[2月23日12:35.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅・新幹線ホーム→上越新幹線1321C列車14号車]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日はこれから越後湯沢まで行くところだ。
何でもクライアントの会社で行われる慰安旅行において、社長の命を狙う者がいるらしい。
既に警察には届けているそうだが、脅迫状だけでは警察もあまり動いてくれない。
また、警備会社では護衛はしてくれても(身辺警備)、犯人を捕まえてくれるようなことはしてくれない。
そこで私達、探偵社の出番というわけだ。
〔21番線に停車中の列車は、12時40分発、“Maxとき”321号、新潟行きです。グリーン車は7号車、8号車、15号車と16号車の2階です。自由席は……〕
高橋:「先生!駅弁買って来ました!」
愛原:「おう。早く乗るぞ」
高橋:「どこですか?」
愛原:「12号車だ、12号車」
私はクライアントから頂いた新幹線のキップを手に、指定された車両へと向かった。
〔……この電車は途中、上野、大宮、高崎、上毛高原、越後湯沢、浦佐、長岡、燕三条に止まります〕
愛原:「この車両だ」
私は乗る前に2階席を見上げた。
クライアントの話では、社員旅行で2階席を貸切にしているらしい。
この列車では元々そうなのかは不明だが、普段は自由席車なのに、時折指定席になっていることがある。
これは団体客がその車両を貸し切る場合が殆どなのだそうだ。
車両の位置関係的に、元々これは自由席車を貸し切ったのか、或いは元から指定席車だったものを貸し切ったのかは不明だ。
では、私達の乗る場所なのはどこなのかというと……。
愛原:「こっちだよ」
高橋:「これは……何席ですか?」
愛原:「平屋席とでも言うか」
私達には車端部にポツンとある座席が指定されていた。
2階席でもなければ、階段を下りる1階席でもない。
その2人席が指定されていた。
愛原:「取りあえず、ここが指定されているみたいだ」
私達は指定された席に陣取った。
高橋:「先生、まさか電車ん中では襲われないですよね?」
愛原:「俺もそう思うんだがな。ただ、西村京太郎の小説なんかじゃ、被害者がトイレに行った時とかを狙うこともあるみたいだからな。油断はできない」
高橋:「なるほど」
愛原:「定期的に俺達も見回りをした方がいいかもな」
高橋:「どうやりますか?」
愛原:「一区間ずつ交替で、ここからそっちの2階席を通ってトイレまで見回るんだ。そして、1階席を通って戻る」
高橋:「分かりました」
愛原:「まずは弁当を食べよう」
高橋:「はい」
そうこうしているうちに列車は走り出し、私達は新潟へと向かった。
今頃、リサはスキー場で昼食でも食べている頃だろうか。
[同日14:00.天候:曇 新潟県南魚沼郡湯沢町 JR越後湯沢駅]
私達は交替で車内を見回った。
どうしても高橋は目立ってしまうので、後半はデッキのドアの窓から様子を伺う程度になってしまったが。
幸いその位置から社長の姿は確認できる。
座席を向かい合わせにして、社員達とプチ宴会を楽しんでいるようだった。
それだけ見れば、人望も信望も厚くて、とても脅迫状を送られるような人物には見えないのだが……。
とにかく、列車の中では特に何も無かった。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、越後湯沢です。上越線、北越急行ほくほく線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。停車の際、揺れることがあります。階段付近にお立ちのお客様は、お近くの手すりにお掴まりください。越後湯沢の次は、浦佐に止まります〕
高橋:「先生、団体客が出てきます」
愛原:「よし。俺達は後から行くぞ。見失うなよ」
高橋:「はい」
列車はグングン速度を落とし、ポイントを渡って副線ホームに入った。
愛原:「予定表によると、送迎バスに乗り込んでそのまま旅館に向かうらしい。俺達はタクシーで後を追うぞ」
高橋:「分かりました」
列車が停車し、ドアが開くと団体客がぞろぞろとホームに降りて行く。
私達も後から降りた。
列車はここが終点では無い為、すぐにホームには発車ベルが鳴り響く。
オール2階建て16両編成という圧巻列車が吹雪のような風を巻き起こしながら発車して行く。
その風を避けるようにして、私達は改札口へ急いだ。
この駅も自動改札口になっているが、団体客は有人改札口からぞろぞろと出て行く。
東京駅の時もそうだった。
恐らく旅行会社に列車や旅館の手配を任せ、その団体用のキップで列車に乗っているのだろう。
個人客の私達は普通に自動改札口から改札の外に出る。
高橋:「ん?何やってんスかね?あのオッサン達……」
高橋が苛立ったように言ったのは、改札口の外に出てから団体客がなかなか駅の外に出なかったからである。
駅の外を見ると、送迎バスの姿は見えた。
よく観察してみると、団体客の一部がトイレに行ったり、喫煙所に一服しに行ったらしい。
これは列車の中はトイレの数が限られていてなかなか行けなかったのと、車内は禁煙である為、喫煙者は駅に着いてからでないと一服できないからであろう(送迎バスも禁煙であると思われる)。
それに、チェックインの時間は大抵15時だろうから、その時間調整も含まれていると思われる。
愛原:「おい、社長さんがトイレに行くぞ」
高橋:「一緒に行って来ます!」
愛原:「頼むぞ!」
駅のトイレの出入口とかには監視カメラがあるから、そうそう滅多なことはできないと思うが、まあ、一応念の為。
高橋:「大じゃなくて良かったっス!」
愛原:「そうだな」
どうやら一服組やトイレ組も集合したのか、団体客がぞろぞろと駅の外に出て行った。
そして、駅前の駐車場に止まっている送迎バスにぞろぞろ乗り込んだ。
幸いどの旅館に行くか予定表に書いてあるので、特に苦労は無い。
高橋:「先生?タクシーで追わないんですか?」
愛原:「慌てなくていい。バスが出発してからでいい」
というのは、こののんびりした行程のツアーだ。
バスに乗り込んだからといって、バスがすぐに出発するとは限らない。
私達が勇み足を踏まないようにしなくてはならない。
また、バスの方もそんなに急いで走るとは思えない。
恐らく、どうしても私達の乗るタクシーの方が速いはずだ。
だから、バスが走り出してからタクシーに乗っても十分なはずである。
で、ようやくバスが出発した。
恐らく車内で社長さんが幹事として、何か訓示をしたのかもしれない。
愛原:「よし、俺達も行くぞ」
高橋:「はい」
私達はタクシー乗り場に止まっているタクシーに乗り込んだ。
愛原:「ホテルあさいまでお願いします」
運転手:「はい、ホテルあさいさんまでですね」
タクシーも走り出すと、送迎バスの後を追った。
愛原:「この先をホテルの送迎バスが走ってると思うんですよ」
運転手:「ああ、さっき出て行きましたね。大丈夫ですよ。バスより先に向かいますから」
愛原:「あ、いや、その逆です」
運転手:「えっ?」
愛原:「できればバスの後ろについて行く感じでお願いします」
運転手:「そ、そうですか?」
運転手は意外そうな顔をした。
運転手:「まるで尾行みたいですね」
愛原:「似たようなものです」
運転手:「もしかして、警察の方……ですか?」
愛原:「いえ、探偵事務所の者です」
運転手:「あ、探偵さん。こんな田舎の温泉まで大変ですね」
愛原:「これも仕事ですから」
周囲を雪景色に囲まれる中、タクシーは送迎バスに追い付き、後は温泉街を宿泊先のホテルまで追随した。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日はこれから越後湯沢まで行くところだ。
何でもクライアントの会社で行われる慰安旅行において、社長の命を狙う者がいるらしい。
既に警察には届けているそうだが、脅迫状だけでは警察もあまり動いてくれない。
また、警備会社では護衛はしてくれても(身辺警備)、犯人を捕まえてくれるようなことはしてくれない。
そこで私達、探偵社の出番というわけだ。
〔21番線に停車中の列車は、12時40分発、“Maxとき”321号、新潟行きです。グリーン車は7号車、8号車、15号車と16号車の2階です。自由席は……〕
高橋:「先生!駅弁買って来ました!」
愛原:「おう。早く乗るぞ」
高橋:「どこですか?」
愛原:「12号車だ、12号車」
私はクライアントから頂いた新幹線のキップを手に、指定された車両へと向かった。
〔……この電車は途中、上野、大宮、高崎、上毛高原、越後湯沢、浦佐、長岡、燕三条に止まります〕
愛原:「この車両だ」
私は乗る前に2階席を見上げた。
クライアントの話では、社員旅行で2階席を貸切にしているらしい。
この列車では元々そうなのかは不明だが、普段は自由席車なのに、時折指定席になっていることがある。
これは団体客がその車両を貸し切る場合が殆どなのだそうだ。
車両の位置関係的に、元々これは自由席車を貸し切ったのか、或いは元から指定席車だったものを貸し切ったのかは不明だ。
では、私達の乗る場所なのはどこなのかというと……。
愛原:「こっちだよ」
高橋:「これは……何席ですか?」
愛原:「平屋席とでも言うか」
私達には車端部にポツンとある座席が指定されていた。
2階席でもなければ、階段を下りる1階席でもない。
その2人席が指定されていた。
愛原:「取りあえず、ここが指定されているみたいだ」
私達は指定された席に陣取った。
高橋:「先生、まさか電車ん中では襲われないですよね?」
愛原:「俺もそう思うんだがな。ただ、西村京太郎の小説なんかじゃ、被害者がトイレに行った時とかを狙うこともあるみたいだからな。油断はできない」
高橋:「なるほど」
愛原:「定期的に俺達も見回りをした方がいいかもな」
高橋:「どうやりますか?」
愛原:「一区間ずつ交替で、ここからそっちの2階席を通ってトイレまで見回るんだ。そして、1階席を通って戻る」
高橋:「分かりました」
愛原:「まずは弁当を食べよう」
高橋:「はい」
そうこうしているうちに列車は走り出し、私達は新潟へと向かった。
今頃、リサはスキー場で昼食でも食べている頃だろうか。
[同日14:00.天候:曇 新潟県南魚沼郡湯沢町 JR越後湯沢駅]
私達は交替で車内を見回った。
どうしても高橋は目立ってしまうので、後半はデッキのドアの窓から様子を伺う程度になってしまったが。
幸いその位置から社長の姿は確認できる。
座席を向かい合わせにして、社員達とプチ宴会を楽しんでいるようだった。
それだけ見れば、人望も信望も厚くて、とても脅迫状を送られるような人物には見えないのだが……。
とにかく、列車の中では特に何も無かった。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、越後湯沢です。上越線、北越急行ほくほく線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。停車の際、揺れることがあります。階段付近にお立ちのお客様は、お近くの手すりにお掴まりください。越後湯沢の次は、浦佐に止まります〕
高橋:「先生、団体客が出てきます」
愛原:「よし。俺達は後から行くぞ。見失うなよ」
高橋:「はい」
列車はグングン速度を落とし、ポイントを渡って副線ホームに入った。
愛原:「予定表によると、送迎バスに乗り込んでそのまま旅館に向かうらしい。俺達はタクシーで後を追うぞ」
高橋:「分かりました」
列車が停車し、ドアが開くと団体客がぞろぞろとホームに降りて行く。
私達も後から降りた。
列車はここが終点では無い為、すぐにホームには発車ベルが鳴り響く。
オール2階建て16両編成という圧巻列車が吹雪のような風を巻き起こしながら発車して行く。
その風を避けるようにして、私達は改札口へ急いだ。
この駅も自動改札口になっているが、団体客は有人改札口からぞろぞろと出て行く。
東京駅の時もそうだった。
恐らく旅行会社に列車や旅館の手配を任せ、その団体用のキップで列車に乗っているのだろう。
個人客の私達は普通に自動改札口から改札の外に出る。
高橋:「ん?何やってんスかね?あのオッサン達……」
高橋が苛立ったように言ったのは、改札口の外に出てから団体客がなかなか駅の外に出なかったからである。
駅の外を見ると、送迎バスの姿は見えた。
よく観察してみると、団体客の一部がトイレに行ったり、喫煙所に一服しに行ったらしい。
これは列車の中はトイレの数が限られていてなかなか行けなかったのと、車内は禁煙である為、喫煙者は駅に着いてからでないと一服できないからであろう(送迎バスも禁煙であると思われる)。
それに、チェックインの時間は大抵15時だろうから、その時間調整も含まれていると思われる。
愛原:「おい、社長さんがトイレに行くぞ」
高橋:「一緒に行って来ます!」
愛原:「頼むぞ!」
駅のトイレの出入口とかには監視カメラがあるから、そうそう滅多なことはできないと思うが、まあ、一応念の為。
高橋:「大じゃなくて良かったっス!」
愛原:「そうだな」
どうやら一服組やトイレ組も集合したのか、団体客がぞろぞろと駅の外に出て行った。
そして、駅前の駐車場に止まっている送迎バスにぞろぞろ乗り込んだ。
幸いどの旅館に行くか予定表に書いてあるので、特に苦労は無い。
高橋:「先生?タクシーで追わないんですか?」
愛原:「慌てなくていい。バスが出発してからでいい」
というのは、こののんびりした行程のツアーだ。
バスに乗り込んだからといって、バスがすぐに出発するとは限らない。
私達が勇み足を踏まないようにしなくてはならない。
また、バスの方もそんなに急いで走るとは思えない。
恐らく、どうしても私達の乗るタクシーの方が速いはずだ。
だから、バスが走り出してからタクシーに乗っても十分なはずである。
で、ようやくバスが出発した。
恐らく車内で社長さんが幹事として、何か訓示をしたのかもしれない。
愛原:「よし、俺達も行くぞ」
高橋:「はい」
私達はタクシー乗り場に止まっているタクシーに乗り込んだ。
愛原:「ホテルあさいまでお願いします」
運転手:「はい、ホテルあさいさんまでですね」
タクシーも走り出すと、送迎バスの後を追った。
愛原:「この先をホテルの送迎バスが走ってると思うんですよ」
運転手:「ああ、さっき出て行きましたね。大丈夫ですよ。バスより先に向かいますから」
愛原:「あ、いや、その逆です」
運転手:「えっ?」
愛原:「できればバスの後ろについて行く感じでお願いします」
運転手:「そ、そうですか?」
運転手は意外そうな顔をした。
運転手:「まるで尾行みたいですね」
愛原:「似たようなものです」
運転手:「もしかして、警察の方……ですか?」
愛原:「いえ、探偵事務所の者です」
運転手:「あ、探偵さん。こんな田舎の温泉まで大変ですね」
愛原:「これも仕事ですから」
周囲を雪景色に囲まれる中、タクシーは送迎バスに追い付き、後は温泉街を宿泊先のホテルまで追随した。