3月になり、寒さも一段落……せず、まだまだ寒い日が続く中、ユタはいつもの通り、所属寺院の末寺に参詣していた。
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。……うん、1時間唱題できた」
ユタは本堂で唱題をしていた。
「よーし、お疲れさん。昼飯でも食いに行くか」
隣にいる藤谷が、ポンとユタの肩を叩いた。
「はい」
ユタは数珠をしまいながら頷いた。
「キミの付き人達は、外で待ってるのかな?」
本堂を出て三門へ向かう時、藤谷がユタに聞いた。
「付き人だなんて……」
「似たような役回りじゃないか」
「まあ、そうですけど……」
三門に行くと着物に袴姿の威吹、私服にジャンパー姿のカンジの姿があった。
「お待っとさん。何食う?」
藤谷が鷹揚に右手を挙げて、三門前で待つ2人の妖狐に聞いた。
「何でもいいよ。タダ飯食うわけにはいかんからな」
「狐だけに、キツネうどんの方がいいか?」
「あのな」
藤谷のベタ過ぎる意見に、威吹は変な顔をした。
「でも、それがいい」
「食いたいんじゃん!ま、とにかく駅まで行こう」
「はい」
駅近くのソバ屋に入る。
「しかし、あれだな……」
「あ?」
注文してから茶を啜った威吹が言った。
「少しむさ苦しいな。紅一点でもいいから、華が欲しいな」
「栗原さん、呼んでくれば良かった?」
と、ユタ。
「ダメだ。余計な暑苦しい男が1人ついてくる」
威吹の言葉にカンジと藤谷は同時にウンウンと頷いた。
その頃、大宮駅前で江蓮と歩いていたキノは大きなくしゃみを3回したという。
「うちのお寺、女子部員が少ないですね?」
ユタが藤谷に振ると、
「んー、そういうわけでもないんだが、参詣のタイミングをミスると、むさ苦しい状態にはなるかな」
藤谷もまた茶を啜りながら答えた。
「俺はその方がいいんだけど」
「あー、そうですね」
「お待たせしました。キツネうどん大盛りになります」
「あいよ」
藤谷は2人の妖狐に振った。
「天ぷらソバです」
「はーい」
ユタが受け取る。
「鍋焼きうどんになります」
「はい、どうも」
「ご注文の品、以上でお揃いでしょうか?ごゆっくりどうぞ」
「こんな寒い日は、熱いのに限るな」
「ですね」
「あ、ところで……1つ思ったんだが……」
カンジがふと気づいたかのように言った。
「何だ?」
藤谷はズルズルとうどんを啜りながら聞いた。
「お前にラブコールを送った雪女、どう対応した?」
「ブッ!」
思わずむせそうになる藤谷。
「確か、ラブコールの印として、自分の生パンティを送る習慣だが……」
少しエロい話なのに、カンジは全く表情を変えない。さすがはポーカーフェイスだ。
「ケンショー・グリーンに1万円で売りつけたよ。今頃、ケンショー本部の女子トイレでヌいてるんじゃね?」
「この時間から!」
「別に、断ったら死ねって話でもないだろ?最初から殺すつもりなら、自分の下着を送り付けることはないからな」
「まあ、そうなんだが……」
威吹は好物の油揚げを頬張ってから言った。
「何回かは接近するらしいぞ?その度に、自分の身に付けているものを送るそうだ。通常の例で行けば、えー……ここの、乳を押さえるヤツ……」
「ブラジャーか」
「そうそう。それだ」
「最後は何を送り付けてくるんだろう?」
「カンジ、知ってるか?」
「大抵は2回か3回で終了のようですよ」
「何だ。じゃ、最多であと2回パスすりゃいいんだな。楽勝楽勝」
藤谷は楽観的に言って、またうどんを啜る。
「ショーツとブラの次は何だ?靴下辺り?」
ユタがカンジに聞いた。
「オレも詳しくは……」
カンジは首を傾げた。
〔「こんにちは。お昼のNHKニュースをお送りします」〕
店内にはテレビが置いてあり、ニュースが流れていた。
「そう言えば……」
ユタが首を傾げた。
「班長にラブコールを送って来た雪女って誰なんですか?下着だけじゃ分かりませんよね?」
「それなら、下着と一緒に手紙も入ってた。ケンショー・レンジャーに拉致られて、危うくマワされる所だった氷奈(ひな)ってコだ。俺はソイツのダチで、雪奈ってヤツを隣に乗せてレンジャー連中を追い掛けただけで、それ以外何もしてないんだけどな」
「で、それをエセ妖怪退治屋に横流ししたんだよな?」
「そうだけど?……おっ、そうだ。今度はブラも売りつけてやろう」
「あっ、思い出した」
カンジがつゆを啜った後で言った。
「基本的には横流し禁止です」
しかし、藤谷は眉を潜めた。
「今更言うなよ。俺はそんなこと知らないし、手紙にも書いて無かったぞ?」
「ええ。ですから、藤谷さんには何の影響も無いでしょう。ただ……」
「ただ?」
「ケンショー・グリーンはせっかく藤谷さんに渡した下着を奪い取ったと見なされ、獲物獲得を妨害した廉で襲撃は受けるかもしれません」
〔「たった今入ったニュースです。今日午前9時30分頃、埼玉県さいたま市にあります宗教法人顕正会の本部事務所で、男性職員が凍結しているのが発見されました。男性職員は病院に搬送されましたが、全身凍傷で意識不明の重体です」〕
「ブッ!」
「ま、まさか……」
〔「……はい、こちら埼玉県さいたま市にあります宗教法人、顕正会の本部前です」〕
「懐かしい光景だな」
ユタが遠い目をしてテレビ画面を見つめた。
「ああ」
威吹も頷く。
〔「……男性職員は横田ザザ……と見られ、現在警察では事件の経緯と原因について調べを進めています。以上、中継でお送りしました」「はい……。えー、先ほど音声の一部が乱れました。大変失礼致しました」〕
「か、カンジ君?」
「どうやら、予想が当たったようです」
「今度、ブラが送られてきたら、どうすりゃいいんだ?」
「煮るなり焼くなり、好きにしていいですよ。でも、稲生さん所に横流ししないでくださいね」
「い、いや!むしろ横流しして、対応してもらいたい!」
「お断りだ。そんなことしたら、寺に火を放つ」
威吹は一瞬、金色の瞳を赤色に鈍く光らせて藤谷に警告した。
「そうだ。雪女は冬限定だろ。もう少し暖かくなるまで、時間切れに追い込んでうやむやにしよう」
「そんなことしても、無駄な抵抗だな。冬場よりは、確かに妖力は落ちる。しかし、それでも人間1人氷漬けにするくらいの力は夏場でも残るはずだ。そうだな、カンジ?」
「今の日本の夏は酷暑で、更に妖力は落ちるでしょう。オレが人間だったら、迷わずラブコールを受けるところですが」
ポーカーフェイスのカンジが、この時はニヤリと笑った。
「妖狐の女と同じで、精を少しずつ提供して行けばいいんです。そしたら、悪いようにはしてこないはずです」
「カンジ。妖狐は精じゃなくて血だよ」
「そうでした」
「何とか時間切れに……何とか時間切れ……」
「班長、しっかりしてください」
現実逃避して独り言をつぶやく藤谷だった。
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。……うん、1時間唱題できた」
ユタは本堂で唱題をしていた。
「よーし、お疲れさん。昼飯でも食いに行くか」
隣にいる藤谷が、ポンとユタの肩を叩いた。
「はい」
ユタは数珠をしまいながら頷いた。
「キミの付き人達は、外で待ってるのかな?」
本堂を出て三門へ向かう時、藤谷がユタに聞いた。
「付き人だなんて……」
「似たような役回りじゃないか」
「まあ、そうですけど……」
三門に行くと着物に袴姿の威吹、私服にジャンパー姿のカンジの姿があった。
「お待っとさん。何食う?」
藤谷が鷹揚に右手を挙げて、三門前で待つ2人の妖狐に聞いた。
「何でもいいよ。タダ飯食うわけにはいかんからな」
「狐だけに、キツネうどんの方がいいか?」
「あのな」
藤谷のベタ過ぎる意見に、威吹は変な顔をした。
「でも、それがいい」
「食いたいんじゃん!ま、とにかく駅まで行こう」
「はい」
駅近くのソバ屋に入る。
「しかし、あれだな……」
「あ?」
注文してから茶を啜った威吹が言った。
「少しむさ苦しいな。紅一点でもいいから、華が欲しいな」
「栗原さん、呼んでくれば良かった?」
と、ユタ。
「ダメだ。余計な暑苦しい男が1人ついてくる」
威吹の言葉にカンジと藤谷は同時にウンウンと頷いた。
その頃、大宮駅前で江蓮と歩いていたキノは大きなくしゃみを3回したという。
「うちのお寺、女子部員が少ないですね?」
ユタが藤谷に振ると、
「んー、そういうわけでもないんだが、参詣のタイミングをミスると、むさ苦しい状態にはなるかな」
藤谷もまた茶を啜りながら答えた。
「俺はその方がいいんだけど」
「あー、そうですね」
「お待たせしました。キツネうどん大盛りになります」
「あいよ」
藤谷は2人の妖狐に振った。
「天ぷらソバです」
「はーい」
ユタが受け取る。
「鍋焼きうどんになります」
「はい、どうも」
「ご注文の品、以上でお揃いでしょうか?ごゆっくりどうぞ」
「こんな寒い日は、熱いのに限るな」
「ですね」
「あ、ところで……1つ思ったんだが……」
カンジがふと気づいたかのように言った。
「何だ?」
藤谷はズルズルとうどんを啜りながら聞いた。
「お前にラブコールを送った雪女、どう対応した?」
「ブッ!」
思わずむせそうになる藤谷。
「確か、ラブコールの印として、自分の生パンティを送る習慣だが……」
少しエロい話なのに、カンジは全く表情を変えない。さすがはポーカーフェイスだ。
「ケンショー・グリーンに1万円で売りつけたよ。今頃、ケンショー本部の女子トイレでヌいてるんじゃね?」
「この時間から!」
「別に、断ったら死ねって話でもないだろ?最初から殺すつもりなら、自分の下着を送り付けることはないからな」
「まあ、そうなんだが……」
威吹は好物の油揚げを頬張ってから言った。
「何回かは接近するらしいぞ?その度に、自分の身に付けているものを送るそうだ。通常の例で行けば、えー……ここの、乳を押さえるヤツ……」
「ブラジャーか」
「そうそう。それだ」
「最後は何を送り付けてくるんだろう?」
「カンジ、知ってるか?」
「大抵は2回か3回で終了のようですよ」
「何だ。じゃ、最多であと2回パスすりゃいいんだな。楽勝楽勝」
藤谷は楽観的に言って、またうどんを啜る。
「ショーツとブラの次は何だ?靴下辺り?」
ユタがカンジに聞いた。
「オレも詳しくは……」
カンジは首を傾げた。
〔「こんにちは。お昼のNHKニュースをお送りします」〕
店内にはテレビが置いてあり、ニュースが流れていた。
「そう言えば……」
ユタが首を傾げた。
「班長にラブコールを送って来た雪女って誰なんですか?下着だけじゃ分かりませんよね?」
「それなら、下着と一緒に手紙も入ってた。ケンショー・レンジャーに拉致られて、危うくマワされる所だった氷奈(ひな)ってコだ。俺はソイツのダチで、雪奈ってヤツを隣に乗せてレンジャー連中を追い掛けただけで、それ以外何もしてないんだけどな」
「で、それをエセ妖怪退治屋に横流ししたんだよな?」
「そうだけど?……おっ、そうだ。今度はブラも売りつけてやろう」
「あっ、思い出した」
カンジがつゆを啜った後で言った。
「基本的には横流し禁止です」
しかし、藤谷は眉を潜めた。
「今更言うなよ。俺はそんなこと知らないし、手紙にも書いて無かったぞ?」
「ええ。ですから、藤谷さんには何の影響も無いでしょう。ただ……」
「ただ?」
「ケンショー・グリーンはせっかく藤谷さんに渡した下着を奪い取ったと見なされ、獲物獲得を妨害した廉で襲撃は受けるかもしれません」
〔「たった今入ったニュースです。今日午前9時30分頃、埼玉県さいたま市にあります宗教法人顕正会の本部事務所で、男性職員が凍結しているのが発見されました。男性職員は病院に搬送されましたが、全身凍傷で意識不明の重体です」〕
「ブッ!」
「ま、まさか……」
〔「……はい、こちら埼玉県さいたま市にあります宗教法人、顕正会の本部前です」〕
「懐かしい光景だな」
ユタが遠い目をしてテレビ画面を見つめた。
「ああ」
威吹も頷く。
〔「……男性職員は横田ザザ……と見られ、現在警察では事件の経緯と原因について調べを進めています。以上、中継でお送りしました」「はい……。えー、先ほど音声の一部が乱れました。大変失礼致しました」〕
「か、カンジ君?」
「どうやら、予想が当たったようです」
「今度、ブラが送られてきたら、どうすりゃいいんだ?」
「煮るなり焼くなり、好きにしていいですよ。でも、稲生さん所に横流ししないでくださいね」
「い、いや!むしろ横流しして、対応してもらいたい!」
「お断りだ。そんなことしたら、寺に火を放つ」
威吹は一瞬、金色の瞳を赤色に鈍く光らせて藤谷に警告した。
「そうだ。雪女は冬限定だろ。もう少し暖かくなるまで、時間切れに追い込んでうやむやにしよう」
「そんなことしても、無駄な抵抗だな。冬場よりは、確かに妖力は落ちる。しかし、それでも人間1人氷漬けにするくらいの力は夏場でも残るはずだ。そうだな、カンジ?」
「今の日本の夏は酷暑で、更に妖力は落ちるでしょう。オレが人間だったら、迷わずラブコールを受けるところですが」
ポーカーフェイスのカンジが、この時はニヤリと笑った。
「妖狐の女と同じで、精を少しずつ提供して行けばいいんです。そしたら、悪いようにはしてこないはずです」
「カンジ。妖狐は精じゃなくて血だよ」
「そうでした」
「何とか時間切れに……何とか時間切れ……」
「班長、しっかりしてください」
現実逃避して独り言をつぶやく藤谷だった。