報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「斉藤家探索終了」

2021-10-22 20:08:05 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月10日13:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家]

 地下1階を見せてもらった私は、再び1階に戻ると、応接室へ入った。

 高橋:「あっ、結構ゆっくりでしたね、先生?」
 愛原:「まあな」
 サファイア:「パールと御嬢様の忘れ物は纏めておきました。これをお持ちになってください」

 サファイアはペーパーバッグを2つ差し出した。

 愛原:「中身は何なの?」
 高橋:「替えの下着やら化粧品やら水着も入ってますよ?」
 愛原:「水着?あれ?水着ならもう持ってるんじゃないの?」

 まあ、だいたい知っている。
 絵恋さんはリサに見せびらかす為に、新しく買った最新トレンドの水着を持って行ったのだろう。
 そこをあえてリサが、『学校の水着も着てよ』と言ったのだ。
 リサに心酔している絵恋さんがリサの頼みを断れるはずがなく、それで用意するようパールに命じたのである。

 サファイア:「事情は分かりかねますが、御嬢様より、急きょ用意するように命ぜられたのです」
 愛原:「ふーん……」

 まあ、知ってる。
 それよりも……。

 愛原:「この家って、地下2階があるんですか?」
 サファイア:「いえ、無いと思いますが……」

 サファイアは首を傾げた。
 恐らくメイドさん単位では知らないのだろう。

 愛原:「このエレベーターの操作盤を開ける鍵って持ってますか?」
 サファイア:「いえ、持っておりません」
 愛原:「誰かが持っているのですか?」
 サファイア:「エレベーターの点検業者さんなら持っていると思いますが……」
 愛原:「それと、斉藤社長かな?」
 サファイア:「……御主人様ならお持ちかもしれませんが……。それがどうかなさったのですか?」
 愛原:「実はこの前、東京の初台で、エレベーターの点検業者に化けたテロリストに襲われましてね。ここの御宅にもエレベーターがある以上、点検業者は来るでしょう?」
 サファイア:「ええ、まあ……」
 愛原:「なので気を付けて頂きたいのですよ」
 サファイア:「かしこまりました。御忠告、ありがとうございます」

 初台で私達を襲ったテロリストが、エレベーターの点検業者を装い、管理人を呼び寄せたことまでは分かっている。
 なので、私の言葉にはウソは無い。

 愛原:「じゃあ高橋、そろそろ行こうか」
 高橋:「あ、はい」

 私は荷物を受け取ると、席を立った。
 再び灼熱の太陽が照り付ける中、駐車場に向かって歩く。

 高橋:「先生、もうよろしいんですか?」
 愛原:「表向きの用件は済んだ。にも関わらず長居をすれば、それだけで怪しまれるよ」
 高橋:「はあ……」

 駐車場に戻り、高橋が運転席に乗り込んでエンジンを掛ける。

 高橋:「熱っ!」

 案の定、炎天下に晒されていたNV200の車内は灼熱地獄と化していた。
 確かにこんな所に子供を放置したら死ぬに決まっている。
 私はそう考えながら、料金を投入した。
 もちろん、領収書を発行するのを忘れない。
 パチンコ店の駐車場も兼ねている為か、駐車場内の注意看板には、『子供の車内放置は厳禁です。時間に関わらず、発見次第警察に通報します』と書かれていた。

 高橋:「先生、見てくださいよ。パールのヤツ、下着まで迷彩柄っスよ」

 私が助手席に乗り込むと、高橋がバッグの隙間から中を覗いて言った。

 愛原:「オマエ、彼女の下着、他人にバラすなよ……」
 高橋:「先生ならOKっス」
 愛原:「それより早く行こう」
 高橋:「はい」

 高橋は車を出した。

 愛原:「あの家のエレベーター、三菱電機製だったな……」
 高橋:「はあ……」

 私はどうにかして、あのエレベーターの鍵を手に入れられないか考えた。
 マンションにあるのはオーチス製、事務所のビルはフジテックと、メーカーが合わない。

 愛原:「うーむ……」

[同日13:45.天候:晴 同市大宮区 パレスホテル大宮]

 再びパレスホテル大宮に戻った私達は、フロントに荷物を預けた。
 まだリサ達はプールで遊んでいるだろう。
 その間どうしようか迷っているうちに、私はホテルのエレベーターの方を見た。
 1つのエレベーターのドアが開けられ、そこに警備員と清掃員がいた。
 清掃員がカゴの中を清掃し、それに警備員が立ち会っているといった感じだ。
 警備会社は違うが、かつては私もあの制服を着て制帽を被って仕事をしていた。
 どうやら、カゴの中が汚れたらしい。
 客が飲み物か何かを零したのだろう。
 それで警備員がエレベーターを止めて、清掃員が清掃をしているということだ。

 清掃員:「はい、終わりました」
 警備員:「お疲れ様」

 警備員が腰のベルト(帯革という)に結着したポーチ(キーケースという)から、エレベーターのスイッチ・キーを取り出して、エレベーターを再稼働させた。

 愛原:「あっ!」
 高橋:「! どうしました、先生?!」
 愛原:「この手があったか!」

 それは、私が昔取った杵柄を活用する時であった。

 愛原:「高橋、まだ時間あるな?」
 高橋:「夕方には迎えに行く予定でしたからね。それがどうかしましたか?」
 愛原:「ちょっと、行く所があるんだ。車で乗せてってくれないか?」
 高橋:「それはいいですけど、遠いですか?」
 愛原:「いや、都内だ。それも、都心部」
 高橋:「それなら大丈夫っスよ。行きましょう」
 愛原:「ああ、頼む」

 私達は急いでホテルの駐車場に向かった。
 そして、再び車に乗る。

 高橋:「何かいいアイディアが浮かんだんですね?」
 愛原:「そうだ。もしかしたら、斉藤家のエレベーターの鍵が手に入るかもしれない」
 高橋:「先生、三菱電機にコネが?」
 愛原:「いや、無い。無いけど、鍵が手に入るかもしれない」
 高橋:「先生にお任せしますよ」

 高橋はそう言って、車を走らせた。
 そして駐車場を出て、公道に出る。

 高橋:「高速乗っていいっスか?」
 愛原:「いいとも」
 高橋:「じゃあ、新都心西から入ります。で、どこの出入口で降りれば?」
 愛原:「それじゃ呉服橋……あ、いや、あそこは確か廃止されたんだったか。そうなると……神田橋か……?」
 高橋:「そうですね。今、大手町の最寄りは神田橋か宝町か霞が関か……それくらいですよ」
 愛原:「車と道路に関しては、オマエに任せるよ。大手町の大手町中央ビルに行ければいい」
 高橋:「大手町中央ビルですね。分かりました」

 高橋は、まずは最寄りの首都高の入口に車を走らせた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「何度目かの大宮へ」

2021-10-22 14:38:27 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月10日13:00.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 パレスホテル大宮→斉藤家]

 事務所と家に戻った私達はその後、車で大宮に向かった。
 まずはパレスホテル大宮で、リサを降ろす。
 ホテルには斉藤絵恋さんだけでなく、専属メイドのパールもいた。
 パールも戦闘力はなかなか強いから、ボディガードとしても申し分無い。
 何しろ、女性ながら、暴走族リーダーだった高橋とタイマン張れるほどの強さだ。
 任せて安心だろう。
 ヴェルトロはリサの連行に失敗して痛手を負ったから、すぐにまた襲って来るとも思えなかった。

 愛原:「よし、行こう」
 高橋:「はい」

 リサを降ろした後、私は助手席に移動し、運転は再び高橋に任せる。
 次はいよいよ斉藤家だ。
 高級住宅街の中にあるとはいえ、道は案外狭い。
 一方通行の道があるだけなので、路駐は危険だろう。
 私達はパチンコ店の駐車場兼コインパーキングに車を止め、そこから徒歩で斉藤家を目指した。

 愛原:「これは……」

 斉藤家の入口付近は、多くの工事関係者で埋め尽くされていた。
 トイレの修理作業にしては、随分と大掛かりだ。

 警備員:「あ、すいません。只今、工事中ですので、関係者以外の方は……」

 門扉の前で立哨警戒中の警備員が私達を呼び止めた。
 工事現場のガードマンということもあって、この暑いのにヘルメットや蛍光チョッキを着ている。
 私が昔やっていた施設警備とは、労働条件も環境も雲泥の差だ。

 愛原:「もちろん、こちらの家の方に用があって来ました」

 私は斉藤社長の名刺を使わせてもらった。

 警備員:「失礼しました。それでは危険ですので、そちらからお通り下さい」
 愛原:「どうも」

 用があるのは本当だ。
 私達は、『パールの忘れ物』を取りに来たのだから。
 高橋と絵恋さんに頼んで、私達がこの家に行く口実を作ってもらった。
 ホテル滞在中の数日間くらいなら別にいいし、同じ市内なのだから、いつでも取りに行けるので、まあ別に大したことの無い忘れ物である。

 サファイア:「いらっしゃいませ」
 高橋:「よお。パールの忘れ物を取りに来たぜ」
 サファイア:「パールの忘れ物ですか?」
 愛原:「そう。そしてそれは、絵恋さんの忘れ物でもある」
 サファイア:「御嬢様の……」
 愛原:「おや?取りに伺うとパールさんから聞いていませんかな?」
 サファイア:「そう、ですね……。大至急確認しますので、少々お待ちください。どうぞ、中へ」
 愛原:「申し訳ないね」
 高橋:「邪魔するぜ」

 ここでパールは斉藤家には何の連絡も入れていない。
 幸い私達はここでは信用されているから、このようにすんなりと中へ入れてもらえる。
 絵恋さんや同僚のメイドの名前を出したことも大きい。
 私達は家の中に入り、応接室に通された。

 愛原:「社長はお仕事だね?」
 サファイア:「さようでございます」

 こんなド平日じゃ、会社役員は本社勤務だろう。
 休みなのは不規則勤務の労働者か、夏休み中の学生くらいだ。

 愛原:「外は暑かったなぁ、高橋?」
 高橋:「そうっスね。先生に冷たいお茶、頼むわ」
 サファイア:「かしこまりました」
 愛原:「あ、その前にちょっとトイレを借りたい。だけど、1階のトイレは使えないよね?」
 サファイア:「さようでございます。それでは2階のお手洗いを……」
 愛原:「いや、地下のトイレを借りたい」
 サファイア:「地下でございますか?しかし、地下のは……」
 愛原:「分かってる。本来はキミ達、使用人用のトイレなんだろ?いやね、地下にはプールがあるでしょ?」
 サファイア:「はい、ございますが……」
 愛原:「前にうちのリサがお世話になったからね。どういうプールなのか、一度見てみたいと思って」
 サファイア:「かしこまりました」

 私は高橋と別れ、ホームエレベーターに向かった。
 確かに1階のトイレは現在工事中の為、バリケードで塞がれていた。
 その中からはドドド、ガガガという重機の音がした。
 完全にリフォームするつもりでいるようだ。

〔ピンポーン♪ 下に参ります〕

 私はホームエレベーターに乗り込んだ。
 そして、地下1階のボタンを押す。

〔ドアが閉まります〕

 そして、私はふと気づいた。
 地下1階から屋上までのボタンは等間隔で並んでいるのに、地下1階と『開』のボタンの間に、ボタン1つ分のスペースがあることを……。
 しかも、その部分には鍵穴が付いていた。
 最初は操作盤の蓋を開ける鍵穴かと思ったが、どうも位置的に違うような気がする。
 地下1階の隣には1階のボタンがある。
 ということは、反対側にあるのは地下2階ということになる。
 この家の地下室は、地下1階までしかないとしか聞いてない。

〔ドアが開きます。ピンポーン♪ 地下1階です〕

 地下1階でエレベーターを降りると、まずはガレージがある。
 そこには、光岡自動車のガリューが止まっていた。
 絵恋さんを送迎するのに使われる車だが、今は専属運転手の新庄さんが休業中なので、この車も眠ったままになっている。
 あとは黒塗りの高級ミニバン。
 善場主任達が乗っているものと同じだ。
 乗車人数が多いと、これが使われる。
 もう一台は、大富豪の家には似つかわしくない軽ワゴン車。
 これはメイドさん達が買い物に行く時などに使われるそうだ。
 斉藤社長は、今はタクシー会社と契約したハイヤーで通勤しているから、今稼働している車は無い。
 奥の方に行くと、プールがある。
 このプールで、絵恋さんとリサが遊んだわけだ。
 そして、その隣には使用人控室。
 使用人達が地下室で寝起きするのは、実はデフォである。

 愛原:「ここがトイレね……」

 確かに地下1階のトイレは、地上階のそれと比べれば殺風景だった。
 洋式トイレが1つだけであり、和式に切り替わる構造ではない。
 私が調べたいのは、1階のトイレの下に伸びる配管。
 1階のトイレの場所は、だいたい記憶している。
 それからすると、配管は……。

 愛原:「なるほど……」

 白井画廊のように、壁の中を通っているようだった。
 もしもリサの言う通り、和式トイレの排泄物処理法が、『穴が開いて、そのまま下に落ちる』タイプなのであれば、配管は真っ直ぐ下に伸びているはずだ。
 この階をグルッと見て回ったが、特に配管らしき物は見つからなかった。
 ということは、壁の中を通って、更に下に伸びているということになる。
 地下1階にもトイレがあることから、それ自体は何ら不思議なことではない。
 問題は、この下にどうやって行けるかであった。
 取りあえず、一旦戻ることにした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする