報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「出発前日」 1

2019-03-12 18:54:49 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月11日08:00.天候:晴 長野県北部山中 マリアの屋敷]

 稲生:「ごちそうさまでした」

 稲生達は朝食を終えた。

 イリーナ:「いよいよ明日出発だね。先生は色々と準備の為に出掛けて来るから、2人は家の中で自習しててね」
 稲生:「分かりました」
 マリア:「師匠、私の場合は……」
 イリーナ:「おー、確か同期のコ達が遊びに来るんだったね。いいわよ。長い生涯、たまには同年のコ達と楽しむのも悪くはないからね」
 マリア:「ありがとうございます」
 イリーナ:「ま、今は晴れてるけど、午後からまた雪になるから、今日は家にいた方がいいね」
 稲生:「先生の予知ですか?」
 イリーナ:「たまには自分の運勢を占ってみるのも面白いものだよ」

 イリーナはそう言って食後の紅茶を飲み干すと、一旦は自室に戻っていった。
 というか、恐らくそのまま瞬間移動の魔法で出掛けるつもりだろう。
 ダンテの移動も商業便だし、そこまで行くのも高速バス。
 しかしイリーナが個人的に出掛ける時は魔法と、何だか魔法の使用基準が今1つまだ理解できない稲生だった。

 稲生:「マリアさん、先輩方が来られるのは何時頃ですか?」
 マリア:「一応、10時に約束している」

 2人は大食堂内に設置されている時計を見た。
 振り子が左右に揺れる度にカッチコッチ言っている。
 英語ではティック・タックか。

 マリア:「全員男嫌いだから、勇太には申し訳無いけど2階に避難してて」
 稲生:「分かりました。僕も命は惜しいので」
 マリア:「帰ったら教えるから」
 稲生:「はい」

 ダンテ一門の魔女は多くが人間時代、酷い性被害を受けた者達である。
 男女比が物凄く偏っているのは、力を付けた魔女が男性の新弟子を追い出しているからというのもある。
 アナスタシア組ではそれを厳しく取り締まっている為、まだ少ないものの、一応それなりに男性魔道師もいる。
 というか、独立した者以外で、イリーナ組の稲生とアナスタシア組の数人以外、男性魔道師がいるのかどうかといった有り様である。
 マリアもただの新弟子なら追い出すほどの勢いであったが、それまでの稲生との関係もあるので、そこまでには至っていない。
 というかマリアもまた、稲生を追い出す動機を失っている。

 稲生:「因みに……因みにですよ?他に、どういった場所には行かない方がいいかも教えてもらえますか?」
 マリア:「そうだな……。まず、この食堂でお茶とかするから、ここはダメだね。昼食は部屋に運ばせるよ」
 稲生:「そうしてもらえると助かります」
 マリア:「あとは図書室もダメだな。表向き『勉強会』ってことになってるから、いざ勉強しようとすると、そっちの部屋に行く可能性が高い」
 稲生:「図書室ですね。あとは?」
 マリア:「もちろん私の部屋もだな。……うん、ものの見事に屋敷の西側で完結してる。だから勇太は東側に避難しておけばいいさ」
 稲生:「了解です」

 稲生の自室は屋敷東側の2階にある。
 イリーナとマリアの部屋は西側だ。

 マリア:「あっ、忘れてた!あそこもだ!」
 稲生:「どこですか?」
 マリア:「東側じゃないんだけど、地下のプール」
 稲生:「プールですか?いくら暦の上では春でも、外はまだ雪ですよ?」
 マリア:「分かってる。ここのプールは温水プールにもできるから、それで入ろうと思えば冬でも入れるの」
 稲生:「スキーとかやらないんですか」
 マリア:「ダンテ一門でスキー場やってるのはいないから」
 稲生:「ん???」
 マリア:「ほら、スキー場に女だけで行くと、男に声を掛けられるだろう?それがアウト」
 稲生:「あ、なるほど!」

 ここなら完全に専用施設であるから、そのような心配も無いわけだ。

 マリア:「勇太が変な気を起こさなければ大丈夫」( ̄ー ̄)
 稲生:「マリアさんにも殺されてしまいますので、肝に銘じておきます」

[同日10:00.天候:曇 同屋敷]

 エントランス前に魔法陣が表れ、そこから現れる魔女もいれば、ホウキに跨って舞い降りる魔女もいる。
 尚、“魔女の宅急便”を見て頂ければ分かるが、柄に跨ると股が痛くなるので、股に負担の掛かりにくいふさの部分に跨っている。
 ホウキに跨る魔女が現れたが、これはエレーナではない。
 エレーナは厳密に言えば3期生に当たる為、実はマリアの後輩になり、稲生と同期ということになる(但し、稲生と比べれば弟子入りの時期は明らかに早い為、3期生の中では稲生の先輩になる)。
 マリアの方も番狂わせがあったので2期生となっているが、3期生という見方もあり、この辺は混乱している。
 だからエレーナもこの番狂わせの混乱を利用して、マリアの同期になってみたり、稲生の先輩になってみたりしている。

 ジーナ:「こんにちは」
 クリス:「日本は凄い雪だねぇ」
 シンシア:「マリアンナ、久しぶり!」
 マリア:「おー!皆、元気そうじゃない!」

 欧州人らしく盛大にハグする魔女達。
 これだけ見ると、魔道師の恰好をしただけの普通の若い白人女性達のようにしか見えない。

 マリア:「入って入って」
 ジーナ:「あの男はいる?」
 マリア:「分かってる。勇太は部屋に閉じ込めておいた」

 マリアはしたり顔で同期生達にそう説明した。

 マリア:「お茶とお菓子を用意してるから、そっちで話そう」

 マリアは大食堂を指さした。
 メイド人形が恭しく観音開きのドアを開ける。

 クリス:「! ちょっと待って!」

 ロングの黒髪をしたクリスが立ち止まった。

 マリア:「なに?」
 クリス:「あの男が覗いてるわ!!」
 マリア:「部屋に閉じ込めてるはずだよ!?」
 クリス:「水晶球で覗き見してるわ!!」

 稲生:「やばっ、バレた!!」

 慌てて水晶球の画像を消去する稲生だった。
 直後、室内の内線電話が鳴る。
 西洋風の黒電話(北の国の委員長さんじゃないよ)といった形であり、古風のジリジリベルが鳴り響く。

 稲生:「は、はい!稲生です!」
 マリア:「何やってんの!見習のやってることなんて、すぐにバレるんだからね!余計なことしないで!!」
 稲生:「すす、すいませんでしたぁ!」

 全力土下座ばりに謝る稲生だった。

 マリア:「一応言っといたから、これで勘弁してくれ」
 クリス:「マリアンナも後輩の躾がなってないね」
 ジーナ:「いくらマリアンナを振り向かせたからって、ちょっと調子に乗らせ過ぎじゃない?」
 シンシア:「少しは興味あるけどね。日本人の方がマリアンナを振り向かせただなんて」
 クリス:「シンシア!」
 シンシア:「あー、喉乾いた!ダージリンの紅茶が飲みたいね」
 マリア:「用意してあるから」

 マリアは魔女仲間3人を案内しながら思った。

 マリア:(昔の私も、こんな感じだったのかなぁ?)

 と。
コメント (2)
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“大魔道師の弟子” 「マスター達の年度末」

2019-03-12 10:10:30 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[2月14日15:00.天候:雪 長野県北安曇郡白馬村 白馬八方バスターミナル]

 係員:「それでは稲生様、来月の3月12日、こちらのバスターミナルより、10時40分発の便で羽田空港国際線ターミナルまで、大人3名様ですね」
 稲生:「はい」
 係員:「それでは大人3名様の運賃で……」

 稲生はマリアの屋敷を出て、お使いに出ていた。
 村の中心部にあるバスターミナル(観光案内所も兼ねている)に行き、そこでどうやら高速バスの乗車券を購入しているもようである。
 稲生は財布の中から諭吉先生を取り出した。
 お使いなので稲生のポケットマネーではなく、予め支給されたものであろう。

 係員:「ありがとうございました」
 稲生:「お世話さまでした」

 バスターミナル内はスキーシーズンではあっても、平日真っ只中とあっては、週末や連休の賑わいはナリを潜めていた。

 稲生:「ホテルの予約は完了したから、これでミッション終了か」
 ダニエラ:「マリアンナ様の御所望の品は、こちらで確保致しました」
 稲生:「ご苦労様。じゃあ、帰るとするか」

 ダニエラはマリアの製作したメイド人形の1つで、何故か今は稲生専属メイド人形になっている。
 マリアが命令したわけでもないのに、だ。
 これは人形も感情を持つようになり、マリアの忖度を受けて自主的に稲生に付いたと思われるが……。

 稲生:「僕の魔力を使うと、どうしても日本のタクシーみたいになっちゃうんだよなぁ……」

 もちろん山奥の屋敷から村の中心部まで、徒歩で行けるはずがない。
 車や専属の運転手は魔法で作り出したもの。
 イリーナみたいな大魔道師(グランドマスター)なら高級車を1発で出すことができるが、マリアならロンドンタクシー、稲生だと日本の普通のタクシーが出て来る。
 因みに少し頑張ってみたら最新年式のものを出すことができたが、それでも出て来たのはトヨタ・ジャパンタクシーという……。
 村で目立つ高級外車より、タクシーの方が目立たなくて良いのだが。

 稲生:「それでは屋敷に戻ってください」
 運転手:「かしこまりました」

 小雪が舞う中、車がハイブリットエンジンの音を立てながら走り出した。
 傍目から見れば、待たせていたタクシーに乗り込む(見た目は)普通の青年とメイドさん……。

 稲生:「メイド服が目立ってますよ!?」
 ダニエラ:「? ですが、これが私達の制服でして……」
 稲生:「いや、そりゃそうだけど!」

 因みにダニエラが買い込んだのは、マリアの生理用品とかストッキングとか、要は稲生が思いっきり買いにくいものである。

 稲生:「食料はいいの?」
 ダニエラ:「はい。メイド長(ミカエラ)自ら既に買われたので」
 稲生:「そうかい」

 尚、基本的に稲生は1人で屋敷の外には出してもらえない。
 真面目な性格の稲生にあっては有名無実化したものであるが、実はダンテ一門内には、師匠の弟子に対する取扱規定がある。
 単なる指導要領が殆どで、しかも基本的には師匠の裁量に任せている部分が多い為、本当にただの要領だったりする。
 問題なのは弟子を入門させた後、殆どの場合は師匠の家に住み込ませることになる。
 当然ながらそれについても定められており、その中に、弟子を逃亡させてはならない旨の記載がある。
 つまり、厳しい修行にギブアップして弟子が逃げ出すのを防止せよということだ。
 イリーナ組の修行はそもそも門内一緩やかなものであり、そういう要素は全く無い。
 それでも規定されている以上はイリーナも無視できず、一応の対策をしている感は出しておかなければならない。
 そこで稲生には口頭で『勝手に1人で屋敷の外に出ないこと』『出る場合は必ず監視役を付けること』を申し付けた。
 前者においては当初、屋内のみという狭い意味を課していたが、今では敷地内という広い意味に変更している。
 敷地から出ない分には、屋外に1人で勝手に出ても構わないということだな(もっとも、魔道師が建てた屋敷である為、そもそも敷地の境界が曖昧だったりする)。
 後者にあってはダニエラが自主的に手を挙げたので、それに任せている。
 尚、イリーナやマリアが一緒である場合は該当しない。
 但し、エレーナなどの組違いの者は非該当である。
 そのような規定がある為、稲生は例え使い走りを頼まれても、まだ見習弟子の立場の為にダニエラが付いているというわけである。
 ん?そのような面倒なことをしなくても、大魔道師であれば常に魔法で監視できるのではないかって?
 それが出来たら、とある大魔法使いは弟子のミッキーマウスに申し付けた水汲みを最初から真面目にやらせていると思う。

[同日15:30.天候:雪 同村郊外 マリアの屋敷]

 車は雪煙を上げながら、屋敷の正面玄関に停車した。

 稲生:「こんな雪深い所でも、上手く走れるもんだね」
 ダニエラ:「普通の自動車では、ここまで来ることはできません」
 稲生:「それもそうか」

 稲生は車を降りると、早速屋敷の中に入った。

 ダニエラ:「それでは私は夕食の支度がございますので」
 稲生:「ああ。これはマリアさんに渡してくる」

 稲生はダニエラが買った物が入っているビニール袋を手にすると、マリアの部屋に向かった。
 これがゲーム画面なら、画面左上に次にやることとして『マリアの部屋に向かう』と表示されていることだろう。
 特に稲生がエンカウントするような敵もいないので、BGMは流れていないか、或いは静かなものが流れていると思われる。
 ショパンの“幻想即興曲”なんかどうだろう。
 え?とあるホラーゲームのBGMだって?これは失礼。
 侵入者にとってはホラーチックな屋敷ではあるものの、関係者たる稲生が主人公とあっては、そのような雰囲気のBGMは似つかわしくない。
 いや、曲自体は別にホラーではないのだから“幻想即興曲”でいいだろう。
 “ハイケンスのセレナーデ”は軽快過ぎるぞ。

 稲生:「マリアさん、ただいま帰りました」

 部屋をノックする。

 マリア:「いいよ、入って」
 稲生:「失礼します」

 稲生が中に入ると、マリアが新たな人形を作っているところだった。
 フランス人形を作っているかのように見える。

 稲生:「これが頼まれてたマリアさんの品です。ダニエラさんが代わりに購入してくれたので……」
 マリア:「ああ、うん。ありがとう」

 マリアはそれを受け取ると、自分の脇に置いた。

 稲生:「あとは来月出発のバスの乗車券です。ホテルはもうネットで予約してありますので」
 マリア:「分かった。後で師匠に伝えておく」
 稲生:「お願いします。……今年は日本で行われるんですね」
 マリア:「そういうことだな」

 表向きには一期生達の年度末納会ということになっている。
 参加対象者は一期生限定、つまり創始者ダンテの直弟子達のことだ。
 イリーナやポーリン、アナスタシアやマルファなどがそれに当たる。
 不定期に世界のどこかで、そういう盛大なパーティーが行われるらしい。
 で、今回は日本とのこと。
 ダンテがイギリスから商業便で羽田空港入りするので、国内拠点のイリーナ組としては真っ先に出迎えに行かなければならないということだ。
 当然、マリアは二期生、稲生は三期生として付いて行くというわけである。
コメント (1)
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