報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「憤怒の人形」

2014-03-28 21:38:04 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
 前回の続き。

 ユタと威吹は室内の惨状に目を疑った。
 ユタの場合は一瞬、思考が停止するほどだった。
 ドアを開けて、左の壁にそれはいた。
 マリアンナ・ベルゼ・スカーレット。『人形使い』の異名を持ち、手持ちの人形を自在に操る魔道師。
 しかしそれは一流の魔道師になるための布石に過ぎず、最終的には師匠イリーナのような『クロック・ワーカー(時を操る者)』になるという。
 ユタとは実年齢も近く、彼は徐々に惹かれていた。
 今回の旅の目的は、正しくそれに基づくもの。
 しかしそれが、こんな事態に陥ることになろうとは……。

 マリアは上半身を壁にし、その胸には大きなサーベルが突き刺さっていた。
 恐らくサーベルは彼女の小柄な体を突き抜け、壁に突き刺さっているのだろう。
 そこから大量のおびただしい血が流れ出し、血だまりを作っていた。
 そう、威吹が嗅ぎ取っていた血生臭い臭いとは、正にマリアの血の臭いだったのだ。
「ま……マリア……さん?」
 ユタはフラフラと糸の切れた操り人形のように、亡骸と化した若い女魔道師に近づいた。
「何で……どうして……こんなことに……!」
 ユタはマリアのだらりと垂れた右腕を掴んだ。
 その腕にはもはや生気は無く、冷たい蝋人形のようだった。
「今日……言うつもりだったのに……!会って……それから……『好きだ』って、言うつもりだったのに!」
 それから、部屋中にユタの絶叫が響いた。
「…………」
 部屋の入口近くで威吹はその様子を見ながら、右手を口に当てていた。
 人喰い妖怪だった彼が、今更こんな死体を見て気分が悪くなったわけではない。
 泣き叫ぶユタに心打たれて、もらい泣きを堪えているわけでもない。
 少なくとも江戸時代から生きる威吹には、確かに西洋妖怪のことなど(威吹にとっては、魔道師はもはや西洋妖怪扱い)よくは知らないが、しかしこうも呆気なく殺されるものなのだろうか。
 周囲には、争ったような形跡が無いわけではない。
 魔道書は散乱しているが、調度品が全て散乱しているわけでもない。
 窓ガラスが割れているわけでも、壁に穴が開いているわけでもない。
 この魔道師も、なかなか戦闘は派手だということは威吹は知っている。
 小さな体に不釣合いの大きな武器を持った人形を何体も駆使して、敵に立ち向かうのだ。
 その間、全く無防備になるので、そこが弱点だとされている。
 マリアもそれは分かっていて、サッカーにおけるゴールキーパーのような役割の人形を配置するようになったという。
 戦闘が激化すると分かれば、それ以外にストッパーやスイーパーも配置して、マリアの護衛に当たらせる。
(そこまでして、これか……)
 一体、どんな敵がこの屋敷に来たというのだろう?
 いや、それ以前に、もっと不可解なことがある。
(人形はどこ行った!?)
 人形使いの屋敷だ。さすがにエントランスホールにはいないが、少なくともここまで来る間の廊下には何体もの人形が転がっている。
 そしてこの部屋だって、所狭しと人形が寛いでいるはずだが、全く1体も見かけないのだ。
(人形達はどこに行ったんだ?)
 威吹は様子を探るため、他の部屋に行ってみることにした。
(あいつの師匠もだ!)
 廊下に出た時、さっきのリビングから鈍い音が聞こえた。
「何だ?」
 威吹が部屋を覗き込んだ時、後頭部に強い衝撃が走った。
「しまっ……!」

 人生で幾度と無い大泣きをしたユタは、部屋の入口で何か起きたことに気づいて、やっと泣き止んだ。
「威吹!?」
 今、正に威吹が床に倒れるところだった。
「威吹!どうしたんだ!?」
「ふふふふ……ははははは………」
 その背後にいたのは、
「初音……ミク……!?」
 今や強い妖力を身に付け、常にマリアに抱きかかえられている人形がいる。
 緑色の長い髪をツインテールにし、フランス人形の衣装を身にまとった人形だ。
 背中にはぜんまいが付いていたが、実はぜんまいに見せかけた鍵であり、それはイリーナによって取り外されている。
 髪の色と髪型、顔が似ていて、今やピアノ弾きの個体の演奏に合わせて歌を歌うようになったので、ユタが『初音ミク』と名付け、定着した。
 その“初音ミク”が邪悪な笑みを浮かべ、死神が持つような大きな鎌を手にして、ゆっくりと室内に入ってきた。
 明らかにミク人形は大型化していた。
 それまでは赤ん坊くらいの大きさだったのに、今では小学校に入ったばかりくらいの少女の大きさになっている。
 しかしそれでも、その身長の何倍もある大きな鎌を抱える姿は異様だ。
「死ねっ!」
 ミク人形はユタに鎌を振り落した。
 振り落したというよりは、引力に任せて落としたという感じか。
 ユタはミク人形の攻撃を交わしたが、マリアの死体に当たり、弾みで死体は完全に床に崩れ落ちた。
「お前がマリアさんを殺したのか!?」
 ミク人形は口頭で答えることは無かったが、その代わりに口元を歪める笑みを浮かべたことで肯定したようだった。
「何でだ!マリアさんはお前の主人だろう!?」
 マリアは今度はふわりと飛び上がると、鎌を振り上げてユタの首を狙ってきた。
「くっ……くそぉっ!!」
 ユタはこの部屋から離脱を余儀なくされた。
「威吹!必ず助けに来るから!」
 ユタは恐らくは意識を失っているだけであろう威吹に言うと、部屋を飛び出した。

 エントランスホールに行って、玄関のドアを開けようとする。
「うっ!?」
 しかし、ドアが開かなかった。
 鍵が掛かっているわけではないようだが、まるでドアそのものが開くことを拒むように頑として開こうとしなかった。

 ドンッ!

「!?」
 ユタの頭上を飛び越えて、大鎌の頭がドアを突いた。振り向くと、快楽的な笑みを浮かべたミク人形がそこにいた。
「っえい!!」
 ユタは小さな体のミク人形に体当たりした。
「きゃっ!!」
 初めてそこでミク人形は笑みが無くなり、小さい叫び声を上げて倒れ込んだ。
(他の出入口があるはずだ!そこから……!)

 どうしてミク人形は生みの親であり、1番に可愛がってくれていたマリアを殺してしまったのだろう。
 そして、あの大きさだ。
 魔力に応じて大きくなる人形だとは聞いていないが、一体……。
(イリーナさんはどこに行ったんだろう?イリーナさんだったら、ミクでも簡単に倒せるはずなのに……)
 ユタはミク人形の追っ手を振り切る為に、とにかく屋敷の奥へ向かった。

 この時点では屋敷の中で起きている事態など、まだ全て知らずに……。
 
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“ユタと愉快な仲間たち” 「ユタに待ち受ける試練」

2014-03-28 00:19:19 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
 更に前回の続き。

[3月の早朝 JR大糸線某駅 稲生ユウタ&威吹邪甲]

「まだこっちは寒いねぇ……」
 列車を降りて駅舎を出たユタと威吹。
 ユタの吐く息が白い。
「少しばかり空気が薄いような気がする。だいぶ山の上ということかな?」
「まあ、そんなところだね」
「小さい町で、まだだいぶ静まり返っているようだけど、バスはあるのかい?」
「まだ少し時間があるんだ」
「ん?」
「こういう一見小さな町でも末寺はあるものでね、朝の勤行をそこでしてからだな」
「さすがユタ、信心深いねぇ……」
 威吹は目を細めた。
 しかし心から感心というよりは、むしろ半分呆れが入っているように見えた。
「ここから近いの?」
「車で5分だって。……ということは、歩いて15分くらいかな?」
「いや、もっと掛かると思うな」
 威吹は首を傾げながら言った。
「まあ、バスの時間まで相当あるし、そんなに急ぐことも無いからさ」
 そう言って、ユタは歩き出した。
 スマホのアプリで、駅から末寺までのルートはしっかり検索済みのようだ。
「ユタは眠くないの?」
「そりゃ、ああいう夜行列車じゃ、よくは眠れないさ。眠気覚ましの為にも歩くんだよ」
「確かに。勤行中に寝るわけにはいかないもんね」
「おっ!威吹もいいこと言うようになったね!」
 ユタは感心したが、
「いや、座禅中、後ろから坊主に警策で叩かれるユタを見るのはしのびない」
「座禅じゃないし。警策なんて無いし。威吹には今1度、最初から日蓮正宗の勤行について説明する必要がありそうだね?」

[07:30.JR大糸線某駅前 ユタ&威吹]

 駅前の飲食店にて朝食。
 その後で、
「マリアさん達に手土産を持って行こう」
 と、コンビニに寄った。
「やっぱりバスの本数は少ないんだな」
 買い物が終わって、ようやくバス停でバスを待った。

「まさかユタ、勤行の度にあの寺まで行くの?」
 バスに乗り込んでから、威吹が聞いた。
 ユタは笑いながら、
「いや、さすがにそれはキツいよ。屋敷にお邪魔している間は、遥拝になるな。まあ、顕正会時代はそれが当たり前だったしね」
 と、答えた。
「あ、そうそう。屋敷ではモメないでよ?もう1度念を押すけど」
「分かってるよ。ただ、言いたいことは言わせてもらうがね」
「は?」
「恐らく屋敷にはマリア以外に、イリーナもいることだろう。むしろ、そいつと話がしたい。その間、ユタがマリアの相手をしていれば問題無いだろう?」
「だから、モメないでよって」
「相手がちゃんと話を聞いてくれればな」

 駅前からバスに揺られる事、約1時間。
 ユタ達は、うら寂しい山道の途中にあるバス停でバスを降りた。
「何だ?この魍魎か狐狸しかいないような所は……」
 威吹は周りを見渡した。
「こういう所だからこそ、魔道師が住めるのかもね」
 ユタはバッグの中から、ゴルフボールくらいの水晶玉を出した。
 いつぞやの時、東京駅でマリア達からもらったものである。
「あとは、これがナビしてくれるんだって」
「ふーん……」
 獣道としか言いようの無い道に入った。
「何の案内も無いと、普通の人間なら遭難確実だね」
 しばらくして、威吹が振り向いて言った。
 既に、バスが走っている道路は見えなくなっている。
「また最初の時のように、問いに答えないと道標が出てこない立て札でもあるかな?」
「あー、あれね。さすがに質問の内容はコア過ぎるわ、文字化けしてるわで大変だったね」
 威吹の問い掛けに、ユタは笑みを浮かべた。
(文字化け……?)

[09:30.マリアの屋敷前 ユタ&威吹]

「何か随分薄暗いと思ったら、ヤケに厚い雲が掛かってる。雨か雪でも降るのかな……」
 ユタは空を見上げながら、そう呟いた。
「どうだろうねぇ……」
 威吹は曖昧に答えた。
(恣意性を感じる雲だ。誰か、意図的に太陽を覆ったか?)
 ついでに、そんなことを考えた。
(魔道師なら、天気を操ることもできると聞いたが……。まあ、雲で覆う理由が無いか)
 威吹が考えている間、ユタは屋敷の玄関に立ち寄った。
「見た目は飯田線沿線にあった頃と変わらないな」
「屋敷ごと引っ越したという言葉に、嘘偽りは無いということかな?」
「そうだろうね」
 ユタはインターホンを鳴らした。
「……ん?」
 だが、何度か鳴らしてみても、全く反応が無かった。
「あれ?どうしたんだろう?」
「おいおい、この期に及んで留守なんてことは無いだろうね?」
「まさか。今回はちゃんとアポ取って来てる」
 ユタはそう言いながら、玄関のドアノブに手を伸ばした。
「……空いてる」
「居留守か?」
「だから何で!」
 入ってみることにした。
「おはようございまーす!埼玉から来た稲生でーす!マリアさーん!」
 外よりももっと薄暗いエントランス・ホールには、人の気配は無かった。
 前回ならここで声を掛けると、吹き抜け階段からマリアが降りて来たのだが、今回は人形すら出迎える様子が無い。
「……誰もいないみたいだよ?」
「まだ寝てる?……まさかな」
 仮にそうだとしても、警備の人形がやってくるはずである。
「構造は変わって無いみたいだ。とにかく、行ってみることにしよう」
「本気で言ってるの?いきなり襲ってきたりしたら……」
「大丈夫だって」
 ユタは警戒する威吹に笑い掛けた。
「ああ、そうそう。人形は粗末に扱ってはダメだよ?」
「扱うも何も、人形自体いないじゃない」
 そうなのだ。
 『人形使い』たるマリアの趣味は人形作り。
 最近はフランス人形だけでなく、街で見かけた容姿の美しい女性をモチーフにしたぬいぐるみも制作しているもようである。
 それが1体も見当たらない。
 とにかく、ユタは普段マリアが昼間の大半を過ごしているリビングルームへ向かった。
 そこへ通じる廊下のドアを開ける。
「……ん?」
 その時、威吹が眉を潜め、鼻をヒクつかせた。
「どうしたの?」
「何か、血生臭い臭いがする」
「そう?」
 ユタも臭いを嗅いでみたが、感じるのは屋敷の建材(木材とか壁紙の塗料とか)の匂いくらいである。
「もしかして今、迷い込んで来た人間をとっ捕まえて、魔術の実験でもしてるのかもしれないな」
 威吹は眉を潜めたまま言った。
「僕達が来るってのに、そんなこと……」
 ユタは威吹の言葉に首を傾げた。
 マリア本人はともかく、師匠のイリーナはそういうことを気にするタイプだとユタは思っていたのだが……。
「……いや、間違いない。どんどん臭いが近くなってきた」
「ええっ!?で、でも、実験場は地下にあって、それは反対側だったような気がするけど……」
「それはどうだろうね。……実際、ここから臭いが漂ってくるよ?」
 威吹が立ち止まって指さしたドア。
 紛れも無く、それはリビングルームのドアに他ならなかった。
「血生臭いというか……まんま、血の臭い?」
 威吹はドア枠に鼻を近づけて、室内の臭いを探った。
 ユタはそう言われたからなのか、心なしか鉄の錆びた臭いがしたような気がした。
「どうする?開けてみるかい?」
「も、もちろん!」
「見てはいけないもの見たという廉で、襲ってきたとしてもかい?」
「ああ!」
 ユタは意を決したように頷くと、ドアノブに手を掛けた。
 鍵は掛かっていないようだった。
「し、失礼します!」
 ユタは覚悟を決めたように一言発すると、ドアを大きく開けた。
「!!!」
「!?」
 そこでユタ達が目にしたものとは!?……次回へ続く!
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