[2月13日21:00.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷]
稲生:「『……多大なる功徳を積ませて頂きましょう。皆々様の御参詣をお待ち申し上げております。日蓮正宗 正証寺信徒 稲生勇太』……こんなんでいいのかなぁ?……まあ、いいや。メール送信っと」
シンシンと外は雪が降り積もる中、稲生は班長の藤谷にメールを送った。
机の上にはノートPCやプリンター、他に室内にはテレビやゲーム機が置いてある。
とても修行中の魔道師の部屋とは思えない。
稲生:「あとは班長に精査してもらって……」
稲生は手持ちのスマホで藤谷に連絡した。
稲生:「あ、もしもし。お疲れさまです。稲生ですけども、今メールを送りましたので。……ええ、例の件でGメールの方です。……はい」
藤谷:「さすがは大学出の稲生君だ。素晴らしい文章だよ。早速これを春季総登山告知ポスターに使わせて頂こう」
正証寺独自に作るらしい。
稲生:「うちのお寺、そんなに登山者が少ないんですか?」
藤谷:「今度の春季総登山は3月の30日と31日だろ?ド年度末過ぎて、ゼネコンはチョー忙しいんだよ」
稲生:「僕が代わりに参加しますから……」
藤谷:「さすがだ、稲生君。なに?それは俺の代わり?それともカントクの代わり?」
雲羽:「ギクッ!」(←来年度の人事異動がクソ過ぎて3月末は休みナシの作者)
稲生:「班長の代わりに決まってるじゃないですか」
藤谷:「それもそうだな。あー、ところで……1つ聞きたいことがあるんだが」
稲生:「何ですか?」
藤谷:「明日の世間様はバレンタインデーだが、日蓮正宗信徒としてかのような謗法のイベントに参加したりはしないよな?」
稲生:「ええ、もちろんです」
稲生は大きく頷いた。
稲生:「キリスト教絡みなので、当然ダンテ一門でも謗法扱いなんですが、どうもおかしなことになってまして……」
藤谷:「お菓子なだけに?」
稲生:「班長、切りますよ?」
藤谷:「冗談冗談。不穏な動きでもあるのか?」
稲生:「何だかマリアさんが最近、日本かぶれになっているのか……。『そうか。日本では2月14日に、女が好きな男にチョコレートをプレゼントする習慣があるのか。それなら今年は私がプレゼントしてあげよう』と言ってるんです」
藤谷:「良かったじゃないか。それってマリアンナさんがキミのことを好きだと告白しているようなものだぞ?」
稲生:「それについてだけなら僕も大歓喜なんですよ」
藤谷:「ダンテ一門の魔道師としての行事なら、日蓮正宗とかは関係無いだろ。要は、仕事絡みで受け取るようなものだからな」
稲生:「班長も?」
藤谷:「俺は保険屋のオバちゃんからもらった。『日蓮正宗ではバレンタインデーはキリスト教絡みだから謗法で受け取れまへん』と断ったんだが、『直接キリストさんが関わっていなければ、日蓮さんも文句言いませんよ』と、破折されたw」
稲生:「あ、それもそうか。ん?歴代御法主上人猊下の御説法で、『バレンタインデーで浮かれることは、キリスト教の行事に踊らされて謗法である』という御指南はありましたか?」
藤谷:「いや、俺も聞いたことねぇんだな。じゃあいいんだな」
稲生:「元々はお菓子業界が、キリスト教の行事にかこつけてキャンペーンを張ったのがそもそもの始まりだって話ですからねぇ……」
藤谷:「それもそうだな。因みに俺が前いた浄土真宗では、『翌日の涅槃会の準備で忙しいのに、外道の行事に浮かれてはならぬ』という住職さんの説法はあったけどな」
稲生:「涅槃会が無いだけ、日蓮正宗の方がむしろフランクなのかもしれませんねぇ……」
藤谷:「で、どうなんだ?マリアンナさんからの本命チョコは期待できそうか?来月のホワイトデーが大変だなぁ?ん?」
稲生:「僕には既製品で十分ですよと言ってあげたんですよ。何しろマリアさんの場合、手作りしようとすると……」
ジリリリリリリ!
藤谷:「な、何だ!?そっちから非常ベルっぽい音が聞こえて来たぞ!?」
稲生:「非常ベルの音ですよ!一旦切ります!」
稲生は電話を切ると、急いで部屋を飛び出した。
そして、屋敷2階東側の自室から屋敷1階西側の厨房へ向かう。
イリーナ:「マリア!何度言ったら分かるの!あなたの手料理は、もはやテロレベルなんだから諦めなさいと言ったでしょう!!」
厨房の中からイリーナの怒鳴り声が聞こえて来た。
稲生:「何かありましたか!?」
稲生が厨房に飛び込むと、壁から天井から床までチョコクリームが飛び散っているのが分かった。
で、頭からそれを被ってひっくり返っているマリア。
イリーナ:「マリアがまた勝手なことをして、爆発させただけよ。大丈夫、火事じゃないから。爆発の勢いで火災報知器が鳴っちゃっただけだから」
稲生:「すぐにベルを止めます!片付け手伝いますね!」
イリーナ:「いいから。マリアと人形達にやらせておきなさい。勇太君はベルだけ止めてきて」
稲生:「は、はい」
稲生が1階の火災受信所(エントランスホール横の使用人部屋)に行って、まずは室内のベルを止めた。
稲生:「えーと……復旧、復旧と」
復旧のボタンを押すと、全館のベルが止まった。
イリーナ:「勇太君は部屋に戻ってなさい」
それでも自主的にマリアの失敗のフォローをしてあげようと思った稲生だったが、イリーナに止められた。
その気迫に圧されて、稲生は引き返す他無かったのである。
稲生:(先生がいない日を狙って作れば良かったのに……。こんな時に先生いつもいらっしゃるからなぁ……)
もしかして、マリアの失敗を見越しているのだろうか。
部屋に戻ると、今度は鈴木から着信があった。
稲生:「はい、もしもし?」
鈴木:「あ、先輩。こんばんはですー」
稲生:「何だい?またエレーナ絡みかい?」
鈴木:「そうなんです。先輩はマリアさんからチョコを貰うんですよね?」
稲生:「その予定なんだけど、ちょっと雲行きが怪しくなってきた」
鈴木:「えっ?」
稲生:「僕にあげたい一心で、空回りしてスベってる状態だよ。気持ちだけでも嬉しいから、あまり無理して欲しくはないんだけど……」
鈴木:「俺はエレーナから貰える予定なんですよ!」
稲生:「おおっ!それは良かったじゃないか!」
鈴木:「はい。この前、プレゼントしてあげたお返しらしいですよ」
稲生:「何をあげたの?」
鈴木:「下……あ、いや。それは企業秘密です」
稲生:「ん?」
鈴木:「確かバレンタインデーって、聖バレンタインの殉教に因んだイベントだから、魔女達にとっては俺達にとっての謗法と同じだと思ってたのに、結構やってくれるものなんですね」
稲生:「多分、キミが日蓮正宗信徒だからくれるんだと思うよ」
鈴木:「え、そうなんですか?」
稲生:「うん」
鈴木:「えーと……それはどういう……?」
稲生:「いや、あまり深く考える必要は無いよ。それより、来月のホワイトデーのことを考えないとね」
鈴木:「俺はもうお返しは決まってるんです」
稲生:「早っ!何をお返しにするの?」
鈴木:「ですから企業秘密です」
稲生:「何だよ。水くさいなぁ……」
鈴木:「この時ばかりは、宗門も顕正会も関係無いですよ」
稲生:「ん?どういうことだ?」
鈴木:「人間の下半身は仏法をも超越するのです」
稲生:「お、おい、何か発言が危なくなってるぞ?」
鈴木:「じゃ、そういうことで、これにて失礼致します」
稲生:「あ、ああ。おやすみ」
稲生は電話を切った。
稲生:「一体、何なんだろう?」
ジリリリリリリリリリリリ!
稲生:「えっ、また!?」
稲生は再び厨房に向かった。
すると!
マリア:「師匠!結局あなたも失敗してるんじゃないですか!何がお手本ですか!!」
イリーナ:「え……演出よ、演出……」
マリア:「そーゆーのいいんで!」
稲生:(面白い人達だ……)
稲生:「『……多大なる功徳を積ませて頂きましょう。皆々様の御参詣をお待ち申し上げております。日蓮正宗 正証寺信徒 稲生勇太』……こんなんでいいのかなぁ?……まあ、いいや。メール送信っと」
シンシンと外は雪が降り積もる中、稲生は班長の藤谷にメールを送った。
机の上にはノートPCやプリンター、他に室内にはテレビやゲーム機が置いてある。
とても修行中の魔道師の部屋とは思えない。
稲生:「あとは班長に精査してもらって……」
稲生は手持ちのスマホで藤谷に連絡した。
稲生:「あ、もしもし。お疲れさまです。稲生ですけども、今メールを送りましたので。……ええ、例の件でGメールの方です。……はい」
藤谷:「さすがは大学出の稲生君だ。素晴らしい文章だよ。早速これを春季総登山告知ポスターに使わせて頂こう」
正証寺独自に作るらしい。
稲生:「うちのお寺、そんなに登山者が少ないんですか?」
藤谷:「今度の春季総登山は3月の30日と31日だろ?ド年度末過ぎて、ゼネコンはチョー忙しいんだよ」
稲生:「僕が代わりに参加しますから……」
藤谷:「さすがだ、稲生君。なに?それは俺の代わり?それともカントクの代わり?」
雲羽:「ギクッ!」(←来年度の人事異動がクソ過ぎて3月末は休みナシの作者)
稲生:「班長の代わりに決まってるじゃないですか」
藤谷:「それもそうだな。あー、ところで……1つ聞きたいことがあるんだが」
稲生:「何ですか?」
藤谷:「明日の世間様はバレンタインデーだが、日蓮正宗信徒としてかのような謗法のイベントに参加したりはしないよな?」
稲生:「ええ、もちろんです」
稲生は大きく頷いた。
稲生:「キリスト教絡みなので、当然ダンテ一門でも謗法扱いなんですが、どうもおかしなことになってまして……」
藤谷:「お菓子なだけに?」
稲生:「班長、切りますよ?」
藤谷:「冗談冗談。不穏な動きでもあるのか?」
稲生:「何だかマリアさんが最近、日本かぶれになっているのか……。『そうか。日本では2月14日に、女が好きな男にチョコレートをプレゼントする習慣があるのか。それなら今年は私がプレゼントしてあげよう』と言ってるんです」
藤谷:「良かったじゃないか。それってマリアンナさんがキミのことを好きだと告白しているようなものだぞ?」
稲生:「それについてだけなら僕も大歓喜なんですよ」
藤谷:「ダンテ一門の魔道師としての行事なら、日蓮正宗とかは関係無いだろ。要は、仕事絡みで受け取るようなものだからな」
稲生:「班長も?」
藤谷:「俺は保険屋のオバちゃんからもらった。『日蓮正宗ではバレンタインデーはキリスト教絡みだから謗法で受け取れまへん』と断ったんだが、『直接キリストさんが関わっていなければ、日蓮さんも文句言いませんよ』と、破折されたw」
稲生:「あ、それもそうか。ん?歴代御法主上人猊下の御説法で、『バレンタインデーで浮かれることは、キリスト教の行事に踊らされて謗法である』という御指南はありましたか?」
藤谷:「いや、俺も聞いたことねぇんだな。じゃあいいんだな」
稲生:「元々はお菓子業界が、キリスト教の行事にかこつけてキャンペーンを張ったのがそもそもの始まりだって話ですからねぇ……」
藤谷:「それもそうだな。因みに俺が前いた浄土真宗では、『翌日の涅槃会の準備で忙しいのに、外道の行事に浮かれてはならぬ』という住職さんの説法はあったけどな」
稲生:「涅槃会が無いだけ、日蓮正宗の方がむしろフランクなのかもしれませんねぇ……」
藤谷:「で、どうなんだ?マリアンナさんからの本命チョコは期待できそうか?来月のホワイトデーが大変だなぁ?ん?」
稲生:「僕には既製品で十分ですよと言ってあげたんですよ。何しろマリアさんの場合、手作りしようとすると……」
ジリリリリリリ!
藤谷:「な、何だ!?そっちから非常ベルっぽい音が聞こえて来たぞ!?」
稲生:「非常ベルの音ですよ!一旦切ります!」
稲生は電話を切ると、急いで部屋を飛び出した。
そして、屋敷2階東側の自室から屋敷1階西側の厨房へ向かう。
イリーナ:「マリア!何度言ったら分かるの!あなたの手料理は、もはやテロレベルなんだから諦めなさいと言ったでしょう!!」
厨房の中からイリーナの怒鳴り声が聞こえて来た。
稲生:「何かありましたか!?」
稲生が厨房に飛び込むと、壁から天井から床までチョコクリームが飛び散っているのが分かった。
で、頭からそれを被ってひっくり返っているマリア。
イリーナ:「マリアがまた勝手なことをして、爆発させただけよ。大丈夫、火事じゃないから。爆発の勢いで火災報知器が鳴っちゃっただけだから」
稲生:「すぐにベルを止めます!片付け手伝いますね!」
イリーナ:「いいから。マリアと人形達にやらせておきなさい。勇太君はベルだけ止めてきて」
稲生:「は、はい」
稲生が1階の火災受信所(エントランスホール横の使用人部屋)に行って、まずは室内のベルを止めた。
稲生:「えーと……復旧、復旧と」
復旧のボタンを押すと、全館のベルが止まった。
イリーナ:「勇太君は部屋に戻ってなさい」
それでも自主的にマリアの失敗のフォローをしてあげようと思った稲生だったが、イリーナに止められた。
その気迫に圧されて、稲生は引き返す他無かったのである。
稲生:(先生がいない日を狙って作れば良かったのに……。こんな時に先生いつもいらっしゃるからなぁ……)
もしかして、マリアの失敗を見越しているのだろうか。
部屋に戻ると、今度は鈴木から着信があった。
稲生:「はい、もしもし?」
鈴木:「あ、先輩。こんばんはですー」
稲生:「何だい?またエレーナ絡みかい?」
鈴木:「そうなんです。先輩はマリアさんからチョコを貰うんですよね?」
稲生:「その予定なんだけど、ちょっと雲行きが怪しくなってきた」
鈴木:「えっ?」
稲生:「僕にあげたい一心で、空回りしてスベってる状態だよ。気持ちだけでも嬉しいから、あまり無理して欲しくはないんだけど……」
鈴木:「俺はエレーナから貰える予定なんですよ!」
稲生:「おおっ!それは良かったじゃないか!」
鈴木:「はい。この前、プレゼントしてあげたお返しらしいですよ」
稲生:「何をあげたの?」
鈴木:「下……あ、いや。それは企業秘密です」
稲生:「ん?」
鈴木:「確かバレンタインデーって、聖バレンタインの殉教に因んだイベントだから、魔女達にとっては俺達にとっての謗法と同じだと思ってたのに、結構やってくれるものなんですね」
稲生:「多分、キミが日蓮正宗信徒だからくれるんだと思うよ」
鈴木:「え、そうなんですか?」
稲生:「うん」
鈴木:「えーと……それはどういう……?」
稲生:「いや、あまり深く考える必要は無いよ。それより、来月のホワイトデーのことを考えないとね」
鈴木:「俺はもうお返しは決まってるんです」
稲生:「早っ!何をお返しにするの?」
鈴木:「ですから企業秘密です」
稲生:「何だよ。水くさいなぁ……」
鈴木:「この時ばかりは、宗門も顕正会も関係無いですよ」
稲生:「ん?どういうことだ?」
鈴木:「人間の下半身は仏法をも超越するのです」
稲生:「お、おい、何か発言が危なくなってるぞ?」
鈴木:「じゃ、そういうことで、これにて失礼致します」
稲生:「あ、ああ。おやすみ」
稲生は電話を切った。
稲生:「一体、何なんだろう?」
ジリリリリリリリリリリリ!
稲生:「えっ、また!?」
稲生は再び厨房に向かった。
すると!
マリア:「師匠!結局あなたも失敗してるんじゃないですか!何がお手本ですか!!」
イリーナ:「え……演出よ、演出……」
マリア:「そーゆーのいいんで!」
稲生:(面白い人達だ……)