報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「羽田空港へ向かう」

2019-03-14 19:16:08 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月12日08:00.天候:晴 長野県北部山中 マリアの屋敷]

 稲生:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」

 朝の勤行を終える稲生。
 起床時間によって、それが行われる時間はまちまちだ。
 もちろん、現在の化儀においては認められている。

 稲生:「勤行も終わったし、食堂に行くか」

 稲生は数珠や御経本をしまうと、自分の部屋を出た。

 稲生:「ダニさん、おはよう」
 ダニエラ:「おはようございます」

 愛称が『ダニさん』になっている。
 エントランスホールの吹き抜け階段を下りて食堂へ入った。
 その前に昨日、マリアやその同期達がスキニー・ディップ(全裸水泳)した地下プールの入口はどこにあるのかというと、この吹き抜け階段の後ろ。
 回り込むと鉄製のドアがあって、そこを開けると地下に下りる階段が現れる。
 そこを下りた所だ。

 稲生:「おはようございます!」
 イリーナ:「おはよう。食べてないの、勇太君だけよ。早いとこ食べなさい」
 稲生:「遅くなりました。いただきます」

 稲生は自分の席の上に並べられた朝食に手をつけた。
 ベーコンエッグにトースト、サラダにスープというオーソドックスな洋食である。

 イリーナ:「勇太君、バスの時間は何時?」
 稲生:「えーと……10時40分です」
 イリーナ:「それでは10時には車が出せるようにしましょう。私もそのつもりで準備するから」
 稲生:「分かりました」
 マリア:「…………」
 イリーナ:「マリア。マリア!」
 マリア:「……っ、はっ!?」

 どうやらマリア、寝落ちしていたらしく、イリーナに強く呼ばれてパッと顔を上げた。

 イリーナ:「随分、寝覚めが悪いようね。どうしたの?」
 マリア:「な、何でもありません。ちょっと……寝ちゃってたみたいで……。猛吹雪の中、この屋敷の中で異変が……」
 イリーナ:「……後で夢日記に残しておきなさい。取りあえず、次の冬まで猛吹雪は無いから」
 稲生:「先生の予知ですか?」
 イリーナ:「ええ」

 グランドマスターの占いはよく当たると評判で、それが今のイリーナの稼ぎ方なのだが、稲生やマリアの予知夢は表現が曖昧過ぎて当たっているのか当たっていないのか分からない。
 しかし一応、師匠として考察する為に、そういう類の夢を見た場合には夢日記として記録しておくようにと稲生達は言われていた。

 イリーナ:「今度はコーヒーでも飲んで目を覚ましなさい。そして、寝るんだったらバスの中にするのね。勇太君は寂しいでしょうけど」
 稲生:「あ、いや、無理に起きててもらう必要は……」
 マリア:「いえ、大丈夫です。今ので目が覚めました」
 稲生:「この辺は雪の多い地域ですが、それでも雪かきが行われているのはさすがですね」
 イリーナ:「アタシの弟子になって良かったでしょう?表向きはマリアの人形使いとしての能力を高める為に、雪かきなどの重労働も人形達にさせていて、それで勇太君は何もしなくていいことになっているの。これが他の組なら、勇太君の分もしっかり残されているからね?」
 稲生:「はい……」
 マリア:「アナスタシア組の連中も雪の無い所にいるみたいですね」
 稲生:「ロシアって雪国じゃないんですか?」
 イリーナ:「日本と同じで、雪の多い地域とそうでない地域があるの。ナスっち達は雪の無い地域にいるのね。今のマリアの情報で、今どこにいるか大体分かったわ」
 稲生:「でも日本に向かっているんですよね?」
 イリーナ:「そのはずよ」
 マリア:「あー、やっぱりです。雪が無く、しかも紛争やテロの発生率の低い町から飛行機に乗って来るらしいです」
 イリーナ:「なるほどね」
 稲生:「あの、先生」
 イリーナ:「なぁに?」
 稲生:「僕達はお供しなくて本当にいいんですか?羽田空港で大師匠様に御挨拶したら、それでもう僕達はしばらく自由行動で良いということですが……」
 イリーナ:「もちろん。あくまでもダンテ先生と私達、グランドマスターだけの秘密のパーティーなんだから。うふふふふ……」
 稲生:「えっ?」
 マリア:「勇太、後で私から説明するから、今はそれ以上聞かないであげて」
 稲生:「は、はあ……」
 イリーナ:「うんうん。マリア、よろしくね。じゃ、先生は出発の準備をするから、皆も遅れないように」
 稲生:「はい」
 マリア:「Yes,sir.」

[同日10:00.天候:晴 マリアの屋敷・正面玄関外]

 稲生:「今日はいい天気ですね。雪が眩しい」

 積もった雪に日光が反射して眩しい為、稲生は目を細めた。

 マリア:「まだ雪が残ってるんだな。毎年のことだけど」
 稲生:「だから春休みに春スキーをしに来るんですね」
 マリア:「もう時間なのに、まだ師匠が来ない」
 稲生:「ですねぇ……」

 車はイリーナが用意した為、黒塗りのベンツSクラスが止まっていた。
 ロシア人でもロシア車ではなく、ドイツ車に乗りたがるか。
 左ハンドルな辺り、いかにもである。

 マリア:「車の中で待ってるか」
 稲生:「マリアさん、先生達の秘密のパーティーって何ですか?」
 マリア:「『若返りと長過ぎて退屈になった人生に楽しみを』がコンセプトだよ。師匠みたいに4桁以上生きていると、楽しみすら無くなってしまうんだ。だから師匠も、『生きるのに飽きた。もうこの体の耐用年数が来たら、更新せずに冥界に行きたい』なんて言ってるわけだよ」
 稲生:「はあ……」
 マリア:「ところが、あんなに長く生き過ぎた魔道師達でも楽しめる方法があるんだ。それをこれからやろうって話」
 稲生:「物騒なものじゃないですよね?」
 マリア:「違うよ。それは保証できる」
 稲生:「マリアさんも参加したことがあるんですか?」
 マリア:「いや、無い無い。てか、参加したいと思わない。今はね」
 稲生:「今は?」
 マリア:「私も1000歳とかになったら、参加したくなるんだろうなぁと思うことはある」
 稲生:「それで、そのパーティーの内容ってのは……?」
 マリア:「それは……」

 と、そこへ……。

 イリーナ:「やあやあ、お待たせー!」
 マリア:「師匠、遅いですよ」
 イリーナ:「ゴメンゴメン。さ、早いとこ乗ってー」

 イリーナとマリアはリアシートに、稲生は助手席に座った。

 稲生:「白馬八方バスターミナルまでお願いします」
 運転手:「かしこまりました」

 こうして稲生達の旅行は始まった。
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“大魔道師の弟子” 「東日本大震災8年目」

2019-03-14 12:23:11 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[2019年3月11日14:46.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷2F東側・稲生の部屋]

〔「黙祷!」〕

 稲生:(南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……)

 稲生はPCでワンセグを観ている。
 そこで追悼式の中継をやっており、稲生もそれに合わせて追悼した。
 合掌して御題目を唱えれば、あの時のことを思い出す。

[2011年3月11日15:15.天候:晴 東京都千代田区大手町 とある高層ビル地下2階]

 威吹:「ユタ、大丈夫か!?」

 威吹が妖怪ならではの怪力で、崩れた壁と天井を退かした。
 このビルは老朽化が進み、数年後には取り壊しが予定されていた。

 稲生:「威吹……」
 威吹:「ケガは無いか!?」
 稲生:「う、うん……大丈夫……」

〔ヒュン♪ヒュン♪ 地震が来ます!地震が来ます! ヒュン♪ヒュン♪ 地震が来ます!地震が来ま 10秒前! ヒュンヒュン♪……〕

 館内ではけたたましい地震速報が不気味なサイレンと共に鳴り響いている。

 威吹:「『えれべーた』は全部止まった!ボクが担いで行くから、早く御父上の部屋に!」
 稲生:「ええっ!?車は用意されてるから、早く逃げようよ!」

 ドーン!(次の揺れが来た)

〔「こちらは防災センターです。現在、大きな揺れが断続的に続いております。館内の皆様は、身の安全を図ってください。エレベーターは全て停止しております。また、落下物・飛来物に当たる恐れがあり、危険ですので、屋外には出ないでください。繰り返します。……」〕

 稲生:「車は出ますか!?」
 運転手:「無理です!揺れのせいで出入口のシャッターが勝手に閉まって開かなくなりました!こじ開けるしか無いんですが、この揺れではまだ危ないので……!」
 稲生:「ええっ!?」
 威吹:「そういうことだ!取りあえず、上に避難しよう!」
 稲生:「地下2階から20階まで!?」
 威吹:「だからボクが担ぐって!」

〔ヒュン♪ヒュン♪ 地震が来ます!地震が来ます! 20秒前! ヒュン♪ヒュン♪〕

[2019年3月11日14:47.天候:雪 マリアの屋敷・稲生の部屋→屋敷1F西側・大食堂]

〔「黙祷、終わります」〕

 稲生:「……よし」

 稲生は数珠をしまった。
 一応、大石寺の方向に向かって御題目を唱えたのだが、それで良かったのだろうか(と、作者も思う)。
 その後で部屋の内線電話が鳴った。

 稲生:「はい、もしもし?」
 マリア:「ああ、私だ。あのコ達、もう帰ったよ」
 稲生:「ありがとうございます」

 稲生は電話を切り、PCの電源も切ると部屋を出た。
 それから大食堂に向かった。

 マリア:「ああ、御協力ありがとう」
 稲生:「いえいえ。今度は僕、覗きませんでしたよ?」
 マリア:「ああ、分かってる」

 マリアのメイド人形達が、マリアの同期達がやっつけたお茶をお菓子を片付けている。

 マリア:「あなたもお茶にしたら?」
 稲生:「はい、そうさせてください」

 稲生が大きく頷くと、寡黙なダニエラがコーヒーとバームクーヘンを運んで来た。

 稲生:「それで、プールには入ったんですか?」
 マリア:「一応ね」
 稲生:「そうですか。変な下心じゃないけど、見たかったなぁ……」

 いやいや、その時点で変な下心は疑われる。
 が、男なら当然の発言か。

 マリア:「私は水着を着てたよ」
 稲生:「そりゃそうでしょ?……スク水ですか?」
 マリア:「バカ。あれはもう着ない。去年買ったヤツだよ」
 稲生:「あの緑のビキニですか。いいなぁ、見たかったなぁ……」
 マリア:「いずれ一緒に泳ぐ機会があったら、見せてあげるよ」
 稲生:「おおっ!……『私は水着』って言ってましたが、他の先輩達は……?」
 マリア:「そう、ただの水着じゃなかった」
 稲生:「何ですか?」
 マリア:「ウェットスーツだよ」
 稲生:「ええっ!?それはまたどうして!?」
 マリア:「師匠みたいなグランドマスターが水の上を歩く魔法を使ったり、逆に水を左右にどかして底を歩くという所は見たことある?」
 稲生:「後者はまるで『モーセの十戒』みたいですね」
 マリア:「あれも魔法だから」
 稲生:「魔法ですか」
 マリア:「あれはさすがにグランドマスターくらいにならないと使えない。そこで私達……といってもミドルマスターくらいかなぁ……は、水の中を泳ぐ魔法をマスターするんだ」
 稲生:「水の中を泳ぐ?……別に当たり前だと思いますが?」
 マリア:「息継ぎをしなくてもいい。つまり、水の中で呼吸ができる魔法かな。それを覚える為の勉強会でもあるんだ、今日は」
 稲生:「へえ……。難しいですか?」
 マリア:「難しいね。私はまだローマスター(Low Master)だから尚更そうだし、あのコ達の中のクリスだけがミドルマスター(Middle Master)に来月からなるから、その為の予習といってもいいかな。何とかコツだけは覚えたとか言ってたけど、どうなんだか……」
 稲生:「あ、それでマリアさん、僕に泳ぎを習ったんですね。そもそもその魔法、泳げないと無理だから」
 マリア:「そういうこと。だからムリして我慢して、あんたの趣味(スク水)に付き合ってやったの!」
 稲生:「す、すいませんでした……」
 マリア:「もう着ないからね!」
 稲生:「はい……。でもよくお似合いでした」
 マリア:「まだ10代の体型で悪かったな!」
 稲生:「それを羨むのが日本人女性のようで……」
 マリア:「Huh?」

 マリアは18歳の時に魔道師になった為、そこで年齢が停止したことになっている。
 が、それと比べれば明らかに体型は今の方が大人びている。
 欧米人の18歳の体型になりつつあるということか。
 実年齢は稲生よりも年上なので、実年齢は【お察しください】。

 稲生:「それにしたって、ウェットスーツでなくてもいいような気がしますが……」
 マリア:「私もそうだったけど、あいつらレイプの被害者だから。……トラウマで、あまり肌を露出させたくないんだよ。例え水の中に入るにしても……」
 稲生:「えっ!?」
 マリア:「私も受けた迫害の傷痕が体中に残っていただろう?今は勇太のおかげで、だいぶ消えたけど……」
 稲生:「マリアさんは水着を着ても大丈夫なようになったんですね」
 マリア:「シンシアはその辺に興味を持っていたみたいだけど……」

 マリアもまたガチガチの魔女だった。
 それが普通の女性に戻りつつあることは、1つのモデルケースとして注目される理由になっている。

 マリア:「とにかく、これからもお願い。勇太はここにいて。私から離れないで」
 稲生:「はい」
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