花の宵は栞さんに逢うべし――
小川糸「喋々喃々」ポプラ社1575円を読む。
東京下町の谷中。
谷根千といわれる界隈の街で、
アンティーク和装店(ひめまつ屋)をひとりで営む栞さん。
お茶会に行く着物を探しに来たと正月早々、
サラリーマン風の男が訪れた。


おいしい食事処、スイーツの店、居酒屋、お酒処、お惣菜店。
そして、朝倉彫塑館、根津神社、湯島天神など史跡・名所が、
すべて実名でデイトの場所として登場します。
上等なお菓子をゆっくり味わい。少し苦いお茶でうるおす。
銘酒をお猪口でふくみ(コップ酒なんてとんでもない)いただく。
そんなのひとときの時間と味わいを、女の、
心と身体の襞が紡ぎだすような言葉で綴られた小説です。
外出やデートはいつも、
季節の移ろい、心のあやに合わせて着物をえらぶ。
「喋々喃々」(ちょうちょうなんなん)
男女がうちとけて、小声で楽しげに、語り合う様子――と、
本のオビに記されています。
それにしても、

この一介のサラリーマ氏。妻子がいて、
小田急線の町田に住んでいるのに、
しょっちゅう谷根千の街に来ては、
栞さんに想われデートしてもらえる。
許せない!!