[同日12:30.財団本部の入居するビルの中にある飲食店 敷島孝夫、平賀太一、アリス・フォレスト]
「やっとメシだ……」
「しかし、敷島さんも色々な事件・事故に巻き込まれますね」
平賀が憐れむような感じで言った。
「高田馬場駅の人身事故のことですか?かつては旧ソ連の秘密兵器ロボットとして製造されたエミリーも、今や人命救助ロボットですからね」
「シンディにはできなかったことかな?」
「うるさいよ!」
平賀の皮肉にアリスは睨みつけて言った。
「しかし、ミクの突然の歌にはびっくりしましたな」
「ええ」
ミクが歌ったのはローテンポな歌。
『この海の底には、あなたと私だけ。誰かが見つけてくれるまで、歌を歌い続けましょう。あなたの為だけに歌うわけじゃない。あなたの大切な人にも歌うの。外には聴こえないかもしれないけれど。この海の底で、ずっと私は待ち続ける。眠り姫のように』
「タイトル、作曲者、作詞者ともに不明か……」
敷島はミクが歌った歌の歌詞をメモしていた。
「多分これが、ウィリーの隠し遺産の在り処を示したものなんでしょうね」
「アリス。この歌の歌詞に心当たりは?」
「無いよ、そんなの」
「しかし、そうなってくると、エミリーがシンディの形見として持っていた黄色い鍵も、リンやレンに見せれば、歌い出すということですかね?」
平賀が言った。
しかし、敷島は懐疑的だった。
「もう1度やってみる必要はありますが、だったら偶然でもそういう現象があってもいいと思うんです」
「と、言いますと?」
「リンはボカロの最年少で、いたずら好きでも知られています。で、よくエミリーにお仕置きされてるじゃないですか」
「南里研究所での約束事の1つでしたね」
「財団仙台支部でも、です。で、実はエミリーが形見として持っていた鍵を見たことがあるんですよ」
「えっ!?」
エミリーが黄色い鍵を持ち帰った時、リンとレンが興味深そうにその鍵を眺めていたという。
しかし、この2人が反応して歌を歌い出すということはなかった。
「緑の鍵だけですかね?ボカロに歌わせる作用があるのは……」
「うーん……」
敷島は腕組みをして考え込んだ。
イメージカラーが緑の初音ミクが、緑の鍵を見て歌い出したのは驚いた。
されば、黄色い鍵を見た鏡音リン・レンがそれを見て歌い出さなければおかしい。
そして、ということは、更に探せばMEIKOに対応した赤い鍵やKAITOに対応した青い鍵もあるということだ。
で、最大の謎。何で初音ミクは緑の鍵を見て、歌い出したかだ。音楽コードがその鍵の中にあって、それを読み取ったのは分かった。
しかし、鍵が製造された時、つまりバージョン・プロトタイプがマンションの基礎土台に埋め込まれた時より少し前だろう。
つまり、1990年代だな。その頃はボーカロイドなんて言葉すら無かった。
なのに、どうしてウィリーはそれから10年、15年も経って製造されたボーカロイドに対応した音楽コード入りの鍵を作った(作れた)のだろう。
「タイムマシンでも作ってましたかね?」
「あのね……」
敷島の突拍子も無い発言に、平賀とアリスは呆れた顔をした。
(※但し、前作オリジナル版においては、本当にタイムマシンがウィリーによって発明されていた)
[同日13:30.財団の入居するビル1Fエレベーターホール 敷島、平賀、アリス]
「リンとレンは都内にいないんですね」
「全国ツアーで今、大阪辺りにいるんじゃないですかね?」
ビルの共用掲示板にも、ボカロに関するポスターがでかでかと貼られていた。
但し、南里研究所が手掛けた形式だけでなく、ボカロ全般のものが貼られている。
「! これは!?」
その時、アリスは別の研究所が手掛けているボーカロイドが目についた。
そのボーカロイドも鏡音リン・レンのように金髪で、いかにもイメージカラーはイエローといった感じだった。
敷島は眼鏡を掛け直して答えた。
「確か、Lily(リリー)だね。今は、えーと……どこかのレコード会社に所属して、そこでアーティストとして活躍してるんじゃなかったかな。ミュージカル“悪ノ娘と召使”には……出てこなかったか」
「それ、都内のレコード会社ですよね?」
と、平賀。
「確か……」
敷島は首を傾げた。どうしても南里研究所繋がりなので、それとは繋がりの無いボカロまで詳しく知っているわけではない。
「都内のことだったら、むしろ本部のここの方が詳しいでしょう」
「なるほど」
敷島達はボーカロイドを管理している事務所に行ってみた。
本部ということもあって、地方支部の敷島の所と違い、まったり感は無い。
「お待たせしました。えー、Lilyは今夕、秋葉原のボーカロイド劇場でライブがあります」
敷島より固そうな職員が回答した。
「ミクと同じ!……だった!」
「敷島さん、気づきましょうよ」
「初音ミクと違って、キャピタル・レコードさんと連絡を取らなくてはなりませんよ?」
財団が絡むとはいえ、個人的に会うのだから、所属レコード会社を通さなくてはならないということか。
ミクと違うというのは、ミクの所属する芸能事務所とは、財団関係者の面会が自由にできることになっているからだ。
敷島も実はその違いについてよく分かっていないが、そもそも他の研究所で製造されたボーカロイドは、そもそもミク達とルーツが違うのかもしれない。
一応、所属のレコード会社に連絡を取ると、ライブが終わった後、少しの間だけなら良いということだった。
[同日14:29.JR新宿駅13番線ホーム 敷島、アリス、エミリー、初音ミク]
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の13番線の電車は、14時29分発、各駅停車、千葉行きです。次は、代々木に止まります〕
「そういえば、こいつも黄色だな」
敷島はホームの上にある看板を見て言った。
中央・総武線各駅停車のラインカラーは黄色(正確にはカナリア色という)である。
隣接する山手線は黄緑(ウグイス色)で、ミクのイメージカラーに近いというのも何かの因縁か。
〔まもなく13番線に、各駅停車、千葉行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。次は、代々木に止まります。電車とホームの間は、広く空いております。足元に、ご注意ください〕
平賀もLilyの実験に立ち会いたいらしいが、本部での打ち合わせのため、後から向かうそうだ。
「取りあえず今日はアキバに一泊だから、先にホテルに荷物を置いてからにしよう」
電車がホームに滑り込んでくる。
「たかおさんも大変ですね」
「ミク達に比べれば、ヒマな方だよ」
敷島はニヤッと笑った。
〔しんじゅく〜、新宿〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、代々木に止まります〕
「わたしのライブに来てくれるんですね?」
「ああ。チケット、駆け込みセーフだった」
4人は電車に乗り込んだ。
(今回の劇場でライブをやるボカロで、黄色いのはLilyだけか……)
敷島は今日のライブ出演者の一覧を確認していた。
どことなく巡音ルカを黄色くしたような感じにも見えるが、躍動性についてはルカの上を行くとされている。
〔13番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕
〔「13番線、発車です。ドアが閉まります」〕
「ミクは本当に、あの鍵のことについては知らない?」
電車が走り出してから敷島はミクに聞いた。
「はい。ただわたしはコードのデータを読み取って、その通りに歌っただけです」
ボカロの特長の1つ。楽曲データをそのまま打ち込めば、ボイス・トレーニングなど必要無く、そのまま本番で歌える強みだ。
それがため、どこの事務所でもボカロに対して、トレーニングのスケジュールは取っていない。
但し、機械であるため、整備・点検の日や時間を設けなくてはならないが。
「あっ、そうだ。エミリー」
「イエス、敷島さん」
「レコード会社からの依頼で、今日のライブの時はお前も参加してもらうから」
「? 私は・歌えませんが?」
「ピアノの生演奏があるんだって。本当はそれも自動演奏にするところ、エミリーが来るってことで、お前がやってみないかってさ」
「Lilyへの実験に対する取り引きか……」
アリスはそう見抜いた。
「イエス。そういうこと・でしたら・ご協力・致します」
「悪いな」
「やっとメシだ……」
「しかし、敷島さんも色々な事件・事故に巻き込まれますね」
平賀が憐れむような感じで言った。
「高田馬場駅の人身事故のことですか?かつては旧ソ連の秘密兵器ロボットとして製造されたエミリーも、今や人命救助ロボットですからね」
「シンディにはできなかったことかな?」
「うるさいよ!」
平賀の皮肉にアリスは睨みつけて言った。
「しかし、ミクの突然の歌にはびっくりしましたな」
「ええ」
ミクが歌ったのはローテンポな歌。
『この海の底には、あなたと私だけ。誰かが見つけてくれるまで、歌を歌い続けましょう。あなたの為だけに歌うわけじゃない。あなたの大切な人にも歌うの。外には聴こえないかもしれないけれど。この海の底で、ずっと私は待ち続ける。眠り姫のように』
「タイトル、作曲者、作詞者ともに不明か……」
敷島はミクが歌った歌の歌詞をメモしていた。
「多分これが、ウィリーの隠し遺産の在り処を示したものなんでしょうね」
「アリス。この歌の歌詞に心当たりは?」
「無いよ、そんなの」
「しかし、そうなってくると、エミリーがシンディの形見として持っていた黄色い鍵も、リンやレンに見せれば、歌い出すということですかね?」
平賀が言った。
しかし、敷島は懐疑的だった。
「もう1度やってみる必要はありますが、だったら偶然でもそういう現象があってもいいと思うんです」
「と、言いますと?」
「リンはボカロの最年少で、いたずら好きでも知られています。で、よくエミリーにお仕置きされてるじゃないですか」
「南里研究所での約束事の1つでしたね」
「財団仙台支部でも、です。で、実はエミリーが形見として持っていた鍵を見たことがあるんですよ」
「えっ!?」
エミリーが黄色い鍵を持ち帰った時、リンとレンが興味深そうにその鍵を眺めていたという。
しかし、この2人が反応して歌を歌い出すということはなかった。
「緑の鍵だけですかね?ボカロに歌わせる作用があるのは……」
「うーん……」
敷島は腕組みをして考え込んだ。
イメージカラーが緑の初音ミクが、緑の鍵を見て歌い出したのは驚いた。
されば、黄色い鍵を見た鏡音リン・レンがそれを見て歌い出さなければおかしい。
そして、ということは、更に探せばMEIKOに対応した赤い鍵やKAITOに対応した青い鍵もあるということだ。
で、最大の謎。何で初音ミクは緑の鍵を見て、歌い出したかだ。音楽コードがその鍵の中にあって、それを読み取ったのは分かった。
しかし、鍵が製造された時、つまりバージョン・プロトタイプがマンションの基礎土台に埋め込まれた時より少し前だろう。
つまり、1990年代だな。その頃はボーカロイドなんて言葉すら無かった。
なのに、どうしてウィリーはそれから10年、15年も経って製造されたボーカロイドに対応した音楽コード入りの鍵を作った(作れた)のだろう。
「タイムマシンでも作ってましたかね?」
「あのね……」
敷島の突拍子も無い発言に、平賀とアリスは呆れた顔をした。
(※但し、前作オリジナル版においては、本当にタイムマシンがウィリーによって発明されていた)
[同日13:30.財団の入居するビル1Fエレベーターホール 敷島、平賀、アリス]
「リンとレンは都内にいないんですね」
「全国ツアーで今、大阪辺りにいるんじゃないですかね?」
ビルの共用掲示板にも、ボカロに関するポスターがでかでかと貼られていた。
但し、南里研究所が手掛けた形式だけでなく、ボカロ全般のものが貼られている。
「! これは!?」
その時、アリスは別の研究所が手掛けているボーカロイドが目についた。
そのボーカロイドも鏡音リン・レンのように金髪で、いかにもイメージカラーはイエローといった感じだった。
敷島は眼鏡を掛け直して答えた。
「確か、Lily(リリー)だね。今は、えーと……どこかのレコード会社に所属して、そこでアーティストとして活躍してるんじゃなかったかな。ミュージカル“悪ノ娘と召使”には……出てこなかったか」
「それ、都内のレコード会社ですよね?」
と、平賀。
「確か……」
敷島は首を傾げた。どうしても南里研究所繋がりなので、それとは繋がりの無いボカロまで詳しく知っているわけではない。
「都内のことだったら、むしろ本部のここの方が詳しいでしょう」
「なるほど」
敷島達はボーカロイドを管理している事務所に行ってみた。
本部ということもあって、地方支部の敷島の所と違い、まったり感は無い。
「お待たせしました。えー、Lilyは今夕、秋葉原のボーカロイド劇場でライブがあります」
敷島より固そうな職員が回答した。
「ミクと同じ!……だった!」
「敷島さん、気づきましょうよ」
「初音ミクと違って、キャピタル・レコードさんと連絡を取らなくてはなりませんよ?」
財団が絡むとはいえ、個人的に会うのだから、所属レコード会社を通さなくてはならないということか。
ミクと違うというのは、ミクの所属する芸能事務所とは、財団関係者の面会が自由にできることになっているからだ。
敷島も実はその違いについてよく分かっていないが、そもそも他の研究所で製造されたボーカロイドは、そもそもミク達とルーツが違うのかもしれない。
一応、所属のレコード会社に連絡を取ると、ライブが終わった後、少しの間だけなら良いということだった。
[同日14:29.JR新宿駅13番線ホーム 敷島、アリス、エミリー、初音ミク]
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の13番線の電車は、14時29分発、各駅停車、千葉行きです。次は、代々木に止まります〕
「そういえば、こいつも黄色だな」
敷島はホームの上にある看板を見て言った。
中央・総武線各駅停車のラインカラーは黄色(正確にはカナリア色という)である。
隣接する山手線は黄緑(ウグイス色)で、ミクのイメージカラーに近いというのも何かの因縁か。
〔まもなく13番線に、各駅停車、千葉行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。次は、代々木に止まります。電車とホームの間は、広く空いております。足元に、ご注意ください〕
平賀もLilyの実験に立ち会いたいらしいが、本部での打ち合わせのため、後から向かうそうだ。
「取りあえず今日はアキバに一泊だから、先にホテルに荷物を置いてからにしよう」
電車がホームに滑り込んでくる。
「たかおさんも大変ですね」
「ミク達に比べれば、ヒマな方だよ」
敷島はニヤッと笑った。
〔しんじゅく〜、新宿〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、代々木に止まります〕
「わたしのライブに来てくれるんですね?」
「ああ。チケット、駆け込みセーフだった」
4人は電車に乗り込んだ。
(今回の劇場でライブをやるボカロで、黄色いのはLilyだけか……)
敷島は今日のライブ出演者の一覧を確認していた。
どことなく巡音ルカを黄色くしたような感じにも見えるが、躍動性についてはルカの上を行くとされている。
〔13番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕
〔「13番線、発車です。ドアが閉まります」〕
「ミクは本当に、あの鍵のことについては知らない?」
電車が走り出してから敷島はミクに聞いた。
「はい。ただわたしはコードのデータを読み取って、その通りに歌っただけです」
ボカロの特長の1つ。楽曲データをそのまま打ち込めば、ボイス・トレーニングなど必要無く、そのまま本番で歌える強みだ。
それがため、どこの事務所でもボカロに対して、トレーニングのスケジュールは取っていない。
但し、機械であるため、整備・点検の日や時間を設けなくてはならないが。
「あっ、そうだ。エミリー」
「イエス、敷島さん」
「レコード会社からの依頼で、今日のライブの時はお前も参加してもらうから」
「? 私は・歌えませんが?」
「ピアノの生演奏があるんだって。本当はそれも自動演奏にするところ、エミリーが来るってことで、お前がやってみないかってさ」
「Lilyへの実験に対する取り引きか……」
アリスはそう見抜いた。
「イエス。そういうこと・でしたら・ご協力・致します」
「悪いな」