たにしのアブク 風綴り

86歳・たにしの爺。独り徘徊と追慕の日々は永い。

「和菓子のアン」女の子の物語に魅せられ、桜餅を買った。

2022-03-28 09:45:18 | 本・読書
令和4年3月28日 サクラ開花が一気にきましたね。
通院帰りに、デパ地下で「桜餅」を買ってきました。
創業享和3年だという京都の菓匠「鶴屋吉信」謹製。



塩漬けした柔らかい桜葉の塩味とアンの甘みが、
口中で溶け合って「桜花のシンフォニー」です。
「たにしの爺」柄にもなく生和菓子に舌つづみ。



花はまだ二分どころなり桜餅 富安風生
紙箱の底の湿れる桜餅    岸本葉子





坂本司著「和菓子のアン」という本を読みました。 
まったく知らなかった作者です。覆面作家だという。
とっても面白く、未知な世界に触れる本に出会いました。



爺の楽しみは、大型活字本でストレスなく読める、
「武士もの」「戦国戦記」「剣豪小説」「江戸もの」で、
池波正太郎、藤沢周平さんらの大型活字の「時代小説」です。
図書館の書棚には、それほど冊数は揃ってなく読みつくしました。

これまで手に取らなかった、未知の作家さんの本を借りました。
「武家、時代小説」とまったく違う「面白さを堪能」しました。
ちょっとミステリアスな隠し味もする「和菓子」の「壷」です。
「女の子」のお仕事物語でした。



主人公は18歳の梅本杏子(本人は嫌だけどアンちゃんと呼ばれる)、
というのは、ふくよかぽっちゃり体型で、お洒落には目をつぶって、
高校は卒業したけれど勉強は好きでもないし好きな仕事も特にない。
就職活動にも積極的になれないで、もやもやしていた。



そんなある日、東京のデパ地下を徘徊(オット徘徊は爺散歩だ)。
高卒したばかりの女の子は徘徊などしない。
うろついていたら、目に入ったのが、和菓子さんの出店ブース。
アルバイト募集の張り紙が目についた。意を決して面接を受けたら、
採用されて、デパ地下の「和菓子店」の売り子に納まったのでした。



和菓子の知識など全くない杏子ちゃん。店長さんや先輩バイト、
菓子職人を目指す同僚の助けを借りたり、お客さんと接して、
和菓子の名前をめぐる謂われなど、「和菓子の壺」に触れて、
「和菓子の売り子」としての知識を蓄積していきます。



周辺の総菜屋さんなど、多彩な出店に関心を持ったり、
お客には見えないバックヤードで展開される仕来りや、
社員食堂、休憩タイム、売り子友だちが出来たりして、
ミステリアスな「デパ地下」の迷宮にも染まっていく。



この本に出会って、「たにしの爺」は和菓子の奥深さを知りました。
和菓子の種類、名称、モチーフ、味わい、秘めた季節のメッセージ。
作者が語る「和菓子の味わい」レポが凄い。例えば、
「未開紅」と名付けられた和菓子の味を、こんな風にレポする。

……外側は、普通の練り切り、
次に来るのが梅酒を練り込んだような甘酸っぱい練り切り。
そして最後に流れ出てすべてを包みこっむのは、蜂蜜の甘い香り。
こういうのって官能的とかセクシーって表現するのだろうな……

……外から味が始まって、真ん中でぐるりと味がひっくり返される。
そして今度は中からの味で外の味を包み込む。
甘くて朴訥な味の練り切りに包まれた、少しのお酒と蜂蜜の香り。
花が開くように溢れ出てくる鮮やかな味は、
まさに大人になりかけている女の子のイメージそのもの……。



こんなフレーズもあります。
喜びも、悲しみも「和菓子は人生の様々な局面に寄り添う」……

18歳の女の子の成長と和菓子めぐる人生模様の物語でした。
たにしの爺が「桜餅」を買った訳は「和菓子のアン」です。

安部公房は読書について、
「本を読むということは、眼鏡を取り換えるようなものだ」と言っています。
名言ですね。知らない世界が見えてくる。