暑い日が続いています。
気分は最低、身体はヘロヘロ。頭はデロデロ。
こんなときは気分転換に集中する時間が頓服剤になる。上京のついでに銀座に回った。
お気に入りの映画館が山野楽器店の裏側にある「シネスイッチ銀座」
フセイン後のイラクの映画として話題になっている、
イラク人監督・アルダラジーによる「バビロンの陽光」を上映している。
スクリーンは、
黄土色の荒涼とした岩のかけらが続く砂漠地帯。
尽かれたように、人が歩いてくる。
だんだん大きくなる。黒衣に身を包んでいるから女性だ。しかも老いている。
そして、元気な少年が現れる。長い縦笛を持っている。愛くるしい大きな目が印象的だ。
2003年にフセイン政権が崩壊して、3週間後のイラク北部クルド人地区、
ナシリヤ刑務所に父がいるという手がかりに、
12年前に徴用された息子を探す、年老いた母親と12歳の孫のふたり。
クルド語しか話せない祖母が息子を探す思いの深さ。
片言のアラビア語で祖母を助ける孫とのロードムービー。
祖母にはほとんど長いセリフはないし通じない。
叫ぶように言う孫の名前、アーメッドと、
クルド人虐殺を強要されたと告白した元兵士を
「人殺し」とののしる叫びだけ。
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ヒッチハイクで破壊とガレキのバグダットへ。
いつ出るか来るか分からないバスを乗り継ぎ、
刑務所、収容所、病院、モスクを訪ねて巡る。
行く先ごとに息子の、そして父の形跡は薄れていく。
絶望的な状況を乗り越えて、過酷な旅の果てはバビロン。
砂漠の中に巨大な共同墓地。ブルドーザーで掘り起こす。
その度に、何十人もの黒衣で身を包んだ女性たちが棺に取りすがる。
祖母は遺体の前に座り込み「息子よ」と何度も愛撫を繰り返す。
孫は「おばあちゃん、おばあちゃん」と何度も呼びかけるが……。
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「兵士」になりたいと言って祖母にしかられ、
やがて父のように音楽家になりたいと、
古都バビロンの空中庭園に憧れた少年の見たものは。
イラク出身のモハメド・アルダラジー監督。
故郷の現状を世界に発信したいと、全編をイラクでの現場撮影。
アムネスティ国際映画賞・平和映画賞を受賞。
慟哭ののラスト・シーンで訴えたものは……
アルダラジー監督、国土の荒廃を映したのではない。
ヒッチハイクで乗せたトラックの運転手。
タバコ売りの少年。虐殺に従事した元兵士。
それを最後に許した祖母。
国土はガレキでも、人の心まではガレキにっていなかった。