[3月12日08:00.天候:晴 長野県北部山中 マリアの屋敷]
稲生:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
朝の勤行を終える稲生。
起床時間によって、それが行われる時間はまちまちだ。
もちろん、現在の化儀においては認められている。
稲生:「勤行も終わったし、食堂に行くか」
稲生は数珠や御経本をしまうと、自分の部屋を出た。
稲生:「ダニさん、おはよう」
ダニエラ:「おはようございます」
愛称が『ダニさん』になっている。
エントランスホールの吹き抜け階段を下りて食堂へ入った。
その前に昨日、マリアやその同期達がスキニー・ディップ(全裸水泳)した地下プールの入口はどこにあるのかというと、この吹き抜け階段の後ろ。
回り込むと鉄製のドアがあって、そこを開けると地下に下りる階段が現れる。
そこを下りた所だ。
稲生:「おはようございます!」
イリーナ:「おはよう。食べてないの、勇太君だけよ。早いとこ食べなさい」
稲生:「遅くなりました。いただきます」
稲生は自分の席の上に並べられた朝食に手をつけた。
ベーコンエッグにトースト、サラダにスープというオーソドックスな洋食である。
イリーナ:「勇太君、バスの時間は何時?」
稲生:「えーと……10時40分です」
イリーナ:「それでは10時には車が出せるようにしましょう。私もそのつもりで準備するから」
稲生:「分かりました」
マリア:「…………」
イリーナ:「マリア。マリア!」
マリア:「……っ、はっ!?」
どうやらマリア、寝落ちしていたらしく、イリーナに強く呼ばれてパッと顔を上げた。
イリーナ:「随分、寝覚めが悪いようね。どうしたの?」
マリア:「な、何でもありません。ちょっと……寝ちゃってたみたいで……。猛吹雪の中、この屋敷の中で異変が……」
イリーナ:「……後で夢日記に残しておきなさい。取りあえず、次の冬まで猛吹雪は無いから」
稲生:「先生の予知ですか?」
イリーナ:「ええ」
グランドマスターの占いはよく当たると評判で、それが今のイリーナの稼ぎ方なのだが、稲生やマリアの予知夢は表現が曖昧過ぎて当たっているのか当たっていないのか分からない。
しかし一応、師匠として考察する為に、そういう類の夢を見た場合には夢日記として記録しておくようにと稲生達は言われていた。
イリーナ:「今度はコーヒーでも飲んで目を覚ましなさい。そして、寝るんだったらバスの中にするのね。勇太君は寂しいでしょうけど」
稲生:「あ、いや、無理に起きててもらう必要は……」
マリア:「いえ、大丈夫です。今ので目が覚めました」
稲生:「この辺は雪の多い地域ですが、それでも雪かきが行われているのはさすがですね」
イリーナ:「アタシの弟子になって良かったでしょう?表向きはマリアの人形使いとしての能力を高める為に、雪かきなどの重労働も人形達にさせていて、それで勇太君は何もしなくていいことになっているの。これが他の組なら、勇太君の分もしっかり残されているからね?」
稲生:「はい……」
マリア:「アナスタシア組の連中も雪の無い所にいるみたいですね」
稲生:「ロシアって雪国じゃないんですか?」
イリーナ:「日本と同じで、雪の多い地域とそうでない地域があるの。ナスっち達は雪の無い地域にいるのね。今のマリアの情報で、今どこにいるか大体分かったわ」
稲生:「でも日本に向かっているんですよね?」
イリーナ:「そのはずよ」
マリア:「あー、やっぱりです。雪が無く、しかも紛争やテロの発生率の低い町から飛行機に乗って来るらしいです」
イリーナ:「なるほどね」
稲生:「あの、先生」
イリーナ:「なぁに?」
稲生:「僕達はお供しなくて本当にいいんですか?羽田空港で大師匠様に御挨拶したら、それでもう僕達はしばらく自由行動で良いということですが……」
イリーナ:「もちろん。あくまでもダンテ先生と私達、グランドマスターだけの秘密のパーティーなんだから。うふふふふ……」
稲生:「えっ?」
マリア:「勇太、後で私から説明するから、今はそれ以上聞かないであげて」
稲生:「は、はあ……」
イリーナ:「うんうん。マリア、よろしくね。じゃ、先生は出発の準備をするから、皆も遅れないように」
稲生:「はい」
マリア:「Yes,sir.」
[同日10:00.天候:晴 マリアの屋敷・正面玄関外]
稲生:「今日はいい天気ですね。雪が眩しい」
積もった雪に日光が反射して眩しい為、稲生は目を細めた。
マリア:「まだ雪が残ってるんだな。毎年のことだけど」
稲生:「だから春休みに春スキーをしに来るんですね」
マリア:「もう時間なのに、まだ師匠が来ない」
稲生:「ですねぇ……」
車はイリーナが用意した為、黒塗りのベンツSクラスが止まっていた。
ロシア人でもロシア車ではなく、ドイツ車に乗りたがるか。
左ハンドルな辺り、いかにもである。
マリア:「車の中で待ってるか」
稲生:「マリアさん、先生達の秘密のパーティーって何ですか?」
マリア:「『若返りと長過ぎて退屈になった人生に楽しみを』がコンセプトだよ。師匠みたいに4桁以上生きていると、楽しみすら無くなってしまうんだ。だから師匠も、『生きるのに飽きた。もうこの体の耐用年数が来たら、更新せずに冥界に行きたい』なんて言ってるわけだよ」
稲生:「はあ……」
マリア:「ところが、あんなに長く生き過ぎた魔道師達でも楽しめる方法があるんだ。それをこれからやろうって話」
稲生:「物騒なものじゃないですよね?」
マリア:「違うよ。それは保証できる」
稲生:「マリアさんも参加したことがあるんですか?」
マリア:「いや、無い無い。てか、参加したいと思わない。今はね」
稲生:「今は?」
マリア:「私も1000歳とかになったら、参加したくなるんだろうなぁと思うことはある」
稲生:「それで、そのパーティーの内容ってのは……?」
マリア:「それは……」
と、そこへ……。
イリーナ:「やあやあ、お待たせー!」
マリア:「師匠、遅いですよ」
イリーナ:「ゴメンゴメン。さ、早いとこ乗ってー」
イリーナとマリアはリアシートに、稲生は助手席に座った。
稲生:「白馬八方バスターミナルまでお願いします」
運転手:「かしこまりました」
こうして稲生達の旅行は始まった。
稲生:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
朝の勤行を終える稲生。
起床時間によって、それが行われる時間はまちまちだ。
もちろん、現在の化儀においては認められている。
稲生:「勤行も終わったし、食堂に行くか」
稲生は数珠や御経本をしまうと、自分の部屋を出た。
稲生:「ダニさん、おはよう」
ダニエラ:「おはようございます」
愛称が『ダニさん』になっている。
エントランスホールの吹き抜け階段を下りて食堂へ入った。
その前に昨日、マリアやその同期達がスキニー・ディップ(全裸水泳)した地下プールの入口はどこにあるのかというと、この吹き抜け階段の後ろ。
回り込むと鉄製のドアがあって、そこを開けると地下に下りる階段が現れる。
そこを下りた所だ。
稲生:「おはようございます!」
イリーナ:「おはよう。食べてないの、勇太君だけよ。早いとこ食べなさい」
稲生:「遅くなりました。いただきます」
稲生は自分の席の上に並べられた朝食に手をつけた。
ベーコンエッグにトースト、サラダにスープというオーソドックスな洋食である。
イリーナ:「勇太君、バスの時間は何時?」
稲生:「えーと……10時40分です」
イリーナ:「それでは10時には車が出せるようにしましょう。私もそのつもりで準備するから」
稲生:「分かりました」
マリア:「…………」
イリーナ:「マリア。マリア!」
マリア:「……っ、はっ!?」
どうやらマリア、寝落ちしていたらしく、イリーナに強く呼ばれてパッと顔を上げた。
イリーナ:「随分、寝覚めが悪いようね。どうしたの?」
マリア:「な、何でもありません。ちょっと……寝ちゃってたみたいで……。猛吹雪の中、この屋敷の中で異変が……」
イリーナ:「……後で夢日記に残しておきなさい。取りあえず、次の冬まで猛吹雪は無いから」
稲生:「先生の予知ですか?」
イリーナ:「ええ」
グランドマスターの占いはよく当たると評判で、それが今のイリーナの稼ぎ方なのだが、稲生やマリアの予知夢は表現が曖昧過ぎて当たっているのか当たっていないのか分からない。
しかし一応、師匠として考察する為に、そういう類の夢を見た場合には夢日記として記録しておくようにと稲生達は言われていた。
イリーナ:「今度はコーヒーでも飲んで目を覚ましなさい。そして、寝るんだったらバスの中にするのね。勇太君は寂しいでしょうけど」
稲生:「あ、いや、無理に起きててもらう必要は……」
マリア:「いえ、大丈夫です。今ので目が覚めました」
稲生:「この辺は雪の多い地域ですが、それでも雪かきが行われているのはさすがですね」
イリーナ:「アタシの弟子になって良かったでしょう?表向きはマリアの人形使いとしての能力を高める為に、雪かきなどの重労働も人形達にさせていて、それで勇太君は何もしなくていいことになっているの。これが他の組なら、勇太君の分もしっかり残されているからね?」
稲生:「はい……」
マリア:「アナスタシア組の連中も雪の無い所にいるみたいですね」
稲生:「ロシアって雪国じゃないんですか?」
イリーナ:「日本と同じで、雪の多い地域とそうでない地域があるの。ナスっち達は雪の無い地域にいるのね。今のマリアの情報で、今どこにいるか大体分かったわ」
稲生:「でも日本に向かっているんですよね?」
イリーナ:「そのはずよ」
マリア:「あー、やっぱりです。雪が無く、しかも紛争やテロの発生率の低い町から飛行機に乗って来るらしいです」
イリーナ:「なるほどね」
稲生:「あの、先生」
イリーナ:「なぁに?」
稲生:「僕達はお供しなくて本当にいいんですか?羽田空港で大師匠様に御挨拶したら、それでもう僕達はしばらく自由行動で良いということですが……」
イリーナ:「もちろん。あくまでもダンテ先生と私達、グランドマスターだけの秘密のパーティーなんだから。うふふふふ……」
稲生:「えっ?」
マリア:「勇太、後で私から説明するから、今はそれ以上聞かないであげて」
稲生:「は、はあ……」
イリーナ:「うんうん。マリア、よろしくね。じゃ、先生は出発の準備をするから、皆も遅れないように」
稲生:「はい」
マリア:「Yes,sir.」
[同日10:00.天候:晴 マリアの屋敷・正面玄関外]
稲生:「今日はいい天気ですね。雪が眩しい」
積もった雪に日光が反射して眩しい為、稲生は目を細めた。
マリア:「まだ雪が残ってるんだな。毎年のことだけど」
稲生:「だから春休みに春スキーをしに来るんですね」
マリア:「もう時間なのに、まだ師匠が来ない」
稲生:「ですねぇ……」
車はイリーナが用意した為、黒塗りのベンツSクラスが止まっていた。
ロシア人でもロシア車ではなく、ドイツ車に乗りたがるか。
左ハンドルな辺り、いかにもである。
マリア:「車の中で待ってるか」
稲生:「マリアさん、先生達の秘密のパーティーって何ですか?」
マリア:「『若返りと長過ぎて退屈になった人生に楽しみを』がコンセプトだよ。師匠みたいに4桁以上生きていると、楽しみすら無くなってしまうんだ。だから師匠も、『生きるのに飽きた。もうこの体の耐用年数が来たら、更新せずに冥界に行きたい』なんて言ってるわけだよ」
稲生:「はあ……」
マリア:「ところが、あんなに長く生き過ぎた魔道師達でも楽しめる方法があるんだ。それをこれからやろうって話」
稲生:「物騒なものじゃないですよね?」
マリア:「違うよ。それは保証できる」
稲生:「マリアさんも参加したことがあるんですか?」
マリア:「いや、無い無い。てか、参加したいと思わない。今はね」
稲生:「今は?」
マリア:「私も1000歳とかになったら、参加したくなるんだろうなぁと思うことはある」
稲生:「それで、そのパーティーの内容ってのは……?」
マリア:「それは……」
と、そこへ……。
イリーナ:「やあやあ、お待たせー!」
マリア:「師匠、遅いですよ」
イリーナ:「ゴメンゴメン。さ、早いとこ乗ってー」
イリーナとマリアはリアシートに、稲生は助手席に座った。
稲生:「白馬八方バスターミナルまでお願いします」
運転手:「かしこまりました」
こうして稲生達の旅行は始まった。