[3月12日22:16.天候:晴 東京都台東区上野 都営地下鉄上野御徒町駅]
〔まもなく2番線に、両国方面、清澄白河行き電車が到着します。ドアから離れて、お待ちください〕
エレーナ:「寿司奢ってくれるって言うから、どこの店かと思ってたけど……。まさか、地下鉄で移動するとは思わなかったよ」
鈴木:「顕正会の時、1度だけ行ったことがある。あの時は“魔の通力”で羽振りが良かったな」
エレーナ:「今もだろ?」
鈴木:「違う。当時の隊長。松本はてんでダメだったな」
エレーナ:「松本って誰?」
鈴木:「当時のクソ支隊長」
電車が風を巻き起こして入線してきた。
鈴木:「よしよし。清澄白河止まりだから空いてるな」
因みに鈴木、エレーナ、シンシア共に顔が赤いのは寿司と一緒にそれなりのアルコールも入れたからか。
〔うえのおかちまち、上野御徒町。銀座線、日比谷線、JR線はお乗り換えです。2番線は両国方面、清澄白河行きです〕
特にシンシアが足取りがおぼつかなくなるほど飲んでいた。
いや、酒の量は五十歩百歩だが、シンシアの方が弱いとか。
ホームドアと電車のドアが開き、乗り込んだ3人は空いている朱色の座席に座った。
短い発車メロディの後で、すぐにドアが閉まる。
エレーナ:「シンシア、寝るなよ?終点まで乗るんじゃないんだから」
シンシア:「Year...」
自動通訳魔法具がOFFになるほどの酩酊ぶり。
そんな魔女をよそに電車は発車する。
〔都営大江戸線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は両国方面、清澄白河行きです。次は新御徒町、新御徒町。つくばエクスプレス線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔This train is bound for Kiyosumi-Shirakawa.The next station is Shin-Okachimachi.Please change here for the Tsukuba Express line.〕
鈴木:「俺の話、どうだったかな?」
エレーナ:「センス無いね」
鈴木:「マジか……。こう見えても正証寺じゃ、『明るくなったね』とか『冗談上手くなったね』とか言われるようになったんだけどなぁ……」
エレーナ:「アンタ、非モテの童貞だろ?そういうヤツは、ヘタに女に冗談言わない方がいいよ?」
鈴木:「そ、そうなのか?」
エレーナ:「だから稲生氏は冗談言わないだろ?」
鈴木:「稲生先輩は俺と違って真面目な人だから……」
エレーナ:「いやいや、あれでいいんだよ。取りあえず、マリアンナみたいなヤツは落ちる」
鈴木:「最近知ったけど、稲生先輩もマリアさんを口説くのに相当苦労したみたいだな?」
エレーナ:「相当の霊力が無かったら、とっくに死んでるよ」
鈴木:「マリアさん、そんなことするような人には見えないけど……」
エレーナ:「いや、するよ、あいつ。今でも」
鈴木:「今でも?」
エレーナ:「アンタ、命拾いしてるんだからな?私に目移りしたから良かったものの、そうじゃなかったら今頃は地獄行きだぞ?」
鈴木:「ううっ……」
エレーナ:「もしアンタが貧乏人、或いは金払いの悪いヤツだったら、今度はアタシに殺されてたと思うよ?」
鈴木:「世の中、カネだからな」
エレーナ:「そういう理解があるから、こうして生かしてやってるんだ。ありがたく思えよ?」
鈴木:「あざざざざざーっす!」
エレーナ:「“あっつぁの顕正会体験記”か!」
鈴木:「だって俺、あそこに出演してたんだぜ?」
エレーナ:「あー、もう!メタフィクションはいいから!」
と、その時だった。
エレーナの胸倉を掴む者がいた。
それはシンシア。
酩酊して赤く濁った眼でエレーナを睨みつける。
シンシア:「うるさいんだけど?」
その目は嫉妬にも憎悪にも似たものだとエレーナはすぐに分かった。
エレーナ:「あ、ああ。分かった。悪かった」
エレーナが素直に謝ったものだから、シンシアはすぐに手を放した。
エレーナ:「見ろ。すぐ近くに怖い魔女がいるんだからな?フザけるのも大概にしろよ?」
鈴木:「同じ魔女にも拳を振り上げるとは……」
エレーナ:「女の世界……特に、魔女の世界なんてこんなもんよ。マリアンナは上手く逃げたね」
鈴木:「稲生先輩は……あ、いや、いいや」
エレーナ:「運がいいってことだろ?まあ、突き詰めればそうだな」
[同日22:24.天候:晴 東京都江東区森下 都営地下鉄森下駅→ワンスターホテル]
〔森下、森下。都営新宿線は、お乗り換えです。4番線は、清澄白河行きです〕
電車が下車駅に到着する。
エレーナ:「ほら、シンシア。降りるぞ」
シンシア:「うん……」
エレーナがシンシアに肩を貸しながら電車を降りた。
鈴木:「エレベーターで上に上がろう」
エレーナ:「そうしよう。オマエ、意外と重いな」
シンシア:「うん……何とでも言ってくださ……ィック!」
鈴木:「俺も手伝おうか?」
エレーナ:「生きてこの駅から出られなくなっても知らんぜ?」
鈴木:「それもそうか。こういう時、魔法を使ってもいいんじゃないのか?」
エレーナ:「こんな人目に付く所でルゥ・ラが使えるか!」
鈴木:「人目に付く所で、ホウキに乗って飛んだりしてるじゃんか?」
エレーナ:「一応あれだって隠れてやってるんだからね」
鈴木:「そうかぁ???」
そしてどうにかこうにか、ホテルまで帰り着いた3人。
ロビーには……。
マルファ:「やあ、シンシアちゃん!ゴメンねぇ!」
マルファが上機嫌で出迎えた。
エレーナ:「マルファ先生、困りますよ。弟子を放ったからしにしてパチンコしに行くなんて!」
マルファ:「メンゴメンゴ!今度は皆も連れて行ってあげるからね!?」
エレーナ:「いや、結構です!」
鈴木:「俺も藤谷班長に連れて行かれるからなぁ……」
マルファ:「エレーナの面倒を看てくれた御礼w」
マルファは諭吉先生を1人ずつエレーナと鈴木に渡した。
エレーナ:「しょ、しょうがないですねぇ……」
さすが金銭欲の悪魔と契約しているエレーナ、すぐに篭絡された。
鈴木:「今はパチでも、なかなか5ケタは行かないと聞いてるんですけどね。やったのはパチだけじゃないですね?」
マルファ:「スロットもやったよ。楽しかった」
鈴木:「でしょうな」
マルファ:「さあさあ。シンシアちゃんはアタシが連れて行くから、後は任せて」
エレーナ:「お願いしますよ。ほら、シンシア。一応こんな自由人のギャンブラーでも、先生は先生だ。迷惑掛けんなよ?」
シンシア:「うん……」
マルファ:「じゃ、お休みー」
エレーナ:「おやすみなさい」
鈴木:「おやすみなさー!」
エレーナ:「アンタも寝なよ?」
鈴木:「まだ眠くないよ。エレーナ、もう一杯やろうよ?幸いこのホテルにビールの自販機あるし」
エレーナ:「アタシゃいいよ。疲れたよ。あの2人の相手で」
鈴木:「えー?」
エレーナ:「じゃ、そういうことで。おやすみ」
エレーナは地下1階の自分の部屋に戻って行った。
エレーナ:(鈴木のヤツ、顕正会時代は男の友達も殆どいなかったって言ってたな。男の友達だけできて終わるタイプか、ありゃ。少なくとも、あのトークで落ちる女はいないな……)
エレーナはそんなことを考えながら、自分の部屋に入る。
エレーナ:「おっ、そうだ。稲生氏達は今、何をしているだろう?」
エレーナは机の上に置いた水晶球に手を翳した。
すると、ワンスターホテルよりも高級なカーペットが敷かれたホテルの廊下が現れる。
エレーナ:「ん?何だぜ?」
すると稲生とマリアがやってきた。
エレーナ:「おおーっ!」
稲生とマリアが同じ部屋に入って行った。
エレーナ:「こ、これはついにヤっちゃうパティーン!?」
エレーナ、すぐに客室内の映像に切り換えようとした。
だが……。
マリア:「見てんじゃねー!」
エレーナの監視に気づいたか、正にカメラ目線でツッコミを入れてきたマリア。
エレーナ:「ちっ、バレたか」
急いで映像を切るエレーナ。
エレーナ:「だけど一瞬見えたあの部屋、ダブルベッドが1つしか無かった。イリーナ先生とマリアンナがダブルベッドで寝るとは思えないから、あれは恐らく稲生氏の部屋。そこに2人して入って行ったということは……うひひひひひ!」
魔女の世界も女の世界であるが故にゴシップが多く飛び交うことはよくあるのだが、少なくともこういう内容(男女関係)に嫌悪を示す魔女が多い中、エレーナがどうして異端者扱いされるのか、理由が分かるというものである。
〔まもなく2番線に、両国方面、清澄白河行き電車が到着します。ドアから離れて、お待ちください〕
エレーナ:「寿司奢ってくれるって言うから、どこの店かと思ってたけど……。まさか、地下鉄で移動するとは思わなかったよ」
鈴木:「顕正会の時、1度だけ行ったことがある。あの時は“魔の通力”で羽振りが良かったな」
エレーナ:「今もだろ?」
鈴木:「違う。当時の隊長。松本はてんでダメだったな」
エレーナ:「松本って誰?」
鈴木:「当時のクソ支隊長」
電車が風を巻き起こして入線してきた。
鈴木:「よしよし。清澄白河止まりだから空いてるな」
因みに鈴木、エレーナ、シンシア共に顔が赤いのは寿司と一緒にそれなりのアルコールも入れたからか。
〔うえのおかちまち、上野御徒町。銀座線、日比谷線、JR線はお乗り換えです。2番線は両国方面、清澄白河行きです〕
特にシンシアが足取りがおぼつかなくなるほど飲んでいた。
いや、酒の量は五十歩百歩だが、シンシアの方が弱いとか。
ホームドアと電車のドアが開き、乗り込んだ3人は空いている朱色の座席に座った。
短い発車メロディの後で、すぐにドアが閉まる。
エレーナ:「シンシア、寝るなよ?終点まで乗るんじゃないんだから」
シンシア:「Year...」
自動通訳魔法具がOFFになるほどの酩酊ぶり。
そんな魔女をよそに電車は発車する。
〔都営大江戸線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は両国方面、清澄白河行きです。次は新御徒町、新御徒町。つくばエクスプレス線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔This train is bound for Kiyosumi-Shirakawa.The next station is Shin-Okachimachi.Please change here for the Tsukuba Express line.〕
鈴木:「俺の話、どうだったかな?」
エレーナ:「センス無いね」
鈴木:「マジか……。こう見えても正証寺じゃ、『明るくなったね』とか『冗談上手くなったね』とか言われるようになったんだけどなぁ……」
エレーナ:「アンタ、非モテの童貞だろ?そういうヤツは、ヘタに女に冗談言わない方がいいよ?」
鈴木:「そ、そうなのか?」
エレーナ:「だから稲生氏は冗談言わないだろ?」
鈴木:「稲生先輩は俺と違って真面目な人だから……」
エレーナ:「いやいや、あれでいいんだよ。取りあえず、マリアンナみたいなヤツは落ちる」
鈴木:「最近知ったけど、稲生先輩もマリアさんを口説くのに相当苦労したみたいだな?」
エレーナ:「相当の霊力が無かったら、とっくに死んでるよ」
鈴木:「マリアさん、そんなことするような人には見えないけど……」
エレーナ:「いや、するよ、あいつ。今でも」
鈴木:「今でも?」
エレーナ:「アンタ、命拾いしてるんだからな?私に目移りしたから良かったものの、そうじゃなかったら今頃は地獄行きだぞ?」
鈴木:「ううっ……」
エレーナ:「もしアンタが貧乏人、或いは金払いの悪いヤツだったら、今度はアタシに殺されてたと思うよ?」
鈴木:「世の中、カネだからな」
エレーナ:「そういう理解があるから、こうして生かしてやってるんだ。ありがたく思えよ?」
鈴木:「あざざざざざーっす!」
エレーナ:「“あっつぁの顕正会体験記”か!」
鈴木:「だって俺、あそこに出演してたんだぜ?」
エレーナ:「あー、もう!メタフィクションはいいから!」
と、その時だった。
エレーナの胸倉を掴む者がいた。
それはシンシア。
酩酊して赤く濁った眼でエレーナを睨みつける。
シンシア:「うるさいんだけど?」
その目は嫉妬にも憎悪にも似たものだとエレーナはすぐに分かった。
エレーナ:「あ、ああ。分かった。悪かった」
エレーナが素直に謝ったものだから、シンシアはすぐに手を放した。
エレーナ:「見ろ。すぐ近くに怖い魔女がいるんだからな?フザけるのも大概にしろよ?」
鈴木:「同じ魔女にも拳を振り上げるとは……」
エレーナ:「女の世界……特に、魔女の世界なんてこんなもんよ。マリアンナは上手く逃げたね」
鈴木:「稲生先輩は……あ、いや、いいや」
エレーナ:「運がいいってことだろ?まあ、突き詰めればそうだな」
[同日22:24.天候:晴 東京都江東区森下 都営地下鉄森下駅→ワンスターホテル]
〔森下、森下。都営新宿線は、お乗り換えです。4番線は、清澄白河行きです〕
電車が下車駅に到着する。
エレーナ:「ほら、シンシア。降りるぞ」
シンシア:「うん……」
エレーナがシンシアに肩を貸しながら電車を降りた。
鈴木:「エレベーターで上に上がろう」
エレーナ:「そうしよう。オマエ、意外と重いな」
シンシア:「うん……何とでも言ってくださ……ィック!」
鈴木:「俺も手伝おうか?」
エレーナ:「生きてこの駅から出られなくなっても知らんぜ?」
鈴木:「それもそうか。こういう時、魔法を使ってもいいんじゃないのか?」
エレーナ:「こんな人目に付く所でルゥ・ラが使えるか!」
鈴木:「人目に付く所で、ホウキに乗って飛んだりしてるじゃんか?」
エレーナ:「一応あれだって隠れてやってるんだからね」
鈴木:「そうかぁ???」
そしてどうにかこうにか、ホテルまで帰り着いた3人。
ロビーには……。
マルファ:「やあ、シンシアちゃん!ゴメンねぇ!」
マルファが上機嫌で出迎えた。
エレーナ:「マルファ先生、困りますよ。弟子を放ったからしにしてパチンコしに行くなんて!」
マルファ:「メンゴメンゴ!今度は皆も連れて行ってあげるからね!?」
エレーナ:「いや、結構です!」
鈴木:「俺も藤谷班長に連れて行かれるからなぁ……」
マルファ:「エレーナの面倒を看てくれた御礼w」
マルファは諭吉先生を1人ずつエレーナと鈴木に渡した。
エレーナ:「しょ、しょうがないですねぇ……」
さすが金銭欲の悪魔と契約しているエレーナ、すぐに篭絡された。
鈴木:「今はパチでも、なかなか5ケタは行かないと聞いてるんですけどね。やったのはパチだけじゃないですね?」
マルファ:「スロットもやったよ。楽しかった」
鈴木:「でしょうな」
マルファ:「さあさあ。シンシアちゃんはアタシが連れて行くから、後は任せて」
エレーナ:「お願いしますよ。ほら、シンシア。一応こんな自由人のギャンブラーでも、先生は先生だ。迷惑掛けんなよ?」
シンシア:「うん……」
マルファ:「じゃ、お休みー」
エレーナ:「おやすみなさい」
鈴木:「おやすみなさー!」
エレーナ:「アンタも寝なよ?」
鈴木:「まだ眠くないよ。エレーナ、もう一杯やろうよ?幸いこのホテルにビールの自販機あるし」
エレーナ:「アタシゃいいよ。疲れたよ。あの2人の相手で」
鈴木:「えー?」
エレーナ:「じゃ、そういうことで。おやすみ」
エレーナは地下1階の自分の部屋に戻って行った。
エレーナ:(鈴木のヤツ、顕正会時代は男の友達も殆どいなかったって言ってたな。男の友達だけできて終わるタイプか、ありゃ。少なくとも、あのトークで落ちる女はいないな……)
エレーナはそんなことを考えながら、自分の部屋に入る。
エレーナ:「おっ、そうだ。稲生氏達は今、何をしているだろう?」
エレーナは机の上に置いた水晶球に手を翳した。
すると、ワンスターホテルよりも高級なカーペットが敷かれたホテルの廊下が現れる。
エレーナ:「ん?何だぜ?」
すると稲生とマリアがやってきた。
エレーナ:「おおーっ!」
稲生とマリアが同じ部屋に入って行った。
エレーナ:「こ、これはついにヤっちゃうパティーン!?」
エレーナ、すぐに客室内の映像に切り換えようとした。
だが……。
マリア:「見てんじゃねー!」
エレーナの監視に気づいたか、正にカメラ目線でツッコミを入れてきたマリア。
エレーナ:「ちっ、バレたか」
急いで映像を切るエレーナ。
エレーナ:「だけど一瞬見えたあの部屋、ダブルベッドが1つしか無かった。イリーナ先生とマリアンナがダブルベッドで寝るとは思えないから、あれは恐らく稲生氏の部屋。そこに2人して入って行ったということは……うひひひひひ!」
魔女の世界も女の世界であるが故にゴシップが多く飛び交うことはよくあるのだが、少なくともこういう内容(男女関係)に嫌悪を示す魔女が多い中、エレーナがどうして異端者扱いされるのか、理由が分かるというものである。