報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「帰途」 2

2021-10-15 20:17:40 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月1日14:24.天候:晴 東京都台東区上野 JR上野駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。「ご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、上野、上野です。低いホーム17番線に到着致します。お出口は、右側です。上野からのお乗り換えをご案内致します。常磐線下り……」〕

 私達を乗せた列車は定刻通り、宇都宮線を走行していた。
 結局リサは1度もトイレに行くことは無かった。
 どうやら、やっと腹具合は良くなったようである。
 尚、駆虫剤の効かないリサの回虫だが、下水処理場に流されて、そこで消毒されれば死ぬことが分かっている。
 なので、トイレで出しても、流して下水道に送れば問題は無い。
 列車や高速バスのトイレはタンクに溜める方式であるが、処理水に消毒剤を使用しており、これで対処も可能であるという。
 また、市販の駆虫剤は効かないものの、BSAAにおいて回復薬に指定されているグリーンハーブは駆虫可能という仮説も出ている。

 愛原:「リサ、腹は大丈夫か?」
 リサ:「うん。むしろ、いっぱい出したせいで少しお腹空いた」
 愛原:「食欲があるなら大丈夫だろう」

 列車は減速しながら、並走していた山手線や京浜東北線に別れを告げ、下り坂を進む。
 上野東京ラインに直通する場合は、線路が繋がっている高いホームに到着するが、上野止まりの場合は低いホームに到着する。
 低いホームは頭端式(櫛形)ホームになっており、行き止まりになっているからである。

〔うえの~、上野~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 

 列車がホームに止まり、ドアが開いた。
 ホームに到着自動放送が流れるが、あの有名な『上野おばさん』は引退してしまった。
 『上野おばさん』の本名は沢田敏子氏であり、早朝放送のラジオライブラリー“新・人間革命”のナレーションも務めていたことで有名である。
 折伏弘通が思うように進まず、苦悩する学会員に対し、主人公の山本伸一が励ますシーンは、かつての顕正会を彷彿とさせるものがある。

 高橋:「先生、ここからはどうやって?」
 愛原:「タクシーだよ。善場主任が、緊急にリサの検査をするっていうからさ」
 リサ:「えーっ!またー!?」

 リサはあからさまに嫌な顔をした。

 愛原:「そう言うなよ。もしかしたら、オマエの体に変化が起こっているのかもしれないんだから」
 リサ:「うぅ……」

 リサはガックリとうなだれた。
 こういう反応をする限りでは、普通の女の子なのだが……。

 

 高橋:「すると先生、姉ちゃんは前来たみたいに、移動診療車で来るってことですか?」
 愛原:「そうかもしれんな」

 動物の壁画が描かれていることで有名な中央改札口を出ると、正面口のタクシー乗り場に向かった。

 愛原:「早い!善場主任もう着いたって!」
 高橋:「マジっスか。じゃあ、あれっスか?事務所の方に行くって感じですか?」
 愛原:「うむ。そういうことになるなぁ……」

 タクシー乗り場から、客待ちしている個人タクシーに乗った。

 愛原:「墨田区の菊川1丁目までお願いします」
 運転手:「はい、ありがとうございます」

 タクシーが走り出すと、私は善場主任に再びメールを送った。
 すぐに返信があって、『慌てなくて良いので、安全最優先に来てください』とのことだった。

[同日15:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 前回はビルの正面入口のある新大橋通り上でタクシーを降りたが、今回は駐車場のある反対側に着けてもらった。
 すると案の定、駐車場には2トントラックタイプの救急車が止まっていた。
 しかしその救急車は、東京消防庁のものではない。

 愛原:「領収書お願いします」
 運転手:「はい、お待ちください」

 私はここでも現金で払い、領収書を受け取った。

 善場:「お疲れさまです。愛原所長」
 愛原:「お疲れ様です。善場主任」
 善場:「今回も、ありがとうございました。特に八王子では、お疲れ様でした」
 愛原:「いえいえ。テロリスト確保に協力できて良かったです」
 善場:「早速ですが、リサの臨検をしたいのですが、よろしいでしょうか」
 愛原:「はい。私は構いませんが……」

 すると、移動診療車の中から防護服を着た職員が数名降りて来た。

 リサ:「うぅ……って!?」

 リサはそのうちの1人が持っている、ある物を見て更に青ざめた。

 リサ:「何でお浣腸持ってるの!?」
 医療技師:「それは医療技師だからです」
 リサ:「ワケわかんないよーっ!」
 善場:「それではトイレへどうぞ」

 日本アンブレラの研究所では、他のリサ・トレヴァー同様、非人道的且つ卑猥な実験を受けさせられたリサであるが、さすがに浣腸は慣れていないもよう。
 他にも腹具合が悪くなった経緯などを聞かれた。

 善場:「そうですか……。一番怪しいのは、斉藤社長の昼食会で出た料理ですね」
 愛原:「でも、私達も同じ物を食べましたけど、何ともありませんよ?絵恋さんにも聞きましたが、特にこれといった異常は今起きていないそうです」
 善場:「斉藤社長の家で何か変わったことはありませんでしたか?」
 愛原:「私は特に……」
 リサ:「あ、そういえば、1階のトイレが珍しく和式だった」
 愛原:「和式!?そんなトイレあったか?」

 私は首を傾げた。

 愛原:「1階のトイレは俺も使わせて頂いたことがあったが、普通の洋式だったぞ?」
 高橋:「金持ちの家ですから、トイレがいくつかあるんじゃないスか?」
 愛原:「確かにお屋敷ではあるけど、敷地面積の関係で、横は狭いんだよ。といっても、ごく普通の一般家庭の家くらいの広さではあるけどな。だから斉藤家は縦に長い。長いから、エレベーターが付いてるわけだ」
 リサ:「地上3階建て、地下1階と屋上付き。屋上以外は各フロアに1つずつトイレがあるってサイトーが言ってた」
 愛原:「そうだよな。各フロア1個ずつだよな」

 地下室にもトイレがあるのは珍しいが、そのトイレは主に使用人達が使用している。

 愛原:「ということは、洋式と和式が2つってことは無いはずなんだが……」

 私は首を傾げた。

 愛原:「リサは和式トイレ使えたのか?」
 リサ:「うん。学校のトイレに和式はまだあるし、それに、アンブレラの研究所じゃ、よく和式トイレ使わされたから」
 愛原:「えっ、どうして?」
 善場:「和式トイレの方が、採尿や採便しやすいからですね」

 善場主任もまたリサ・トレヴァーだった人である。
 幸い彼女は人体改造されてからすぐにBSAAに救出された為、食人もしていないし、非人道的実験も受けていない。

 善場:「……まさか!?」

 そこで善場主任はハッと気づいた。

 善場:「愛原所長、すぐに斉藤社長に連絡を取ってください。そして、今リサの言った件について確認してください」
 愛原:「わ、分かりました!」

 私はすぐに自分のスマホを取り出し、それで斉藤社長のスマホに掛けてみた。

 
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“私立探偵 愛原学” 「帰途」

2021-10-15 15:20:45 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月1日13:40.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅→高崎線3032M列車1号車内]

 斉藤家からタクシーに乗り、大宮駅に向かう。
 往路と同じタクシー会社だった。
 駅から乗った時は偶然だっただろうが、斉藤家から乗る時はいつも同じタクシー会社なことから、法人契約をしているものと思われる。
 お抱え運転手の新庄さんが、新型コロナウィルス感染による長期休業を余儀なくされている為、斉藤社長は代わりにタクシー会社と契約してハイヤーで通勤している。
 大宮駅西口の手前の信号で止まった時、私の隣に座るリサがお腹を押さえた。
 斉藤社長の家を出る前、急な下り腹でトイレに行っていたリサだが、まだ調子が悪いらしい。
 高橋は、『飯の食い過ぎだ!』なんて言っていたが……。
 ようやく信号が青に変わり、タクシーは西口のタクシー乗り場で停車した。

 愛原:「現金で払います」

 斉藤社長からタクシーチケットはもらっていたが、ここでは使わず、私は財布を取り出した。

 運転手:「はい、ありがとうございます。1200円です」

 私が料金を払っている間、高橋が先に降りて、トランクから荷物を降ろしている。
 もちろん私は、領収書をもらうのを忘れない。
 こういうのは経費で落とせる。

 愛原:「よし、行くか。リサの腹具合も悪そうだし」
 高橋:「そうですね」

 タクシーを降りて、駅の中に入る。
 急がないとリサの腹の中で形成されたウィルスが暴れ出して、この駅でバイオハザードが起きるかもしれない。

 

 改札内コンコースに入って、リサをトイレに行かせた。

 愛原:「リサのヤツ、何か悪い物でも食ったのか?」
 高橋:「どうっスかね?虫食っても平気なヤツですよ?ただの食い過ぎじゃないかと思いますけど……」

 第1形態の時、リサは飛んでいる蝶や木に止まっている蝉を捕まえて食べたことがある。
 鬼形態だから平気だったのかもしれない。
 尚、寄生虫はこういう所から体内に入ったのではないかと言われる。

 愛原:「食べ過ぎなら、むしろ胃がやられるわけだから、吐き気とかだと思うがな……」
 高橋:「どうっスかね……」

 しばらくしてリサが戻って来た。

 リサ:「お待たせ」
 愛原:「ああ。大丈夫か?」
 リサ:「うん、何とか大丈夫」
 愛原:「そうか」

 私は一応、コンコース内にあるドラッグストアで購入した下痢止めをリサに渡した。

 愛原:「はい。これ飲んどけよ。オマエに効くかどうか分からないけど」
 リサ:「うん、ありがとう」
 高橋:「先生、何で帰りますか?」
 愛原:「京浜東北線で、えっちらおっちら帰ろうと思ったけど、少し急いだ方がいいかもな」

 これでリサの腹痛が治まればいいのだが、そうでない場合、善場主任に連絡する必要がある。
 その為にも、急いで都内に戻る必要が出て来た。

 愛原:「ちょうど、特急がある。これで帰ろう」

 私達は高崎線上りホームに向かった。

〔まもなく6番線に、特急“草津”32号、上野行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。この列車は、7両です。次は、浦和に止まります。グリーン車は4号車、自由席は1号車と2号車です〕

 高橋:「先生、特急券は?」
 愛原:「車内で買うさ」
 高橋:「分かりました」

 しばらくして、7両編成の特急列車がやってきた。
 651系といって、かつては常磐線を爆走していた特急車両である。
 今は海沿いではなく、山に向かって走る。
 これから乗るのは、山から下りて来た列車であるが。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。車内にお忘れ物なさいませんよう、ご注意ください。6番線の列車は、特急“草津”32号、上野行きです。ご利用には、特急券が必要です」〕

 この列車は土休日ダイヤ限定であり、平日は運転されない。
 つまり、それだけ週末は需要がある列車のはずなのだ。
 夏休みの時期で週末とあらば、本来は満席になるほど賑わうはずなのだろう。
 私もそうであるなら、あえて乗ろうとは思わなかった。
 やはりというべきか、哀れというべきか、コロナ禍による旅行自粛のせいで車内は空いていた。
 自由席は2両しか無いのだが、指定席はそれでも旅行を強行する乗客達が乗る。
 自由席は私達のような区間利用者が飛び込みで利用するのだろうが、それでも自由席は空いていた。

 愛原:「悪いが高橋は、前に乗ってくれないか?」
 高橋:「えっ、先生、そりゃあ……!?」
 愛原:「頼む」
 高橋:「わ、分かりました」

 もしかしたら、リサの体調に変化が起きているのかもしれない。
 いつもなら、リサと高橋を隣り合わせに乗せ(タクシーは除く)、私が1人で前に乗るのだが、今回は私がリサの隣に座ることにした。
 リサの体調変化を監視する為である。
 BSAAの取り決めに従い、先頭車に乗る。

 愛原:「これならトイレも付いているから、リサの腹具合が悪くなっても、すぐにトイレに行ける。リサ、その時はすぐに言うんだぞ?」
 リサ:「分かった。でも、今のところ大丈夫」

 リサは座席からテーブルを出すと、そこに自販機で買ったペットボトルの水を置き、それで下痢止めを飲んだ。

〔♪♪♪♪。「この電車は、特急“草津”32号、上野行きです。停車駅は浦和、赤羽、終点上野の順です。【中略】次は、浦和に止まります」〕

 それと私はスマホで善場主任にメールを送った。
 リサに何か変調があれば、すぐに連絡するように指示されていたので。
 例えそれが腹具合の悪化であっても、バイオハザード発生のスイッチに繋がる恐れがある。
 大げさかと思うかもしれないが、かつてはラスボスを張るほどの強さを誇る上級BOWを連れて歩くというのはそういうことなのである。

 車掌:「失礼致します。特急券はお持ちですか?」

 車内改札(検札)に来た車掌が話し掛けてきた。
 私が首を横に振ると、車掌は持っていた端末で特急券を発行した。
 これを車内補充券(通称、車補)という。
 私が前と隣にいる2人と一緒だと伝え、3人分の特急料金を払った。

 高橋:「『へっへっへ。社長さんがそんなにお金を持ち歩いちゃいけねぇよ』」

 私が高橋に特急券を渡そうとすると、高橋がそんなことを言い出した。

 愛原:「桃鉄か!」
 リサ:「『改札です。キップを拝見……』『車掌はスリの銀次の変装だった!』……だね」
 愛原:「桃鉄か!」

 尚、このスリの銀次は桃鉄シリーズでは有名キャラであるが、実は桃伝(桃太郎伝説)シリーズにも登場している。
 こちらでは銀次は料亭の息子という設定で、家出中にスリを働いていたが、桃太郎達に懲らしめられ、2度とスリはしないという誓約を立てるのであったが、桃鉄シリーズでは性懲りも無かったようだ。
 このスリの銀次にはモデルがいて、明治時代に実際に暗躍した東京のスリ組織の親分、仕立屋銀次であるという。
 桃鉄シリーズで暗躍したように、この仕立屋銀次も東京の電車や汽車を専門にスリを働いていたとのこと。
 さすがに車掌に化けることはなかったが、2等車(現在のグリーン車)に乗車してもおかしくないような紳士風の恰好をすることで、車掌や警察に怪しまれないようにしていたとのことだ(高価なものを盗み出したとしても、2等車に乗れるような紳士であれば、それを持っていたとしても怪しまれないという目論見もあったようだ)。
 尚、鬼退治に向かう桃伝内において、唯一人間として立ちはだかる敵キャラでもあった。

 愛原:「桃鉄は帰ってからやれ」
 リサ:「はーい」

 リサは笑って答えた。
 どうやら今のところ、腹具合は治まっているようである。
コメント (4)
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