顔の前に掲げられた鍵を見つめた。
「What?グリーンは初音ミクのグリーン?」
「らしいんだ」
 敷島の仮説を平賀から聞いたアリスは驚いた。
「だって、エミリーの鍵でリンとレンは反応しなかったじゃない?」
「だよなぁ……」
 ピッ!
「ピッ?」
 ミクの緑色の瞳がオレンジ色に一瞬鈍く光り、
「コード、読み取りました。歌います」
 と、言い出した。
「は!?」
「音楽コード!?」
 どよめく室内。
 そして、ミクが歌い出した。その内容は……。
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“アンドロイドマスター” 「海底に沈む遺産」 6

2014-03-22 00:18:08 | 日記
[同日22:00.TDL前→タクシー車内 敷島孝夫&アリス・フォレスト]

「○○ホテルまで、お願いします」
「はい」
 TDL閉園時刻、敷島とアリスは宿泊先のホテルに戻るのにタクシーに乗り込んだ。
「結局、閉園までいたな……」
 敷島は疲れた様子で、リア・シートにもたれかかった。
 対して、アリスは興奮冷めやらぬ状態だった。
「いやホント、若いっていいわ……」
「? 今日は楽しかったよ。まさか、本当に連れてってくれるなんて思わなかった」
「『男子たるもの、二言発するを許さず』って死んだ祖父さんが言ってたんでね」
「Nigon?」
「まあ、だから三言言ってたけどw」
「……難しいファミリーだったのね。シキシマのキャラクターも、納得だわ」
「何か一瞬ムカついたんだが……」
「それにしても、本当に日本の物価って高いわね」
「日本の物価が、というのも去ることながら、元々日本のディズニー・リゾートの値段がそもそも高いんだよ。土産買うのも大変だ」
「そうだね。フロリダの方が安いかしら?」
「ビザ切れた時にでも、行ってみたら?」
「財団の関係でロング・ステイ・ビザだってこと、知ってるくせに」
「はは……」
 財団がアリスをアメリカから研究者として招聘し、長期滞在ビザの発給が降りた。
(それにしても……)
 と、敷島は園内でのことを思い出した。
 パレードを輝かせた目で見ていたアリス。
 その姿は、『狂科学者の孫娘』であることを忘れさせるくらいの無邪気なものだった。
(あれだけ見ていると、フツーのコなんだけどな……)
 因みに今は、また研究者の目付きに変わっている。
 お土産に買ったティンカー・ベルのぬいぐるみ。これをしげしげと見つめていた。
 欲しいのかと思って敷島が買ってあげたのだが……。
(フェアリー型ロボットは需要がある……。ファンシーキャラとして子供の相手とか、はたまたこの小さい体に飛行能力を持たせて軍事的な諜報ロボットとか……暗殺用とか……)
 完全に研究資料用だった。
(妖精とかが好きなのか。意外と女の子っぽいところもあるもんだ)
 それに気づかない敷島は、ある意味で幸せ者なのか。
(問題は、いかにフェアリー並のハイ・レベルな飛行能力を持たせるかか……)

[3月22日08:30. ホテル内レストラン 敷島&アリス]

(少し、ゆっくりしちゃったな。まあ、チェックアウトまでまだ時間あるし……)
 敷島は朝食会場に足を運んだ。
 途中にエミリーがいて、やはり寝坊しかけたアリスを起こし、レストランまで運んだという。
(寝起きがいいんだか悪いんだか分からんヤツだな……)
 朝食はパンにコーヒーという、コンチネンタル式だ。
 ただ、パンも飲み物もおかわり自由らしく、
「アリス……お前なぁ……」
 予想通りというか、皿に何個もロールパンやら食パンを何枚も乗っけてドカ食いしていたのだった。
 これで太らないのだから、実に便利な体質だ。
「Hi.Good morning.」
「ハイじゃねーし。よく食うなぁ」
「本当はイングランドのタイプがいいんだけど……」
「イングリシュ・ブレックファーストか。あれはかなりボリュームがあるらしいな」
 実に、アリス向きということか。
「で、今日の予定は?」
「ああ。この後ホテルを出たら、財団本部に行くよ」
「どこか遊びには?」
「それは本部での解析の進捗具合によるな。もっとも、もうホテルは引き払うから、ディズニー・リゾートは無いけどね」

[同日10:02.東京メトロ東西線浦安駅 敷島、アリス、エミリー]

「そういえば、本部の近くで、ミクがライブやるんだった。それも見に行こう」
 敷島は思い出したかのように言った。

〔まもなく2番線に、快速、中野行きが参ります。……〕

「おっ。そういえば、東西線には快速があったな。ちょうどいい。これに乗ろう。エミリー、やっぱり新宿へは高田馬場駅で乗り換えた方がいい?」
「イエス。大手町駅での・お乗り換えは・お勧め・できません」
「分かった」
 地下鉄だが、高架駅のホームに電車が滑り込んできた。
 因みに浦安駅からTDRへ行くには、路線バスに乗り換えないとダメなので、非推奨ルートとされているが……。

〔浦安、浦安。快速、中野行きです。……〕

「あー、思い出した」
 敷島はそこで気づく。
「大手町駅の東西線ホームと丸ノ内線ホームって、かなり離れてたなぁ……」
 元・大手町のサラリーマンだった敷島。

〔2番線は、発車致します。閉まるドアに、ご注意ください。駆け込み乗車は、おやめください〕

「昔、俺が働いてた会社がそこにあってだなぁ……」
 電車が走り出す。
「で、どこで人生間違えたの?」
 アリスはニヤリと笑った。
「間違えたって言うなや!」

〔この電車は東陽町、大手町、高田馬場方面、快速、中野行きです。次は東陽町、東陽町です。東陽町から先は、各駅に止まります〕

「南里研究所への出向を命じられた時が運のツキ……じゃなくて、運命の分かれ道だったんだよ」
「その選択肢を間違えて、人生の迷子になった瞬間って?」
「まさかシンディがウィリーを刺すとはなぁ……!あのポンコツ!……あ、悪い」
「一瞬ムカついたけど、シキシマの気持ちも分からなくは無いね。確かに、シンディのあの行動はナシだわ」

 かくいうアリスもまた、シンディの暴走による養祖父の殺傷で人生を大きく変えさせられた1人である。
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