報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「魔道師たちの企み」

2014-03-30 21:01:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
「ダメです!そっちは行けません!」
「はあ?」
 南側の廊下を通ろうとしたユタと威吹。
 しかし、メアリーが断固拒否してきた。
「玄関に行くには、こちら側の方が近いだろう?」
「ダメなんです。私、明るい所が……」
「ふうん……。じゃあ、鍵を寄越してもらうしかないな?」
 威吹は面倒臭そうに言った。
「まあまあ、威吹。少し遠回りになるけど、北側の廊下を通ろう。確か、そこからでも玄関には行ける」
「ユタがそう言うのなら……」
「ごめんねぇ。威吹、時々気が短くなる時があるんだ」
 ユタは済まなそうに言った。
「いえ……」

 北側の廊下は確かに日が差しにくいせいか、薄暗い。
「この通路から玄関に行けますわ」
 メアリーはニコリと笑った。
「ふん……」
 威吹は妖刀を持って、峰の部分を左肩にトントンと当てていた。
「ユタ。玄関に行く前に、ちょっと寄りたい所がある」
「トイレ?」
「違う。こっちだ」
 威吹が向かった先は、先ほどの殺風景な部屋。
「メアリーとやら。この部屋には入れるか?」
「ここは……ジルコニアの部屋?」
「人形のくせに個室を与えられているとは、贅沢な人形だな」
 威吹は鼻を鳴らした。
「威吹、一対何を……?確かこの部屋は……」
「シッ!」
 ユタが何か喋ろうとするのを、威吹は遮った。
「お前の仲間がこの部屋で待ってるぞ?」
「ジルコニアが?」
「ああ。先に入ってみろ」
「……?」
 メアリーはジルコニアの部屋のドアを開けた。
「!!!」
 本来なら薄暗い部屋だった。
 だが、天井が抜け、真上の2階の部屋の床も抜けてしまっていた。
 なので、今は2階の天窓からの日光が直接この部屋を照らしていた。
 人間のユタでさえ、その眩しさに思わず目を細めるほど。
「とっとと入れ!」
 威吹はメアリーの背中を蹴り押した。
「ぅきゃああああっ!!眩しいぃいいいぃぃぃぃっ!!!」
 メアリーは両手で顔を押さえ、床をのたうち回った。
「い、威吹?」
「どうもおかしいとは思っていたが、あの人形……」
「うっ!?」
 メアリーの姿形が変わって行く。
 見る見るうちに、身長2メートルくらいの大男……というか、まるで赤鬼のようだった。
「鬼族の者か!?」
 威吹は妖刀を構えた。
「何故だ?何故、正体が分かった?」
「あのミク人形ともまた違う、本当の妖怪の臭いがしたからだ。お前、人形ではなかったな?」
「死ねぇえい!!」
 赤鬼は威吹の質問にまともに答えようとはせず、威吹に向かって空中から出した金棒を手に襲ってきた。
「どうやらキノの仲間でも無さそうだから、地獄界に送っても恨まれまい」
 威吹は赤鬼の攻撃を何回か交わした。
「臭いが全然違う。地獄界の獄卒にすら成り得なかったヤツだろう。ユタは下がってて」
 威吹は妖刀を構え直し、更に向かってきた赤鬼の攻撃を素早く交わす。
 力自慢の赤鬼だから、トゲ付きの金棒とまともにやり合うのは危険だ。
 しかし、ミク人形とは違い、赤鬼は金属バットの何倍もの大きさのある金棒を軽々と振るった。
「差し詰め、ミク人形が『中堅』、お前が『大将』といったところか」
 分かりやすく言えば、ミク人形が中ボスで、この赤鬼がこのダンジョン(?)のボスということだ。
「だが、弱い」
 赤鬼が威吹の頭に金棒を振り落した。
「えっ!?」
 威吹は何故か避けず、金棒の直撃を受けた。
「ええーっ!?」
 ユタは驚いた。が、
「くっ……!」
 赤鬼は威吹を倒したというより、むしろ、やられたという顔をした。
 赤鬼が倒したはずの威吹は残像。本体は、
「でやあーっ!!」
 その背後に回っていて、赤鬼の首を刎ね飛ばした。
「やった!……けど、スプラッター!」
 威吹は妖刀に付いた血のりを拭いたが、
「ユタ。まだ油断してはいけない」
「えっ?でも……」
「首と胴体が離れても、ある程度動けるのが鬼というヤツだ。そこは妖狐と違う」
 そう言った後で、
「玄関の鍵だけ頂いて行くぞ」
「そんなものは……無い」
「うわっ!」
 ゴロッと赤鬼の頭部が動き、それが喋った。
「なに!?どういうことだ!?」
 威吹は赤鬼を睨みつけた。
「このオレを完全に倒さねば、あの玄関のドアは開かぬ……」
「げっ!?」
 すると、赤鬼の頭部が浮かび上がった。
 このまま離れた胴体と再びくっつくのかと思ったが、そうではなく、胴体は起き上がって……また新たな頭部が生えた。
「何だ、これ!?」
 ユタが飛び上がらんばかりに驚く。
「ほお……」
 威吹は侮蔑を込めた意味で、目を細めた。
 浮かんでいる頭部の口からは、炎を吐いてきた。
「最近の鬼族の中には、炎を吐くヤツがいるのか」
「感心してる場合じゃないよ、威吹!」
「まあまあ、ユタ。炎の攻撃ってのは、こうやって使うんだよ!」
 威吹は浮かんでいる頭部に向かって、左手を突き出した。
「狐火(強)!」
 左手から青白い炎が火炎放射器のように発射され、赤鬼の頭部をその炎で包み込んだ。
 赤鬼が鬼火のような赤い炎を吐き出したのとは、随分と対照的だ。
 久しぶりに見る、威吹の妖術だった。
 頭部は黒焦げになって、床に転げ落ちた。
「狐火(強)!」
「!!!」
 威吹はもう1発、赤鬼本体に向かって狐火を放った。
 赤鬼は金棒で受け止めたが金棒が灼熱化し、とても持っていられない温度まで上がり、赤鬼は金棒を手放さざるを得なかった。
「お前を地獄に送る前に、ユタが何か話がありそうだ。少しだけ寿命を延ばしてやろう」
「な、何だ?」
「マリアさんとイリーナさんを殺したのは誰!?」
 ユタが赤鬼に聞いた。
「ああ、それは……オレだ」
 赤鬼は、しれっと答えた。
「!!!」
「オレが妖力を放って、まずはミカエラ(ミク人形)を操った。マリアンナは完全にミカエラを信用しきっていたから、殺すのは簡単だった。イリーナを殺したのは知らん。誰かが便乗して殺したのでは?」
 威吹は鼻で笑った。
「喰えぬ女達だったから、お前如きにできるとは思えんな。ユタ、これはやはりあの……ユタ!?」
「くっ……くく……!!」
 ユタの変貌ぶりに、威吹は絶句した。
(怒髪衝天!?)
 その熟語が頭に浮かんだ。そして、急に訪れる恐怖。ユタの怒りの矛先が赤鬼に向いているのは間違いない。
 だが、威吹は自分にもそれが向けられているのではないかと錯覚して、体が震えた。足がガクガク震え、失禁を何とか堪える代わり、持っていた妖刀を落とすほどだった。

「は……はは……ははははは……」
 威吹は半狂乱というか、その場に座り込んで、乾いた笑いを繰り返すしかできなかった。
「はぁ……はぁ……」
 同じ部屋には肩で息をするユタ。
 そしてもう1つは、消し炭と化した赤鬼だったものがいた。
「……威吹」
「はっ!……な、何でござる?」
 思わず侍言葉が出てしまった。
「これで、玄関のドアは開いたんだよね?」
「そ、そのはずでござ……そのはずだ……そのはず……」
「大丈夫かい?妖力、使い過ぎた?」
 ユタは腰が抜けて立てなくなっている威吹に手を貸した。
「そ、そうかもね……」
 威吹はユタの手を借りて、やっと立ち上がった。

(オレは、とんでもない人間を“獲物”にしてしまったのかもしれない……)
 威吹はそんなことを考えていた。
(いや!それでいいんだ!こういう人間は滅多にいないぞ!)
 威吹は不安を振り払った。
 そうしているうちに、玄関に着いた。
「じゃあ、開けてみるよ」
「あ、いや、ここは某(それがし)……もとい、ボクが開けよう。いきなり、外から極悪妖怪が飛び込んで来たら危険だ」
「そう?」
 威吹はドアノブを回した。

 ガチャ……。

「開いた!」
「やった!これで外に出られるよ!」
 ギィィィと威吹はドアを開けた。
「!?」
「うあっ!?」
 だが、外で待ち構えていた者がいた。それは……。
                                        続く
コメント (2)
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