令和3年10月20日 秋が深まってきました。
桜の木の葉が黄茶色に代わり、風に舞って落ちています。
久しぶりに大型活字で読む時代小説レビューです。
今回の物語小説は「河童将軍」です。
村上元三の「変化(へんげ)もの」三題シリーズの一遍です。
侍の落第生が縁あった河童の総大将になった話です。
可笑しくって、面白く、笑えた物語でした。
なんとなく既視感やリアル感を覚えました。
人間社会のパロディ小説とも読めました。
「たにしの爺」左目に障害があって、
図書館から借りてくる「大型活字本」をもっぱら読みます。
中でも「時代小説」が大好きです。
出版年は古いですが、とにかく読んで楽しい。
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主人公は坂巻太郎蔵源貫之(さかまきたろうみなもとのつらゆき)、
元は印旛・白井の城主原式部少輔の家臣であって、
落城のとき18歳だった。後に徳川方の家臣になって、
関ヶ原の合戦では30人ほどの卒の大将で活躍したが、
故あって、恩賞から外されて浪人の身になっていた。
そんなわけで、坂巻太郎蔵は印旛沼のほとりで、
コイやフナ、ナマズを捕って生計にしていた。
恩賞から外れたのは太郎蔵に原因があった。
「大酒飲みで女に目がない」その上、怠け者で、
陣中での乱行ぶりが祟って、主から縁を切られてしまった。
故郷下総の白井で「河原漁師」に身をやつしていた。
それでも、自分は侍なのだという自負だけは失うまいと、
かつて奉公していた白井の城を崇める日々を送っていた。
沼で捕ったコイフナ、ナマズは乾魚にして売ったりしていた。
あるとき、干し魚が朝になると減っていることに気づいた。
よく見ると足指の間に水かきの付いた足跡が残っていた。
こやつ「カワウソ」めと思い、ある朝、監視していると、
二本足で立っている人間のような素っ裸が干し魚を食べている。
「おのれ」と飛び出し棒で殴りつけた。
棒は撥ね退けられて、一個の「河童」が立っていた。
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顔の真ん中にくちばしが突き出ている。
手が恐ろしく長くて、膝下まで伸びている。
太郎蔵、息をのんだまま身動きもできないでいた。
取っ組み合いの上、ようやく組み伏せて押さえつけた。
そのとき、河童の身体から妙な響きを発した。
太郎蔵の鼻孔に嫌な臭気が流れ込んできた。
気が遠くなるような臭気を嗅ぐと、全身がマヒ状態になり、
悪夢の中に引き込まれるような、身体から力が抜けていった。
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手賀の丘公園から眺めた手賀沼
泥沼の中をあがき廻り、気が付いたときに、自分の身体から、
全身の肉と骨が溶け失せて、皮の下は空気ばかりになって、
おまけに、あの嫌な臭いが身体から発している自分が、
漁師小屋の床に横たわっていることに気付いた。
床の脇に嫌な臭いを発する女の姿をした河童が座っていた。
「わたくしは」あなた様に悪戯をした河童の妹ですと言った。
その度に、あの嫌な臭気が太郎蔵の鼻孔に流れ込んできた。
「自分たちは……」河童の女が言った。
利根川の上流、榛名山の麓を流れる鳥川の縁に棲んでいた「河童の一族」であって、
私の名は「河女」だという。
私たちは、人間に悪戯をしたために鳥川を遂われ、
利根川に移り棲んでいたところ、
利根川に古くから住む「水虎・すいこ」一族に、
邪魔者あつかいにされ、迫害を受け数日前から、
この印旛沼に逃げ込んできました。
私たち関東に棲む河童は、背中に甲羅はなく、性質も大人しい。
水中の魚やシジミ貝を食用にしている。
ただ時々、人間の尻子玉を頂く癖がある。
水虎は河童と同じ形をしている上に、
背に亀の甲のようなものがついている。
これは敵に襲われたとき甲の下に潜り込んでしまう必要からで、
敵が多いという証拠です。人畜にも害を与えるのが常であると、
太郎蔵に訴ったえたのであった。
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手賀沼大橋
河女は太郎蔵に近寄り口の中に何やら、
煉り薬のようなものを押し込んでいった。
それから幾夜か河女が訪ねてきては、
臭い煉り薬を押し込んでいったのでした。
太郎蔵、幾日か過ぎ心気爽快を覚え正気づいた。
長い眠りから覚めたように思った。とき、
思わず飛び起きてしまった。わが身の変化に気が付いた。
自分の手に、水かきが出来ている。
身体は蒼黒く変わって手がいやに長くなり、
肌は水から上がったばかりのように、じめっとしている。
飛び起きて身体を見ると、頭にてっぺんが剥げて湿っている。
顔の真ん中にくちばしのようなものが突き出している。
家の中にふんどし一つの河童が突っ立ているではないか。
自分の居場所はどこだ。川に向かって突っ走った。
どろどろの水の中へ躍り込んだ。
太郎蔵はいきいきと全身に力のみなぎるのを感じた。
何とも言えない快さも覚えるのだった。
やがて太郎蔵は印旛沼の水底の穴にたどり着いた。
一個の河童が立っているのを目にとめた。
胸のあたりに人間と同じように乳房が二つこんもりと膨らみ、
下腹あたりに水草で編んだ腰布のようなものを垂れている。
くちばしのあたりには、恥じらうような笑みを浮かべている。
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手賀沼親水広場前か見える河童像
「とうとうおいで下されましたね」
しなやかに腰をくねらせ媚態を示しながら、
「わたくしは河女でございます」と言った。
「おのれ―」と飛び掛かった太郎蔵を抱きとめた河童の河女は、
蒼黒い肌をぴったりと押し付けたまま、
沼の深みに奥深く引っ張り込んでいった。
それっきり、坂巻太郎蔵は湖畔から姿を消してしまった。
その後、印旛沼には、
人間の知恵ではわからぬ異変が度々、起こったという。
あくる年の春の夜、白井の長源寺に太郎蔵が忽然と訪ねてきて、
住職から紙料と硯を借り受け、
一夜で「河童世界での体験」を残していった、
と伝えらている。
そこには、河童の棟梁となった太郎蔵=河童太郎が、
関ヶ原の合戦を思わすような水虎軍たちとの対決や、
河童一族との、特に河女と「契り」や混じりあいを、
非人間的な河童の目線で「人間界のパロディ」に似て、
「河童世界」小説が綴られていた。
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河女は「江戸に出て将軍におなり下さい」
しきりに河童太郎にけしかけるのでした。
印旛沼、利根川など現存の地名や川が舞台で、
印旛沼の妖怪「河童伝説」につながるのかな。
面白かった。
河童と言えば黄桜酒造のコマーシャルが記憶にあります。
清水崑さん、小島功さんが描く「河童家族」
美人の妻がお銚子とお猪口を持って、頬を染める。
最近放映されないけれど、どうしたんだろう。
後の2編は後日に書きます。
桜の木の葉が黄茶色に代わり、風に舞って落ちています。
久しぶりに大型活字で読む時代小説レビューです。
今回の物語小説は「河童将軍」です。
村上元三の「変化(へんげ)もの」三題シリーズの一遍です。
侍の落第生が縁あった河童の総大将になった話です。
可笑しくって、面白く、笑えた物語でした。
なんとなく既視感やリアル感を覚えました。
人間社会のパロディ小説とも読めました。
「たにしの爺」左目に障害があって、
図書館から借りてくる「大型活字本」をもっぱら読みます。
中でも「時代小説」が大好きです。
出版年は古いですが、とにかく読んで楽しい。
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主人公は坂巻太郎蔵源貫之(さかまきたろうみなもとのつらゆき)、
元は印旛・白井の城主原式部少輔の家臣であって、
落城のとき18歳だった。後に徳川方の家臣になって、
関ヶ原の合戦では30人ほどの卒の大将で活躍したが、
故あって、恩賞から外されて浪人の身になっていた。
そんなわけで、坂巻太郎蔵は印旛沼のほとりで、
コイやフナ、ナマズを捕って生計にしていた。
恩賞から外れたのは太郎蔵に原因があった。
「大酒飲みで女に目がない」その上、怠け者で、
陣中での乱行ぶりが祟って、主から縁を切られてしまった。
故郷下総の白井で「河原漁師」に身をやつしていた。
それでも、自分は侍なのだという自負だけは失うまいと、
かつて奉公していた白井の城を崇める日々を送っていた。
沼で捕ったコイフナ、ナマズは乾魚にして売ったりしていた。
あるとき、干し魚が朝になると減っていることに気づいた。
よく見ると足指の間に水かきの付いた足跡が残っていた。
こやつ「カワウソ」めと思い、ある朝、監視していると、
二本足で立っている人間のような素っ裸が干し魚を食べている。
「おのれ」と飛び出し棒で殴りつけた。
棒は撥ね退けられて、一個の「河童」が立っていた。
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顔の真ん中にくちばしが突き出ている。
手が恐ろしく長くて、膝下まで伸びている。
太郎蔵、息をのんだまま身動きもできないでいた。
取っ組み合いの上、ようやく組み伏せて押さえつけた。
そのとき、河童の身体から妙な響きを発した。
太郎蔵の鼻孔に嫌な臭気が流れ込んできた。
気が遠くなるような臭気を嗅ぐと、全身がマヒ状態になり、
悪夢の中に引き込まれるような、身体から力が抜けていった。
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手賀の丘公園から眺めた手賀沼
泥沼の中をあがき廻り、気が付いたときに、自分の身体から、
全身の肉と骨が溶け失せて、皮の下は空気ばかりになって、
おまけに、あの嫌な臭いが身体から発している自分が、
漁師小屋の床に横たわっていることに気付いた。
床の脇に嫌な臭いを発する女の姿をした河童が座っていた。
「わたくしは」あなた様に悪戯をした河童の妹ですと言った。
その度に、あの嫌な臭気が太郎蔵の鼻孔に流れ込んできた。
「自分たちは……」河童の女が言った。
利根川の上流、榛名山の麓を流れる鳥川の縁に棲んでいた「河童の一族」であって、
私の名は「河女」だという。
私たちは、人間に悪戯をしたために鳥川を遂われ、
利根川に移り棲んでいたところ、
利根川に古くから住む「水虎・すいこ」一族に、
邪魔者あつかいにされ、迫害を受け数日前から、
この印旛沼に逃げ込んできました。
私たち関東に棲む河童は、背中に甲羅はなく、性質も大人しい。
水中の魚やシジミ貝を食用にしている。
ただ時々、人間の尻子玉を頂く癖がある。
水虎は河童と同じ形をしている上に、
背に亀の甲のようなものがついている。
これは敵に襲われたとき甲の下に潜り込んでしまう必要からで、
敵が多いという証拠です。人畜にも害を与えるのが常であると、
太郎蔵に訴ったえたのであった。
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手賀沼大橋
河女は太郎蔵に近寄り口の中に何やら、
煉り薬のようなものを押し込んでいった。
それから幾夜か河女が訪ねてきては、
臭い煉り薬を押し込んでいったのでした。
太郎蔵、幾日か過ぎ心気爽快を覚え正気づいた。
長い眠りから覚めたように思った。とき、
思わず飛び起きてしまった。わが身の変化に気が付いた。
自分の手に、水かきが出来ている。
身体は蒼黒く変わって手がいやに長くなり、
肌は水から上がったばかりのように、じめっとしている。
飛び起きて身体を見ると、頭にてっぺんが剥げて湿っている。
顔の真ん中にくちばしのようなものが突き出している。
家の中にふんどし一つの河童が突っ立ているではないか。
自分の居場所はどこだ。川に向かって突っ走った。
どろどろの水の中へ躍り込んだ。
太郎蔵はいきいきと全身に力のみなぎるのを感じた。
何とも言えない快さも覚えるのだった。
やがて太郎蔵は印旛沼の水底の穴にたどり着いた。
一個の河童が立っているのを目にとめた。
胸のあたりに人間と同じように乳房が二つこんもりと膨らみ、
下腹あたりに水草で編んだ腰布のようなものを垂れている。
くちばしのあたりには、恥じらうような笑みを浮かべている。
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手賀沼親水広場前か見える河童像
「とうとうおいで下されましたね」
しなやかに腰をくねらせ媚態を示しながら、
「わたくしは河女でございます」と言った。
「おのれ―」と飛び掛かった太郎蔵を抱きとめた河童の河女は、
蒼黒い肌をぴったりと押し付けたまま、
沼の深みに奥深く引っ張り込んでいった。
それっきり、坂巻太郎蔵は湖畔から姿を消してしまった。
その後、印旛沼には、
人間の知恵ではわからぬ異変が度々、起こったという。
あくる年の春の夜、白井の長源寺に太郎蔵が忽然と訪ねてきて、
住職から紙料と硯を借り受け、
一夜で「河童世界での体験」を残していった、
と伝えらている。
そこには、河童の棟梁となった太郎蔵=河童太郎が、
関ヶ原の合戦を思わすような水虎軍たちとの対決や、
河童一族との、特に河女と「契り」や混じりあいを、
非人間的な河童の目線で「人間界のパロディ」に似て、
「河童世界」小説が綴られていた。
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河女は「江戸に出て将軍におなり下さい」
しきりに河童太郎にけしかけるのでした。
印旛沼、利根川など現存の地名や川が舞台で、
印旛沼の妖怪「河童伝説」につながるのかな。
面白かった。
河童と言えば黄桜酒造のコマーシャルが記憶にあります。
清水崑さん、小島功さんが描く「河童家族」
美人の妻がお銚子とお猪口を持って、頬を染める。
最近放映されないけれど、どうしたんだろう。
後の2編は後日に書きます。