報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「リサの修了式」

2019-03-26 10:09:15 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月25日07:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学のマンション]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 それにしても……春は眠いねぇ……。
 もう起きる時間なのに、この誘惑はたまりませんな。
 1000年以上も生きている、とある大魔道師さんの気持ちが分かるというもの。

 愛原:「ん?」

 そこへ私のベッドの中にそっと入って来る者がいた。

 愛原:「な、何だ?」

 私が掛布団を取ると、そこにはバスタオルだけ巻いているリサがいた。

 愛原:「うわっ、何だリサ!?」
 リサ:「愛原さんが気持ち良さそうに寝てるから、添い寝」

 リサはさも当然であるかのように言った。
 全国のロリコンから羨ましがられる光景ですな。
 しかし、私にはそのケは無いので……。

 高橋:「くぉらっ!!」

 と、そこへ高橋がドアを思いっきりこじ開けて飛び込んで来た。

 高橋:「リサっ!てめっ、そこは俺のポジだぞ!あぁっ!?」
 愛原:「アホか!」

 私は急いで飛び起きた。

 愛原:「俺専用だ!お前らにはやらん!」
 リサ:「えー」
 高橋:「えー」

 思いっ切り残念そうな顔をするリサと高橋。

 愛原:「リサは早く服を着ろ!高橋、オマエもな!」
 リサ:「はーい」
 高橋:「はーい」

 高橋は一応、下にボクサーパンツは穿いている。
 顔はイケメンで肉体美もそれだけで落ちる女も多いだろうに、LGBTのGとはな。
 非常に残念だ。

 愛原:「全く……」

 私が洗面所に行って顔を洗ったりヒゲを剃ったりしていると、鏡には白いブラウスだけ着たリサがトイレに行くのが見えた。
 このくらいの歳の女の子って、家族にすら裸体を見せたくなくなると思うのだが、リサだけは別なのか。
 BOWに改造されたことで、その辺の思考が人間とズレてしまっていると思われる。
 BOWが人間に襲って来る時って、もう大体が人間の原型が無くなっている状態だからな。

 高橋:「先生!朝飯できましたよ!」
 愛原:「おーう!」

 高橋は家事全般のスキルも最高。
 実に勿体無い。

 リサ:「愛原さん、今日は修了式」

 学校の制服に着替えたリサが、私の向かいの席に座るとそう言った。

 愛原:「おっ、もうそんな時期か」

 私はついカレンダーを見た。
 そして納得して焼き鮭に箸をつける。

 高橋:「卒業式はもうとっくに終わってる時期なんですよ。いやあ、懐かしい」
 愛原:「リアル尾崎豊のようなことをしたんだろ?」
 高橋:「盗んだバイクで走ったりしてませんよ!」
 愛原:「一応、歌詞は知ってるんかい」
 高橋:「走り屋目指してた俺は、専ら車です」
 愛原:「中卒で車かい!そりゃ少年院送り込まれるわ!」
 高橋:「ありがとうございます」
 愛原:「いや、褒めてねーし!お前は改造バイクを乗り回してたってイメージもあるんだがな」
 高橋:「そういう時期もありましたよ」
 愛原:「あ、やっぱり」
 高橋:「でもバイクだと、できること限られてるんで」
 愛原:「ん?」
 高橋:「バイク飛ばしながらタバコもジュースも飲めないんスよ」
 愛原:「そりゃそうだろ」
 高橋:「オマケに道具(凶器)も積めないから、持てるヤツは限られてるし。そういった意味では車の方がラクでしたね」
 愛原:「案外、実用主義な考えをした暴走族だったんだな」
 高橋:「ありがとうございます」
 愛原:「いや、だから褒めてねーから」
 高橋:「鉄パイプだのバールのようなものだの、結構重いんスよ」
 愛原:「だろうな」
 高橋:「自分ではそれを持てても、いざバイクに積もうとすると、重くて重心が変になっちゃうんです」
 愛原:「ほお……?」

 私はバイクの免許を持っていないから、あまりイメージは湧かないが……。

 高橋:「それでバランス崩してガードレールに突っ込んだバカがいましてね。何回か花を供えに行ったこともありましたよ。で、やっぱバイクより車だなぁとそん時思いました」
 愛原:「お前は尾崎豊よりもチェッカーズの方かな」
 高橋:「ありがとうございます」
 愛原:「チェッカーズで意味分かったのかよw」

 私はリサの方を向いた。

 愛原:「今日が修了式ってことは、昼頃には帰って来るってことか?」
 リサ:「そう」

 リサは大きく頷いた。

 愛原:「お昼はどうしようかな?」
 高橋:「今更弁当は作れませんよ?」
 リサ:「学校終わったら、サイトーの家に遊びに行く。サイトーが御馳走してくれるって」
 愛原:「おっ、そうかそうか。それは良かった。ん?それは埼玉の方?」
 リサ:「こっちの方」
 愛原:「じゃあ、徒歩圏内だな」
 リサ:「埼玉の方も遊びに来てと言ってたけど」
 愛原:「それはまた後日にすればいいさ。どうせ、修了式が終わったら春休みなんだからな」
 高橋:「俺はまたバイクで走りたくなって来ましたねぇ……」
 愛原:「旧車會にでも入ってんの?」
 高橋:「いやいや。今は走り屋のサークルですよ」

 でもコイツの場合、“イニシャルD”みたいなのは想像しない方がいいんだろうな。

[同日09:00.天候:晴 同地区 愛原学探偵事務所]

 高野:「へぇ。リサちゃん、今日が修了式ですか」
 愛原:「そうなんだ。来月から2年生だよ」
 高橋:「フフ……俺が中2の時は……」
 愛原:「オマエのリアル中2は、中二病がリアルになったって話だろ」
 高橋:「何で御存知なんですか!?」
 愛原:「探偵ナメんな!」
 高橋:「すいませんでした!さすがは先生!名探偵っス!」
 高野:(コイツの場合、大体想像つくし、その想像は大体当たりなだけなんだけどね)

 高野君はそのように想像したらしい。
 その上で……。

 高野:「でも2年生になってしばらくしたら、受験のことを気にしなくちゃならなくなりますね」
 愛原:「いや、その心配は無いよ。普段の成績さえ良ければ」
 高野:「と、言いますと?」
 愛原:「いや、東京中央学園は中高一貫教育だから、一定の成績さえ確保できていれば、自動で高等部に上がれるんだ。ま、大学は受験しないといけないけどね。あと、高等部は校舎が違う……くらいかな」

 制服もブレザーがシングルからダブルに変わるんだっけ。
 リサは旧アンブレラの研究所に押し込められていた時、その仲間と共にセーラー服とよく似たデザインの服を『制服』として着せられていた。
 だからリサは、そのデザインの服が嫌いであった。
 もし東京中央学園の女子制服がセーラー服であったら、リサは通うのを嫌がったかもしれない。
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“大魔道師の弟子” 「既知の道、バスの旅」

2019-03-24 20:18:28 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月13日08:45.天候:晴 東京都大田区羽田空港・国際線ターミナル→エアポートリムジン車内]

 係員:「8時50分発、大宮方面行きの到着です」

 発車の5分くらい前になると、バスが入線してきた。
 オレンジ色の塗装が目を惹くエアポートリムジン(東京空港交通)である。
 バスが停車すると、入口の前に女性係員が立つ。
 ここで乗車券のモギリをするのだ。
 別の係員が荷物室のドアを開けて、スーツケースなどを入れている。
 ドア横の係員にモギリをしてもらうと、稲生とマリアは車内に入った。
 比較的短距離を走るバスのせいか、車内は4列シート。
 しかし後部にはトイレがあり、Wi-Fiやケータイの充電ポートも付いている。
 “バスターミナルなブログ”様でも取り上げられているが、あいにくと大宮方面の写真が無いので、当ブログへの転載は見送らせて頂く。

 稲生:「先生達、どこへ行くんだろうね?」
 マリア:「私が思うに、海沿いのリゾート地じゃないかな」
 稲生:「海沿い。まだ海開きしていないのに?」
 マリア:「だからこそなんだろう。師匠達の手に掛かれば、冷たい海でも何のそのだ」
 稲生:「海に入るの?寒中水泳?」
 マリア:「違う違う」

 マリアは手を振ってガン否定した。

 稲生:「え?え?え?」

 国際線ターミナルから乗車する利用者は少ない。
 ほんの7〜8人ほど乗っただけだった。
 もちろんその中に稲生達も含まれている。
 発車前に係員が乗り込んで、ボードを掲げながら車内を1往復した。
 日本語はもちろん、数ヶ国語でシートベルトを締めるよう呼びかけるものである。
 係員が降りると、バスが発車した。
 後は国内線ターミナルの2ヶ所に止まって、それから大宮方面まで直行だ。
 え?貨物ターミナル?そんな所に止まる必要があるのかね?

 マリア:「勇太のセックス動画を師匠が覗き見して、『水中セックスも面白そうだねぇ……』とか言ってたから」
 稲生:「ブッ!どうやって!?僕、ネットでしか観ませんよ!?」
 マリア:「うちの屋敷ででしょ?ネット回線、どうやって繋いでる?」
 稲生:「そりゃWi-Fi接続ですよ」
 マリア:「そのWi-Fiルーターを用意したのは?」
 稲生:「! 先生だったーっ!」
 マリア:「勇太の信仰する宗祖とやらより200年以上も年上の師匠が、何でそんな近代的な物を持って来たか理解してなかっただろ?」
 稲生:「もしかして、僕のネット利用履歴は……」
 マリア:「師匠にダダ漏れ」
 稲生:

 稲生は顔を真っ青にしたかと思うと、今度は顔を真っ赤にして頭を抱えてしまった。

 稲生:「エロ動画観てたのもバレてたか……」
 マリア:「師匠はニコニコして監視してたけどね」
 稲生:「に、ニコニコ?」
 マリア:「『健全な男子を入門させることができたわ。功徳〜〜〜〜!!』とか何とか言ってた」
 稲生:「どこかの河童さんみたいなこと言って……」
 マリア:「ねぇ。とにかく、勇太がポルノ観るくらいは想定内だったみたいだよ」
 稲生:「でも、マリアとしては……」
 マリア:「うん。フツーにキモいと思った」
 稲生:「ですよね……」orz

 バスの中でorzの姿勢になり掛けた稲生、しかしすぐパッと顔を上げた。

 稲生:「ん?てことは、マリアも見たの?」
 マリア:「あっ……!」

 マリアはしまったといった顔になった。

 マリア:「し、師匠が水晶球で何見てたのか気になったものだから、つい……」
 稲生:「僕、バスから飛び降りたくなった」

 稲生、バスの窓を開ける。

 マリア:「勇太、早まっちゃダメ!」

 マリア、バスの窓をピシャッと閉めた。
 比較的短距離を走るバスの為、窓を開けることができる。

 マリア:「相変わらず、ハイスクールの女が好きなんだな」

 マリアはローブを脱いだ。
 その下はブレザーとプリーツスカートという出で立ちである。
 18歳で魔道師になり、基本的にそこで肉体の成長が止まったマリアは十分この服装が似合っていた。
 もちろんこんな恰好をしているのは、勇太が好きだからである。

 稲生:「よく似合ってるよ」
 マリア:「Thanks.ま、私としても服選びが楽でいいんだけどね」
 稲生:「でも、魔道師って基本的に服のスタイル変えないよね」
 マリア:「それな!」
 稲生:「何でだろう?マリアさんの場合は、僕の為にってのもあるけど……」
 マリア:「悪魔との契約絡みだろうね。アナスタシア組なんか黒で統一されてるだろう?黒い服のデザインなんて、どれも似たり寄ったりなわけだし……」
 稲生:「更にドレスコードまで決められてるんじゃ、好きな私服も着れないだろうねぇ……」
 マリア:「あと、あれだ」
 稲生:「なに?」
 マリア:「ほとんど女しかいないような所だから、そんなこと気にしない」
 稲生:「た、確かに。共学校より女子校の方が服装の乱れが激しいって聞いたことがある」

 文化の違いもあるのだろうが、プールで最初は水着を着ていたのに、途中からそれも脱いで真っ裸で泳ぎ始めることとか……。

 マリア:「つまりそういうこと。魔女達は勇太を警戒して近づかないけど、魔道師達は勇太を気にして服装キチンとするようになったからね」
 稲生:「そうなんですか?」
 マリア:「エレーナなんかいい例だよ。あのアホ、『ホウキ乗りは元からオーバーパンツを穿くものだ』って豪語してたけど……」
 稲生:「ああ、言ってたね」
 マリア:「私が他のホウキ乗りに聞いたら、『稲生勇太が入門してからだよ』って言われた」
 稲生:「僕は謝りに行った方がいいんだろうか……?」
 マリア:「いや、いいよ。本当はそういうものだから。それまでのホウキ乗りのファッションがだらしなかっただけ……」
 稲生:「いや、鈴木君にw」
 マリア:「そっちかい!」

[同日10:18.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区吉敷町 JRさいたま新都心駅西口]

 バスは激しい渋滞に巻き込まれることもなく、首都高速を軽やかに走行した。
 因みに首都高で渋滞に巻き込まれたり、迷子になったりしたらエアポートリムジンバスの後ろを付いて行けば良いという噂がある。
 真偽のほどは【お察しください】。

 運転手:「さいたま新都心駅西口です。ご乗車ありがとうございました」

 バスはさいたま新都心駅西口1階のバスプールに到着した。
 運転手が真っ先に降りて、荷物室のハッチを開けている。
 さすがにここには係員はいないので、乗客が自分で荷物を降ろさなくてはならない。

 稲生:「えーと……マリアさんのがこれで、僕のがこれと……」
 マリア:「Thanks.」
 稲生:「マリアさんのバッグの方が大きいですね」
 マリア:「そりゃ、私の方が着替えとか多いし」
 稲生:「あっ、そうか。それもそうですね。……あ、ちょうど乗り換えのバスが来ましたから、行きましょう」

 停車中のエアポートリムジンバスを追い抜いて、地元の路線バスがその先のバス停に停車した。
 そこへ向かう。
 しかし、稲生は知っていた。
 マリアのバッグが、大きさの割には、実は中身は案外スカスカなのを。
 それは首都圏での買い物の多さに期待しているからなのを……。
コメント (11)
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“大魔道師の弟子” 「ダンテ・アリギエーリ来日」

2019-03-23 20:02:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月13日07:20.天候:晴 東京都大田区羽田空港 東京国際空港・国際線ターミナル]

 イリーナ組は日本を拠点にしている関係で、真っ先に大師匠ダンテを出迎えなければならなかった。
 魔道師の世界というのは、それだけ上下関係が厳しい所なのである。
 尚、その割には他の魔道師達は出迎えに来ていない。
 これも門内の不文律ではあるが、日本を拠点としていると正式に認められているのはイリーナ組だけである。
 それ以外の組は、ダンテ来日後に来日しなくてはならないのだ。
 ダンテが来日した後なら、その日であっても構わない。
 しかし、既に東欧を拠点にしているアナスタシア組やマルファ組は既に来日してしまっている。
 この場合はイリーナが合流した後で、合流すれば良い(つまり、後で会場入りすれば良い)。
 何とも面倒臭く、どうしてこうなったのかは不明だが、とにかくそういうことをしなければならないのだ。

 マリア:「大師匠様のお着きです!」

 マリアが大声で言うと、イリーナは片膝をつき、稲生は『気をつけ』の姿勢をしてバッと深くお辞儀をした。
 一瞬どっちに合わせれば良いのか戸惑ったのはマリアだった。

 ダンテ:「出迎え、ありがとう」

 ダンテは黒いローブを羽織り、茶色の山高帽を被っていた。
 そして、手にはステッキ。
 但し、魔法使いが使うそれと違って、ごくごく一般的に見るステッキである。
 威吹の妖刀みたいに、一般的なステッキに化けさせているのだろうか(威吹は江戸扇子に化けさせていた)。

 イリーナ:「お疲れでございましょう?一休みしていかれますか?」
 ダンテ:「いや、先に進むとしよう。このコらを疲れさせてしまう」

 稲生は最敬礼の姿勢のままだった。
 日本人はお辞儀慣れしているからいいようなものの……。

 マリア:(腰が痛ェ……)

 マリア、よせばいいのに稲生のマネしてお辞儀なんてするから……。

 ダンテ:「もういいから、顔を上げなさい」
 稲生:「は、はい!」
 イリーナ:「2人とも!先生への御挨拶は右膝をつくって教えたでしょ!?」
 稲生:「す、すいません!」
 マリア:(私の場合は片膝をついたら、スカートが……)
 ダンテ:「まあ、いいからいいから」

 魔法使いは杖を持っているので、その杖を持って何か敬礼の姿勢でも取るのかと思うが、騎士や兵士ではない為、そのような儀礼は無い。
 恐らく、わざと体のバランスを崩して魔法が使いにくい状態にすることで、『あなたに攻撃魔法は使いませんよ』という意味があるのかもしれないと稲生は思った。
 少し強引な解釈ではあるが。

 ダンテ:「早速移動しよう。他のコ達も待っているのだろう?」
 イリーナ:「そうですね。稲生君、タクシー乗り場に案内して」
 稲生:「か、かしこまりました!」

 稲生は早速下調べしていたルートでタクシー乗り場に向かった。
 ハイヤーは予約すれば乗車できるのだろうが、何故かイリーナはそれは言わなかった。
 恐らくダンテ自身があまり贅沢したいタイプではないのだろう。
 マリアに言わせると、恐らくダンテは今回も飛行機はファーストクラスに乗って来ただろうが、航空チケットは自分で買ったものではないだろうとのこと。
 ダンテのファン(というか、もはや信者)が提供したものだろうとのこと。
 イリーナでさえ政財界に多くのファン(というか、もはや信者)が世界各地にいるというのに、その師匠ともなると【お察しください】。

 稲生:「こちらです」

 稲生はタクシー乗り場の中の『優良タクシー乗り場』にイリーナ達を案内した。
 先頭に並んでいるタクシーは、黒塗りのハイグレードタイプ。
 運転手がハイヤーのようにドアサービスを行った。

 イリーナ:「それじゃマリア、これはお小遣い。無駄遣いしないようにね」
 マリア:「ありがとうございます」

 マリアが受け取ったのは、ゴールドカードのように見えた。

 イリーナ:「それじゃ勇太君、マリアのこと、よろしくね」
 稲生:「わ、分かりました!」
 イリーナ:「約束の期日と時間は、最初に話した通りだから」
 稲生:「分かりました!」

 イリーナは助手席後ろの席に座って窓を開けると、稲生とマリアにそう言った。
 そして、タクシーが走り去って行った。
 弟子として、そこは車が見えなくなるまで見送らなくてはならない。

 マリア:「OK.こんな所だろう」
 稲生:「ふぅーっ!緊張したぁ……」
 マリア:「……だね。私達はこれからどうする?」
 稲生:「えーと……。取りあえず、僕の家に行きますか。荷物も置いて行きたいですし」
 マリア:「分かった。そうしよう。で、何で行く?」
 稲生:「バスなら乗り換え無しで行けるので」

 稲生はタクシー乗り場の、更に向こうを指さした。

 稲生:「先にバスのチケット買って来ます」
 マリア:「うん、お願い」

 再び到着ロビーに戻る。
 どっちみちタクシー乗り場からバス乗り場に移動しようとすると、一旦そこまで戻らないといけない。

 稲生:「すいません。次の大宮行き、大人2人ください」

 チケットカウンターにてバスのチケットを買い求めると……。

 係員:「次の便ですと、8時50分発になりますが、よろしいですか?」
 稲生:「えっ、そんなに空くんですか?」
 係員:「そうですね……。そうなります」
 稲生:「分かりました。じゃあ、それで……」
 係員:「よろしいですか?」
 稲生:「はい」

 稲生は2人分のチケットを購入すると、マリアの所へ戻った。

 稲生:「お待たせしました」
 マリア:「予約取れた?」
 稲生:「はい。ただ、次の便が8時50分です」
 マリア:「マジか!そんなに混んでるのか?」
 稲生:「いえ。元々そういうダイヤのようです」
 マリア:「そうなのか……」
 稲生:「まあ、時間はたっぷりあるから、急いで家に行く必要は無いんですが……」
 マリア:「それは確かに。じゃあ、どうする?」
 稲生:「空港の中を散策しますか?」
 マリア:「昨夜、さんざんっぱら回ったのに……」

 そうしたらムーディーな雰囲気になり、ついに2人は1つの部屋で夜を過ごすことになったのだが。
 さすがに今は朝で、そういう気分にはならないとは思うが。

 マリア:「ま、どのみち時間は潰さないといけないか」
 稲生:「そういうことです。実家への御土産を買って行ってもいいですしね」
 マリア:「それだ!それを忘れてたんだ!日本の文化!」
 稲生:(実家に土産を買って帰るのは、何も日本だけの文化じゃないと思うけど……)

 恐らく周りの外国人観光客が、やたら日本の文化について語っているので影響でもされたのだろうか。

 マリア:「早速行こう!」
 稲生:「あ、はい」
 マリア:「ああ、それと……」
 稲生:「?」
 マリア:「もう師匠は行ってしまって、ほぼプライベートみたいになったから、その……私のこと、もっと呼び易く呼んでいいよ」
 稲生:「うん、分かった!」
 マリア:「即答かよ!?……まあいいけど」

 2人は手を取り合って、土産物店に向かった。
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“大魔道師の弟子” 「羽田空港の朝」

2019-03-22 19:15:48 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月13日06:00.天候:晴 東京都大田区羽田空港 ザ・ロイヤルパークホテル東京羽田]

 イリーナ:「さあさあ。朝もしっかり食べて、ダンテ先生をお迎えするのよ」

 昨夜夕食を取ったレストランで朝食を取るイリーナ組。
 バイキング形式である。

 稲生:「マリアさん、何か取って来ましょうか?」
 マリア:「いい。自分で行く」

 イリーナがヒョイヒョイと皿に料理を山盛りにする中、稲生とマリアも銘々に料理を取って行く。
 マリアが洋食中心なのに対し、稲生は和食の割合が多い。

 稲生:「先生はすぐに起きたの?」
 マリア:「むしろ私が起こされた」
 稲生:「えっ!?」
 マリア:「『今日が楽しみだから、ちゃんと起きられた』って言ってたけど……」
 稲生:「ま、気持ちは分かるけど……って、そんなに楽しいパーティーなんですか」
 マリア:「簡単な話、昨夜の私達みたいなことを師匠達もするってこと」
 稲生:「ええっ!?」
 マリア:「ま、驚くのも無理は無い」

 マリアはチラッと、先に席に着いて食べているイリーナを見た。
 イリーナは上機嫌そうに目を細めながら、

 イリーナ:「んー!このオムレツとベーコン美味しい!」

 なんてやっている。

 マリア:「後で説明するよ」
 稲生:「た、大変失礼な話、年齢的に……」
 マリア:「勇太はまだ見習で、まだまだ考えが普通の人間に近いからね、無理も無い。てか、私もまだそういう気持ちがあって、未だに信じられない」
 稲生:「マリアさんは見たことすら無いわけですか」
 マリア:「無い。エレーナのアホは水晶球で実況してるよ」
 稲生:「ユーチューバーか!……も、もしかして昨夜のこと……エレーナに……」
 マリア:「最初そうして来ようとしたからブロックしたけど、あいつのことだから何度もしようとしたはずだよ」
 稲生:「うあー……」
 マリア:「さっき師匠が、何も心配しなくていいと言ってたから大丈夫だと思うけど……」
 稲生:「先生が?先生も御存知なんですか?」
 マリア:「師匠に隠し事は無理だよ」
 稲生:「そ、それもそうか……」
 マリア:「別に私があなたとセックスしようが、それだけで怒られたりはしないよ。ダンテ門流綱領『仲良き事は美しき哉』の一環と見なされるからね」
 稲生:「そ、そうですか」
 マリア:「でも他の魔女達の中にはそう思わない奴らもいるから気をつけないと……」

 そう言いながらマリアは、イリーナが陣取っているテーブルへ向かった。

 イリーナ:「もっと食べないと、マリアは大きくならないよ」
 マリア:「太るから結構です」
 稲生:(リリィから『マリアンナ先輩は、本来ならもっと肉付きの良い人です』って言われたのを気にしてるのかな?)
 イリーナ:「あ、そうそう、勇太君」
 稲生:「な、何でしょう?」
 イリーナ:「昨夜はマリアとお楽しみだったみたいだけど……」
 稲生:「!」
 イリーナ:「マリアが幸せなら別にいいからね。但し、正式に婚約でもしない限りは避妊すること。マリアの肉体はまだ若いんだから、アタシと違って妊娠できるんだからね」
 稲生:「わ、分かっております!」

 稲生は大きく頷いた。

 稲生:「あ、あの……先生」
 イリーナ:「なぁに?」
 稲生:「先生はこれから大師匠様をお迎えして、パーティー会場に向かわれると伺っています」
 イリーナ:「そうね。会場は基本的に教えないんだけど、アタシはそんなの気にしないから、知りたかったら教えてあげるよ?」
 稲生:「あ、いえ、そういうことじゃなく……」
 イリーナ:「ん?」
 稲生:「パーティーの内容の中に、昨夜の僕とマリアさんの……ああいうのがあると聞いたんですけど……」
 イリーナ:「ああ、なるほどね。アナタ達には刺激が強いと思って黙ってたんだけど、昨夜のことがあって、それが逆にマリアには良い治療になったみたいだから教えてあげようかな」

 イリーナは周りを見渡した。

 イリーナ:「もちろん、あまり大きな声で言えるものじゃないよ。アタシ達はもう1000年以上生きてる。ダンテ先生なんて、私ですら正確な年齢が分からないくらい。さすがに恐竜の話はしてくれなかったから、そんな時代から生きていたわけではないみたいだけどね」
 稲生:(日蓮大聖人御在世の時には、既にイリーナ先生はこの世にいた。だけど、その時代から生きていた魔道師は誰も日本に見向きもしなかったから、大聖人様のことは誰も知らない……)

 釈尊の時代にも他の魔道師がいたと思われるが、釈尊の話すら誰もしない。
 そして、キリストの話もだ。

 イリーナ:「それくらい生きると、悲しみも楽しみも無くなってしまうの。涙なんて、とっくに枯れ果てたくらいよ。でもね、こんな私達にもリアルタイムで楽しめる方法が見つかったの。私達、こうして魔法とはいえ、肉体を若返らせることができるでしょう?最初は魔法で肉体だけ若返らせるのが精一杯だったの」
 稲生:(それで他にやっていることはお婆ちゃんだったわけか……)
 イリーナ:「ポーリンが試しに新しく作った精力剤とかを使ってみたら、これが当たり。こりゃ気持ちも若返って、色んな意味でのパーティーが楽しめることが分かったのよ」
 マリア:「ヤバい薬じゃないですよね?」
 イリーナ:「マリア。魔道師が作る薬で、『ヤバくない』ヤツなんてあると思うの?」
 マリア:「いや、そりゃそうですけど……」
 イリーナ:「大丈夫。ダンテ先生も使っているくらいだから」
 マリア:「楽しむこと自体はいいと思います」
 イリーナ:「おっ、分かってくれる?もちろん、弟子のアナタ達に迷惑は掛けないからね?」
 マリア:「それはいいんです。だから師匠、もう少し私達の面倒を看てください」
 イリーナ:「ん?どういうこと?」

 マリアの言わんとしていること、稲生が先に気づいた。

 稲生:「先生。1000年以上も生きられて、生きるのに飽きたということは理解できます。ですが、楽しみができた以上、その体の耐用年数が過ぎたら死ぬのはやめてください。僕達の成長を見ていてください」
 イリーナ:「ああ、そういうこと。そうだねぇ……。あなた達の仲も進展したみたいだし、こりゃ『法統相続』まで何だか見てみたくなったねぇ……。あなた達がそれぞれ自分の組を立ち上げて、弟子を取る所までね。でも、そこまで欲張れるかねぇ……」

 イリーナは微笑を浮かべながら考え込む素振りをした。

 イリーナ:「ま、いずれにせよ、もう少し指導はしていかなきゃとは思うね。特に勇太君はまだ見習なんだから、最低でもあなたをマスターに認定されるまでは指導しないと、ダンテ先生に怒られちゃう」

 弟子が一人前になっても、まだ師匠の元から独立できるわけではない。
 それは一人前に成り立ての状態で、弟子は取れないからだ。
 少なくとも、イリーナが魔道師を辞めて冥界に赴くことになるのは、稲生達が独立できるまでになってからのようだ。
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“大魔道師の弟子” 「マリア、トラウマ克服する」

2019-03-21 20:18:46 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月13日01:15.天候:晴 東京都大田区羽田空港 ザ・ロイヤルパークホテル東京羽田]

 クラリス:「!」

 今は人間形態をしているマリア自作のメイド人形、クラリスが主人の気配を感じ取って足早にドアに向かった。
 そして、それが本当に主人だと確認できるとドアを開けた。

 マリア:「た……ただいま……」
 クラリス:お帰りなさいませ」

 マリアはヒョコヒョコと足腰がおぼつかない足取りで部屋に入った。
 それは何もシンシアのように、酒が弱い癖に飲み過ぎからではない。

 マリア:「はぁぁ……」

 そして、空いているベッドに飛び込むようにして横になった。

 イリーナ:「ん、どうした?こんな夜中に帰って来るなんて……」
 マリア:「すいませんでした……」

 マリアは顔を両手で覆って答えた。

 イリーナ:「別に、夜遊びを咎めているわけではないよ。あなたも、もうマスターなんだから。アタシが言いたいのは、今まで勇太君の部屋にいたんでしょ?そのまま泊まっていっても、アタシもダンテ先生も咎めないってこと」
 マリア:「いえ……。寝坊癖の師匠に対してモーニングコールをするのも、弟子の勤めですから」
 イリーナ:「言ってくれるねぇ……。で、どうだったの?勇太君に抱かれて一緒に寝てみてどうだった?」
 マリア:「…………」

 マリアはうつ伏せになると枕に顔を埋めた。

 イリーナ:「『狼に襲われる夢』を見たかい?」
 マリア:「……少しだけ」
 イリーナ:「辛かったかい?」
 マリア:「……辛くはなかったです。勇太が……優しかったから……」
 イリーナ:「すぐに『狼』は消えた?」
 マリア:「消えました……」
 イリーナ:「そう。なら良かった。きっと勇太君が優しい限り、もう『狼』が現れることはないでしょう。……幸せを感じたかい?」
 マリア:「感じました……」
 イリーナ:「なら、もう少し喜んでもいいんだよ。アタシのことは気にしなくていいからさ」
 マリア:「…………」
 イリーナ:「まだ照れる感情があるあなたは羨ましいねぇ……。服を着て勇太君の部屋から出て来ただけでしょ?早いとこお風呂入って寝なさい」
 マリア:「はい……」

 マリアはそう答えると、ようやく力が入るようになった足腰でバスルームに向かった。
 だがそこに入る前に振り向いた。

 マリア:「私は……魔女でした。でもこれで……私は……」
 イリーナ:「感情としては普通の女に戻る。これは快挙だよ」

 マリアはすぐにイリーナから顔を背けたが、そこには一瞬、笑顔が浮かんでいたようだった。

 イリーナ:(やれやれ……。いつまでも進展しないから少し心配になっていたけど、杞憂に終わったねぇ……)

 その時、イリーナは師匠ダンテの言葉を思い出した。

 イリーナ:(『親は無くとも子は育つ。新弟子が本当に若い者達であるのならば、自由にやらせてみるのも良い』……先生の仰る通りでしたわ)

 バスルームからお湯の出て来る音がする。

 マリア:「すいません。少しうるさくて……」
 イリーナ:「いいよ。アタシゃ寝る時は寝るから。気にせずお風呂に入って寝なさい」
 マリア:「はい」

 マリアは着た服を再び脱いで、部屋備え付けのナイトウェアと替えの下着を用意した。
 そしてバスタブのお湯が一杯になったことを確認して、バスルームに入っていった。

 イリーナ:「フム」

 イリーナは枕元に置いた水晶球を見ると、それでどこかと通信を始めた。
 それは大師匠ダンテではなく……。

 イリーナ:「エレーナ。盗撮の罪をお金で払う覚悟はできているのかしら?」
 エレーナ:「ななな、何のことですか!?」
 イリーナ:「うちの弟子達の『愛の営み』を盗撮してたでしょう?私には分かってるのよ?」
 エレーナ:「わ、私はずっと寝ていましたから……」
 イリーナ:「そう。ところで今日、何の日だか分かるわよね?」
 エレーナ:「大師匠様が御来日される日です。それに備えて、マルファ先生がうちのホテルにお泊りに……」
 イリーナ:「ああ、あの自由人。アンタの所に泊まってるのか。まあ、それはいいのよ。ポーリンも魔界から来るわけだからね?」

 エレーナはポーリン組の所属。 
 つまり、ポーリンの直弟子というわけである。
 実はポーリン組は魔界を拠点としており、他の魔女達からも呆れられるほどしょうもない理由で対立していたイリーナとダンテからの圧が掛かった為に仕方なく和解した。
 その為、エレーナが人間界に残る理由は無くなっており、魔界に来るよう勧告していた。
 ところが人間界の暮らしと魔女の宅急便、そしてホテル勤務が面白い為にそれを無視する有り様であった。
 一応、イリーナや人間界を拠点にしている他の大魔道師が宥めている状態なのだが……。

 イリーナ:「ポーリンに今回のこと話すからね?ポーリンも大魔道師だから、あなたのウソをすぐに見破るわ。そうなったらあなた、どうなるかしらね?」
 エレーナ:「すす、すいませんでしたぁぁぁっ!」
 イリーナ:「ポーリンも怒らせると怖いからねぇ……。録画した媒体、全て私に寄越すのよ?誤魔化したってすぐに分かるんだからね?分かった?」
 エレーナ:「わ、分かりました……」
 イリーナ:「よろしい」

 イリーナは水晶球の通信を切った。
 因みに通信中、イリーナはいつもは細めている目を開いていた。
 これを他の魔道師達は『イリーナの御開眼』と呼んでいる。
 御開眼中はダンテ以外、誰もイリーナに逆らってはいけないという不文律があるほどだという。

 イリーナ:(あとは『女の嫉妬の炎』の火消しか。ほんと、魔女の世界はメンド臭いねぇ……)

 幸いイリーナの契約悪魔は、キリスト教は七つの大罪の悪魔の1つである“嫉妬の悪魔”レヴィアタン。
 嫉妬を司る悪魔であるからして、当然イリーナの依頼で『嫉妬の炎』の火消しはお手の物である。
 もちろん、逆に点火や放火も大得意であるのだが。

 マリア:「うふふふふ……!うふふふふふふふふふふふ!」

 マリアはバスタブのお湯に浸かりながら、『女の悦び』に笑っていた。
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