[3月12日16:20.天候:晴 東京都大田区羽田空港 東京国際空港・国際線ターミナル]
稲生達が乗った高速バスは昼行便ながら独立3列シートであり、シートピッチもそれなりに広いものであった。
小柄な体の稲生やマリアには十分な広さのシートでも、長身のイリーナにはそれでも足が引っ掛かってはいたが、夜行バスよろしく、車中では殆ど寝ていた。
そんなバスが今、羽田空港の国内線ターミナルを回っている。
そして次は国際線ターミナルへと進路を向けた。
稲生:「長旅でしたねぇ……」
マリア:「そろそろ師匠を起こした方がいいぞ」
稲生:「そうですね」
稲生は中央席に座っている。
進行方向右側に座ってフードを被って寝ているイリーナに声を掛けた。
稲生:「先生、そろそろ到着しますよ?」
イリーナ:「ん……そうかね?」
稲生:「ええ」
イリーナ:「それじゃ、起きようかね」
稲生:「夜、寝れますか?そんなに寝て……」
イリーナ:「『春眠暁を覚えず』っていうからね」
マリア:(『年眠暁を覚えず』……だな。師匠の場合)
バスは国際線ターミナルのバス降車場に到着した。
稲生:「着きましたね」
イリーナ:「それじゃ、降りようかね」
稲生:「僕達、荷物の引き取りがありますから」
イリーナ:「うん」
バスの外では係員が荷物室に預けられた荷物を降ろし、それを乗客に渡している。
別に稲生達が持っているものは海外旅行に行くわけではないので、そんなに大きなものではない。
電車なら網棚の上に乗っかるほどの大きさだ。
稲生:「それでは今日は、ここのホテルに一泊ということで……」
イリーナ:「予約取ってくれた?」
稲生:「はい。シングル1つとツイン2つで」
イリーナ:「私がシングルでマリアと勇太君がツインでもいいお
」
稲生:「えっ!?」
マリア:「なに弟子を不祥事トラップに掛けようとしてるんですか。他の組にバレたら大変なことになりますよ」
イリーナ:「別にいいのに……。屋敷の中だと逆に色々大変だけどね」
マリア:「勇太が困ってるじゃないですか。勇太、早くホテルに行こう」
稲生:「あ、はい。(本当にこの組はユルいなぁ……)」
[同日16:30.天候:晴 同地区 ザ・ロイヤルパークホテル東京羽田]
フロント係:「それでは稲生様、本日より一泊の御宿泊でございますね?」
稲生:「はい」
稲生が代表してチェックインの手続きをするのだが……。
フロント係:「それではお支払いの方が……」
宿泊料金は前払いが基本。
稲生:「先生」
イリーナ:「あいよ。アメリカンエキスプレスでいい?」
とはいえ、支払いはイリーナが行う。
イリーナはローブの中からプラチナカードを出した。
フロント係:「ありがとうございます。それではこちらにサインを……」
恐らくエレーナと同様、語学が堪能と思われる高級ホテルのフロントマンであるが、イリーナが流暢な日本語(に日本人は聞こえる、ロシア語を自動翻訳した魔法)を話した為にフロントマンは日本語で対応した。
稲生:(でもさすがに文字はキリル文字か)
ロシア語である。
さすがの稲生も何度も見ていることもあってか、イリーナの名前をロシア語でどう書くかまでは覚えた。
それでもダンテ門内における公用語は英語であり、魔道書の中にはラテン語で書かれてるものも多い為、稲生はロシア語を学ぶ必要は無い。
フロント係:「それではこちらがカードキーでございます。お部屋の方は、あちらのエレベーターをご利用頂きまして……」
一通り館内の説明を受けた後……。
イリーナ:「マリア、行くよー」
マリア:「Yes,sir.」
長旅で少々お疲れのマリア、自動通訳魔法が切れた。
それでも英語が堪能なイリーナと稲生は困らない。
但し、稲生の話すアメリカ英語が分かりにくいらしい(日本人はイギリス英語ではなく、アメリカ英語を学ぶため。公共交通機関で流れている英語もアメリカ人が話すもの)。
その為、今でも自動通訳魔法はONにしている。
で、最近はアメリカ人の同期や後輩を捕まえてはアメリカ英語に慣れる訓練をしている。
稲生:「大師匠様は明日の7時10分に到着予定だそうです」
イリーナ:「そんな朝早くに行けないでしょう?だから前泊するのよ」
稲生:「ですよねぇ。それにしてもロンドンからの便で、こんなに早く着くのがあるとは……」
エレベーターに乗り、宿泊先の部屋に向かう稲生達はそんな会話をしていた。
尚、傍から見たら違和感がある。
何故ならイリーナはロシア語を喋り、稲生は日本語を喋り、マリアは英語を喋っていて、それで普通に会話が成立しているのだから。
公共の場所では公用語(英語)に統一している。
今は他に誰もいないからだ。
マリア:「“魔の者”絡みですか?」
イリーナ:「別の門流の者で、そういうのに詳しい魔道師がいるらしいわ。もしかしたら、そこから情報が得られるとダンテ先生はお考えのようね」
稲生:「失礼ですが、上手く行きそうなんですかね?」
イリーナ:「どうもね、ビンゴというわけにはいかないみたいよ」
稲生:「やはり、世の中そう甘くは……」
イリーナ:「別の門流は別の門流で、別の問題を抱えているみたいだけど、どうも突き詰めてみると“魔の者”に行き付きそうな感じはするんだって」
稲生:「おおっ!ということは!?」
イリーナ:「ただ、向こうさんがそこまで情報を掴んでないというのが問題だねぇ……」
マリア:「意味が分かりませんね」
イリーナ:「もしかしたら、別の門流とタッグを組む日が近いかもね」
稲生:「東アジア魔道団は勘弁ですよ」
イリーナ:「ああ、大丈夫。そこじゃないから。あいつら今、コリアの方で忙しいから、しばらく日本の方には目を向けないみたいだわ」
稲生:「日本海の向こう側……」
雲羽:「東海(トンヘ)じゃないからな!?日本海だからな!?そこんとこ間違えるなよ!?」
多摩:「……と、日本第一党支持者が叫んでおります」
稲生:「えーと、この部屋ですね。じゃ、僕はシングルで」
イリーナ:「はいよ。今夜の夕食と明日の朝食まで面倒を見るから、遅れないようにね」
稲生:「分かりました。夕食はここのレストランですか?」
イリーナ:「その方が楽だね。まだ少し時間があるから、部屋の中で休んでいてもよし。ターミナルで遊んで来てもよし。マリアを連れ込んで【あれや】【これ】してもよし」
マリア:「何でですか!?大師匠御来日前日ですよ!?」
稲生:「え、えっと……。取りあえずマリアさんはお疲れみたいですし、夕食まで休んでおくということにしておきましょう。今からレストランの予約取れないか、連絡してみます」
イリーナ:「勇太君は頼りになるね。よろしく頼むわ」
稲生:「は、はい。それでは……」
稲生は指定されたシングルルームに入った。
空港内のホテルということもあってか、シングルルームはそんなに広くない。
そもそもグレード自体が、このホテルの中では一番低いものだ。
それでもそこは高級ホテル。
ベッドはダブルサイズであり、テレビもワイドでライティングデスクもある。
トイレはウォッシュレットで、その先にあるのはシャワールーム。
バスタブは無く、シャワーのみである。
一泊だけだからいいのだが、それにしても……。
稲生:「シングルルームなのにベッドはダブル……」
ビジネスホテルでも、そういう所は多々ある。
エレーナのワンスターホテルでさえも、グレードの高いシングルルームはセミダブルベッドを使用しているくらいだ。
ましてや、こういうシティホテルでは極々当たり前のことなのだろう。
稲生:「2人で寝れる……いやいやいや」
因みに屋敷や実家では、シングルサイズのベッドである。
稲生:「レストランに予約入れておこう」
部屋の中にレストランの案内があり、そこに連絡先があった。
稲生:「あ、もしもし。宿泊している稲生と言いますが、今日これから席の予約の方できますでしょうか?……はい。……そうです。……はい」
余計な煩悩を打ち消すように、稲生は電話連絡に集中することにした。
稲生達が乗った高速バスは昼行便ながら独立3列シートであり、シートピッチもそれなりに広いものであった。
小柄な体の稲生やマリアには十分な広さのシートでも、長身のイリーナにはそれでも足が引っ掛かってはいたが、夜行バスよろしく、車中では殆ど寝ていた。
そんなバスが今、羽田空港の国内線ターミナルを回っている。
そして次は国際線ターミナルへと進路を向けた。
稲生:「長旅でしたねぇ……」
マリア:「そろそろ師匠を起こした方がいいぞ」
稲生:「そうですね」
稲生は中央席に座っている。
進行方向右側に座ってフードを被って寝ているイリーナに声を掛けた。
稲生:「先生、そろそろ到着しますよ?」
イリーナ:「ん……そうかね?」
稲生:「ええ」
イリーナ:「それじゃ、起きようかね」
稲生:「夜、寝れますか?そんなに寝て……」
イリーナ:「『春眠暁を覚えず』っていうからね」
マリア:(『年眠暁を覚えず』……だな。師匠の場合)
バスは国際線ターミナルのバス降車場に到着した。
稲生:「着きましたね」
イリーナ:「それじゃ、降りようかね」
稲生:「僕達、荷物の引き取りがありますから」
イリーナ:「うん」
バスの外では係員が荷物室に預けられた荷物を降ろし、それを乗客に渡している。
別に稲生達が持っているものは海外旅行に行くわけではないので、そんなに大きなものではない。
電車なら網棚の上に乗っかるほどの大きさだ。
稲生:「それでは今日は、ここのホテルに一泊ということで……」
イリーナ:「予約取ってくれた?」
稲生:「はい。シングル1つとツイン2つで」
イリーナ:「私がシングルでマリアと勇太君がツインでもいいお

稲生:「えっ!?」
マリア:「なに弟子を不祥事トラップに掛けようとしてるんですか。他の組にバレたら大変なことになりますよ」
イリーナ:「別にいいのに……。屋敷の中だと逆に色々大変だけどね」
マリア:「勇太が困ってるじゃないですか。勇太、早くホテルに行こう」
稲生:「あ、はい。(本当にこの組はユルいなぁ……)」
[同日16:30.天候:晴 同地区 ザ・ロイヤルパークホテル東京羽田]
フロント係:「それでは稲生様、本日より一泊の御宿泊でございますね?」
稲生:「はい」
稲生が代表してチェックインの手続きをするのだが……。
フロント係:「それではお支払いの方が……」
宿泊料金は前払いが基本。
稲生:「先生」
イリーナ:「あいよ。アメリカンエキスプレスでいい?」
とはいえ、支払いはイリーナが行う。
イリーナはローブの中からプラチナカードを出した。
フロント係:「ありがとうございます。それではこちらにサインを……」
恐らくエレーナと同様、語学が堪能と思われる高級ホテルのフロントマンであるが、イリーナが流暢な日本語(に日本人は聞こえる、ロシア語を自動翻訳した魔法)を話した為にフロントマンは日本語で対応した。
稲生:(でもさすがに文字はキリル文字か)
ロシア語である。
さすがの稲生も何度も見ていることもあってか、イリーナの名前をロシア語でどう書くかまでは覚えた。
それでもダンテ門内における公用語は英語であり、魔道書の中にはラテン語で書かれてるものも多い為、稲生はロシア語を学ぶ必要は無い。
フロント係:「それではこちらがカードキーでございます。お部屋の方は、あちらのエレベーターをご利用頂きまして……」
一通り館内の説明を受けた後……。
イリーナ:「マリア、行くよー」
マリア:「Yes,sir.」
長旅で少々お疲れのマリア、自動通訳魔法が切れた。
それでも英語が堪能なイリーナと稲生は困らない。
但し、稲生の話すアメリカ英語が分かりにくいらしい(日本人はイギリス英語ではなく、アメリカ英語を学ぶため。公共交通機関で流れている英語もアメリカ人が話すもの)。
その為、今でも自動通訳魔法はONにしている。
で、最近はアメリカ人の同期や後輩を捕まえてはアメリカ英語に慣れる訓練をしている。
稲生:「大師匠様は明日の7時10分に到着予定だそうです」
イリーナ:「そんな朝早くに行けないでしょう?だから前泊するのよ」
稲生:「ですよねぇ。それにしてもロンドンからの便で、こんなに早く着くのがあるとは……」
エレベーターに乗り、宿泊先の部屋に向かう稲生達はそんな会話をしていた。
尚、傍から見たら違和感がある。
何故ならイリーナはロシア語を喋り、稲生は日本語を喋り、マリアは英語を喋っていて、それで普通に会話が成立しているのだから。
公共の場所では公用語(英語)に統一している。
今は他に誰もいないからだ。
マリア:「“魔の者”絡みですか?」
イリーナ:「別の門流の者で、そういうのに詳しい魔道師がいるらしいわ。もしかしたら、そこから情報が得られるとダンテ先生はお考えのようね」
稲生:「失礼ですが、上手く行きそうなんですかね?」
イリーナ:「どうもね、ビンゴというわけにはいかないみたいよ」
稲生:「やはり、世の中そう甘くは……」
イリーナ:「別の門流は別の門流で、別の問題を抱えているみたいだけど、どうも突き詰めてみると“魔の者”に行き付きそうな感じはするんだって」
稲生:「おおっ!ということは!?」
イリーナ:「ただ、向こうさんがそこまで情報を掴んでないというのが問題だねぇ……」
マリア:「意味が分かりませんね」
イリーナ:「もしかしたら、別の門流とタッグを組む日が近いかもね」
稲生:「東アジア魔道団は勘弁ですよ」
イリーナ:「ああ、大丈夫。そこじゃないから。あいつら今、コリアの方で忙しいから、しばらく日本の方には目を向けないみたいだわ」
稲生:「日本海の向こう側……」
雲羽:「東海(トンヘ)じゃないからな!?日本海だからな!?そこんとこ間違えるなよ!?」
多摩:「……と、日本第一党支持者が叫んでおります」
稲生:「えーと、この部屋ですね。じゃ、僕はシングルで」
イリーナ:「はいよ。今夜の夕食と明日の朝食まで面倒を見るから、遅れないようにね」
稲生:「分かりました。夕食はここのレストランですか?」
イリーナ:「その方が楽だね。まだ少し時間があるから、部屋の中で休んでいてもよし。ターミナルで遊んで来てもよし。マリアを連れ込んで【あれや】【これ】してもよし」
マリア:「何でですか!?大師匠御来日前日ですよ!?」
稲生:「え、えっと……。取りあえずマリアさんはお疲れみたいですし、夕食まで休んでおくということにしておきましょう。今からレストランの予約取れないか、連絡してみます」
イリーナ:「勇太君は頼りになるね。よろしく頼むわ」
稲生:「は、はい。それでは……」
稲生は指定されたシングルルームに入った。
空港内のホテルということもあってか、シングルルームはそんなに広くない。
そもそもグレード自体が、このホテルの中では一番低いものだ。
それでもそこは高級ホテル。
ベッドはダブルサイズであり、テレビもワイドでライティングデスクもある。
トイレはウォッシュレットで、その先にあるのはシャワールーム。
バスタブは無く、シャワーのみである。
一泊だけだからいいのだが、それにしても……。
稲生:「シングルルームなのにベッドはダブル……」
ビジネスホテルでも、そういう所は多々ある。
エレーナのワンスターホテルでさえも、グレードの高いシングルルームはセミダブルベッドを使用しているくらいだ。
ましてや、こういうシティホテルでは極々当たり前のことなのだろう。
稲生:「2人で寝れる……いやいやいや」
因みに屋敷や実家では、シングルサイズのベッドである。
稲生:「レストランに予約入れておこう」
部屋の中にレストランの案内があり、そこに連絡先があった。
稲生:「あ、もしもし。宿泊している稲生と言いますが、今日これから席の予約の方できますでしょうか?……はい。……そうです。……はい」
余計な煩悩を打ち消すように、稲生は電話連絡に集中することにした。