(アラビア語版)
Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(45)
第17章 撃ち落された給油機(1)引き裂かれる編隊(3/3)
9機はイスラエル機の背後に接近すると、そのうち2機が左右の護衛機の頭上に張り付き護衛機と給油機の間に強引に割り込み始めた。小鳥たちは必死になって割り込みを防ごうとしたが、ついにイスラエルの3機とサウジアラビアの2機はほぼ横一直線に並んだ。そしてサウジアラビア機は機体を小刻みに振り護衛機を給油機から遠ざけようとした。それはまるで親鳥とそれにぴったり寄り添う2匹の小鳥の仲良し親子を引き裂こうとするようであった。
給油機と護衛機の間隔が次第に広がるのを見て後方の7機も前方に移動し、結局イスラエルの3機それぞれをサウジアラビアの戦闘機3機ずつが左右と後方から取り囲む形となった。
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)
(アラビア語版)
Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(44)
第17章 撃ち落された給油機(1)引き裂かれる編隊(2/3)
しかし上下ですれ違うと同時に9機は急上昇に転じ、イスラエル機の高度に達するや猛烈な追撃を開始した。トップスピードにあげると9機はたちまち給油機と護衛の2機に追いついた。イスラエル側もサウジアラビア側も戦闘機は全く同じF16である。しかし一方は足の遅い給油機と一緒のため追い付くのにさほど時間はかからなかった。
レーダーは9機が刻々と猛追してくる状況を示しているが、イスラエル側にはなすすべがない。後方からの接近のため自らの目で確認することは困難だ。戦闘機のコックピットは前方の視界に対しては上下左右ともかなり広い。しかし後方となると自らの機体に遮られほとんど視界が利かない。ましてヘルメットと酸素マスクが邪魔をしてわずかに首を真横に振ることができるだけである。イスラエル機のパイロット達はただ相手の出方を見る他なかった。
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)
勿論イスラエル機のレーダーはサウジアラビア方面からこちらに向かってくる機影を捉えている。それがレーダーの端に現れた時はまだ機種も機数も確認できなかったが、双方の距離が次第に狭まり漸く9機の編隊であることがわかった。
レーダーは9機の編隊が彼らよりはるかに低い高度を飛行していると教えている。真正面から直接攻撃してくる気配はなさそうだ。イスラエルのパイロット達は編隊が自分たちの眼下を通り過ぎるのを目にした。サウジアラビア空軍の飛行訓練だと思った。
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)
受話器を握りしめながらトルキ王子は目の前の副司令官に目配せした。それに応えて副司令官が軽くうなずく。王子は受話器を置くと立ちあがって言った。
「直ちに作戦行動に移れ。」
飛行服に身を固めた攻撃隊長以下9名のパイロットが椅子から反射的に身を起こすと王子に最敬礼し、ドアに向かって走った。彼らの背中に力強い王子の声がとぶ。
「任せたぞ!」
パイロット達は後ろ向きのまま右手を上げて部屋から駆けだして行った。
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)
トルキ王子は椅子に座ったまま腕を組んで目を閉じた。突然目の前の電話の呼び出し音が室内に響きわたり全員に緊張感が走る。王子が受話器を取り上げると、タブーク空軍基地司令官の声が飛び込んできた。サウジアラビアの北西にあるタブーク基地はイスラエルを監視する要衝の地にあり、最新鋭のレーダーとコンピューターを積み込んだ早期警戒機AWACSが配備されている。タブーク基地司令官が早口気味に状況を伝えてきた。
「午前7時○○分、イスラエル空軍給油機1機と護衛の2機がヨルダン領空を通過中。○○分後にわが国とイラクの国境上空に達する見込み。3機の高度○○フィート、速度○○kmh。以上。」
「了解」
「作戦の成功を祈る。」
二人の司令官の間で短いやりとりが交わされた。
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)
(英語版)
(アラビア語版)
(目次)
Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(11)
第三章 パイロットのもう一つの敵 (2/3)
イスラエルでも戦闘機とパイロット達の出番は減り、せいぜい国内のガザ地区を爆撃する程度であった。その中で外国領土への出撃のチャンスが2003年に訪れた。イラク解放戦争である。イスラエル政府と軍部は戦争への参加を米国に打診した。当時のブッシュ共和党政権は親イスラエル色が強かったが、世界世論の手前イスラエルの申し出をやんわりと断った。戦争が始まって間もなくイラクのフセイン大統領はスカッドミサイルをイスラエルに撃ち込んで挑発した。イラクのミサイルはイスラエル占領地のヨルダン川西岸に着弾しただけで被害と言えるほどのものは何もなかったが、イスラエルにとってはそんなことは問題ではない。口実さえあれば敵を徹底的に叩くのがイスラエル流のやり方である。空軍は直ちに応戦体制を敷き、戦闘機のパイロット達はバグダッド空襲に勇み立った。
しかしこの時も米国はイスラエルの反撃を許さなかった。もしイスラエルの参戦を認めれば「独裁者からのイラク解放」と言う大義名分で同盟軍に参加させたパキスタンなどのイスラム諸国、或いは陸上部隊の自国通過を認めたサウジアラビア、クウェイトなどの湾岸諸国から反発を受けることが明らかだったからである。
イスラエル空軍のパイロットたちはCNNテレビでバグダッド空襲の実況中継を指をくわえて眺めるだけであった。戦闘機から発射されたミサイルが目標に向かって真っすぐ突っ込む様子、そして上空で目標攻撃の瞬間をとらえた偵察機からの映像をCNNは繰り返し放映した。テレビ・ゲームのように見えて実はゲームではない本当の戦争が行われているのであるが、それはバグダッド市民以外は誰も痛みを感じない世界であった。
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)
(英語版)
(アラビア語版)
(目次)
Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(10)
第三章 パイロットのもう一つの敵 (1/3)
空を自由に飛び回りたいと言う人間の本能的欲求を現実のものにするのがパイロットである。パイロットが昔から男たちの憧れの職業であったことは洋の東西を問わない。特に戦闘機のパイロットは祖国防衛と言う愛国心と、敵との戦いと言う闘争本能が加わり一層花がある。日本の零戦、ドイツのメッサーシュミットとそのパイロット達は敗戦後もなお国民の郷愁をかきたてる英雄である。戦勝国の米国が作る戦争映画でも日本あるいはドイツの戦闘機パイロットが悪役にされた映画は無い。地上戦で敵国の将軍や兵隊が冷酷極まりない悪人として描かれているのとは対照的である。
しかし21世紀は国家間の紛争が局地的なものとなり、代わって中東では宗教色の強いテロ活動、即ちイスラム・テロ活動が頻発した。テロ活動は多くの場合、人口が密集した都市部で発生する。テロ組織も一般市民を装って日常活動を行う。しかも活動拠点が常に移動する。戦闘機は敵国の首都、空港、軍需工場など目標の所在が明確な施設を迅速に爆撃することが得意である。しかし頻繁に移動するテロの軍事拠点或いは都市に潜むテロ組織幹部に対する急襲などは治安部隊など地上軍の出番である。空軍が出動するとしてもアパッチ型ヘリコプターによるロケット砲攻撃がせいぜいであり、スピードが速いだけで全く小回りが利かない戦闘機の出る幕はない。
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)