報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「夏の埼玉」

2021-10-11 19:58:27 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月1日10:40.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]

〔まもなく終点、大宮、大宮。お出口は、左側です。新幹線、高崎線、宇都宮線、埼京線、川越線、京浜東北線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 長大なトンネルをいくつも通過して、電車は大宮駅に近づいた。
 普段は貨物列車しか走行しない貨物線を定期的に走る数少ない電車なだけに、テロリストからは標的にされずに済んだ。
 もっとも、こういうトンネルこそ、いくつかミステリーのネタになりそうなものだ。
 電車は武蔵野線と湘南新宿ラインを繋ぐトンネルや渡り線を通過し、湘南新宿ラインを走行していた。
 途中、与野やさいたま新都心といった京浜東北線の駅を通るが、こちら側にはホームが無いので通過となる。

〔「ご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、大宮、大宮です。到着ホームは3番線、お出口は左側です。……」〕

 硬い座席に腰かけていたこともあって、少し腰が痛くなる。
 電車は副線ホームに入線する為、複雑なポイントを渡って、ゆっくりとホームに入線した。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮、大宮、終点です。お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。3番線の電車は、回送となります。ご乗車できませんので、ご注意ください」〕

 私達は電車を降りた。
 再び蒸し暑い所に放り出されることになる。
 ホームはそうだったが、改札口のあるコンコースはそうでもなかった。
 日曜日だが人は多い。
 とてもコロナ禍だとは思えないほどだ。
 都内では緊急事態宣言が出ているというのに……。

 リサ:「見て、先生。テレビ局」
 愛原:「ん?」

 駅の外に出てタクシー乗り場に向かい、そこでタクシーを待つ客の列に並ぶと、リサがバスプールの方を指さした。
 どうやら、リポーターが道行く人にインタビューをしているようである。
 で、2人連れの若い女の子2人がインタビューを受けていた。

 リポーター:「今日はどこから来ましたか?」
 女の子:「熊谷です」
 リポーター:「明日から緊急事態宣言が発出されますが、どう思いますか?」
 女の子:「なもんで、今日のうちに出掛けとこうと思って大宮に来ましたー」

 そういうことか!
 東京都は既に緊急事態宣言が出ているが、埼玉県などの隣県は明日からである。
 駆け込み外出か!

 高橋:「先生、俺達の番ですよ」
 愛原:「お、おー」

 私達は黒塗りセダンのタクシーに乗った。
 高橋にはいつもの通り、助手席に乗ってもらう。
 もっとも、大宮駅を発着するタクシーの9割以上が黒塗りなのだが。
 私が行き先を告げると、タクシーが走り出した。

 愛原:「ん?」

 私はふと、これから向かう斉藤家のことを考えた。
 斉藤家にも、いくつか絵画が飾ってある。
 絵画に関してはズブの素人の私には、その絵がどれだけ価値のあるものなのかは分からない。
 だが、セレブの家らしく、それなりの価値はありそうな絵画が飾れていたことを思い出した。

 愛原:「ねぇ、絵恋さん」
 絵恋:「何ですか?」
 愛原:「キミの家、絵が何枚か飾られてるでしょ?」
 絵恋:「そうですけど?」
 愛原:「あの絵はキミのお父さんが購入したの?」
 絵恋:「……と、思いますけど……。ああ、あの白井画廊ってことはないですよ。私もたまに、画家の個展に連れて行ってもらうことがあるんですけど、父はそこで気に入った絵を購入するもので……。どこかの画廊に行って購入することはないです」

 中には財テクで絵画を購入するセレブもいるようだが、斉藤社長はそういうタイプではないことは知っている。
 例え無名な画家でも、レベルの高い作品は存在するもので、斉藤社長はそういった所で安く購入するのだろう。
 とはいえ、実際に絵画の購入などを行っているのだから、直接白井画廊のことは知らなくても、社長の人脈で探すことはできないかと思ったのだ。

 愛原:「今日はお父さんいるよね?」
 絵恋:「ええ。日曜日ですから」
 愛原:「よし」

[同日11:00.天候:晴 同市中央区上落合 斉藤家]

 タクシーは無事に斉藤家の前に着いた。
 高級住宅街の一画にあり、周辺の家々もそうだが、警備会社のステッカーを貼っている。
 斉藤家もそうだったが、ここにはテロリストより恐ろしいメイドさん達がいるからな……。

 絵恋:「ここは私が払いますので」

 絵恋さんは父親から預かったと思われるゴールドカードは使わず、クレジット会社から発行されているタクシーチケットを使用した。
 これとて、父親からもらったものだろう。
 いざとなったら、これで帰れるようにと渡しているのだ。
 今回、私達はそれに便乗させてもらったことになる。
 支払いは絵恋さんに任せ、私と高橋は先に降りて、トランクから絵恋さん達の荷物を降ろした。

 ダイヤモンド:「お帰りなさいませ、御嬢様」

 メイドさんの1人が出迎えた。
 斉藤家お抱えのメイドさんはローテーションである。
 今日のパーラーメイド(接客係)は、一番背の高いダイヤモンドのようだ。
 斉藤家お抱えのメイドさん達には、メイドネームが付けられていて、宝石の名前を名乗っている。
 本名に因んで付けられており、確かダイヤモンドは金剛寺さんと言ったか。
 ダイヤモンドの和名は金剛だから。

 ダイヤモンド:「いらっしゃいませ、愛原様」
 愛原:「こんにちは。お邪魔します」
 絵恋:「さぁさぁ、リサさん、上がって上がって!もう帰さないわ!」(≧∇≦)
 高橋:「おう、そうしてくれ。俺達は報酬もらったら帰るからよ。じゃ、頼んます」
 リサ:「いや、私も帰る」
 絵恋:「ええっ、そんなぁ……!」( ;∀;)
 ダイヤモンド:「愛原様、御主人様がお呼びです。応接間まで、ご案内させて頂きます」
 愛原:「そうか。実は私も、社長と話したいことがあるんだ。ちょうど良かった」
 高橋:「お供します!」
 ダイヤモンド:「いえ、高橋様は……」
 高橋:「あぁ?何だァ?俺はダメだってのか、あぁ?!」
 愛原:「おいおい、高橋……」

 高橋に凄まれても怯まないダイヤモンド。
 ダイヤモンドはあくまで涼し気な顔で言った。

 ダイヤモンド:「高橋様は、パールが御相手致します」
 パール:「マサ……やっと会えたね……!」( ̄ー ̄)
 高橋:「げっ、パール!?いたのかよ!?」
 パール:「マサはこっちに……」

 ガシッ!と掴まれ、ズールズールと引きずられて行った高橋だった。

 高橋:「先生、助けて!」
 愛原:「お達者で~」
 絵恋:「さ、邪魔者もいなくなったし、リサさん、私の部屋まで来て」
 リサ:「分かった」
 ダイヤモンド:「後でオパールが冷たいジュースをお持ちしますわ」
 絵恋:「よろしくね」

 1人になった私は、ダイヤモンドの後をついて応接間に向かった。

 愛原:「ダイヤモンドがパーラーメイド。パールは?」
 ダイヤモンド:「本日はハウスメイド(掃除係)でございます」
 愛原:「オパールは?」
 ダイヤモンド:「キッチンメイド(料理係)でございます」

 一応の役割分担はあるものの、1人が手が空いて、もう1人が忙しい場合は手伝うこともある。
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“愛原リサの日常” 「一夜明けて(八王子)」

2021-10-11 11:12:08 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月1日07:00.天候:晴 東京都八王子市 京王プラザホテル八王子12F客室]

 枕元のアラームが鳴って、リサはアラームを止めた。

 リサ:「ん……」

 リサが目が覚めると、すぐ横には絵恋が寝ていた。
 2人の少女はダブルベッドに寝ていたのだ。

 リサ:「サイトー、起きて。時間」
 絵恋:「んん……」

 昨夜の事があった為、リサ達はもちろんのこと、愛原達も部屋を移ることになった。
 ホテル側の計らいで、ワンランク上の部屋(スーペリア)に移ることができた。
 ダブルベッドだが、ホテル側は『ワイドシングル』と称している。
 ダブルベッドをシングルユースで使用する想定だったのだろう。
 もちろん、2人宿泊も可能だ。
 ツインにしなかったのは、何も空いていなかったからではなく、絵恋の恐怖心を抑える為である。
 昨夜、突入してきたテロリストに一瞬でも人質にされたからだ。
 幸いあの後、また別のテロリストが突入してくることはなく、また、リサも暴走することはなく、こうして無事に朝を迎えているというわけだ。
 2人はホテル備え付けの浴衣を着ていた。
 リサの場合、昨日着ていた私服は変化の時に破れてしまったので、昨夜洗濯したてのジャージを着る他無い。
 制服はまだホテルのランドリーサービスに出している為。
 リサは先に起きると、バスルームに向かった。
 バスルームの造りは、昨夜までいたスタンダードと変わらない。
 スーペリアは部屋とベッドが少し広くなっただけのようである。
 ただ、高層階に移動することはできたが。

[同日07:30.天候:晴 同ホテル2F レストラン“ル・クレール”]

 朝の身支度を終えた2人は、愛原達と合流して朝食会場に向かった。

 愛原:「私服はまた後で買ってやるから、チェックアウトまで我慢してくれな?」
 リサ:「うん、いい」
 高橋:「『ジャージはドレスコード的にアウトです』なんて言われたりしてな?」
 リサ:「むー……」
 絵恋:「その時には、これでも見せるといいわ」

 絵恋は財布の中から、アメリカンエキスプレスのゴールドカードを取り出した。

 愛原:「社長からの借り物でしょ?ダメダメ」
 高橋:「とある大魔法使いのお師匠さんみたいに、プラチナカードじゃなきゃな」
 リサ:「何の話?」

 朝食会場のレストランに着く。
 そこの入口にもスタッフがいたが、リサの服装については特に何も言われなかった。

 リサ:「大丈夫だったよ?」
 高橋:「おっかしいなぁ!あぁ?」
 愛原:「お前のラフな格好も大概だぞ」
 高橋:「さ、サーセン!」

 朝食は夕食と違ってカジュアルで、このホテルの飲食代の中では安い方だからだろう。

 リサ:「このオムレツ、ふわふわ!」
 絵恋:「うちのサファイアが作るとこんな感じね」

 昨夜はせっかくの夕食をテロリストにブチ撒けられ、ガチギレしたリサであったが、朝食はそんな邪魔が入らず、舌鼓を打つリサであった。
 尚、ヤング・ホーク団が後に開催した『反省会』では、『今後、BOWを襲撃する際は食事直後にするように』という結論が出されたとかいないとか。

 愛原:「今日は絵恋さんを埼玉の家まで送って行く」
 高橋:「マジっスか?」
 愛原:「斉藤社長からの依頼だ。ちゃんと報酬も出る」
 高橋:「なるほど。それなら……」
 リサ:「さすがに怖い思いさせた。サイトーは早く家に帰らせるべき」
 絵恋:「リサさんと一緒なら、光届かぬ暗黒の闇の底まで行くわ!」
 リサ:「それは私が楽しくない」

 最近の“バイオハザードシリーズ”を見て頂ければ分かると思うが、実は最近のシリーズだとボス戦の殆どが明るい所で行われている。
 ゴシックホラーは払しょくされ、サイエンスホラーに路線を絞っていると分かる。

 高橋:「姉ちゃんはさすがに休みですか?」
 愛原:「そうだろう。昨夜の件があって、ほぼ徹夜状態だから、さすがに今日は休まないとな」
 高橋:「それもそうですね」

 もちろん今日のことは、既に善場主任は伝えてある。
 仮に斉藤社長からの依頼が無くても、愛原はそうするつもりでいた。

[同日09:00.天候:晴 同ホテル1Fフロント]

 チェックアウトする時、クリーニングに出していたリサの制服が戻って来た。

 リサ:「早速着替えて来る」

 リサはクリーニングされたばかりの制服を手に、トイレに向かった。

 絵恋:「私も行く」

 エレベーターホールの向こう側にあるトイレに行くと、そこでリサはジャージから制服に着替えた。
 絵恋は最初から制服を着ている。

 リサ:「これでよし」
 絵恋:「変化して破かないでね」
 リサ:「努力する」

 少なくとも第1形態までなら、辛うじて人の姿を保っているので、そのような懸念は無い。

[同日09:45.天候:晴 同市内 JR八王子駅→中央快速線2635M電車1号車内]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の3番線の電車は、9時50分発、武蔵野線直通、“むさしの”号、大宮行きです。この電車は4つドア、8両です。次は、豊田に止まります〕

 JR八王子駅に移動したリサ達。

 高橋:「こういう電車があるんですか。さすがは先生ですね」
 愛原:「これなら乗り換え無しで行ける。もっとも、武蔵野線の電車が来るだけなんだがな」

 かつては特急用の車両や2ドア・ボックスシート車両で運転されたこともあったが、今は武蔵野線で運用されている通勤車両が充当されるのみである。

〔まもなく3番線に、当駅始発、武蔵野線直通、“むさしの”号、大宮行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。この電車は4つドア、8両です。次は、豊田に止まります〕

 

 8両編成の電車がやってくる。
 副線ホームに入るからか、その入線速度はゆっくりとしたものである。
 ドアが開くと、リサは愛原達に続いて乗務員室後ろの6人席に座った。
 同じ形式でも、中距離電車として設計された方は4人席なのに対し、通勤用としては6人掛けである。

〔この電車は中央快速線、武蔵野線直通、“むさしの”号、大宮行きです。停車駅は豊田、日野、立川、国立、新小平、新秋津、東所沢、新座、北朝霞、終点大宮の順です〕

 愛原:「因みに長いトンネルをいくつも通るから」
 リサ:「ええっ?」

 その為、抵抗制御の唸り声を上げる103系で運転されていた頃は、トンネル内ではほぼ車内放送が聞こえなかったという(鉄道系テクノユニットバンド“スーパーベルズ”も、その様子を再現している)。
 それよりはモーター音が静かなはずの205系でも改善されず(これは、りんかい線でも同様。特にトンネル走行且つカーブの時は更にうるさいので、車掌は放送を止めたほど)、ようやくインバータ制御且つ自動放送が採用された現世代の車両で改善された。

 愛原:「逆に言えば、貨物線を走るような電車だ。外国のテロ組織には、このルートは分かるまい」

 リサを狙うテロ組織が欧州系で良かった。
 これが中朝系となると、そうもいかなくなるだろう。
 中朝系のスパイなど、そこかしこにいるからである。
コメント (3)
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