[8月1日10:40.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]
〔まもなく終点、大宮、大宮。お出口は、左側です。新幹線、高崎線、宇都宮線、埼京線、川越線、京浜東北線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
長大なトンネルをいくつも通過して、電車は大宮駅に近づいた。
普段は貨物列車しか走行しない貨物線を定期的に走る数少ない電車なだけに、テロリストからは標的にされずに済んだ。
もっとも、こういうトンネルこそ、いくつかミステリーのネタになりそうなものだ。
電車は武蔵野線と湘南新宿ラインを繋ぐトンネルや渡り線を通過し、湘南新宿ラインを走行していた。
途中、与野やさいたま新都心といった京浜東北線の駅を通るが、こちら側にはホームが無いので通過となる。
〔「ご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、大宮、大宮です。到着ホームは3番線、お出口は左側です。……」〕
硬い座席に腰かけていたこともあって、少し腰が痛くなる。
電車は副線ホームに入線する為、複雑なポイントを渡って、ゆっくりとホームに入線した。
〔「ご乗車ありがとうございました。大宮、大宮、終点です。お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。3番線の電車は、回送となります。ご乗車できませんので、ご注意ください」〕
私達は電車を降りた。
再び蒸し暑い所に放り出されることになる。
ホームはそうだったが、改札口のあるコンコースはそうでもなかった。
日曜日だが人は多い。
とてもコロナ禍だとは思えないほどだ。
都内では緊急事態宣言が出ているというのに……。
リサ:「見て、先生。テレビ局」
愛原:「ん?」
駅の外に出てタクシー乗り場に向かい、そこでタクシーを待つ客の列に並ぶと、リサがバスプールの方を指さした。
どうやら、リポーターが道行く人にインタビューをしているようである。
で、2人連れの若い女の子2人がインタビューを受けていた。
リポーター:「今日はどこから来ましたか?」
女の子:「熊谷です」
リポーター:「明日から緊急事態宣言が発出されますが、どう思いますか?」
女の子:「なもんで、今日のうちに出掛けとこうと思って大宮に来ましたー」
そういうことか!
東京都は既に緊急事態宣言が出ているが、埼玉県などの隣県は明日からである。
駆け込み外出か!
高橋:「先生、俺達の番ですよ」
愛原:「お、おー」
私達は黒塗りセダンのタクシーに乗った。
高橋にはいつもの通り、助手席に乗ってもらう。
もっとも、大宮駅を発着するタクシーの9割以上が黒塗りなのだが。
私が行き先を告げると、タクシーが走り出した。
愛原:「ん?」
私はふと、これから向かう斉藤家のことを考えた。
斉藤家にも、いくつか絵画が飾ってある。
絵画に関してはズブの素人の私には、その絵がどれだけ価値のあるものなのかは分からない。
だが、セレブの家らしく、それなりの価値はありそうな絵画が飾れていたことを思い出した。
愛原:「ねぇ、絵恋さん」
絵恋:「何ですか?」
愛原:「キミの家、絵が何枚か飾られてるでしょ?」
絵恋:「そうですけど?」
愛原:「あの絵はキミのお父さんが購入したの?」
絵恋:「……と、思いますけど……。ああ、あの白井画廊ってことはないですよ。私もたまに、画家の個展に連れて行ってもらうことがあるんですけど、父はそこで気に入った絵を購入するもので……。どこかの画廊に行って購入することはないです」
中には財テクで絵画を購入するセレブもいるようだが、斉藤社長はそういうタイプではないことは知っている。
例え無名な画家でも、レベルの高い作品は存在するもので、斉藤社長はそういった所で安く購入するのだろう。
とはいえ、実際に絵画の購入などを行っているのだから、直接白井画廊のことは知らなくても、社長の人脈で探すことはできないかと思ったのだ。
愛原:「今日はお父さんいるよね?」
絵恋:「ええ。日曜日ですから」
愛原:「よし」
[同日11:00.天候:晴 同市中央区上落合 斉藤家]
タクシーは無事に斉藤家の前に着いた。
高級住宅街の一画にあり、周辺の家々もそうだが、警備会社のステッカーを貼っている。
斉藤家もそうだったが、ここにはテロリストより恐ろしいメイドさん達がいるからな……。
絵恋:「ここは私が払いますので」
絵恋さんは父親から預かったと思われるゴールドカードは使わず、クレジット会社から発行されているタクシーチケットを使用した。
これとて、父親からもらったものだろう。
いざとなったら、これで帰れるようにと渡しているのだ。
今回、私達はそれに便乗させてもらったことになる。
支払いは絵恋さんに任せ、私と高橋は先に降りて、トランクから絵恋さん達の荷物を降ろした。
ダイヤモンド:「お帰りなさいませ、御嬢様」
メイドさんの1人が出迎えた。
斉藤家お抱えのメイドさんはローテーションである。
今日のパーラーメイド(接客係)は、一番背の高いダイヤモンドのようだ。
斉藤家お抱えのメイドさん達には、メイドネームが付けられていて、宝石の名前を名乗っている。
本名に因んで付けられており、確かダイヤモンドは金剛寺さんと言ったか。
ダイヤモンドの和名は金剛だから。
ダイヤモンド:「いらっしゃいませ、愛原様」
愛原:「こんにちは。お邪魔します」
絵恋:「さぁさぁ、リサさん、上がって上がって!もう帰さないわ!」(≧∇≦)
高橋:「おう、そうしてくれ。俺達は報酬もらったら帰るからよ。じゃ、頼んます」
リサ:「いや、私も帰る」
絵恋:「ええっ、そんなぁ……!」( ;∀;)
ダイヤモンド:「愛原様、御主人様がお呼びです。応接間まで、ご案内させて頂きます」
愛原:「そうか。実は私も、社長と話したいことがあるんだ。ちょうど良かった」
高橋:「お供します!」
ダイヤモンド:「いえ、高橋様は……」
高橋:「あぁ?何だァ?俺はダメだってのか、あぁ?!」
愛原:「おいおい、高橋……」
高橋に凄まれても怯まないダイヤモンド。
ダイヤモンドはあくまで涼し気な顔で言った。
ダイヤモンド:「高橋様は、パールが御相手致します」
パール:「マサ……やっと会えたね……!」( ̄ー ̄)
高橋:「げっ、パール!?いたのかよ!?」
パール:「マサはこっちに……」
ガシッ!と掴まれ、ズールズールと引きずられて行った高橋だった。
高橋:「先生、助けて!」
愛原:「お達者で~」
絵恋:「さ、邪魔者もいなくなったし、リサさん、私の部屋まで来て」
リサ:「分かった」
ダイヤモンド:「後でオパールが冷たいジュースをお持ちしますわ」
絵恋:「よろしくね」
1人になった私は、ダイヤモンドの後をついて応接間に向かった。
愛原:「ダイヤモンドがパーラーメイド。パールは?」
ダイヤモンド:「本日はハウスメイド(掃除係)でございます」
愛原:「オパールは?」
ダイヤモンド:「キッチンメイド(料理係)でございます」
一応の役割分担はあるものの、1人が手が空いて、もう1人が忙しい場合は手伝うこともある。
〔まもなく終点、大宮、大宮。お出口は、左側です。新幹線、高崎線、宇都宮線、埼京線、川越線、京浜東北線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
長大なトンネルをいくつも通過して、電車は大宮駅に近づいた。
普段は貨物列車しか走行しない貨物線を定期的に走る数少ない電車なだけに、テロリストからは標的にされずに済んだ。
もっとも、こういうトンネルこそ、いくつかミステリーのネタになりそうなものだ。
電車は武蔵野線と湘南新宿ラインを繋ぐトンネルや渡り線を通過し、湘南新宿ラインを走行していた。
途中、与野やさいたま新都心といった京浜東北線の駅を通るが、こちら側にはホームが無いので通過となる。
〔「ご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、大宮、大宮です。到着ホームは3番線、お出口は左側です。……」〕
硬い座席に腰かけていたこともあって、少し腰が痛くなる。
電車は副線ホームに入線する為、複雑なポイントを渡って、ゆっくりとホームに入線した。
〔「ご乗車ありがとうございました。大宮、大宮、終点です。お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。3番線の電車は、回送となります。ご乗車できませんので、ご注意ください」〕
私達は電車を降りた。
再び蒸し暑い所に放り出されることになる。
ホームはそうだったが、改札口のあるコンコースはそうでもなかった。
日曜日だが人は多い。
とてもコロナ禍だとは思えないほどだ。
都内では緊急事態宣言が出ているというのに……。
リサ:「見て、先生。テレビ局」
愛原:「ん?」
駅の外に出てタクシー乗り場に向かい、そこでタクシーを待つ客の列に並ぶと、リサがバスプールの方を指さした。
どうやら、リポーターが道行く人にインタビューをしているようである。
で、2人連れの若い女の子2人がインタビューを受けていた。
リポーター:「今日はどこから来ましたか?」
女の子:「熊谷です」
リポーター:「明日から緊急事態宣言が発出されますが、どう思いますか?」
女の子:「なもんで、今日のうちに出掛けとこうと思って大宮に来ましたー」
そういうことか!
東京都は既に緊急事態宣言が出ているが、埼玉県などの隣県は明日からである。
駆け込み外出か!
高橋:「先生、俺達の番ですよ」
愛原:「お、おー」
私達は黒塗りセダンのタクシーに乗った。
高橋にはいつもの通り、助手席に乗ってもらう。
もっとも、大宮駅を発着するタクシーの9割以上が黒塗りなのだが。
私が行き先を告げると、タクシーが走り出した。
愛原:「ん?」
私はふと、これから向かう斉藤家のことを考えた。
斉藤家にも、いくつか絵画が飾ってある。
絵画に関してはズブの素人の私には、その絵がどれだけ価値のあるものなのかは分からない。
だが、セレブの家らしく、それなりの価値はありそうな絵画が飾れていたことを思い出した。
愛原:「ねぇ、絵恋さん」
絵恋:「何ですか?」
愛原:「キミの家、絵が何枚か飾られてるでしょ?」
絵恋:「そうですけど?」
愛原:「あの絵はキミのお父さんが購入したの?」
絵恋:「……と、思いますけど……。ああ、あの白井画廊ってことはないですよ。私もたまに、画家の個展に連れて行ってもらうことがあるんですけど、父はそこで気に入った絵を購入するもので……。どこかの画廊に行って購入することはないです」
中には財テクで絵画を購入するセレブもいるようだが、斉藤社長はそういうタイプではないことは知っている。
例え無名な画家でも、レベルの高い作品は存在するもので、斉藤社長はそういった所で安く購入するのだろう。
とはいえ、実際に絵画の購入などを行っているのだから、直接白井画廊のことは知らなくても、社長の人脈で探すことはできないかと思ったのだ。
愛原:「今日はお父さんいるよね?」
絵恋:「ええ。日曜日ですから」
愛原:「よし」
[同日11:00.天候:晴 同市中央区上落合 斉藤家]
タクシーは無事に斉藤家の前に着いた。
高級住宅街の一画にあり、周辺の家々もそうだが、警備会社のステッカーを貼っている。
斉藤家もそうだったが、ここにはテロリストより恐ろしいメイドさん達がいるからな……。
絵恋:「ここは私が払いますので」
絵恋さんは父親から預かったと思われるゴールドカードは使わず、クレジット会社から発行されているタクシーチケットを使用した。
これとて、父親からもらったものだろう。
いざとなったら、これで帰れるようにと渡しているのだ。
今回、私達はそれに便乗させてもらったことになる。
支払いは絵恋さんに任せ、私と高橋は先に降りて、トランクから絵恋さん達の荷物を降ろした。
ダイヤモンド:「お帰りなさいませ、御嬢様」
メイドさんの1人が出迎えた。
斉藤家お抱えのメイドさんはローテーションである。
今日のパーラーメイド(接客係)は、一番背の高いダイヤモンドのようだ。
斉藤家お抱えのメイドさん達には、メイドネームが付けられていて、宝石の名前を名乗っている。
本名に因んで付けられており、確かダイヤモンドは金剛寺さんと言ったか。
ダイヤモンドの和名は金剛だから。
ダイヤモンド:「いらっしゃいませ、愛原様」
愛原:「こんにちは。お邪魔します」
絵恋:「さぁさぁ、リサさん、上がって上がって!もう帰さないわ!」(≧∇≦)
高橋:「おう、そうしてくれ。俺達は報酬もらったら帰るからよ。じゃ、頼んます」
リサ:「いや、私も帰る」
絵恋:「ええっ、そんなぁ……!」( ;∀;)
ダイヤモンド:「愛原様、御主人様がお呼びです。応接間まで、ご案内させて頂きます」
愛原:「そうか。実は私も、社長と話したいことがあるんだ。ちょうど良かった」
高橋:「お供します!」
ダイヤモンド:「いえ、高橋様は……」
高橋:「あぁ?何だァ?俺はダメだってのか、あぁ?!」
愛原:「おいおい、高橋……」
高橋に凄まれても怯まないダイヤモンド。
ダイヤモンドはあくまで涼し気な顔で言った。
ダイヤモンド:「高橋様は、パールが御相手致します」
パール:「マサ……やっと会えたね……!」( ̄ー ̄)
高橋:「げっ、パール!?いたのかよ!?」
パール:「マサはこっちに……」
ガシッ!と掴まれ、ズールズールと引きずられて行った高橋だった。
高橋:「先生、助けて!」
愛原:「お達者で~」
絵恋:「さ、邪魔者もいなくなったし、リサさん、私の部屋まで来て」
リサ:「分かった」
ダイヤモンド:「後でオパールが冷たいジュースをお持ちしますわ」
絵恋:「よろしくね」
1人になった私は、ダイヤモンドの後をついて応接間に向かった。
愛原:「ダイヤモンドがパーラーメイド。パールは?」
ダイヤモンド:「本日はハウスメイド(掃除係)でございます」
愛原:「オパールは?」
ダイヤモンド:「キッチンメイド(料理係)でございます」
一応の役割分担はあるものの、1人が手が空いて、もう1人が忙しい場合は手伝うこともある。