報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「イリーナの見舞い」

2020-02-26 15:47:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間2月11日12:30.天候:霧 魔界王国アルカディア王都アルカディアシティ49番街 国立病院]

 稲生:「すいません、あの病院の前で降ろしてください」
 運転士:「はいよ」

 アルカディアシティの路面電車は、ターミナル以外に決まった電停が無いので、乗客は降りたい所で降りる。
 大抵は交差点などで止まったタイミングで降りるが、あえて止まって欲しい場合、ワンマン運転の場合は運転士に、ツーマン運転の場合は車掌に申し出る。
 この場合は前者だった。
 よほど変な所でも無い限りは、大抵停車してくれる。
 稲生だけでなく、他にも降車希望者がいたり、逆に病院の前から乗車する者もいた。

 マリア:「だから私も同業者だっつの!飴要らないっての!」
 老魔女:「ヒェッヘッヘッヘッ!お嬢ちゃん、またよろしく頼むよ~」

 因みに外国、特に途上国の公共交通機関では『車内販売』が実施されることがある。
 もちろんそれは運行当局には無断だ。
 しかし大らかな国柄の場合、乗務員らは禁止することをしない。
 このアルカディア王国もそうだった。

 マリア:「たまに落ちぶれたヤツが物乞いとか、変な物売り付けたりするんだった」
 稲生:「大変ですねぇ……」

 電車を降りて病院に入る。

 稲生:「ああいう魔女の御婆さんが、我流者の成れの果てなんですか?」
 マリア:「ダンテ一門に限らず、所属していた魔法門を除名されたりした者の成れの果てだな。除名を食らった者を拾う魔法門なんて、他に無いからね。だから皆、怖いんだよ。仲間外れにされて、最後には除名されるの……」
 稲生:「ダンテ一門の綱領第一に、『仲良き事は美しき哉』とありますが、急に重みを感じる言葉ですね」
 マリア:「そういうこと」

 病院の中に入り、入院患者のいる病棟へ向かう。
 中はまるで19世紀の病院のようだ。
 いや、アルカディアシティ自体が18世紀か19世紀のような雰囲気。
 たまに電車で20世紀ものが入っていたりするものがあるだけで、中には更に過去に戻ったかのように、RPGの世界から出て来たと見紛うほどの冒険者達も歩いたりする。
 さっきも路面電車が、ビキニアーマーの女戦士の横を通って行った。

 マリア:「師匠の部屋はここだ」
 稲生:「こんにちは。イリーナ先生、稲生入ります」
 マリア:「マリアンナです。生きてますかー?」
 ゾンビ:「グワァーッ!!」
 稲生:「わあーっ!?」

 いきなりドアの陰からゾンビが襲い掛かって来た!

 マリア:「師匠!変な冗談はやめください!」
 ゾンビ:「バレた?」

 すると、ゾンビが見る見るうちにイリーナの姿に変わって行く。
 どうやらイリーナが、魔法でゾンビに変身していただけのようだ。

 稲生:「『モシャス』!?」

 因みにドラクエシリーズの変身魔法モシャスの語源は、相手の姿を『模写す』るからとのこと。

 マリア:「私もびっくりした。でも師匠、体の具合は良さそうですね。良かったです」

 するとイリーナ、フラフラっとベッドに戻る。

 イリーナ:「うんにゃ、薬の副作用で熱が39度もあるんよ……」
 稲生:「ええっ!?」
 マリア:「具合悪いならおとなしく寝とれーっ!」

 イリーナ、ベッドに潜り込む。

 稲生:「あ、あの、今は食欲無いかもですが、これ、もし宜しかったらお見舞いのカステラで……」
 イリーナ:「おお~、スッパスィーバ!後で頂くよ~」
 マリア:「……本当に具合悪いんですか?」
 イリーナ:「あなたのママに肝臓潰されたからね。おかげで治るまで禁酒よ。具合が悪いのはそのせいね」
 稲生:(肝臓潰されたことはスルーしていいんだ!?)

 だが稲生、かつて妖狐の威吹邪甲と共に行動をしていた時、敵対妖怪の攻撃で威吹が大ダメージを食らったことがある。
 その際、腹に穴を開けられたのだが、翌日にはケロッとしていた。
 そのことを思い出した。

 稲生:(僕も臓器1つ無くなったくらいでは平気なまでになるのかなぁ……)

 もっとも、普通の人間であっても腎臓なら1つ無くても大丈夫らしいがw
 2つあるといい。

 マリア:「うちの毒親が本っ当すいません!!」

 さすがにマリア、そこは娘として全力で謝った。

 イリーナ:「いやあ、所詮は我流者と思って見くびっていたんだけど、まさかバァルのクソジジィと契約してたとはねぇ……」
 マリア:「ほんと、あれだけはマジで卑怯だと思います」

 正々堂々と真正面から戦い、卑怯行為を嫌う戦士に対し、『勝てば官軍負ければ賊軍』思考が一般的な魔道士は、そんな戦士から見れば卑怯の対象に当たる行為も平然と行う。
 トチロ~さんが前者で、作者は後者であるから、この辺で対立するかもねw
 ま、そこは体育会系と文科系の違いってことでw

 で、そんな魔道士から見ても更に『卑怯』と非難されることをアレクサはしたということだ。

 イリーナ:「あの爺さんへの抗議として、今年の敬老の日は全部無視してスルースルーと行きましょう」
 稲生:「日本の敬老の日、あと半年以上もありますけど?」
 マリア:「勇太。師匠もお年を召されているんだから、時間の感覚が私達と違うの」
 稲生:「あ、そうか。……あ、すいません!昨年の敬老の日、先生に何も差し上げてませんでした!申し訳ありませんでした!」
 イリーナ:「社交辞令でも本気でも、後でお説教ね」
 稲生:「ええっ!?」Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン
 マリア:「退院祝いでもあげればいいよ」
 稲生:「そ、そうですか」
 イリーナ:「勇太君も、マリアの影響を多大に受けているようねぇ……」
 稲生:「そ、そりゃまあ、いつも一緒ですから……」
 イリーナ:「いつも一緒ねぇ……」

 イリーナはクスッと笑った。
 稲生の失言でこめかみに怒筋を浮かべたイリーナだったが、やっとその怒筋が消えた。

 イリーナ:「『仲良き事は美しき哉』というし、今後とも2人は仲良くおやり」
 稲生:「は、はい!」
 マリア:「それはもちろん」

 イリーナへの見舞は終わったのだが、稲生達は病院からしばらく出られなかった。
 他の病室に入院している同門の士に対し、アレクサの悪行を娘のマリアが謝罪しに回ったからである。
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“大魔道師の弟子” 「後日談」 2

2020-02-24 15:04:26 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[2月11日11:40.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 稲生とマリアは魔界への出入口があるワンスターホテルまで向かった。

 藤谷:「ここでいいかい?」
 稲生:「おー、ありがとうございます」

 ここまで藤谷に送ってもらった。

 藤谷:「色々忙しいと思うけど、たまにお寺に来いよ?春季総登山会とか彼岸会とかあるから」
 稲生:「ええ、分かりました」

 稲生とマリアは車を降りると、ホテルの中に入った。

 オーナー:「おや、いらっしゃい」
 稲生:「こんにちは。エレーナが入院中は大変ですね」
 オーナー:「まあ、元々夫婦で切り盛りしていたわけですし、時々アルバイトが来てくれるので……」
 稲生:「バイト雇ったんですか?」
 オーナー:「ええ……」

 オーナーはテナントで入居しているレストランの方を指さした。
 ホテルの中から自由に行き来ができる。

 マリア:「キャサリン師の使い魔のカラス達か……」

 雌のカラスしかいない為、人外萌えを地で行く、美女に変化してやってくる。
 背中に黒い翼が生えている以外は。

 オーナー:「魔界に行かれるんですね?」
 稲生:「ええ。うちの先生のお見舞いに……」
 オーナー:「かしこまりました。それでは……」

 オーナーが地下に行く為にエレベーターを起動させた。

 オーナー:「どうぞ」
 稲生:「ありがとうございます」

 稲生とマリアはエレベーターに乗り込んだ。

 マリア:「カラスなんか接客できるのか?」
 稲生:「レストランの方では上手くできているらしいけどね」

 地下1階でエレベーターを降り、その奥へ向かう。
 途中にエレーナの部屋があるが当然誰もいないし、ドアにも鍵が掛かっている。

 マリア:「……開かないな」
 稲生:「そりゃそうだよ」

 奥へ向かうと、魔法陣が描かれている部分があった。

 マリア:「よし、行こう」

 マリアは魔法陣の真ん中に自分の魔法の杖を刺した。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。嗚呼、神への復讐よ。嗚呼、何ということだ。……」

 魔法陣が光り出すと、入口が開いた合図。
 そこに入ると、光が2人を包む。
 そして2人は人間界から消えた。

[魔界時間2月11日12:00.天候:曇 魔界王国アルカディア王都アルカディアシティ魔王城]

 魔王城の中にダンテ一門専用魔法陣がある。
 今回は魔王城に用は無い。
 途中に警備兵などがいるが、彼らとエンカウントすることはない。

 兵士A:「あいつら、いつでも出入り自由だから、いきなり現れるとびっくりするんだよな……」
 兵士B:「ザル警備だな……」

 今回は魔王城に用は無いので、そのまま外に出る。

 マリア:「49番街まではどうやって行けって?」

 アルカディアシティに自動車交通は無い。
 あるのは高架鉄道、地下鉄道、併用軌道である。
 それ以外の道路交通では辻馬車(馬車タクシー)がある。

 稲生:「路面電車で行けるようです」

 魔王城の近くには1番街駅があり、これが日本で言う東京駅になる。
 そこは路面電車のターミナルもあり、そこから路面電車に乗ることができる。

 稲生:「……あった!49番街経由!」

 ターミナルの発車標を確認し、49番街へ向かう電車の乗り場に向かう。
 その前に、ターミナルの案内所にて乗車券を購入する。
 途中から乗る場合、乗務員に運賃を払うことになるが、このようにターミナルから乗る場合は案内所で乗車券の購入も可。

 稲生:「あの電車かな?」

 案内所で購入したキップを手に、目的の電車を探す。
 するとその中に、『G49』と書かれた電車を発見した。
 昭和時代の日本の路面電車の中古車といった感じ。
 GとはGroundの略で、日本語訳すると『49番街循環』という意味である。

 稲生:「49番街までお願いします」
 運転士:「はい、毎度」

 運転士は一見して人間のような姿をしていたが、浅く被った制帽の先からは一本角が見え隠れしていた。
 運行会社であるアルカディアメトロは、路線によって全く雰囲気が違う。
 軌道線にあっては乗務員は人間と魔族が半々、乗客の客層も半々である。
 人魔一体となった王国ならではである。
 一応、アルカディアメトロの運営会社、魔界高速電鉄は現王権には協力的で、ルーシー・ブラッドプール一世が即位した時、高架鉄道と地下鉄道は全ての電車に専用のヘッドマークを掲げてお祝いしたし、路面電車にあってはパレードに使用したくらいである。

 係員:「4番乗り場からG49電車、発車しまーす!」

 黒人の係員が大きく手を上げると、運転士はドアを閉めた。
 そして、チンチーンと電鈴が鳴って発車する。
 この軌道線、ワンマン電車とツーマン電車が混在している。
 多くは1両単行がワンマン、2両以上でツーマンとしている場合が多い。
 この電車は1両だけだった。
 因みに路面電車はターミナル以外、決まった電停は無く、大抵は高架鉄道や地下鉄道の駅前、或いは交差点で止まった時に乗客が乗車または降車の意思表示をして乗降することが多い。

 稲生:「馬が単独で走ってると思ったら、セントールだった」
 マリア:「セントールは郵便配達をしていることが多い。馬車を引くことは無いな。それは『本当の馬車馬がやることだ』と思っているみたいだから」

 騎馬や馬車が車道を走るので、セントールも車道を走ることは多い。
 アルカディアシティにおいて、道路交通における優先度は路面電車が高めになっている。
 さしものセントールも、後ろから路面電車が来たら道を譲らざるを得ないというわけだ。
 プァンと運転士が軽く警笛を鳴らし、挙手をしながらセントールを追い抜いた。
 こんな光景が見られるのはアルカディアシティだけである。
 人間界で言うなら、郵便の自転車を路面電車が追い抜くシーンといったところか。
 広島辺りで見られるかな?

 稲生:「先生へのお土産、カステラでいいんですかね?」
 マリア:「いいと思うよ。肝臓やられたんだから、まさかワインやウォッカを持って行くわけにはいかないだろう」
 稲生:「それもそうですね」
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“大魔道師の弟子” 「後日談」

2020-02-24 11:36:14 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[日本時間2月11日10:00.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 パレスホテル大宮]

 アレクサとの戦いの後は大変だった。
 稲生家はアレクサの攻撃で全壊し、その周辺にも多大な影響が出た。
 これについては『第2次世界大戦絡み、地中に埋められた爆弾が暴発した』とか、『地中に溜まった天然ガスが爆発した』などが報道された。
 恐らくこれはダンテがそういう風にしたのだろう。
 さび付いた第二次大戦中の爆弾の欠片や、爆弾があったことを示す文献まで偽造する徹底ぶりだ。
 その一方、ダンテは稲生家に対し、見舞金と称して、金貨をカジノの勝負師のように積み上げた。
 稲生の両親が度肝を抜かれたことは言うまでもない。
 ますます御坊亀光である。
 そもそも家自体が保険に入っていたので、その保険金が下りるのと、戦時中の爆弾の暴発だとか天然ガスの爆発とかは災害になるので、自治体からも金は出るらしい。
 で、さすがの稲生の両親も、カジノの勝負師のように積み上げられた金貨を全部もらうのは気が引けた。
 恐らくエレーナが探偵からもらった金貨と同様、1枚10万円くらいの価値のあるものだろう。
 どうせ保険金が下りるからと断った稲生の父親、宗一郎であったが、代わりにダンテは新しく家が再建されるまでの間の仮住まいとして近隣のホテルを用意した。
 その宿泊代を見舞金とすることで合意した。

 フロントマン:「ご利用ありがとうございました」
 稲生:「どうもお世話さまでした」

 因みに最終日は稲生とマリアも宿泊した。
 この日の夜行バスで屋敷に帰る。

 稲生宗一郎:「イリーナ先生が爆発に巻き込まれてしまったから、むしろ私達の方がお見舞いに行かなければならないのに……」

 ロビーまで迎えに来てくれた宗一郎が言った。
 今日は祝日なので会社も休みである。

 稲生勇太:「魔道師の先生達は、一般人と考えることが違うんだよ」

 宗一郎の言ったことは既にダンテにも伝えられた。
 しかしダンテは、イリーナの不運が招いたことだからとの一点張りであった。
 魔女というのは自分はおろか、周囲にも不幸をもたらす存在であることは自認している。
 そういった意味で教会が攻撃してくるのは致し方ないという考え方ではあるが、だからといってその攻撃を甘んじて受けるつもりもないということだ。

 勇太:「それじゃ、僕達は先生のお見舞いがあるから」
 宗一郎:「先生によろしく伝えてくれよ」
 勇太:「分かった」

 ホテルを出て、ソニックシティビルの地下駐車場に向かう。

 藤谷:「よお、お2人さん」
 勇太:「班長、おはようございます」
 マリア:「Hi.」
 藤谷:「約束通り、魔界まで乗せてってあげよう」
 マリア:「魔界までは行けないよ」
 勇太:「ワンスターホテルまでで結構です」
 藤谷:「はっはっはー。分かってるよ。さ、乗った乗った」
 勇太:「もう……」

 勇太とマリアは藤谷のベンツGクラスのリアシートに乗り込んだ。
 身長180cmを超え、体重も100キロはある大柄な体の藤谷にはこのような車がよく似合う。
 かつてはセダンタイプのEクラスに乗っていた。

 藤谷:「じゃ、発車の合図頼むぜ」
 稲生:「発車オーライ」

 チンチーン!(←よくフロントデスクやレジカウンターの上に置いてある店員呼び出し用のベル)

 藤谷:「発車!」
 稲生:「……何ですか、これ?」
 藤谷:「作者の字数稼ぎ」
 マリア:「Huh?」
 藤谷:「いや、何でも無い。ナッシング」

 藤谷は車を走らせると、地下駐車場を出た。

 藤谷:「それじゃ、高速使って行くか」
 稲生:「よろしくお願いします」

 まずは最寄りの首都高出入口、『新都心西』へ向かう。

 藤谷:「イリーナ先生の具合はどうだって?」
 稲生:「意識はあるんですけど、しばらくは絶対安静です。何しろ肝臓を潰されたので……」
 藤谷:「それ大丈夫なのか!?てか、何で爆発に巻き込まれて肝臓!?」
 稲生:「あの爆発には裏があるということですよ。あの大先生がやられるくらいですからね、班長なら分かるでしょう?北海道の戦いと言い……」
 藤谷:「なるほど。あれ絡みか……」

 “魔の者”のことは藤谷も知っている。
 本当は知る立場に無かったのだが、北海道での戦いの際は否応無しに巻き込まれてしまった為。
 本来はそれでも魔道士の秘密を知ってしまったことから『処分』の対象になるのだが、あの時は藤谷の活躍が評価され、『協力者』となることで『処分』は免れた。

 藤谷:「しばらくは競馬も休止だな。あの先生のおかげで勝ててるようなものだから」
 稲生:「その方がいいと思います」

[同日10:30.天候:晴 東京都板橋区前野町 首都高速5号池袋線・志村パーキングエリア]

 首都高の上にあるパーキングエリアに止まる藤谷。
 マリアがトイレに行きたいと言ったので、ここに止まった。
 首都高のパーキングエリアということもあって規模は小さく、大型車の進入が禁止されているほどである。
 ついでに稲生も行っておく。
 藤谷は外にある喫煙所でタバコに火を点けた。
 エレーナと違い、従来の紙巻タイプ。

 藤谷:「……あれはヤーさんだな」

 藤谷は喫煙所でタバコを吸いながら出て行く車を見た。
 黒塗りのアルファードで、リアシートは完全にスモークである。
 しかし助手席とかはそういう風にするわけにはいかないので、乗っている者の顔は見ることできる。
 藤谷はそれを見てそう判断した。
 しばらくすると、稲生がトイレから出て来た。

 稲生:「ついでに飲み物を……」
 藤谷:「今日は寒いから、温かいのでも飲めばどうだ?そこの“コーヒールンバ”が流れるヤツとかな」
 稲生:「あー、いいですねぇ……。(てか、あのメロディ、“コーヒールンバ”って言うんだ……)」
 マリア:「お待たせ」

 マリアも出て来た。

 藤谷:「おー」
 稲生:「マリアさん、コーヒーでも飲みます?」
 マリア:「水でいいよ。コーヒーならホテルで飲んだし」
 稲生:「それもそうか」

 因みに“コーヒールンバ”が流れる自販機でコーヒーを買ったのは藤谷の方だった。
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“魔女エレーナの日常” 「アレクサ戦、エレーナでプレイするとゲームオーバーだった」

2020-02-23 19:50:42 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間2月10日15:00.天候:霧 魔界王国アルカディア王都アルカディアシティ49番街 アルカディア総合病院]

 エレーナ:「ゲホッ、ゲホッ!……ブボッ!」

 アレクサとの戦いの後から10日ほど経った。
 ここ、アルカディアシティで1番大きな医療施設にはアレクサにやられた魔道士達が入院していた。

 エレーナ:「魔法で内臓潰されたから、治りが遅ェのか……。ちくしょう、あのクソババァ……」

 エレーナは時折血を吐きながら、吐いた後で敵の魔道士に呪いの言葉を吐いていた。

 リリアンヌ:「え、エレーナ先輩……。お、お、お見舞いに来ました……」

 戦いには参加しなかった見習いのリリアンヌが、よく見舞に来た。
 リリアンヌは人間だった頃、初等教育しか受けていなかったので、最低限の中等教育を受ける為に魔界の学校に通っているのである。
 他の魔族子弟はこちらに居住地があるので通学だが、人間界に居住地のある魔女っ娘は専用の寮に住み込むことになっている。
 その為、却って面会に行きやすいのである。
 魔道士の患者にあっては面会に際し、特に大きな制限は無い。

 エレーナ:「おう。いつも悪いな。もう学校終わったのか?」
 リリアンヌ:「は、はいです……」

 魔道士が通うからといって、別にその学校は魔法学校ではない。
 あくまで最低限の中等教育を施すだけの普通学校である。

 リリアンヌ:「これ、お見舞いの品です」
 エレーナ:「昨日はオーナーからもらったが、今日は誰からだぜ?」
 リリアンヌ:「ムッシュ鈴木です」
 エレーナ:「……オマエ、食っていいよ」
 リリアンヌ:「フヒッ!?でも、ギンザのフーゾクドーって有名なスイーツのお店……」
 エレーナ:「銀座の風月堂な?何だよ、フーゾクドーって。風俗か?ザギンのど真ん中でソープか?」
 リリアンヌ:「フヒッ?何ですか?」
 エレーナ:「何でも無ェよ。今度鈴木に会ったら言っとけ。『私を元気にしたければ、円寄越せ、円』ってな」
 リリアンヌ:「ウイ。取りあえず、開けます」

 リリアンヌはフランス語で返事をすると、鈴木から渡された見舞品を開けた。

 リリアンヌ:「フヒッ、『お札サブレ』!?」
 エレーナ:「本当に円寄越してきやがったー!」
 リリアンヌ:「ムッシュ鈴木の親戚に財務省関係者がいて……?そのツテで手に入れたお菓子だそうです」
 エレーナ:「風月堂に委託製造してるヤツか?」
 リリアンヌ:「1万円札の形をしたサブレ……」

 ※ガチで国立印刷局の工場売店などで販売されています(雲羽からトチロ~さんへも渡し済み)。

 エレーナ:「訂正。今度はモノホンの万札持って来いと言……ゲホッ、ゲホッ!」
 リリアンヌ:「先輩!しっかりしてください!」
 エレーナ:「私は肺をやられた……。あのクソババァ、敵の弱った内臓を潰す魔法なんて、どうやって習得したんだ……?」

 あまり描写は無いがエレーナは喫煙者である。
 最近は加熱式タバコを使用している。
 紙巻タバコから試しに変えてみたのだが、あまり使い勝手の良さは感じられなかった。
 が、鈴木から、「紙巻タイプよりスマートに見える」と言われ、未だに使用している。

 リリアンヌ:「イリーナ先生やマルファ先生は肝臓を潰され、ポーリン先生は胃を潰されました……」
 エレーナ:「あの2人は酒飲みだし、うちの先生は胃腸が弱いから、よく御自分で胃腸薬作って飲んでたからな……」

 アナスタシアは1番最後に参上したから、内臓を潰される攻撃は受けなかったようだ。
 因みに面会制限は魔道士だから無いのであって、これが普通の人間だったら既に死亡しているか、ICUに入っていて当然のダメージである。
 その為、皆して個室に入っている。
 個室に入らざるを得ないほどの重傷だったのだ。

 アナスタシア:「調子はどう?」

 アナスタシアが微笑を浮かべて入ってきた。
 ダンテの直弟子で、あの戦闘の場では唯一軽傷で済んでいる。

 エレーナ:「この通り、咳込む度に吐血してますよ。……何でしょうね。私もようやっと楽しめるものができて、それに飽きるまでは魔女としてでもいいから生きていたいと思っていたところにこれですよ」
 アナスタシア:「それは残念だったわね。魔女って、不幸な女の成れの果てだから。でも、ダンテ先生の所に入っていたことが不幸中の幸いよ。本当だったらあなたも含めて、アレクサの攻撃を受けた者は惨めに死なざるを得なかった。それを防ぐことができただけでも、あなたは運がいいのよ」
 エレーナ:「ありがとうございます。それにしても、どうしてアナスタシア先生は無事だったんですか?」
 アナスタシア:「私だって、岩に叩き付けられたんだから無事じゃないわよ?」
 エレーナ:「あ、いや、そうじゃなくて……ゲホッゲホッ!ブバッ!」
 アナスタシア:「ほらほら!まだ魔法の毒が残ってるんだから、あまり喋らないの」
 エレーナ:「これって、アレですよね?魔法を掛けたヤツを殺さないと、すぐに治らないんですよね?」
 アナスタシア:「そうね。だけどアレクサのことに関しては、ダンテ先生に全てをお任せしているからね。こっちはポーリンの解毒剤を使って気長に治すしか無いのよね」

 アナスタシアはエレーナの腕に刺さっている点滴を見て言った。

 アナスタシア:「これを機に禁煙したら?」
 エレーナ:「大きなお世話です」
 アナスタシア:「それじゃ、しばらくは安静にするのよ」
 エレーナ:「暴れたくても、これじゃ無理です……」

 アナスタシアがエレーナの病室から出て行った。

 エレーナ:「大師匠様に命令されて、療養中の私らの様子を見に来てるんだ」
 リリアンヌ:「そ、それはいいですね……」
 エレーナ:「それは、いいんだけどな……」
 リリアンヌ:「?」
 エレーナ:(大師匠様に対してですら『内臓潰し』の攻撃をした癖に、アナスタシア先生に対してはその攻撃をしなかったというのは気になるな……)
 リリアンヌ:「先輩……?」
 エレーナ:「少し寝るな。この薬、時々眠くなるんだ」
 リリアンヌ:「あ、はい。また明日来ます」
 エレーナ:「ああ。リリィ、1つ頼みがある」
 リリアンヌ:「何ですか?」
 エレーナ:「稲生氏の所に行って、あの戦いの構図を聞いてきてくれ……」
 リリアンヌ:「こ、ここ構図ですか?」
 エレーナ:「ああ。アナスタシア先生が活躍したことになってるあの戦い、何か引っ掛かるんだ……」
 リリアンヌ:「わ、わわ分かりました……」

 リリアンヌはエレーナの病室を後にした。
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“大魔道師の弟子” 「魔が笑う」

2020-02-23 16:08:57 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[日本時間2月1日10:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家上空→魔界某所]

 稲生達を乗せたヘリが稲生家の上空まで飛んで来る。

 稲生:「町の様子が……!」

 稲生家はもちろん、その周辺が爆弾が爆発した後のような大惨事になっていた。

 アナスタシア:「あの我流者、やってくれたみたいね」
 エレーナ:「大師匠様達はどこだ!?」
 アナスタシア:「どうやら、行き違いになったみたい。もう1度魔界に戻るわ」

 アナスタシアは再び魔法陣を上空に開いて、その中にヘリを進ませた。
 魔界と人間界を繋ぐ真っ暗闇の中をヘリは進む。
 これを亜空間トンネルと言い、あの世とこの世を結ぶ冥界鉄道公社の列車もここを通る。

 アナスタシア:「! 伏せて!」

 アナスタシアが叫ぶのと、光球がヘリに直撃するのは同時だった。

 稲生:「わあーっ!?」

 ヘリが操縦不能になって失速する。

 アナスタシア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!」
 エレーナ:「こうなりゃ、さっさと脱出だぜ!」

 エレーナは自分だけホウキに跨った。

 エレーナ:「稲生氏、早く乗るんだぜ!」
 稲生:「ちょっと待って!マリアさん達は!?」
 エレーナ:「あと1人しか乗れねーぜ」
 稲生:「それはちょっと……」
 アナスタシア:「ちょっと静かにして!……きゃあああっ!!」

 ヘリは魔界の大地の上に墜落した。
 咄嗟にアナスタシアが瞬間移動魔法を使ったが、衝撃は避けられなかった。

 キャサリン:「元ポーリン組所属、キャサリンから門内総員へ現状報告致します。我流者アレクサ・スカーレットとの戦いは、現在当方が不利な状況に追い込まれています。現況をお伝えします。イリーナ先生、戦闘不能。ポーリン先生、戦闘不能。マルファ先生、戦闘不能。……」

 ダンテの元へ駆け付けた直弟子達のライフゲージが軒並みゼロになっていた。
 ゲームで言えば、ゲームオーバー必至の状態である。

 ダンテ:「見事な戦いぶりだ。その強さ、何もバァル君が契約を受け付けたからだけではあるまい」
 アレクサ:「私も血の滲むような修行を積んだからね。そこらの魔女とは違うのよ。私には祖母から教えられた魔法がある」
 ダンテ:「私の呪文は不服か?」
 アレクサ:「『パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。嗚呼、神への復讐よ。嗚呼、何と言うことだ』という呪文こそが我流よ」
 アナスタシア:「ダンテ先生の呪文に何てこと……がっ……!?」

 ダンテの直弟子でまだ戦えるアナスタシアがアレクサに文句を言うと、彼女は吹っ飛んだ。
 そして、白い岩壁に叩き付けられた。

 アレクサ:「『エロイムエッサイム、エロイムエッサイム。我は求め、訴えたり』が効くのよ」
 ダンテ:「バァル君はその呪文に乗ったのか?あやつも焼きが回ったものだ」

 ダンテ自身も無傷ではなかった。

 アレクサ:「どうするの?これ以上戦ったら、あなたのかわいい弟子達はもちろん、あなた自身も死ぬことになるわよ?」
 ダンテ:「心配御無用……。こう見えても、体は頑丈なのでね……」
 マリア:「ママ!もうやめて!」
 アレクサ:「バァルの所に預けていたはずなのに、どうしてここにいるの?」
 マリア:「皆が助けに来てくれたの!お願い!もうやめて!私は皆と一緒にいて幸せなんだから!」
 エレーナ:「ブッ……!」

 エレーナが血を吐いて倒れた。

 エレーナ:「な、内臓を……こ、こ……!」

 エレーナは腹を押さえて倒れた。

 稲生:「エレーナ!」
 ルーシー:「内臓!?……あっ!……ぎゃっ……!!」

 ルーシーはエレーナの言葉で何かに気付いたようだが、遅かった。
 ルーシーもまた血を吐いて倒れた。

 アレクサ:「ここにいたことは忘れなさい。全員殺して忘れさせてあげる。魔道士でいたければ、今後は私が教えてあげるから、私に弟子入りなさい」
 マリア:「嫌だ!どうしてこんなことするの!?」
 アレクサ:「どうしてですって……?」

 アレクサはうつ伏せに倒れているイリーナの横に瞬間移動すると、足で仰向けになるよう蹴り上げた。
 イリーナも血を吐いて倒れたらしく、顔中血だらけになっていた。

 アレクサ:「こいつがマリーを弟子入りさせる為に、わざと“魔の者”に襲わせていたからよ!」

 マリーとはマリアンナの愛称。
 マリアンナの愛称は『マリア』ではなく、『マリー』が本来は英文的には正しい。

 稲生:「ええっ!?」
 ダンテ:「おいおい、言い掛かりはやめてくれんかね?……!」

 ダンテにもアレクサは敵の内臓を潰す魔法でも使っているのだろうが、そこはさすが一大魔法門を立ち上げた実力者。
 そう簡単にはやられない。

 ダンテ:「“魔の者”がマリアンナ君を襲ったのが先だ。イリーナは後から来て傍観していだけに過ぎない」
 アレクサ:「どうして助けてくれなかったの!?このコはたまたま魔女の血を引いてただけだったのに!」
 マリア:「ママ、私のことはもういいから。今が幸せだからいいの!」
 アレクサ:「どこが幸せよ!?普通のコとして幸せに……!」
 稲生:「ま、マリアさんのお母さん。僕、マリアさんの後輩で、今は『それ以上に親しくお付き合いさせて頂いている』稲生勇太と申します」
 アレクサ:「日本人?マリー、日本人と付き合うなんて……」

 そこでアレクサの言葉が止まった。
 マリアが稲生を抱き寄せ、キスをしたのである。

 アレクサ:「なっ……!?」
 マリア:「言ったでしょ?私は今は幸せなんだって。だから……」

 その時、マリアの頭上を何かが掠めて行った。
 そして他の大魔道師と同じ(低身長のマルファは除く)高身長のアレクサの胸に被弾する。

 稲生:「!?」
 マリア:「!?」
 アレクサ:「くっ……!」

 更に何発も、今度は銃声が聞こえた。
 アレクサは最初に食らった銃弾が物凄いダメージだったのか、それを交わすことができず、次々と被弾して血しぶきを上げた。

 
(アナスタシア・ペレ・スロネフ。唯一、近代兵器を魔法で操る組を率いる)

 アナスタシア:「フザけるんじゃないわよ……!」
 アレクサ:「こ、これは……銀製の銃弾……!?」

 銀は悪魔や魔族、そして魔女や魔道士など、『魔』の付く者の存在には必ず効くという。
 アナスタシアは唯一、銃を物理攻撃として使う魔道師であるが、その弾薬は普通の物ではなく、魔法具で製造した物を使う。

 アナスタシア:「“魔の者”の脅威に気付いておきながら、それを放置したあなたがネグレクトのマッドマミーじゃない!」
 ダンテ:「そういうことだ。他人に責任を押し付けてはならん」

 ダンテは戦闘不能になったアレクサの意識を奪った。

 稲生:「大師匠様!」
 ダンテ:「この者については、後は私に任せたまえ。悪いようにはしないが、しかしそれなりの責任は取ってもらうつもりだ」
 稲生:「先生達は……?」
 ダンテ:「大丈夫だ。私が頑丈なのと同様、彼女らも頑丈でね。私が回復魔法を後で掛けてあげよう。アナスタシアもよくやった」
 アナスタシア:「私がさっさと戦闘不能に陥ったと勝手に見做したのが運の尽きでしたね」

 
(悠然と立ち去ろうとするアナスタシア)

 ダンテ:「キミの家のことについは残念だ。後で私から見舞金を払っておく」
 稲生:「はあ……」

 全壊してしまった稲生家。
 果たして再建は可能になるのか?
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