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石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

(SF小説) ナクバの東(77)

2025-03-04 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(74)

第28章 バーチャル管制(1)ブルジュ・ドバイ(2/3)
 

 「まず右翼後方の二番機。直ちにアラビア半島方向へ向かえ。」

 マフィアは言われるままゆっくり右に旋回し仲間の2機から離脱した。後方から米軍機が追いつき、並走を始めた。お互いに相手のパイロットの顔が識別できるほどの近さである。

マフィアは米軍機のパイロットに向かって親指を突き上げて見せた。交信を禁じられたマフィアとしては、それは救援に感謝する意思表示であった。しかし相手のパイロットはそれに応えず操縦桿を握りしめ、少し下降してマフィア機の下に潜り込むと、何かを確認するようにマフィア機の胴体腹部を見上げた。

(続く)


荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(76)

2025-03-01 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(73)

第28章 バーチャル管制(1)ブルジュ・ドバイ(1/3)
 

 「我々は貴機を1機ずつエスコートしてそれぞれの着陸地に向かう。各機の着陸地点が近づいたら地上の管制官が誘導する。我々の任務はそこまでだ。」
 
 「なおこの電波を傍受した最寄りの国が貴機をイスラエル機と認識した場合、何らかの妨害行為或いは敵対行為を取る恐れがある。従って今後一切貴方からの通信は控え、黙って当方の指示に従ってもらいたい。」

 米軍パイロットは同じ言葉を二度繰り返した。その声には有無を言わせぬ力がこもっていた。

(続く)


荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(75)

2025-02-27 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(72)

第27章 米軍乗り出す(5)米軍機の救援呼びかけ(3/3)

 

<本当に救助してくれるのだろうか?>
彼の体のどこかで<これは巧妙な罠だ>という声が聞こえた。

彼の頭脳は米軍の救援を信じようとする。しかし肉体のあらゆる部分がそれとは異なる声を発している。これまで全ての肉体の動きを制御していたはずの頭脳―『理性』をふりかざして有無を言わせず肉体に命令してきた頭脳―に対して今や肉体の各パーツが一斉に反乱を始めたのである。

<反乱者は何者なのだ?>頭脳と肉体の分裂を回避しようと、アブダラーは必死になって疑問を繰り返した。しかし頭の中は混乱し、次第に意識がぼやけ始める。誰ともわからぬ反乱者が彼の頭脳を支配しつつあった。

(続く)


荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(74)

2025-02-25 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(71)

第27章 米軍乗り出す(5)米軍機の救援呼びかけ(2/3)
 

 その時である。彼らのヘッドフォンに滑らかな英語が飛び込んできた。
 「こちら貴機救援のためカタール・ウデイド基地を発進した米軍機である。現在貴機の後方にあり。貴方3機を安全に目的地まで誘導する。聞こえたら応答せよ。」

 『エリート』が直ちに米軍機に応えた。エリートの声には安堵の色が滲んだ。無線を傍受した『マフィア』は、これで再び祖国の英雄として帰還できる道が開けた、と満面に笑みを浮かべた。

 しかし『アブダラー』だけは違っていた。彼は安堵した訳でもなく、まして大喜びした訳ではなかった。むしろ彼の顔に一瞬陰りが生じ、次いで体の中から恐怖心が沸き上がった。

(続く)


荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(73)

2025-02-22 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(70)

第27章 米軍乗り出す(5)米軍機の救援呼びかけ(1/3)
 

3機のイスラエル戦闘機はペルシャ湾上空をあてどなく飛行し続けていた。残された燃料はわずかである。左岸はイラン、右岸はサウジアラビア、カタール、UAEと続くアラブの国々である。いずれもイスラエルと敵対する国々であり、陸に近寄り過ぎると領空侵犯になり、敵国戦闘機のスクランブル(緊急発進)に遭遇するか、さもなければ地対空ミサイルで迎撃される恐れがある。

救難信号「メーデー」を発信してカタールの米空軍基地に助けを求める手が無い訳ではないが、そうなると米国は厄介な外交問題を背負いこむことになる。今回のイラン空爆はイスラエルの単独軍事行動である。米国は事前に空爆計画を知らされ、それを黙認したのは事実だが、それはあくまでも暗黙の了解ということであって、積極的な支援はしない約束であった。従って飛行中のイスラエル機が独断で救援を求めることは許されない。

 イラン或いはアラブ湾岸諸国の領空外のペルシャ湾の空域―その狭くて細長い回廊だけが今やイスラエル機に残された唯一自由で安全な場所であった。それはホルムズ海峡で一本の線に細り、海峡を抜けるとアラビア海、インド洋という果てしなく自由な空が開ける。そうなれば海面に不時着する寸前に緊急脱出し、洋上を漂流しながら救助を待つことができる。しかし差し迫った状況はそれを許さない。何しろホルムズ海峡まで達する燃料すらないのだから。

(続く)


荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(72)

2025-02-20 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(69)

第26章 米軍乗り出す(4)ペンタゴンの指令(2/2)
 
イスラエル側は最後にもう一つ遠慮がちに米国に頼み込んだ。編隊の先頭機のパイロット一人だけでも何とか救出してほしいと。ペンタゴンは短い協議の末、直ちに現地司令部に緊急作戦を発令した。

カタールのウデイド米中央軍現地司令部は3機の戦闘機に緊急発進を命じた。イスラエル機に合流せよ、と言う命令だけが離陸前のパイロットに与えられた。その後どうするかは改めて指示するとのことで、パイロット達には状況の説明も緊急発進の理由も何一つ説明されなかった。

しかし上部からの命令は絶対である。と同時にそれは兵士たちにとっても命令さえ忠実に実行すれば自らの責任を問われないことを意味する。むしろ事実を知らされてその重みに耐えられなくなったり、或いは作戦の理由を知って良心の呵責に悩むようなこともないだけパイロット自身にとっては気楽であった。

ウデイド基地を離陸して間もなく3人のパイロットに指示が出された。一人のパイロットには編隊の先頭を飛ぶ戦闘機を「ハリー・S・トルーマン」の位置まで誘導せよ、との指示が与えられた。そして残る2機には編隊の2番機及び3番機をエスコートしてアラビア半島内陸部に誘導せよ、というものであった。

(続く)


荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(71)

2025-02-18 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(68)

第26章 米軍乗り出す(4)ペンタゴンの指令(1/2)
 

当初事態が理解できなかったのはイスラエルからの緊急通報を受けたペンタゴンも同じだった。イスラエルは3機の救援を米国に求めた。その時彼らは二つの事実を明らかにした。一つ目の事実。それは給油機がサウジアラビアに撃墜されたことにより3機が自力で帰還できなくなったため、やむを得ずペルシャ湾の公海上空を飛行中との事実であった。その時ペンタゴンが考えたことは3機をペルシャ湾の原子力空母の近くに不時着水させ、3名のパイロットを救出することであった。

しかしイスラエルから二つ目の事実を告げられた時、ペンタゴンは頭を抱え込んだ。3機編隊の2番機と3番機のいずれかが未使用の小型核ミサイルを抱えたまま飛行中というのがそれであった。米国は今回の作戦で核ミサイルが使われる可能性があることを知らされていなかった。目的達成のためならイスラエルは最大の盟友である米国すら欺いたのである。核ミサイル搭載機に残された燃料はあとわずか。飛行可能な時間はせいぜい1時間程度しかない。

(続く)

荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(70)

2025-02-15 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(67)

第25章 米軍乗り出す(3)米国とサウジの駆け引き(3/3)
 

イスラエルのナタンズ爆撃当日、米中央軍現地司令部は軍事偵察衛星、AWACS、ペルシャ湾に浮かぶ原子力空母「ハリー・S・トルーマン」などあらゆる手段を講じて情報を収集していた。早暁にイスラエルの空軍基地から3機の編隊が飛び立ち、その後しばらくして大型機1機と戦闘機2機が同じ基地を離陸したことが確認された。最初の3機はイラクとサウジアラビアの国境上空を通過した後イランに侵入、ナタンズを爆撃した後、イランの追撃を振り切って領空外に逃れた。そこまではペンタゴンから聞かされた筋書き通りであった。

その後想定外の事態が発生した。後から飛び立った3機が途中でバラバラになり迷走を始めた。そしてそのうちの大型機と見られる1機が突然レーダーから消えたのである。その数分後、今度は爆撃を終えた3機がイスラエルへの帰還コースをはずれペルシャ湾上空をホルムズ海峡に向かい始めた。ウデイド空軍基地の現地司令部は混乱した。

(続く)


荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(69)

2025-02-13 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(66)

第25章 米軍乗り出す(3)米国とサウジの駆け引き(2/3)

 二日後、サウジアラビアの国防相は国防長官に爆撃機3機の上空通過を黙認する、と回答した。しかし給油機については何も触れなかった。国防長官は一瞬問い返そうとしたがその言葉を飲み込んだ。イスラエルのナタンズ爆撃さえ成功すれば十分な成果だ。それによりイスラエル、サウジアラビアそして米国自身も大きなものを得ることができる。その後の空中給油は外交的には大きな問題ではない、と考え直し国防長官はそれ以上深追いしなかった。

ただ国防長官は国防相の電話の声に含みがあるのを聞き逃さなかった。部下の空軍参謀本部長が懸念していた作戦をひょっとするとサウジアラビアが実行するかもしれない-----。国防長官の予感は的中した。しかもそれは更なる不幸をもたらすものであった。

(続く)


荒葉一也
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(SF小説) ナクバの東(68)

2025-02-11 | 荒葉一也SF小説

Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(65)

第25章 米軍乗り出す(3)米国とサウジの駆け引き(1/3)

 
イスラエル政府からナタンズ爆撃計画を打ち明けられ支援を要請されたとき、ホワイトハウスはついに来るべきものが来た、と受け取った。支援とは飛行ルート上のヨルダン、サウジアラビア及びイラクが余計な手出しをしないよう米国の外交的影響力を行使する、ということに尽きる。3カ国のうちヨルダンとイラクには手出しする能力がないから問題外であり、問題はサウジアラビアである。彼らはイスラエルと同等の空軍戦闘戦力を持っており、それは米国が与えたものである。

結局ワシントンはサウジアラビア国王にイスラエル機の上空通過を黙認するよう説得した。イランの核施設を破壊すればサウジアラビアを含む近隣アラブ諸国にとってもメリットがある、と説いたことは勿論である。前後して国防長官がサウジアラビアの国防相に同じ申し入れをした。そのとき国防長官は爆撃完了後、空中給油機がアラビア半島上空で戦闘機に給油することにも触れた。

(続く)


荒葉一也
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