たにしのアブク 風綴り

87歳になります。独り徘徊と追慕の日々は永く切ない。

「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」老父の信じた100万ドルに寄り添う息子の道中記

2014-04-22 17:37:35 | 劇場映画

灰色のハイウェイが遠くまで続いている。
側道をよたよた歩いてくる老人がいる。パトカーが回り込んで止まる。
映画はこんなエピローグから始まります。

「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」(アレクサンダー・ペイン監督)を見てきました。



いつも行くシネコンのスケジュールを見たら、
今週で上映が終わるというので行ってきました。
アメリカのモンタナ州ビリングスに住む老人ウディ・グラント(ブルース・ダーン)は、
郵便受けにあった「あなたは100万ドルに当選しました」
のダイレクトメールを本気にしてしまったのです。
よくある手の込んだ広告の騙しのテクニックですね。
ウディそれを信じてしまったのです。

モンタナ州から、ネブラスカ州のリンカーンまで歩いて、
100万ドルを受け取りに行こうとしていたのです。
次男のデイビッド(ウィル・フォーテ)と妻のケイト・グラント(ジューン・スキッブ)が、
「インチキで騙されているんだ」いくらと言い聞かせても、
ウディは頑として受け付けない、廃車同然の車を修理してでも出かけようとします。


心優しい次男のデイビッドは、結婚を渋る彼女、経営しているオーディオ店も思わしくなく、
頑固一徹に信じ込み、思い詰める父に付き添って、無駄だと分かりながらも、
ネブラスカまで連れて行く心境になるのです。

父子の道中記・ロードムービーの始まりです。
映画はこここから、滑稽で、切なくて、絶妙の情愛が胸に迫ります。
途中、父が結婚し自動車工場を共同経営していた田舎町の故郷に寄ります。
ケイトとテレビキャスターの長男のロス・グラント(ボブ・オデンカーク)もやって来ます。

100万ドルを手にするウディをめぐって
親族縁者、幼馴染み、共同経営者、父の結婚前の彼女らが登場して、さまざまな人間模様が展開されます。
両親の意外な過去も知り、一家のヒストリーロードとも重なってきます。

ウディは騙されていることを知った町の嘲笑を背に、
二人は目的地・手紙の発信されたリンカーンに向かいます。

果たして100万ドルの結末は、……映画館でどうぞ。
アレクサンダー・ペイン監督の腕の見せ所です。
観る人を幸福な気持にさせてくれます。

100万ドルを手にしたら一番に欲しかったトラックのハンドルを握るのはウディ、
荷台には空気乾燥機(これは二番目に欲しかった)を乗せ、
嘲笑された故郷の町のメーンストリートを意気揚々と走り去っていくのでした。

この映画の素晴らしいのは、演技なのか地なのか、認知症なのか頑固なのか、
圧倒的な老人の存在感を演じたウディ(ブルース・ダーン)に尽きるでしょう。
妻を演じたケイト・グラント(ジューン・スキッブ)の故郷の町での仕切りは見事なものでした。
モノトーンのシネマスコープでアメリカ中西部の風景が心を落ち着かせてくれます。
とてもいい映画です。