予想される二つの問題
来たる6月8日にウィーンで開催されるOPEC総会で波乱が予想される。それは生産割当を巡るOPEC穏健派と強硬派の対立と言ったお決まりの問題ではなく、場外騒動とでもいうべきものである。問題は二つ。一つはリビアの代表がトリポリのカダフィ政権かそれともベンガジの国民評議会かという問題である。カダフィ政権の石油相が隣国チュニジアに亡命したことが問題をさらに複雑にしている。二つ目の問題はイランのアハマドネジャド大統領が自らエネルギー相代行に就任しOPEC総会に出席すると表明していることである。こちらの問題についても現在のOPEC議長国がイランであることで問題は複雑な様相を呈している。
リビアの代表権の問題
リビアはトリポリのカダフィ政権とベンガジの反政府勢力「国民評議会」の間で内戦状態にある。カダフィ政権は軍備、兵力そして資金力で反政府勢力を圧倒しているが、欧米諸国は一致して国民評議会を支持し、NATOは国連決議に基づき政府軍及びカダフィ大佐の官邸を含む軍事施設への空爆を続けている。このためリビアの石油天然ガスの生産と輸出はストップしている。
リビアはOPEC創立2年後の1962年に加盟国となり、1969年にはカダフィ大佐が実権を握り、以来40年以上の独裁政権が続いている。OPEC諸国の石油国有化のはしりともなった1971年のトリポリ協定に象徴されるようにカダフィ政権はごく最近までイラン、ベネズエラと並ぶOPEC強硬派であった。2006年に欧米と和解して以来一見穏健な外交政策をとってきたが、隣国チュニジアに端を発する「中東民主化革命」によりベンガジに「国民評議会」が成立し欧米諸国がこれを支持すると、一転して再び牙をむき出し、同国は内戦の泥沼状態にある。カダフィ政権には内部崩壊の兆候が見られ、既に外相、内相など主要閣僚が亡命或いは反政権側に寝返っている。そして5月17日にはShukri Ghanem石油相も亡命した。
このような中でOPECの一員であるカタールが国民評議会支援の姿勢を鮮明に打ち出している。カタールは仏に次いで世界で二番目に国民評議会を承認するとともに、石油に関してもベンガジ港のタンクに残っていた原油の輸出を引き受け、不足する石油製品を国民評議会に供給するなど経済的な支援を行っている。カタールのハマド首長は数日前アルジェリアを訪問しブーフテリカ大統領らと会談を行っているが、来たるべきOPEC総会でのリビア対策も話し合われたものと思われる。
来月のOPEC総会について国民評議会はリビア代表の名乗りを上げており、これに対しカダフィ政権はGhanemにかわる新石油相もしくは石油相代行を代表に送り込むものと思われる。総会で両代表が互いの正統性を主張する一方、カダフィ政権が国民評議会を支援するカタールを激しく非難することは間違いないであろう。しかも後述するように今年のOPEC議長国であるイランはアハマドネジャド大統領自らが乗り込む気配である。イランはOPEC強硬派としてこれまでもリビアと協調することが多かっただけに総会が混乱することは避けられないであろう。
イラン・アハマドネジャド大統領の出方?
既に述べたとおりイランは1979年の革命以来石油政策に関しては一貫してOPEC内の強硬派であったが、アハマドネジャド政権になってからその姿勢が一層鮮明になっている。その大統領は5月16日に石油省を廃止し、Mirkazemi石油相を更迭するとともに自らエネルギー担当相代行となった。石油省を他省と合併し行政の簡素化を図ると言うのが表向きの理由であるが、大統領自身が以前からエネルギー行政に強い関心を抱いていると言われる。石油収入が国家の歳入の過半を占めており、彼が直接石油を握るのは政権の基盤を盤石にするためであることは容易に想像される。
イランは今年のOPEC議長国である。アハマドネジャド自身がOPECに出席する意向を示している。そして彼の背後にはイランと共同歩調をとるベネズエラがいる。ベネズエラのチャベス大統領は欧米に対して強硬な石油政策をとっており、経済制裁に苦しむイランにとっては強い味方である。
アハマドネジャドがOPEC総会で議長としてどのように会議を取り仕切るのか。リビア情勢と並んで総会の波乱要因である。
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