報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「雪煙旅情殺人事件」 3

2019-03-06 19:12:04 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月23日12:35.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅・新幹線ホーム→上越新幹線1321C列車14号車]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日はこれから越後湯沢まで行くところだ。
 何でもクライアントの会社で行われる慰安旅行において、社長の命を狙う者がいるらしい。
 既に警察には届けているそうだが、脅迫状だけでは警察もあまり動いてくれない。
 また、警備会社では護衛はしてくれても(身辺警備)、犯人を捕まえてくれるようなことはしてくれない。
 そこで私達、探偵社の出番というわけだ。

〔21番線に停車中の列車は、12時40分発、“Maxとき”321号、新潟行きです。グリーン車は7号車、8号車、15号車と16号車の2階です。自由席は……〕

 高橋:「先生!駅弁買って来ました!」
 愛原:「おう。早く乗るぞ」
 高橋:「どこですか?」
 愛原:「12号車だ、12号車」

 私はクライアントから頂いた新幹線のキップを手に、指定された車両へと向かった。

〔……この電車は途中、上野、大宮、高崎、上毛高原、越後湯沢、浦佐、長岡、燕三条に止まります〕

 愛原:「この車両だ」

 私は乗る前に2階席を見上げた。
 クライアントの話では、社員旅行で2階席を貸切にしているらしい。
 この列車では元々そうなのかは不明だが、普段は自由席車なのに、時折指定席になっていることがある。
 これは団体客がその車両を貸し切る場合が殆どなのだそうだ。
 車両の位置関係的に、元々これは自由席車を貸し切ったのか、或いは元から指定席車だったものを貸し切ったのかは不明だ。
 では、私達の乗る場所なのはどこなのかというと……。

 愛原:「こっちだよ」
 高橋:「これは……何席ですか?」
 愛原:「平屋席とでも言うか」

 私達には車端部にポツンとある座席が指定されていた。
 2階席でもなければ、階段を下りる1階席でもない。
 その2人席が指定されていた。

 愛原:「取りあえず、ここが指定されているみたいだ」

 私達は指定された席に陣取った。

 高橋:「先生、まさか電車ん中では襲われないですよね?」
 愛原:「俺もそう思うんだがな。ただ、西村京太郎の小説なんかじゃ、被害者がトイレに行った時とかを狙うこともあるみたいだからな。油断はできない」
 高橋:「なるほど」
 愛原:「定期的に俺達も見回りをした方がいいかもな」
 高橋:「どうやりますか?」
 愛原:「一区間ずつ交替で、ここからそっちの2階席を通ってトイレまで見回るんだ。そして、1階席を通って戻る」
 高橋:「分かりました」
 愛原:「まずは弁当を食べよう」
 高橋:「はい」

 そうこうしているうちに列車は走り出し、私達は新潟へと向かった。
 今頃、リサはスキー場で昼食でも食べている頃だろうか。

[同日14:00.天候:曇 新潟県南魚沼郡湯沢町 JR越後湯沢駅]

 私達は交替で車内を見回った。
 どうしても高橋は目立ってしまうので、後半はデッキのドアの窓から様子を伺う程度になってしまったが。
 幸いその位置から社長の姿は確認できる。
 座席を向かい合わせにして、社員達とプチ宴会を楽しんでいるようだった。
 それだけ見れば、人望も信望も厚くて、とても脅迫状を送られるような人物には見えないのだが……。
 とにかく、列車の中では特に何も無かった。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、越後湯沢です。上越線、北越急行ほくほく線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。停車の際、揺れることがあります。階段付近にお立ちのお客様は、お近くの手すりにお掴まりください。越後湯沢の次は、浦佐に止まります〕

 高橋:「先生、団体客が出てきます」
 愛原:「よし。俺達は後から行くぞ。見失うなよ」
 高橋:「はい」

 列車はグングン速度を落とし、ポイントを渡って副線ホームに入った。

 愛原:「予定表によると、送迎バスに乗り込んでそのまま旅館に向かうらしい。俺達はタクシーで後を追うぞ」
 高橋:「分かりました」

 列車が停車し、ドアが開くと団体客がぞろぞろとホームに降りて行く。
 私達も後から降りた。
 列車はここが終点では無い為、すぐにホームには発車ベルが鳴り響く。
 オール2階建て16両編成という圧巻列車が吹雪のような風を巻き起こしながら発車して行く。
 その風を避けるようにして、私達は改札口へ急いだ。
 この駅も自動改札口になっているが、団体客は有人改札口からぞろぞろと出て行く。
 東京駅の時もそうだった。
 恐らく旅行会社に列車や旅館の手配を任せ、その団体用のキップで列車に乗っているのだろう。
 個人客の私達は普通に自動改札口から改札の外に出る。

 高橋:「ん?何やってんスかね?あのオッサン達……」

 高橋が苛立ったように言ったのは、改札口の外に出てから団体客がなかなか駅の外に出なかったからである。
 駅の外を見ると、送迎バスの姿は見えた。
 よく観察してみると、団体客の一部がトイレに行ったり、喫煙所に一服しに行ったらしい。
 これは列車の中はトイレの数が限られていてなかなか行けなかったのと、車内は禁煙である為、喫煙者は駅に着いてからでないと一服できないからであろう(送迎バスも禁煙であると思われる)。
 それに、チェックインの時間は大抵15時だろうから、その時間調整も含まれていると思われる。

 愛原:「おい、社長さんがトイレに行くぞ」
 高橋:「一緒に行って来ます!」
 愛原:「頼むぞ!」

 駅のトイレの出入口とかには監視カメラがあるから、そうそう滅多なことはできないと思うが、まあ、一応念の為。

 高橋:「大じゃなくて良かったっス!」
 愛原:「そうだな」

 どうやら一服組やトイレ組も集合したのか、団体客がぞろぞろと駅の外に出て行った。
 そして、駅前の駐車場に止まっている送迎バスにぞろぞろ乗り込んだ。
 幸いどの旅館に行くか予定表に書いてあるので、特に苦労は無い。

 高橋:「先生?タクシーで追わないんですか?」
 愛原:「慌てなくていい。バスが出発してからでいい」

 というのは、こののんびりした行程のツアーだ。
 バスに乗り込んだからといって、バスがすぐに出発するとは限らない。
 私達が勇み足を踏まないようにしなくてはならない。
 また、バスの方もそんなに急いで走るとは思えない。
 恐らく、どうしても私達の乗るタクシーの方が速いはずだ。
 だから、バスが走り出してからタクシーに乗っても十分なはずである。
 で、ようやくバスが出発した。
 恐らく車内で社長さんが幹事として、何か訓示をしたのかもしれない。

 愛原:「よし、俺達も行くぞ」
 高橋:「はい」

 私達はタクシー乗り場に止まっているタクシーに乗り込んだ。

 愛原:「ホテルあさいまでお願いします」
 運転手:「はい、ホテルあさいさんまでですね」

 タクシーも走り出すと、送迎バスの後を追った。

 愛原:「この先をホテルの送迎バスが走ってると思うんですよ」
 運転手:「ああ、さっき出て行きましたね。大丈夫ですよ。バスより先に向かいますから」
 愛原:「あ、いや、その逆です」
 運転手:「えっ?」
 愛原:「できればバスの後ろについて行く感じでお願いします」
 運転手:「そ、そうですか?」

 運転手は意外そうな顔をした。

 運転手:「まるで尾行みたいですね」
 愛原:「似たようなものです」
 運転手:「もしかして、警察の方……ですか?」
 愛原:「いえ、探偵事務所の者です」
 運転手:「あ、探偵さん。こんな田舎の温泉まで大変ですね」
 愛原:「これも仕事ですから」

 周囲を雪景色に囲まれる中、タクシーは送迎バスに追い付き、後は温泉街を宿泊先のホテルまで追随した。
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“私立探偵 愛原学” 「雪煙旅情殺人事件」 2

2019-03-06 10:11:22 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月23日06:45.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は仕事で新潟県へ向かう予定だ。
 奇しくも今日はリサも、学校主催のスキー教室で新潟県へ向かうことになっている。

 リサ:「ごちそう様!」

 リサは既に学校のジャージに着替えていた。
 朝食は弁当を持って行って新幹線の中で食べていいことにもなっているようだが、大抵は家で食べて来るらしい。
 私立の学校なので、中には遠方から通っている生徒もいる為、それに配慮したものであろう。

 高橋:「食ったら流しに置いとけよ!」
 リサ:「はーい!」

〔「……今日は全国的に冬晴れとなり、絶好の行楽日和となるでしょう。晴れの天気は明日まで続き、来週からは下り坂となるもようです。……」〕

 テレビの天気予報によると、どうやら天候は問題無さそうだ。
 クライアントさんの所属する会社の社長さんの命を狙っている者が、この好天を幸いと思うか不幸と思うかだな。
 もしも外で殺すつもりなら、目撃者の少なくなる荒天の方がいいだろう。
 だが、あまりにも天候が悪い(冬の新潟県だと吹雪か)と、犯人自身の命が危ないからな。
 そんなことを考えていると、玄関のインターホンが鳴った。

 高橋:「おっ、来客か。はーい?」

 高橋はインターホンの受話器を取った。
 モニタには大きく斉藤絵恋さんの顔が映った。
 おでこが広いせいか、その部分が反射……ゲフンゲフン。

 高橋:「……おーい、リサ。レズ友が来たぞー」
 リサ:「レズ友???」
 愛原:「おい、せめて百合友という表現に留めてやれ!」

 どうも斉藤絵恋さんはリサのことが好きらしい。
 友達以上の関係に達するまで、あと一歩の所まで。
 高橋に言わせれば、もう一歩越えているだろうという見立てらしいが。

 リサ:「それじゃ、行ってきまーす!」
 愛原:「おーっ、気をつけて行けよ!正体露見に気を付けろ!」
 高橋:「行った人数と帰って来た人数が合わなくなっていたら、オマエのせいだぞ!」
 リサ:「はーい!」

 リサは急いで玄関を出て行った。

 愛原:「オマエなぁ……」
 高橋:「何ですか?レズっプルなんてキモいと思いませんか?」
 愛原:「だからオマエが言うな!」

 全国のLGBTのLの皆さん、ごめんなさい。

[同日10:00.天候:晴 同地区内 愛原学探偵事務所]

 高野:「そうですか。リサちゃん今頃、ガーラ湯沢ですか」
 愛原:「そうなんだ。あいつ、さすがにスキーは初心者だから、上手く滑れるかどうか……」
 高野:「リサちゃん、運動神経抜群なんですよね?1度教わったら、もうプロ並みになるんじゃないですか」
 高橋:「運動神経どころの騒ぎじゃねぇ。化け物並みの身体能力だ」

 化け物並みというか、場合によってはまんま化け物になるのが“リサ・トレヴァー”なんだが。

 高野:「何の列車で行ったんですか?」
 愛原:「えーと……東京8時4分発、上越新幹線“Maxたにがわ”403号だな。越後湯沢までは16両編成、そこから先は半分の8両編成だけガーラ湯沢に行くらしい」
 高野:「あの2階建て新幹線ですか。誰が2階席に座るかでモメそうですね。中学生のコ達ですからね」
 愛原:「それもそうだな」

 何か、斉藤絵恋さんが色々な圧かけて2階席確保してそうな気がする。

 高野:「スキー用具とかはどうしたんですか?リサちゃん、持ってませんよね?」
 愛原:「最初はスキー場でレンタルする予定だったんだよ。そしたら、斉藤さんが全部貸してくれることになって……」
 高野:「ええっ?さすがセレブは違いますね」
 愛原:「うん」

 斉藤絵恋さんの所属する空手道場では冬休みに雪山合宿があるらしく、その一環としてスキーをやったりもするらしいのだが、それで用具は全て持っているのだそうだ。
 で、今年は全て買い換えたそうで、昨年まで使っていたものをリサに貸してあげるのだそうだ。
 そう言えばあの2人、体型はよく似ているから、スキーウェアなんかもリサにはピッタリかもしれない。

 高橋:「きっと電車ん中でも、隣同士に座って手ェ握ってるんだぜ。気持ち悪ィ」
 愛原:「この前の慰安旅行のことか?仲良くて微笑ましく見えたけどねぇ、俺は」
 高野:「そうよ。それに、マサだって先生にくっついて座りたがるじゃんよ?ヒトのこと言えないよ」
 高橋:「ンだとコラ!!」
 愛原:「おー、高野君の言う通りだ〜」

 私はパチパチと拍手をした。

 高橋:「先生〜」(←半泣きになる高橋)

[同日12:30.天候:晴 東京都千代田区大手町 JR東京駅日本橋口]

 私と高橋はタクシーを呼び、それで東京駅まで向かった。

 運転手:「それでは日本橋口に着けますね」
 愛原:「はい、お願いします」
 高橋:「先生、新幹線に乗るなら八重洲口の方がいいと思いますが……」
 愛原:「リサ達もそうだが、団体客は一旦日本橋口に集まるのがセオリーなの」

 というのは日本橋口から中に入れば分かるのだが、そこには丸の内中央ビルの大きな吹き抜けがある。
 丸の内側の吹き抜けがレトロであるのなら、こちらは近代的な雰囲気といったところだ。
 広い空間である為に、団体客はここを集合場所にしたがるのだ。
 但し、トイレなどはすぐ近くには無い為、注意が必要である。
 私達はタクシーを降りると、日本橋口に入った。

 愛原:「リサ達も7時半にはここに集合したんだ。そして、八重洲北口改札からぞろぞろと入って行ったに違いない」
 高橋:「さすが先生。名推理です」
 愛原:「いや、ただのセオリーだからな?」

 で、今はクライアントの会社の人達が集まっている。
 因みにクライアントはこのツアーに参加している人達の中にはいない。
 会社で留守番をしている総務部長である。
 社長さんやツアー参加者の人達には余計な不安を掛けないよう、私達がついて行くというのは内緒になっている。
 そしてそれは、社長さんの命を狙っている犯人も知らないはずだ。
 私達はあくまで、出張のサラリーマン……。

 愛原:「……という恰好をオマエもしろよ!」
 高橋:「え?え?え?何ですか?」

 高橋は相変わらずDQNの服装をしていた。
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